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川口優「柏崎刈羽原発について ―住民の声とその対応―」

 

 

1.はじめに〜新潟県中越沖地震と東日本大震災の事故を通して〜

 

2007年に発生した新潟県中越沖地震の被害として、柏崎刈羽原発の原子炉建屋やタービン建屋のひび割れなどの損傷、放射線の漏えいなどが問題となった。それ以降、柏崎刈羽原発の廃止を求める声が多くなり、原発に反対する人の数は増えてきた。さらに、20113月の東日本大震災によって、福島原発ではこれまでに例を見ないほどの甚大な事故が起きた。そして地震発生から今日まで、原発に対する国民の信頼性は大きく失われてきた。原発廃止の是非が問われるなかで、過去の被害と福島原発の事故を通して、柏崎市の住民の声としてはどのようなものがあるか。また、東京電力や県側はそれに対してどのように答え、対応しているのだろうか。

 

 

2.原発が柏崎市の財政に与えた影響

 

 柏崎刈羽原発によって、柏崎市はほかの自治体にはない「原発財源」という特殊な財源を得たことから建設事業を中心に財政規模を拡大してきた。また原発立地地域に特別に交付される交付金があり、その対象事業が広がったことも市に大きな影響を与え、柏崎市の財政は原発財源に依存したものになった。

 

 

3.柏崎刈羽原発への反対運動と対応の例

 

これまでの柏崎刈羽原発に対する反対運動としては、様々な活動が行われてきた。現在、運転しているのは56号機で、17号機は定期検査中、234号機は停止中である。このような状況の中で、停止中の原子炉の再稼働反対や全廃などを求めて、多くの集会が開かれ、街中でのデモも行われてきた。しかし、国や県の反応はそれに見合ったものではないし、明確な答えもほとんどなかったのである。

 

具体的な例としてまず、20092月の、柏崎刈羽原発の運転再開撤回を求める署名提出についての事例[i] が挙げられる。これは新潟県平和運動センターなどが参加する「柏崎刈羽原発設置反対県民共闘会議」と原水禁(原水爆禁止日本国民会議)が合計約1194000人分の柏崎刈羽原発7号機の原子炉設置許可取り消しと、運転再開の断念を求める署名を国と東京電力にそれぞれ提出したという事例であるが、その際に東京電力に対し、自らの公的企業としての社会的責任について聞くと、「署名は確かに受領した。社会や関係役員に伝える。」と答えただけで、それ以上は何も答えなかったという。

 

次に、20116月の、「おやすみなさい、柏崎刈羽原発」の署名プロジェクト終了についての事例[ii] が挙げられる。「おやすみなさい、柏崎刈羽原発」とは、原発廃止を求めるネット署名運動をするプロジェクトである。200711月に、それまでに集まった7441筆分の署名を柏崎市長・刈羽村長・新潟県知事に提出し、その後も署名活動を続けてきたが、2009年から7号機を始めとして、再稼働反対を求めていた原子炉が次々に再稼働を開始したことによって、プロジェクトの成果を出せないままに終わってしまったという。

 

 例として挙げたものはどちらも署名活動のものであり、反対運動のほんの一部に過ぎない。このように中越沖地震発生の2007年以来、原発の再稼働や廃止を求める活動は多く行われてきたが、原発反対の声やそれに代わる署名に対する東京電力や県の対応は、十分なものだったとはいえないだろう。

 

 

4.「地域の会」から見る住民視点での意見とニーズ

 

 一方で、次に注目したいのは、柏崎市で柏崎刈羽原発の透明性・安全性の確保を目的に行われている「地域の会[iii]」である。「地域の会」の概要としては、会が認める各種団体および地域の推薦を受けた委員で構成され、毎月1回の定例会と臨時会があり、原発の運転状況や影響などの確認・監視や事業者たちへの提言、議論、そして住民への情報提供を行っていて、会は原則全て公開となっている。委員の人たちが東京電力、県や市に対し住民視点からの提言をして議論することによって、住民にとっての必要にして十分な情報を傍聴や情報誌、ホームページなどを通して提供しているのである。しかし、開催日を見てみるとほぼ毎月水曜日の夕方で、固定された時間帯であることから、傍聴したいがなかなか行けないという住民もいるだろうと予想できる。このような機会は非常に重要で貴重だと思うので、住民の参加のしやすさをより考慮した上での会にするべきではないだろうか。

 

 地域の会の各委員からの住民視点での意見としては様々なものがある。「県のデータから放射線物質の検査がきちんとされているとわかりその結果に安心したので、その安全性についてもっと情報発信してほしい」、「厚生労働省が出している安全の基準値について理解を深めたいので講習会や話し合いなどをこの会で企画してほしい」という要望や、反対に、想定外ということを言い続けてきた東京電力に対する数々の不満や、柏崎刈羽での原発廃止の研究の推進を求めた意見も多くあった。また、防災の観点から見た話題では、「原子力防災の知識は住民一人一人が知る必要がある。町内レベルで勉強会などを実施し、住民が議論することで行き届いた防災計画になる」といった個々が持つ意識の必要性、「福島の事故の後の状況を省みれば、国の指示を待っているようでは住民への情報発信や対応が後回しにされているように思えて心配。行政はいろんな角度から住民の声を聞き、防災計画に取り入れてほしい」、「東京電力では24時間体制で情報発信体制が整っているが、市と村ではそれを受ける体制と受けた後、住民への情報発信体制が確立されていないのではないか」といった住民の声への対応や住民への情報提供の強化の必要性、そして「福島原発では様々な面で電力会社や国の想定が甘かったのが明らか。原子力災害に対する防衛対策は運転の永久停止しかない」といった原発廃止を求める意見なども多くあった。

 

 

5.まとめ

 

 柏崎市では、上に述べた「地域の会」のほかにも、各市町村で原発や放射線に関する勉強会や話し合いなどが住民たちを主体として行われてきているようである。したがって、柏崎刈羽原発がある地元住民にとって、自らの声を1つの意見として主張したり情報を共有したりする機会は、十分とはいえなくとも、少なからずあるといえるだろう。今後はその機会をより広く浸透させていくことが望ましいと思う。そのような中で、やはり国や県、東京電力側の対応は未だ明確なものとはいえず、多種多様な住民の声をどのように生かしていくかが課題となっていくと考える。同時に、それには住民のニーズに応えた情報の公開が必要となると思う。都合の悪い情報の隠ぺいなどは、逆に住民の信頼性を失ってしまうだろう。今日では原発に関する情報は様々にあり、日々変化しているともいえる。そのような中で原発の廃止の賛否について、私自身としては今の時点ではまだはっきりした答えは出せない。原発の安全面と財政・経営面のそれぞれに責任を持つことが大切であるが、後者を優先することがないよう、前者である安全面を重視し住民の声を尊重した対応が、今後も求められるだろう。原発を維持もしくは推進していくとするなら、それに見合った根拠をきちんと示していく必要があると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    



[i] 原水禁HP 「柏崎刈羽原発の運転再開撤回を求める署名提出」(20092月)

http://www.gensuikin.org/mt/000189.html

[ii] おやすみなさい、柏崎刈羽原発 

「おやすみなさい 柏崎刈羽 署名プロジェクト終了のお知らせとお詫び」(20116月)

https://www.sitesakamoto.com/unplug_kariwa/

[iii] 柏崎原子力広報センター 情報誌『視点』(第51号,2011125日発行)