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吉田まどか  安全なまちづくりのために安全なみちづくりを

―宇都宮市の「道路見える化計画」から考える―

 

 私が宇都宮大学に入学し宇都宮市で生活するようになってから、ひとつ気になっていたことがあった。それは、宇都宮市では道路工事が多すぎるのではないかということだ。私の家から大学まで行くのに、久部街道と呼ばれるとある狭い街道を通らなければならないのだが、そこで工事をしている割合はかなり高く、実際今日もそこで道路工事が行われている。その他にもアルバイトに向かう途中などで道路工事の現場をよく目にするが、その度に先輩が「税金の無駄遣いだ」と言っていたことが印象に残っている。そこで今回、数多く行われている道路工事が本当に必要なものなのか、調べながら検討していくことにした。道路工事は住民のニーズに応えるためにしているのか、それとも次年度予算において多額の予算を勝ち取るために余りを少なくするための「予算の消化」にすぎないのか、ここでは宇都宮市を例に挙げ、私個人の意見として考察していく。

 

 まず調べていくにあたり、路上工事といってもその中には多種多様なものがあることがわかった。工事というのは道路(橋梁)工事、下水道工事、水道工事、電話工事、電気工事、ガス工事の6つに大別され、そして道路工事もまた舗装復旧工事(電気、ガス、上下水道施設の設置又は修繕後の舗装工事)や舗装道補修工事(舗装の老朽箇所を補修するための工事)にはじまりさらに8つあり、それらの工事すべてをあわせると30近くにのぼる。つまり様々な工事があるため、路上で工事が頻繁に行われても不思議ではないのである。思い返してみれば、工事現場をよく見ると道路を掘り起こしているものもあれば、配管らしきものを取り換えているものなど多様な工事が行われていた。そして興味深かったのが、電話工事、電気工事、ガス工事は民間の企業により工事が行われているということだ。これらの資金は企業による予算から出され、その出所もさまざまである。つまり、この3つの分野に関わる工事に対して「税金の無駄遣い」というのはお門違いであり、むしろ彼らはコスト削減のために日々努力している。税金を使って工事を行っているのは道路(橋梁)、下水道、水道の分野についてである。

 

 では、その税金を使って行っている道路(橋梁)、下水道、水道の工事の必要性について検討していく。そもそも私達は、道路のアスファルトや水道管が定期的なメンテナンスを要するものだということをしばしば忘れてしまいがちである。しかし、時間が経てばアスファルトはひび割れもするし、凹凸も出てくる。車が通過するたびにぼろぼろと隔離していく。隔離したアスファルトの欠片は、次に来た自動車にひかれて飛散することになる。そのため道路を長い間放置しておくのは、たいへん危険であることがわかる。水道管なども、当然長い間使用すれば錆などが生じてくる。最近では錆びにくい素材のものを使っているそうだが、そうでないものがいまだ使われている地区も多い。そのままにしておけば、水の安全性が下がることになる。それが原因で衛生問題等が生じた場合、それこそ行政の責任になる。道路の舗装や配管の交換等を税金の無駄遣いとみなし削減することはつまり、自分達の安全を脅かす結果になりかねないのだ。

 

 次に、具体的にどこで道路工事が行われているか知るため、そしてその工事が適切であるか検討するため、宇都宮市が行っている「道路見える化計画」について調べてみた。これは、平成203月に策定されたもので、道路整備の必要性や効果などについての「透明性」を高め、市民の意見を聞きながら、説明責任の向上を主な目的とした事業である。そのために、@道路の課題やニーズをデータ等により把握する、A課題解決を急ぐべきところを重点化し対策する、Bみちづくりの目的や成果をわかりやすく「見える化」するための取り組みを行っている。周知のとおり、栃木県内における交通渋滞が宇都宮市に集中していて、日常生活への影響が大きく深刻な問題となっている。大学前をはしる国道123号での夕方の渋滞も、宇都宮大学に通う学生や教員ならだれもが目にしたことがあるだろう。そしてそれ以上に深刻な問題とみなされているのが交通事故、とくに増加傾向にある交通事故の死者数である。2111月には109人であった交通事故による死亡者数が、翌年同月には126人と17人も増加してしまっている。これは中核市[1]37市)の比較では非常に高く、下関市、高松市に次いでワースト3位であることがわかった。このような状況から、約9割の市民が道路整備の必要性を理解している。3割は道路整備がまだ不十分と感じていて、6割にあたる人々が必要なところをよく見極めたうえで進めるべきと回答しているそうだ。これらの市民の声からはじまったのが、この宇都宮市の「道路見える化計画」である。

 

 市民の要望に応えるため、市ではまず住民の声を慎重に聞くことを最優先としている。住民にアンケートを行い、道路整備の重要な視点や渋滞解消が求められている、もしくは危険箇所の改善が求められる主な市道、そして歩道の問題点など、細かいところまで住民の声を聞く。次にこれらに関係するデータを渋滞状況調査や交通事故発生状況調査などで収集し、調査・解析を行う。それらをもとに課題箇所を抽出し、予算との関連を踏まえながら対策方法などの詳細を決定していく。このようにいくつかの段階を踏まえることで、いわゆる税金の無駄遣いを減らすこともできるし、なにより住民のニーズに直接応えられるようになった。対策にあたっても、詳細な現地調査を行ったうえで、課題に応じた最適な対策を展開していけるよう努力している。そして私達の生活の周辺で実際に行われる工事現場についても、「見える化」に向けた様々な取り組みが行われている。工事現場における「見える化」とは、何のための工事を実施しているのか、工事がいつまで行われるのかといった情報を工事現場の看板に表示することを意味する。また、交通規制を伴うような工事箇所については、広く道路利用者に知らせるよう努めている。そして交通への影響が大きい道路工事をなるべく短期間でできるような配慮や、工事時期が一定の時期に集中しないための配慮も行っている。また、危険箇所についてより素早い修繕を行うため、市民に協力を求め、情報提供をしてもらうためのPRを行い、常に住民のニーズに応えられるよう心がけている。

 

 しかしこの取り組みは、なにも道路工事だけに焦点をあてているわけではない。いくら整備された道路でも、それを利用するドライバー達が危険な運転を続ける限りは、事故の件数もそれによる死者数も増していくばかりである。そのため市では、身近な道路の安全の確保のためパトロール体制を強化している。さらに、道路利用者それぞれのマナー向上のため、ドライバーをはじめとする道路利用者に対する交通安全教室の開催や、交通事故多発地点等における注意を喚起するための取り組みなどの啓発活動を実施している。

 

 このように、宇都宮市では私達の安全を守るため、実に様々な取り組みを行っている。交通渋滞の改善、事故多発地帯の道路整備、歩道が狭い、もしくは歩道がない狭い道路の改良など、様々な目的のために行われている道路工事は、私達の安全な生活のためには必要不可欠であるといえる。実際に「道路見える化計画」の概要を見て、その取り組みが税金の無駄遣いであるとはとうてい思えなかった。道路工事が多いと私自信感じていた久部街道も、整備が必要な危険箇所と指定されていて、工事が多い理由として納得することができた。もちろん工事に全く無駄がないといえるかどうかは疑問だが、なにも次年度の予算を確保するためだけに道路工事を行っているわけではないということは確かだ。行政は私達の安全のために道路工事をするのであって、自分達の利益を優先しているわけでは決してない。彼らは感謝こそされ、税金の無駄遣いなどと後ろ指を指されるのはおかしいのではないかと考える。私は彼らの努力を称賛し、これからも道路工事をはじめ安全なまちづくりのために、安全なみちづくりに励んでほしいと思っている。

 

 

参考資料

宇都宮市道路見える化計画

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/douro/011154.html

工事の内容(必要性)

http://www.kyoto.kkr.mlit.go.jp/syukugen/f_02.html



[1] 日本の地方公共団体のうち、地方自治法第252条の221項に定める政令による指定を受けた市。日本の大都市制度の一つである。現在の指定要件は、法廷人口が30万人以上であること、とされている。