070704tsuruga
鶴賀智美「地方にさす新たな光 〜地産地消〜」
1.
なぜ今「地産地消」?
今日、日本人の食生活はますます多様化し、外食・過食・拒食・偏食・孤食など「食」をめぐる問題が多発し、栄養バランスの乱れからガンや生活習慣病などの病気を引き起こすケースが目立っている。そんな現代人の生活改善も含め、今「地産地消」という考え方が注目されている。
「地産地消」というのは、「地域生産・地域消費」の略で(ここで使っている「地域」の単位は県)、主に農作物や海産物などに使う言葉である。その地域でとれた生産物をその地域で消費しようという考え方だ。
まず、このような考え方が生まれたのは一体なぜだったのか、というところだが、「地産地消」を推し進める主な理由には次のことが挙げられる。
l
地域で生産される野菜・果物・魚類などの旬の食材を食べることで、バランスがよく栄養価の高い食事になり冒頭に挙げた食問題の改善につながる。
l
BSE問題、食品の虚偽表示、食品添加物の混入、農薬残留などの問題多発でより一層食の安心・安全が求められる世の中になったので、生産者がはっきりしている新鮮な地元産食材の提供によって安心・安全を訴える必要がある。
l
過去には80%あった日本の食料自給率も、今や先進国の中で最低の40%。地産地消によって国産農林水産物の流通を増やし、輸入依存からの脱却を目指す。
l
日本各地にはその地域の風土や慣習にあった地域特有の伝統料理や家庭料理が存在している。それらは地域の季節に応じてもたらされる様々な農林水産物をふんだんに使っているものが多く、地元の農林水産物を地元で使うことは貴重な食文化を継承する大切なポイントとなる。
l
近年、輸入農林水産物の増加によって農業の衰退に拍車がかかっている。農業の衰退は食料確保の大敵であり、各地域で農業を活性化させる地産地消には日本全体の農業を活性化させる力がある。
l
農林水産業は産業としてだけではなく、洪水調節、大気の浄化などの自然環境の保全や美しい景観の形成としての機能も果たしている。地域の農林水産業の維持・発展は、地域の人々の生活の維持・発展につながってくる。
l
農産物の生産・消費が同じ地域内で行われ、農作物の輸送距離が短くなると、エネルギー資源や資材の節約、二酸化炭素の排出量削減などにつながり、環境にやさしい社会作りに役立つ。[1]
このように多方面にわたってプラス効果をもたらす「地産地消」だからこそ、その効果が大いに期待されているところなのである。
2.
「地産地消」の現状 〜地元・栃木県の事例から〜
では実際、「地産地消」はいかなる方法で進められているのか。私が冒頭に挙げた数々の食問題だが、あれらは近年、育ち盛りの子供たちにまで影響が及んでいる問題だ。そこで我が県・栃木県の学校給食における地産地消推進の取組に注目した。
那須塩原市では計3つの調理場が市内20小学校、8中学校に毎日給食を配送している。各調理場とJA、JAと生産者団体が互いに協議し、平成16年度はきゅうり・キャベツの2品目、17年度はきゅうり・キャベツ・ばれいしょの3品目、18年度はきゅうり。きゃべつ・ねぎの3品目を学校給食に供給している。もちろん、この取組を実行するにあたって課題はいくつもあり、地域内でどんな食材が供給できるか、どのようなシステムにすれば必要量が確保できるか、品質・規格の揃ったものが供給できるか、価格が給食費の予算内でおさまるか、調理場まで直接必要量を届ける生産者の負担を減らせるか、といったところだ。
これらの問題は三者間の緻密な協議によって、欠品がでないようにする、規格を揃え提供してもらうようにする、細かく計算して設定した年間価格を一定価格にする、JAで車両を用意し集荷場から納入する、といった解決策が見つかった。そのおかげなのか、地場産物の年間供給量は年々増加し順調な兆しを見せている。生産者は自分の子供や孫あるいは地域の子供たちに食べてもらっていることが励みとなって、品質・規格にも気を配り、農薬を軽減した栽培を心がけているなど意識の向上が図られたという。
しかしその一方、今後の課題も残されている。那須塩原市は旧黒磯市、旧西那須野町、旧塩原市が合併してできた市なのだが、旧塩原市では自校方式学校給食のため、地場産物が供給されていないままなのだ。そこで今後どのようなシステムを導入するか検討している。[2]
3.
まとめ
近年、社会ではあらゆる分野でグローバル化が進み、私たちが選別するのを拒むかのようにモノや情報が氾濫している。特に日本人の性質からみると、世の中の皆が目を向けているモノ=「良いモノ」と思いがちなところもあって、ささやかながらも自分の身の回りに存在する大切なものに気がつかないまま過ごしていることもあるのではないかと思う。
そんな中、私たちの生活に欠かすことのできない「食」の分野において、自分たちの暮らす地域の産品を大切にしようとするのは本当に素晴らしい試みである。意識しないとなかなか食べることがないであろう地元生まれの食材を、未来を担う子どもたちの学校給食で食べる機会が増えれば、将来的に地産地消の動きが発展していくひとつのチャンスにもなるだろう。また、地産地消によってさまざまなプラス効果が見込まれているが、私が一番素晴らしいと思ったのは、地産地消がコミュニケーションのツールの一つになっていることである。地元生産ということで、消費者側からも「これは△△に住む○○さんの野菜だ」と生産者の「顔」が非常にはっきりとわかるのである。生産者側も地元の人たちに食べてもらっていると喜びや安心につながるという。このような人と人とのつながりでしっかりした信頼関係が築けるのは、人間味が薄いといわれる現代社会においてとても大切になってくることではないだろうか。