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松波寿実江「少年兵問題」 

 

アフリカ・中東・中南米…世界には約40カ国、少なくとも30万人以上もの少年兵が存在する。彼らは幼く非力であるはずなのに、大人と同様に武器を持ち、戦場の最前線に立って戦う。なぜ少年兵は存在するのか?そしてなぜ少年たちは戦うのか?その答えを世界で最も少年兵問題が深刻な国と言われている“ウガンダ”をもとに考えてみたいと思う。

 

東アフリカ内陸部にあるウガンダは、ルワンダ・コンゴ・スーダンなどの政治情勢が不安定な国と隣接しており、北部の国境付近では反政府ゲリラが活動。このゲリラはジョセフコスニーを指導者としてLRALord’s Resistance Army)、つまり神の抵抗軍と自称するが、実際は殺人・略奪などの非人道的行為を多数行ってきた。1986年にウガンダ政府とLRAとの間でウガンダ内戦は始まったが、2005年のデータによると、これまでの内戦の被害者は約50万人、少年兵の存在数は2万人以上とされる。

少年兵は戦場に送られて軍隊と戦うだけでなく、関係のない一般市民をも攻撃し、略奪し、殺害する。しかし彼らは自ら進んで少年兵になったわけではない。誘拐され、強制させられたのだ。だが、子どもの誘拐が少年兵によって行われるという悲劇は続く。

 

<子どもを兵士にする理由>

@     子どもの性格。子どもは脅しに弱く従順で、大人よりも逃亡することが少ない。また麻薬を使用させれば、更に命令に従いやすくなる。そして心が純粋であればあるほど、洗脳すれば残忍な兵士へと変貌する。

A     武器の軽量化。以前の武器は子どもには重すぎたが、WWU後の米国やソ連製の攻撃用の武器は軽くて使いやすいため世界中で普及。特に1947年の旧ソ連製AK-4710歳の子どもでも分解、組み立てができる。5500万丁以上売られ、120005000円程度。

B     紛争の長期化による大人の兵士不足。子どもは戦力以外に料理人や運搬人にも使われる。

C     子どもの特性。ゲリラ戦においては特に子どもは小さく目立たないため、上手く動ける。そのため伝言係やスパイとしても使われる。

D     敵が油断しやすい。

E     『補充』が容易にできる(もちろん手段は“誘拐”)。

    

LRAの戦闘員の80%以上は11~15歳の拉致された子どもで構成され、中には6歳の子もいる。そしてその中には少女も多数含まれ、性的奴隷や上級兵の無給のメイドにされる。LRAは反政府運動の加入の儀式として、子どもに実の親や親戚の手足の切断や殺害を強制する(子どもの帰る場所をなくさせ、軍の中で生活せざるを得ない状況を作り出すため)。それらの残酷すぎる行為を成し遂げたのを確認すると、その子どもをアジトへ連れて行き、身体的にも精神的にも虐待。暴力をなれさせ、凶暴な兵士に育てあげる。また、殺人への恐怖を取り除くためや依存症を引き起こさせて脱走を防止するために“ガンパウダー(トルエン成分が含まれる)”などの幻覚作用のある覚せい剤も使われる。麻薬は食べ物へ混入したり、傷口に直接すり込ませる。ガンパウダーは銃弾の火薬に使われるため、中には勝手に弾を分解して服用する少年もいる。そうして精神に以上をきたしたまま、少年兵は戦場の最前線に送られ盾となって死んでいく。負傷をしても治療を受けることなくそのまま置き去りにされる。

 

<少年兵問題に関する条約・及び取り組み>

少年兵に関する国際人道法による規定として、1947年のジュネーブ第4条約・1977年の第一追加議定書・第二追加議定書・1989年の児童に関する条約・1990年の子どもの権利および福祉に関するアフリカ憲章・1999年の最悪の形態の児童労働に関する条約・2000年の武力紛争における児童の関与に関する児童の権利条約選定議定書などには、「15歳に達していない児童は、軍隊または武装集団に徴募してはならず、また、敵対行為に参加することを許してはならない」「紛争当事国は児童が敵対行動に直接参加しないようにするために全ての可能な措置をとらねばならない」ということが記載されている。また1998年には国際刑事裁判所規定が採択され、少年兵を利用することは戦争犯罪であると規定された。更に安保理が子どもに関する決議1261条及び1314条を採択し、子どもたちと武力紛争に関する問題にあたる国連特別代表の任命や、戦争の影響を受けた子どもに関する初の国際会議において活動議案が132カ国の批准を受けるなどといった動きが見られた。子どもの権利を守るための問題はより深く認識され、徐々に成果をあげるようになってきた。PKOの派遣はされていないが、事実、LRAは少年兵を幾人かは解放したし、LRAの幹部は指名手配された。

しかしこれらの条約はあまり役にはたたないということも一方である。少年兵の数は世界的に見て増え続けているからだ。原因としては国際法と紛争国の国内法のギャップが挙げられる。反政府組織にとって、条約などというものは政府が勝手に結んだものであり、自分達には関係ない。また、条約を破ったとしても特別に罰則は設けられていない。

 

<少年兵の社会復帰・LRAへの対策>

たとえ幸運にも組織から逃げ出すことに成功したとしても、少年兵たちに帰る居場所はない。残虐行為を行ったために地域社会や親にでさえも怖がられ、見捨てられる。そのため元少年兵の社会復帰のためにウガンダの政府軍やNGO団体は保護・治療・精神的ケアを施し、職業訓練や教育の場を提供している。リハビリセンターとして特にGUSCOWorld VisionなどのNGOの活動が有名。その他いくつかの現地NGOや宗教団体、国際支援組織も活動する。

そしてLRAの状況は近年よくなりつつある。隣国スーダンが長年にわたりLRAに支援(武器・弾薬・資金の提供)してきたが2002年に政府同士が和解したからだ。ゲリラ撲滅という協定が成立し、IRON FIST(鉄の拳)と名づけられた政府軍が撲滅作戦を実施。ジョセフコニーに対して11USドルもの懸賞金をかけ、3000人以上いたLRAの兵士はすでに1000人以下になるなど、画期的な前進が見られる。また20063月には政府が元少年兵の社会復帰を支援するために、総額200万ドルの無償支援の実施を決定。国連開発計画(UNEP)、アフリカ連合(AU)と一緒に支援をスタートさせる。予定では読み書きできない子どもへの教育や、大工仕事や機会操作、洋裁などの職業訓練を実施。2006318日には米国政府も北部ウガンダで続く20年の内戦に終止符を打つよう努めると発表した。20年にわたる紛争にようやく終止符が打たれようとしている今、20年前に兵士だった子どもは大人になり、何を思い、何を幸せに生きているのだろう。

 

<まとめ>

敵と遭遇しても怖がることのないようにと麻薬付けにされた体。逃亡阻止のため自分の村へ連れて行かれ、強要されて犯した隣人殺し。LRAへの恐怖心を植えつけるための見せしめ処刑。憎悪。そして暴力がもっとも正しいという教育。子どもたちの心に巣食うトラウマや傷は深刻だ。LRAは自分たちの声明文に「自分たちはウガンダの腐敗した政権を倒すために決起した農民革命であり、人民の十字軍である」と記す。つまり自分たちの行動は神の意思であり人民のためだというのだ。それなのにLRAは子どもたちに故郷の村を襲撃させ、略奪や殺人、親を殺すことさえ命じた。命令に背けば虐待、または殺害した。

「従わなければ自分が殺されていた」「5人殺したら本物の兵士だといわれた」「俺にやらせろと誰もが競い合って殺した」「疲れて歩けなくなった多くの子どもを命令されて殺した」…子どもたちは幼く純粋であるがために利用された。彼らは自分の欲に埋もれた大人たちに傷つけられ、声にならない声で泣き叫んでいる。今となっては手遅れなのだろうが、それでも今の私たちにできること、それはアインシュタインが言ったように「関心を持ち続けること」なのではないか?平和すぎる日本の海の向こうには、想像を絶する悲劇が今現在繰り返されている。私たちは見て見ぬふりをするのではなく、その声に耳を傾けるべきである。

*参考資料*

http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9807/child.ht

http://www.unic.or.jp/10stories/01.htm10の物語)

http://www.lsd.tamagawa.ed.jp/pop/pop8/fujinomaki.htm(ストーリー)

http://www.jica.go.jp/world/issues/kyoiku05.html(世界の諸問題)