030709tateno 「初期セミナー」レポート

「ワールドカップとカシマスタジアム」 k030535 舘野 梢

 

 

 夢の祭典から1年がたった。2002年6月、世界中がFIFAワールドカップの熱狂と興奮に包まれていた。その瞬間を開催国として迎えていたことを私はとても誇りに思う。今、当時のことを思い出しても、あの感動と興奮が甦ってきて目頭が熱くなる。それくらいワールドカップは私にとって思い入れが深いものなのである。

 

さて、日本はこのワールドカップの開催に向けて、日韓共催が決定して以来さまざまな準備を進めてきた。ワールドカップ開催は日本全国が世界にアピール出来る最高の機会なのだ。そのため、開催地やキャンプ地に全国各地から多数の候補が挙がった。そこで私は、Jリーグディヴィジョン1・鹿島アントラーズのホームタウンである鹿島地域にあるカシマサッカースタジアムを取り上げて考えてみたいと思う。

 

 

1、             鹿島とサッカーの関わり合い

 

鹿嶋市を核とし、その周辺地域はJリーグ・鹿島アントラーズのホームタウンとして全国的に知られている。鹿島アントラーズの、鹿島地域へのイメージ向上・知名度アップなどに与える影響は計り知れない。その社会的効果と経済的効果を以下にまとめる。

 

社会的効果として以下の五つが挙げられる。@サッカーというものを通じて、地域住民の連携、企業・行政の連携、住民間の連帯感の高まりなど地域コミュニティが形成されるA住民が「私たちのまちはサッカーのまちだ」と、地域への帰属意識が高まり、誇りや強い愛着を持つようにもなる。また、“鹿島といえばサッカー”というように、スポーツが地域のシンボルになり地域アイデンティティが形成されるB鹿島でサッカーの試合が開催されることにより、国内外の地域との人的交流が促進されるCクラブユースなどによる競技者・指導者、住民のスポーツボランティアなど、人材の育成が成されるDスタジアムやクラブハウスなど関連施設周辺のインフラ整備・街並みの外観整備が促進される。

 

経済的効果としては以下の二つが挙げられる。@スタジアム、周辺道路などの都市的インフラ整備に伴い、地域経済が活性化されるA対戦チームのサポーターや練習見学者などの観光客増加により、観光消費がアップする。

 

 実際に、私が鹿島を訪れた際に感じたことは、サッカーが、アントラーズが鹿島の代名詞になっていたということだ。道路脇の歓迎の看板にはアントラーズのマスコットキャラクターが描かれ、お店に入るとアントラーズのポスターがある。スポーツが地域のシンボルになる、という効果は得られていると思った。また、天皇杯の優勝パレードなどを見ると、沿道に地元ファンが大勢集まっているのが分かり、地域アイデンティティが形成されていることを感じた。地域とクラブの連携がうまくいっている証拠である。まさに鹿島は、サッカーによる町おこしの成功例だと言えるだろう。

 

そのような鹿島にワールドカップを開催することの意味は何かと問われれば、@住民のスポーツ意識の高揚Aスポーツ文化の振興B国際交流の促進CJリーグを上回る地域振興・世界に地域の情報を発信することのによる地域イメージの向上、などが挙げられる。更に、前述のような地域アイデンティティの形成や行政・住民・企業の連携が深まる可能性がある。そのためにワールドカップの招致を行うのだ。

 

 

2、 スタジアム改修・新築のポイント

 

茨城県は、日本と韓国でワールドカップの共催が決定して以来、鹿島で試合を開催するために、カシマサッカースタジアムを新築にするか、改修にするかについて議論があった。結果的には改修することに決定したが、ここではその経過と行政の対応について考えてみたい。

 

 まず、カシマサッカースタジアムでワールドカップの試合を開催するには、改修か新築は絶対に必要だった。それは既存していたスタジアムではFIFA(国際サッカー連盟)の定めるスタジアム整備指針をクリア出来なかったからである。この整備指針とは、4万人以上の観客席、スタンドの3分の2以上に屋根をつける、一定数以上のVIP席やプレス席を用意する、などが挙げられる。それまでのカシマスタジアムは全席屋根つきとはいえ観客席は1万5千席で、VIPやプレス、警備対策などでFIFAの指針をクリア出来なかったのだ。

 

次に改修・新築のポイントをまとめた。以下は『ワールドカップを迎えるカシマサッカースタジアム』から一部引用した。

 

改修のポイントは以下の通りだ。@改修することの構造上・デザイン上・工事施工上の制約は何かA工事施工中のJリーグ開催は安全かB改修は結果的に二重投資となり、無駄が出るのではないかCワールドカップ以降の施設管理運営費は収支とバランスがとれるのかDトイレの数は少ないが対応できるのか。

 

新築のポイントは以下に示す。@二つのスタジアムができることによる相乗効果が出るかA立地場所は鹿島になるのかB施設形態をサッカー以外のスポーツ、イベント兼用などの多目的にすべきではないかC地域防災センター、地域コミュニティセンターなどの施設機能を付与すべきかD建設コストは改修と比較して高くなるがどうするのかE鹿嶋市が既存スタジアムの有償払い下げに応じられない場合にも、新設はするのかF建設可能地はあるのかG用地買収から始めてワールドカップ前年までに工事は終わるのかH新たなインフラ整備が必要でないか、それは間に合うのか。

 

私は、この比較点の中で特に、トイレの数の対応に注目した。サッカーというスポーツは試合開始から試合終了まで、15分間のハーフタイムを除いてはずっとゲームが行われているのだ。当然観客がトイレに行く時間というのは試合前、ハーフタイム、試合後に集中する。トイレの数が少ないと、その時間中に済ませられなくなりゲームに食い込むことになる。サッカー観戦に来たのに、トイレのせいで肝心のサッカーが見られないというのはなんとも変な話である。地味だがこのような問題にもきちんと対処することが県には求められたのだ。

 

県のスタジアム整備検討委員会は更に審議をすすめ、その報告書で以下の利点・克服点を挙げている。改修の利点とは、@新たな用地獲得が不要であるA事業費を新築に比べて低く抑えることが出来るB地元鹿嶋市に新たな負担を求めなくてすむ。克服点とは、@Jリーグの開催を継続しながらの工事施工に制約があるAフィールドの兼用化に制約があるB新たな機能を付加する自由度が下がる。新築の利点とは、@ハイグレードなスタジアムの建設により相乗効果が期待できるAフィールド兼用による多目的化が可能であるB新機能を付加した施設整備が可能である。克服点とは、@地元鹿嶋市が前スタジアムを有償払い下げすることが前提にあるA払い下げ費用やその後の管理運営費など鹿嶋市の財政能力が課題となるB鹿島地域にのみハイグレードなスポーツ施設が出来ることから県民の理解が必要になるC建設費、インフラ整備費等で県民の理解が必要となる。

 

県はこの報告書を踏まえて、スタジアムを改修すると決定した。私はこの決定は正しかったと思う。二つのスタジアムがあっても、仙台のように“あっちは見にくいし、行くのが大変だから嫌”などと言われる可能性もあるからだ。現在のスタジアムの運営状況を考えれば、高品質のスタジアムが二つあるということは宝の持ち腐れになってしまうと思うのだ。それならば、すでに愛着のあったスタジアムを改修した方が、経済的に見ても正しかったと思う。

 

 

3、 スタジアムの有効利用法

 

カシマサッカースタジアムはワールドカップを開催するために改修工事が行われたが、ワールドカップが終わった今、どのように活用しているのか、またこれからどのように活用していけばいいのか、他の開催地のスタジアムと比較しながらそれについて考えていきたい。

 

 そもそも、スタジアムが『ワールドカップの負の遺産』などと言われるのは、莫大な税金をつぎ込んでおきながら、それが終わると赤字経営になり採算が取れなくなってしまうからだ。これはスタジアムの構想段階、ワールドカップを招致した段階から予想可能な問題である。だが、ここにきて多くのスタジアムが経営の悩みを抱えているのは、目先の“ワールドカップ”にのみ焦点が絞られ、その後の“管理運営”まで考えを及ぼすことを避けたからではないかと私は推測する。そうでなければ、ここまで赤字経営のスタジアムが増えるだろうか。現在、日本で開催した都市で黒字経営をしているスタジアムは札幌ドームだけである。そのほかのスタジアムは皆赤字だ。

 

韓国ではどうだろう。ソウルスタジアムは施設内にショッピングモールを整備してあり、出店者からの貸し賃をスタジアム管理費に補充している。また、そうすることで市民により多い頻度でスタジアムに足を運んでもらい、密接感が上がっていると言えよう。それとは反対にワールドカップで使用したスタジアムを壊して、全くの更地にしてしまおうという所もある。経済的にはそれで問題無いかもしれないが、ワールドカップを開催したことの意味はそこに残るだろうか。私にはとても悲しいことに思われて仕方ない。

 

ではカシマスタジアムはこれからどうすればいいのか。現在、日本でのスタジアムの位置づけは、都市公園法で管理され、基本的に収益事業は行えないことになっている。私はこの法律を改正して、スタジアムを行政の経営から民間経営に委譲し、収益事業を行い広く活用出来るようにすべきだと考える。ヨーロッパでは高速道路I.C大規模駐車場の上部空間や商業施設のビルとしてのスタジアムなど多様なスタジアムが存在する。カシマスタジアムもこのような複合型の施設として活用すべきではなかろうか。鹿島を通る高速道路のI.Cをカシマスタジアムに隣接して建設し駐車場として活用したり、映画館やショッピングモール、アミューズメント施設などとして活用するのもいいだろう。幸い、鹿島付近には大規模な商業施設がない。スタジアムを中心としてそのような施設が作られれば、周辺地域(茨城県南東部や千葉県北東部)からも人が集まり、赤字経営から黒字経営に変わるかもしれない。何もしないで赤字経営を続けるよりは少しでも経営が上向きになるよう努力すべきだ。そうするための一つのきっかけとして、民間経営という方法をとるか、もしくは民間と行政との共同経営にすることを提案したい。そしてスタジアムを“ワールドカップの負の遺産”として見るのではなく、新しい地域振興の道具として活用していって欲しいと思う。

 

 

<参照サイト>

http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/index.htm

茨城県議会議員の井手よしひろ氏のホームページ。ここのW杯カシマ開催情報をクリック。鹿島でワールドカップを開催するまでの経緯がスタジアム改修問題を主に載せられている。とても参考になった。

巨大スタジアムは負の遺産なのか〜日本版PPPの推進モデル施設に〜

スタジアムの有効利用について新鮮な意見が書かれてあり、参考になった。