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生命の可能性 〜胚性幹細胞(ES細胞)〜

 

1,  幹細胞とは?

 

他の細胞とは異なり、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持できる細胞のこと。発生や組織・器官に細胞を供給する役割を担っている。幹細胞は分化を促進する遺伝子の発現が抑えられていて、テロメアーゼが発現しているためテロメアの長さが維持され、分裂を繰り返すことができる。普通の体細胞はこのテロメアーゼが発現していないため、細胞分裂の度にテロメアが短くなってしまう。

 

幹細胞の例として、造血幹細胞を挙げてみる。これは主に骨髄に存在し赤血球・白血球・血小板を生み出している。血球系の細胞には寿命があり、造血組織に供給されないとなくなってしまうので、細胞を供給し続ける幹細胞の能力が必要になるというわけである。

 

2 , 胚性幹細胞と再生医療

 

胚性幹細胞とは、Embryonic Stem cells: ES細胞とも呼ばれている。動物の発生初期段階である胚盤胞の一部である内部細胞塊をある細胞を下敷きとして、培養・増殖させることでできる幹細胞細胞株のことである。生体外で、すべての組織に分化する全能性を保ちつつほぼ無限に増殖させることができると言われており、再生医療への応用が注目されている。ただ、ES細胞を生体外で増殖させすぎると、染色体の変異や遺伝子の異常が生じて次第に蓄積していくことが明らかになっていて、こうした結果、癌化する可能性も指摘されている。

 

再生医療にES細胞を応用するためには、まずES細胞を特定の細胞に分化させなければいけず、その後分化した細胞を選択して移植することになる。神経細胞や各臓器の細胞に分化させる方法が盛んに開発されている。[]理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)の笹井芳樹・グループディレクター(42)の研究グループは200526日までに、マウスの胚性幹細胞から大脳を形成する細胞になる「大脳前駆細胞」を作る方法を確立した。これは世界初の成果で、ヒトで応用できる可能性が高く、脳疾患構造の解明や新薬の開発、再生医療の実現につながるという。さらに、グループは

この細胞からパーキンソン病や脳性まひなどにかかわる「線条体」や、アルツハイマー病の初期症状にかかわる「マイネルト基底核細胞」などをつくることにも成功した。

 

 しかし、ES細胞を再生医療に応用する場合、ある特定の細胞を人体に移植するわけだが、主要組織適合抗原(MHC)が患者とES細胞の材料となった受精卵とで異なる事が大半で、せっかく移植しても非自己と認識され拒絶されてしまうという問題点がある。この問題を克服するために、近年動物において、体細胞核移植により卵子の核を患者の皮膚細胞など体細胞より得た核と置き換えてクローン胚を得て、そこから生体外で胚盤胞にまで発生を進行させた後にES細胞を樹立する事が可能になっている。この方法はヒトに対しても技術的に可能だと思われるが、成功率が低いため多量の受精卵が必要になるし、これによって得られたクローン胚からクローン人間を作製できてしまうなどの問題から、先進国各国の大多数では作製は禁止されてきた。現在では条件付ではあるが、難病治療目的であればクローンES細胞の作製は認められる方向にある。

 

3, 新しい命の問題

 

 ES細胞を作製するためには、受精卵もしくは受精卵より発生が進んだ胚盤胞などの初期胚が必要になってくる。ヒトの場合、不妊治療の際に使用しなかった受精卵の提供をうけ作製されるなどするため、倫理的な問題が発生している。韓国では、[]女性団体が「不妊治療後に残った卵子がどこでどのように処理されているのか、当事者さえわからない」としながら、「徹底して行われるべき管理監督をおろそかにした保健福祉部と国家生命倫理委員会、機関生命倫理審議委員会は、心からの反省と社会的責任を負うべきだ」と攻勢をかけている。

 

 ES細胞の研究に対する各国の規制は様々で、米国は政府資金の拠出は禁じているが統一的制限はなく、公的研究費を用いない形での研究がハーバード大学幹細胞研究所などで行われているほか、カリフォルニア州では、アーノルド・シュワルツェネッガー知事が認める方向を打ち出すなど大きな社会的議論になっている。受精卵を「生命の始まり」と位置づける傾向が強いドイツやフランスはヒト胚研究を禁じ、韓国は法で認めている。日本でも、政府は認めている。

 

 生命について考えていくと、このES細胞というものはなんとも難しい存在に感じられる。医療面では、パーキンソン病や糖尿病などいままで根治の方法がなかったものも、将来的に治療できる可能性があるなど、望む人も多い技術であるといえるだろう。しかし、ES細胞に使用されるのは受精卵、まだ人の形を成していないにしろ、そこには確かに新しい命が生まれています。不妊治療で使用しなかったから?命を救う手段になるから?理由によって人の意見は様々に変化するでしょう。ただ、そんな理由でかたずけることができるほど、簡単な存在なのでしょうか?今、自分はどうなのだろうと考えてみてもどっちつかずでまとまりません。

 

自分は医学の道に深く立ち入っている身でもなく、親でもありません。命がどうだ、受精卵がどうだと言っても結局のところ自分ひとりではわからないことだらけです。それでも、それが大切だということは理屈ではなく感じることができます。これから、このES細胞はさらに研究が進み、自分たちの体の一部になる日がくるかもしれません。きっとそうなっても命をめぐる議論は、終わらないでしょう。この問題は、命を扱う側の人も、命を授かる人も、その存在のおもさを感じ、自覚と責任をもちながら考え続けていくべきものだと思います。今、自分が様々な命によって生かされているということを忘れてはいけません。



[] 神戸新聞

[] 朝鮮日報

参考:Wikipedia