070704 Funaki 「初期セミナー」レポート

舟木崇大 過労自殺問題〜30代突出の背景〜

 

1.  過労自殺とは・・・?

 ここで私が取り上げる “過労自殺” とは簡単に言えば,「過度な労働や職場でのストレスが原因による自殺」のことであるが,自殺の多くはうつ病などの精神疾患を発症することによって起こっている。ところで “過労自殺” は以前から叫ばれていたというわけではなく,2000年のある事故の最高裁判決で,長時間労働による自殺が企業側の安全配慮不足に責任があると指摘されたことがきっかけで世間に広まるようになった[1]のである。国側の対応も,1999年に旧労働省が初めて精神疾患の労災認定について判断指針を作成したばかり[2]で,つい最近のことであり,現在も日本の労働環境改善が求められている。

 

2. 現状

 昨年度過労が原因による自殺(未遂を含む)で労災認定を受けた人は,前年度比57.1%増と急増し過去最多の66人に上り,このうち30代は19人であった。またうつ病などの精神疾患が認定された人も前年度比61.4%の205人で同様に過去最多となり,30代は83人約40%を占めた。これらの人数は40,50代と比較してもその数の多さが目立ち,現在働き方の見直しが言われている中で,労働者を取り巻く長時間労働が一向に改善されていない状況が改めて浮き彫りとなっている。                  ところで,労災認定者あるいは精神疾患認定者の職種をみてみると,多い順に▽専門技術職 ▽事務職 ▽技能職 となっているが,これら3つの職種に関連する事柄として私が考えるのは,個々の能力が仕事に反映される,すなわち個人差が表れやすいということである。例えば仕事のスピードはもちろんのこと,技能職であればその精密さというものが重要になってくるだろうし,そのためには専門知識の多さや手先の器用さといった能力が必要となるだろう。しかし30代の人々は,就職氷河期やバブル期という,いわば「就職難」の時代に入社した人がほとんどであり,仕事への適性や個人の能力を十分に配慮されずに採用されたケースが多く,先に述べた点から仕事がうまくいかないことが多々あるのかもしれない。                    (データ:5/16 日付 毎日新聞厚生労働省調査)

次に労働時間[3]をみてみると,30代の男性労働者の23.4%が週60時間以上働いていて,これは1ヶ月にすると80時間以上の残業をしていることになる。この数字は過労死の危険が指摘されるラインであるが,現実には30代の約4人に1人がそうした働き方をしておりいつ事故が起きてもおかしくない状況にある。残業時間[4]の詳細は,認定者の直前数ヶ月単位で▽80〜100時間未満116人(最多) ▽100〜120時間未満101人,なかには160時間を越える残業をしている人もいた。この結果を考えても,長時間労働がますます過酷になっていることが分かる。こうした背景には,ノルマ達成などの過大な仕事を求められる厳しい労働環境があるようだ。

 

3. 30代の人々の声

 ここまでは過酷な労働状況について述べてきたが,実際に30代の人々の意見を聞いてみると,回答者の約8割が仕事に不安を抱えている,仕事にストレスを感じていると述べている。ストレスの原因としては▽収入が増えない という意見が最も多く,労働時間に見合った賃金(例えば残業分の給料)が支払われていない,あるいは仕事の達成度による賃金格差も生まれているのかもしれない。また,現在日本では終身雇用制や年功序列制といった制度が衰退しており,このことによっても給料がなかなか上がってこない現実があると思われる。                                                                                  もう一つ意見が多かったものとして▽人間関係がうまくいかない という項目が挙げられる。実際に年間200件の仕事に関する相談中,約2割が仕事絡みのいじめについてのものであり,職場内のいじめの増加もみられる。その内容としては▽仕事のミスを責め続ける ▽長時間労働を強いる といった,特定の人物に対して行われているものである。ここで,30〜40代にかけては管理職一歩手前の段階や中間管理職に当たる年代であり,仕事のプレッシャーが大きいこともいじめの負荷をさらに重くしている。ところで過労の感じやすさにも特徴がある。比較的体が丈夫で,仕事が忙しくなっても病気にならず,元気に働いているように見える人ほど実は過労になりやすく,責任感が強く,休日も仕事のことを考えている人も過労になりやすい。ストレスは精神的な負担であり,自分では感じていないと思っていても(先に述べた人ほど)徐々に身体に蓄積され,最悪の事態を招いてしまうのかもしれない。

 

3. 対策

 現在の日本の雇用状況を考えると,私は30代の人々に対する自己決定権がほとんどないように思う。例えば[5]アメリカでもエリートクラスの人々はものすごく働くが,日本とは対照的に,過酷さやストレスにそれほど悩むことはない。なぜなら彼らは好きで働いているからだ。自分でやりたいと思った仕事をやりがいを持ってこなしている。そして働いた分だけ給料がUPする。一方日本では,強制的に仕事を押し付けられ,やりたくない仕事を長時間やらされているという感じを受ける。この両国の間には,進んで働くか,それとも仕方なく働くか,の2つの選択に大きな差があるようだ。そのため同じ分だけ頭・体を使うにしても,ストレスの感じ方がかなり違ってくる。そこでまず,自分自身の自由な意志による自己決定権が必要である。2つ目に,労働時間をもっと厳格に規定すべきである。できる限り仕事内容に余裕を持たせて一人一人の負担を軽くすれば,時間内にノルマをこなせるだろうし,限られた時間の中でのほうが効率よく仕事ができるはずだ。こうすることで残業時間削減にもつながればいいと思う。また,規定外労働の場合にはその分の賃金を配分する処置をとってもらいたい。3つ目に職場の雰囲気作りである。ミスをするのは当然あることなのだから,それを責め続けるのではなく,次回からのミス防止につながるようなアドバイスをしていくべきだ。アドバイスをすることでミスをした側の精神的負担が少なくて済む。他には,定期的にアンケートをとるなどして職場内のいじめ・利害関係を調査することも必要だろう。

 

 

4. 考察

 過労自殺と関連して“過労死”という言葉は欧米でも通じる。近いうちに“過労自殺”も知られるようになるだろう。いずれにしても日本の労働状況がどれほど過酷かが分かる。ところが,“過労自殺”は「自己管理の責任」と捉えられるケースもあり,まだ対応が十分でないことも多いようである。しかし,安心して仕事ができる環境を築いていくのは会社の義務だと思うので,即急に労働環境の見直しに取り組んでもらいたい。



[1] www.toonippo.co.jp/ web東奥/ニュース百科 より 

[2] (同上)

[3] 2005年度 総務省労働調査

[4] /16日付 毎日新聞

[5] www.n-seiryo.ac.jp/ 「過労自殺」 より