060134z 朱偉幸

 

東アジア連合の道を開く

 

最近「東アジア共同体」という新しい言葉を目にされることがよくあると思う。ここで言う東アジアとは、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟の10カ国に加えて日本、中国、韓国などを含む地域を指すが、この地域に国際的な連合体を何らかの形で形成させようとの思いは私としてはすこっく興味がある 

まず、私はこの動きを全面的に支持したいと思います。この数年以上にわたって世界の様子を見ると、EU(欧州連合)参加国の空港で参加国とそのほかの国のパスポート審査窓口が分けられていたり、アジアの空港でASEANパスポートという審査口があったりするのを見ると、東アジア諸国がそうした連合体にいかなる形でも入っていないことを感じた。EUやASEANほどではないが、イスラム諸国に行けば「イスラム途上国8カ国連合(D8)」が存在することが感じられる、インドとパキスタンは仲が悪いけれども「南アジア連合」が存在して、カシミール問題で一触即発のような状態にあったときでさえスリランカのコロンボで「連合」の名の下に「南アジア映画祭」といった形で文化交流が行われている。それにEUとは違うが、北米や南米にはNAFTA(北米自由貿易協定)をはじめ南米諸国連合の動きがあり、アフリカにも国際・地域連合の動きはある。

 こういうことを知るにつけ、とくに日・中・韓、そして北朝鮮、台湾などの狭義の東アジアに国際・地域間の連合体作りの気配すらないことをまことに残念だと思う、寂しく感じたほか、東アジア地域は、いうまでもなく世界最大級の経済活動を行っていて、今や域内貿易も活発であり、この地域なしでは世界は存在し得ないといえるほどである。ところが連合体を作ろうとする動きも見えず、その構想すら耳にしない状態が続いてきた。巨大な穴があいている感じがあった。それがようやく「共同体」を東アジア各国首脳が口にし、そのための協議をするというようになった。これはこの地域の歴史上、画期的な出来事であり、何としても育てていきだい発想である。

 もちろん、東アジア共同体が短期間でできるなどとは思われない。経済的な協力をいくら強くしても、この地域には政治体制上の「冷戦」の体制はまだ残っているし、中国や韓国の「反日」感情だけでなく、地域上にはさまざまな難問が沢山ある。

 事は急いではならない。史上初めての地域的な接近がなされるようになってきたこの機を逃さず、首脳間だけでなくあらゆるレベルでの対話と議論をじっくりと重ねて「共同意識」の形成を図るべきである。確かに困難な問題は多いだが、かつてないほど地域の人々の関心は似てきており、それは現在の国境、地域を越えた「文化交流」の広がりが示されてきている。

 「韓流」ブームをはじめ、中国、香港、台湾、それぞれの文化産物がお互いに影響しあう時代がきた。日本のアニメ・マンガ、映画や音楽、料理、ファッションなどがアジア各国に浸透し、そして、東京、上海などの都市文化、TVドラマ、スポーツ、そして観光といった多彩な形での人間と文化の相互交流が活況を呈している。留学生や研究者の交流も盛んになってきているし、大衆文化と各国・地域の自慢料理を楽しむ人たちの間では、国境も地域差も解消されつつある。経済発展をある程度まで達成してきた国や地域には「都市中間層」とでも呼ぶべき社会層が顕著に出てきている。この社会層に属する人たちは、高学歴で生活、知識、趣味などの共通性を持ち、偏狭な民族意識、宗教意識、自文化中心主義には縛られず、ある程度国際性があり、また自分や家族の生活を大切にする。

 この社会中間層によって、初めて「文化交流」の土台が与えられたといってよいが、今この人たちの存在が域内の「共同意識」を発展させる。たとえ首脳陣が「共同体」形成を呼びかけても、それを実際に支える人々が存在しなくては掛け声だけに終わる。「文化交流」による「相互理解」が促進され、それが「共同体」あるいは「連合」を現実化するための基盤となると考えるのである。

 最後に、「東アジア共同体」構想に対しては、アメリカとしてはアメリカ抜きの共同体など許せないはずだと間違いないだろう。日本をはじめ中国も東南アジア諸国も、この地域ほどアメリカに向かって開かれ、アメリカ的なものを広く受け入れているところはほかにないといってよい。このアメリカに対して開かれた態度がなくなるはずもないのである。さらにこうしたアメリカの態度に反応して、インドやオーストラリアなども入れてという話もあるが、先に述べた東アジアという地域に巨大な穴をうずめる作業が今は必要であると思う。それには何といっても「文化交流」を強く深く発展させることから始めなくてはならない。「文化交流」の域内共通の土台が強く固められてはじめて「共同体」が可能になる。

 二度の大戦によって、前世紀、相対的に地位の低下した欧州だが、拡大EUとしてその原始的な貪婪を覚醒させた。アメリカと組んで再びアジアからの富の収奪に乗り出すだろう。アメリカ・EUの2極体制とは聴こえが良いが、実質は白人による1極支配である。この状況を打破するには、EUに対抗にし、東アジア連合EAU(East Asian Union)を一刻も早く設立し、世界経済の一つの極として機能させるしかないと思う。