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小池 利早子「那須烏山市のかやぶき古民家における地域活性化の現状と課題」

 

1.            那須烏山市における地域活性化の一例とその流れ

 

那須烏山市の下境という地域に、大正時代に建てられたかやぶき古民家がある。以前は大木一家がここで生活をしていたため大木邸と呼ばれるが、現在は生活の拠点を変え、大木邸は約40年間茂みの中に眠っていた。地主の大木さんの依頼を受け、地元の建設会社や、茅葺屋根保存協会、地元の人々が共に動き出すことになった。これが古民家における活性化事業の始まりである。

 

地元の人々は、古民家を利用したまちづくりのアイデアをベースとし、国土交通省が進める元気回復助成事業に申請を依頼した。元気回復助成事業とは、「地域の建設業団体が、保有する人材、機材、ノウハウ等を活用し、地方公共団体や農業、林業、観光、環境、福祉等の異業種団体との連携により協議会を設立して、建設業の活力の再生と地域の活性化を図ろうとする場合に、連携事業の検討や試行的実施に必要な経費を助成(1協議会当たり上限2,500万円)するもの」である(国土交通省HP)。20091年間の期限付きで、申請許可が下りる。また、活性化事業の申請を進める一方で、九州産業大学の教授と烏山の建設会社(山田建設株式会社)の専務が知り合いだったこともあり、同時期に伝統工芸として有名な烏山和紙を通した九州と烏山の交流が始まった。九州産業大学の学生の活動も徐々に活発化し、当時プロジェクトに参加した数名は後に現在の管理人となる。

 

2009年度から古民家での活動が始まることになった。助成金を活用しながら、宿泊事業と農作業を中心に運営を開始。不定期で開催されたイベントとしては、母屋をコンサートホールとして利用した音楽祭、東北の芸術工科大学との共同芸術祭などが開催された。助成期間が終了した2010年度からは、組織は株式会社化され、本格的な巣立ちが始まった。農作業等の表面的な暮らし方は特に変化はしていないが、経営という面で大きな課題を背負うことになる。

 

2.            かやぶき古民家大木邸の実態と課題

 

まず、地域社会での繋がりについて言えば、現時点で地元の方々とは良好な関係を築いているようである。近所の年輩の方々から畑・野菜の作り方を教わったり、お惣菜のお裾分けをいただいたり、交通手段のないお年寄りを一緒にスーパーに連れて行ったりと、近隣コミュニティーとの関係は比較的順調であり、地方でよく見られる新参者への疎外感情も薄いようである。

 

一方で、大木邸の経済環境について考察すると、メンバー構成は重役を除きスタッフ5名である(420代、119歳、うち地元出身者は2名、他3名の出身は島根、福岡、宮崎)。スタッフに関しては、彼らは自分たちの給料を自分たちで生み出していかなければならない。彼らは全て手さぐりの状態で、社長等(地元の方々)の指導を頂戴しつつも、一から経営というものと向き合っている。若い世代を中心としたクリエイティビティが生まれる一方で、そこには‘先が見えない’という不安感が存在するのも否めないようにも感じる。つまり、地域内コミュニティーの活発化という点では重要な役割を担えるかもしれないが、まちおこしという観点からの活性化、具体的には地域に金を落としてもらうという点から見ると、まだまだ厳しいものがある。

 

3.            大木邸はどのように機能していくべきなのか

 

大木邸の発端としては、まちおこしという点から始まったわけだが、実際には少し違った機能を果たすことになりそうなのが現実である。立地条件も含め、観光客の数を増やすのは実際のところ容易ではないし、本人たちも十分承知している。大木邸は、経済面での活性化とは異なる意味を見出し始めている。

 

具体的なものとして、ひとつは、地域住民が自然とある場所に集まる様子、地域研究では‘中心’という用語が使用されるが、大木邸はこの機能を果たす可能性は今後十分に考えられる(鳥越、2008)。学校帰りの子供たちが秘密基地として集まり、お年寄りは縁側で座談する。まちおこしとまでは行かずとも、地域コミュニティーの活性化には少なからず影響を与えており、将来の大木邸の存在意義は、ここに見出すことが出来るのではないだろうか。

 

もうひとつ大きな存在意義として考えられるのは、新しいライフスタイルのモデルロールを目指す、という点にある。那須烏山市では、元烏山町長の福田弘平氏(現那須烏山市観光協会会長)を中心に、「半農半匠」というライフスタイルを提案している。「半農半匠」とは、農業を経済的な基盤としながら、農業の出来ない冬の時期等は、各々の持つ技術や能力を活かして生計を立てる、というものである。具体的に大木邸に当てはめて言及すると、スタッフは大木邸の業務をこなす一方で、各々の興味のある分野で積極的に活動している。学童での手伝いや、建設会社での現場手伝い、ものづくり教室の開講や、地元カフェの経営等を行っている。実はそれらの仕事は、彼らの夢と関連する。‘子供を巻き込んだまちづくりを成功させる’、‘DJとして活躍したい’、‘地元でカフェバーをやりたい’、‘独立して建築事務所を経営する’など、彼らの野望は絶えない。大木邸のスタッフとして、特に夏場は農業に従事しながらも、彼らは将来の夢に向けて、人脈や技術的な基盤を固めている。いわば「半農半匠」制度は、「2足のわらじ方式」または「季節に合わせた暮らしぶり」とも言える。

 

現代社会の資本主義概念に慣れきった人々から見れば、「経済的に不安定な暮らしをしている」、もしくは「時代に合っていない暮らし方だ」と非難するかもしれない。たしかに、実際のところ経済的な部分では苦しい部分もあるかもしれない。しかしながら、経済発展ばかりを優先して社会的コミュニティーの崩壊を招いた現代において、大木邸は間違いなくこの社会を見直すきっかけとなるだろう。また、時代の変化によって絶えず消滅してゆく日本文化や地域伝統を、次の世代に伝えていく大切な機能を果たしていくとも考える。あえて大げさに言えば、彼らは実践を持って、現在の社会構造に対する問題提起をしているとも言える。

 

行政に関しては、活性化の経済的援助を通して、大木邸のワンステップを支えたという点に関しては評価出来るが、助成金を出してあとは頑張ってくださいという姿勢はあまり良くない。地域活性化において、事業申請の許可がおりても結局後に続かない、というのもよく聞く話である。大木邸でのライフスタイルを支持する声が広がるのならば、行政が今後積極的かつ継続的に支える意義はあると考える。皮肉になるが、むしろこのライフスタイルの提唱が全国的に注目されると見込むのならば、行政にとってそれは有効な観光材料となり、彼らにとっても思わぬ特典になるからだ。

 

 

<参考資料>

 

国土交通省HP2009)「建設業と地域の元気回復助成事業 第1次募集の選定結果について」(201218日現在):http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo14_hh_000084.html 

かやぶき古民家大木邸HP「大木邸」(201218日現在):http://okitei.jp/ 

茅葺屋根保存協会HP「茅葺屋根保存協会」(2012018日現在):http://www.kayabuki.co.jp/ 

栃木文化社ビオス編集室HP「栃木県文化功労者表彰受章に寄せて」(201218日現在)http://www.bios-japan.jp/columns/20111121_fukuda.html

鳥越皓之(2008)「家と村の社会学」世界思想社、P.97