030709takahashi 「初期セミナー」レポート

「反グローバル化とアフリカ」                 k030136  高橋伸嘉

 

 

1.世界を取り巻くグローバル化という流れ

 

グローバル化とは、冷戦構造が崩壊した1990年代に生まれてきた概念である。それまで日本でもしきりに言われてきた<国際化>というものは、自国の文化の中にいかに異文化を取り込むかという概念だった。それに対し、より一層の効率化を求めるグローバル化とは、ある規格(グローバルスタンダード)に統一されたより大きな枠組みを構築していく、という概念である。情報や資本はすでに国境の枠を越えて自由に動き回り、物や人も国境の垣根を越えることが容易になった現在、地域統合など国境の枠組みを越える動きが盛んになっている。そのような動きを、特に経済面で盛んに推し進めている概念がグローバル化である。

 

実際に、FTA(自由貿易協定)を初めとする各種の経済的な取り決めが、世界的な規模で拡大してきている。そのような路線で、今世界で一番進んでいる地域協定がEUである。域内での関税撤廃によるものの移動の自由化、資本や労働力の移動の自由化、経済政策の共有、そして通貨の統合と経済的には完全に国境を越えた枠組みをめざして動き始めている。そしてEUは今なお拡大を続けている。

 

また、世界中ほとんどの地域で使用することのできるドル、世界の公用語としての英語、パソコンOSのウィンドウズやコンビニエンスストアー、ファーストフードなど、冷戦後唯一の超大国となったアメリカの規格がグローバルスタンダードとして世界中に広がっていっている。この点を捕らえて、グローバル化とはアメリカ化ではないかという批判も出ている。

 

今回のテーマであるアフリカについても、確実にグローバル化の波に飲み込まれている。市場としては規模が小さく、人的資産も未発達なアフリカにおいては、その資源が欧米の資本の標的となっている。ダイヤモンド、金、原油などまだ開発されていない地下資源を多く持つアフリカは、原料の調達先として新たな搾取の脅威にさらされている。巨大な多国籍企業がその財力・技術力に物をいわせて、資源開発を行い利益を得ている。外国資本のため地元への利益の還元がなされず、資源開発という限定的な投資のため国内産業も育たない。

 

また農村においては、貨幣経済というものが急速なスピードで浸透してきていて、伝統的な価値観や生活を破壊している。現金収入を得ることによって、今まで手にすることのできなかった物や、利便性が手に入るようになる。そのため、みんな現金を得ようとする。農村の若者は都市へと出稼ぎに行き、働き盛りの人が減る。無理に商品作物を栽培することによって土地がやせ、今までの自給自足の生活も保てなくなってしまう。お金を持っている者が、力を持つようになる。そのようにして、急激な貨幣経済の浸透は多くの悪影響も及ぼしている。

 

しかしながら、世界は確実にグローバル化している。もっとも、経済的に遅れているとされるアフリカにおいてすら、EUをモデルとしたAU(アフリカ連合)という機構が作られた。この組織は2002年の7月にOAU(アフリカ統一機構)から発展して発足し、裁判所の設立や、通貨統合のための中央銀行の設立などEU型の統合を目指して発展していくことを目標として掲げている。

 

 

2.反グローバル化運動の高まり

 

このようなグローバル化の流れの中で、その流れに疑問を唱えるグループが出てきた。反グローバル化運動である。この運動は、1999年のシアトルでのWTO会議以降、盛んになってきた。経済が絡む国際会議などの舞台には、必ずといっていいほど出没しデモを行ったり、また違うところでNGOの国際会議を開催し問題点の指摘や政策提言を行ったりしている。

 

そのような彼らの主張にはさまざまなものがある。なぜなら、彼らはグローバル化というひとつの流れに反対する、さまざまな意見を持った集団の集まりだからである。ここでは、その内のいくつかをあげてみる。

 

グローバル化が進むことによって、もてる者とそうでない者の差が大きくなり続けている。また、グローバル市場の形成とともに、画一化された文化が売られることとなっている。グローバル化の流れに乗れないところは周辺化していき、取り残されている。ただ、取り残されるだけならいいが、そこに資源など何らかの価値を見出すと、巨大な資本によって暴力的な「開発」が行われる。投資する側の都合だけで、本来は周辺化するはずの地域までも巻き込まれていく。資本や情報など、それを作り出し利用する主体である人間が、もはやそれらを管理できない状況になっている。人(労働力)の移動の自由化によって、先進国における失業率が増加している。

 

このようなグローバル化の問題点に対し、彼らはさまざまな対策の必要性を唱えている。効率やスピードを重視し、ものすごい勢いで動いていく資本の流れから取り残された部分や否応なく巻き込まれ振り落とされてしまう部分を、保護する仕組み(グローバル・セーフティーネット)をあらかじめ作っておく必要性。資源の計画的な有効利用などを含めた、地球環境保護の必要性。伝統的な文化や価値観の保護の必要性。資本の動きに対する、ある程度の管理の必要性などである。

 

また、彼らは9.11のアメリカにおける同時多発テロの起こった原因のひとつにグローバル化を挙げ、これからもテロが起こりうるであろうと警告している。資本の自由化によりテロの資金が自由に世界を行きかい、人の移動が容易になることによりテロリストを容易に入国させることになった。そして、グローバル化によって生まれた不平等感がテロの温床を作り、その不平等感が解消されない限り、テロの脅威はなくならないと警告している。

 

このように先進国においても、グローバル化の負の側面の影響を直接受けることにより、反グローバル化運動に対する一定の評価がなされるようになってきた。今年開かれたエビアンサミットでは、今までのようにG8だけで集まって世界の舵取りを決めていくという方針をある程度変えて、アフリカの後進国やアジア、南米の発展途上国などから、決してグローバル化の勝ち組ではない国の首脳も招かれた。

 

また、議長国のフランスは実際に反グローバル化を訴えるグループの代表と会い、その主張を無視しないという、シラク大統領のメッセージを伝えた。そしてブラジルのルラ大統領は、サミットの中で公にデモを支持し、市民セクターの発達に期待を表明した。

 

実際にヨーロッパを中心に、アメリカ主導のグローバル化に対して反対する動きが、スローライフや伝統文化の見直しという形をとって、盛んになってきている。しかし、アフリカで反グローバル化の運動が起こっているようには見受けられない。一部の知識人は、グローバル化の弊害について語っているが、否応無くその流れに飲み込まれている一般の人々は、初等教育すら受けられない人が多くいる。アフリカにおいて市民セクターの発展はまだ十分ではないのである。

 

反グローバル化という概念自体は、政治的な主体が主張しているものではなく、市民という立場からの訴えであるため、その広がりには限界がある。そこで登場してきた有力な武器がインターネットである。世界中どこにいても、電話回線が確保できれば情報にアクセスすることができる。そのような、まさにグローバル化され、その弊害をカバーする仕組みのないシステムの中で、反グローバル化運動は、グローバルに広がっていったのである。しかし、アフリカにおいてはその情報すら満足に入手することが困難である。

 

 

3.グローバル化時代のアフリカ

 

植民地支配の負の資産を背負って独立し、いまだに最貧国を世界で最も多く抱えるアフリカという地域にとって反グローバル化の主張は重要である。しかし、グローバル化された世界の中から出てきたこの主張の共有を求めることは、意見の押しつけになりはしないだろうか。

 

過去にアメリカの黒人女性グループが、アフリカの女性解放運動に積極的に関与したとき、アフリカの女性グループから猛烈な反発を受けた。ともに「女性の権利を守る」という同じ目標を目指しているのにも関わらず、価値観までも押しつけられることに対する反発から、協調し戦うことができなかったのである。

 

植民地時代にはプランテーションによる単一作物の耕作を、独立に当たっては民族や歴史、文化を無視した単調な国境線を、独立後は画一的な経済構造改革を押しつけられてきた。このような中で、反グローバル化という価値観もまた、アフリカにとって大事な要素を含んでいるにもかかわらず、押しつけてしまうことによって反発を生んでしまう可能性がある。

 

その危険性を回避するには、アフリカ自身が反グローバル化の重要性を認識することが重要である。そのような意味でも画期的な宣言が20017月にOAUの首脳会議において採択された。NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)である。そこには、アフリカ自身の責任において貧困の撲滅、持続可能な成長と開発、世界経済への統合を目指すことや、国際社会からの支援(パートナーシップ)をアフリカの自助努力(オーナーシップ)をサポートするものとして位置づけることが明記されている。実際の政策としては、域内の平和と安定、民主主義の促進による政治的な安定、市場拡大や競争力拡大のための地域協力や統合、優先分野を策定しての計画的開発、民間投資の誘致などが挙げられている。そのような流れの中でAUが誕生したのである。

 

アフリカ自身がアフリカの開発・発展のために声を上げたのである。グローバル化されていく世界の中で、取り残されまいとするための方策をアフリカ自身が策定したのである。今まで、さまざまなものを押しつけられてきたアフリカが、自分自身のイニシアチブとアフリカの国同士の相互評価を前面に出し、国際社会と係わっていく意思を示したものである。これは一面では、グローバル化に対する反対の動きともなるだろう。つまり、グローバルスタンダードではないアフリカンスタンダードを自ら構築し、そこに国際的な支援や資本を取り込んでいくという意思表示だからである。今後は、このアフリカンスタンダードをいかに多様な、豊かなものにし、それに対する国際社会の支持を得られるかが焦点となるだろう。

 

 

 

<参照サイト>

http://www.jca.apc.org/attac-jp/japanese/index.html

反グローバル化運動を世界的なネットワークで組織し、実際に行動している団体(ATTAC)の日本支部のサイト

 

http://www.hikyaku.com/evian/evianj.html

エビアンサミットの解説ページで、さまざまなニュースやトピックスの紹介をしているサイト

 

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/02_hakusho/ODA2002/html/kakomi/kk01014.htm

NEPADについての外務省の解説ページ

 

http://members.tripod.co.jp/peacewld/nepad.htm

OECD(経済協力開発機構)閣僚会議のNEPADに関する討議のレポート