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寺田駿太「静岡空港の意義について」

 

はじめに

 私の故郷である静岡県は、昔から東は東京・神奈川、西は愛知(名古屋圏)に挟まれ、大都会を行き交う人々の流れの中で、その中継地点として栄えてきた。特に、私の出身である東部は熱海をはじめとする温泉観光地帯を有している。そこは昔ながらの風景や自然を残し、かつ首都圏から近いということから、日帰りで行ける観光地として今でも絶大な人気を誇っている。

 インフラの観点から見ても、東名高速道路や東海道新幹線など交通の便がよく、バスや電車も比較的多い。十分インフラは整っていたと言ってよいだろう。そんな中、一昨年にあたる平成216月に、地域活性化を目的としたインフラ整備の一環として、静岡県島田市に富士山静岡空港が建設、開港された。島田市は静岡県の中部に位置しており、これまで空のインフラとしては、東京には羽田空港やや成田空港があった。そして近年中部国際空港(セントレア)が開港したことから、確かに位置的に見ればちょうど真ん中にあたる場所である。しかし、静岡空港の開港が決まってからも、開港に反対する意見は多く存在していた。実際に、2007年の時点で全国に86の民間空港が供用されている[i]。これは、例外もあるにしろ、単純計算で一つの県に一つ以上は空港が配備されているということになり、空のインフラはもうほぼ整っていたように感じる。しかし、数多い反対を押し切る形で、富士山静岡空港は開港された。

 果たして、この「富士山静岡空港」は本当に国にとって、静岡県にとって必要だったのであろうか。また、これ以下「富士山静岡空港」は「静岡空港」と表記する。

 

空港のメリット

そもそも、空港を作ることによって得られるメリットは、どういったものか。それはまず、空港における雇用ならびに財・サービスの購入による一次的な効果が期待されることである[ii]。これは、空港の中に入っている売店で働く人や清掃スタッフなどが含まれており、当然のことながら、その空港の中にある売店が多ければ多いほど、空港の規模が大きければ大きいほど雇用は拡大する。

 しかし、静岡空港にある売店の数は3つほどであり、免税店やレストランを含めても5店ほどしかない。これは相対的に見ても少ないとは言えないが、空港を作ることで直接的に雇用拡大を促進できるわけではないことが分かる。一次的なメリットにはあまり期待できないのである。

 そこで重要となってくるのが、空港建設に伴った周辺の発展がもたらす二次的な経済効果である。これは、ホテルや製造業、流通業などの直接空港とは関係のないところでの発展のことである。この二次的な発展は正確に数値にしてあらわすことができないが、インターネットで検索してみたところ、ここ数年で島田市に新しくできたホテルは、わずか1,2カ所にとどまり、また、開港一周年のイベントを開催しているホテルもわずか一カ所のもみであった。

 当然、これだけでは二次的な経済効果は測れないが、空港が開設されるにあたってまわりの企業(少なくともホテル業界)はあまり期待をしていなかったし、今もしていないようだ。

 

静岡空港の現状

 実際に空港を利用する人も多くはないのが現状である。開港から一年も経過していない平成222月の段階で静岡空港の国内線の搭乗率は63.5%である[iii]のに対し、石川県の能登空港は同じく一年目で、国内線79.5%の搭乗率があった[iv]8年目に入った今でも能登空港は60%の搭乗率を確保している。数値からしても静岡空港の幸先は良くない。また、国際線においてはソウルと上海の二カ所にしか就航しておらず、便も少なければ、搭乗率も65%と頼りない数字である。

 ではなぜこんなにも利用客が少ないのか。個人的に、島田市やその周辺に観光客を呼び寄せるものがあるのかが疑問であるが、それを置いておいても、やはり静岡空港へのアクセスの悪さが原因であると考えられる。

 「車で来るのに便利です」[v]としながらも、静岡市から車で約40分、浜松市から約50分もかかる。また、島田駅からアクセスバスが出ているにしろ、バスで30分以上もかかるうえに、その存在すら地元民の間でも知られていないような実情であり、アクセスバスの利用者も減っていく一方である[vi]。このままの状況では時が経つにつれて搭乗率が悪くなり、私たち住民が予想していたような最悪の状態になっていくのは免れられないように感じてしまう。

 さらに面白いデータもある。静岡空港がある県中部では比較的利用が浸透しているものの、私が住む東部の人たちのほとんどが未だに成田・羽田空港を利用するのが主流であり、また、西部に住む人たちはほとんどの割合で愛知にあるセントレアを利用している[vii]。これはやはり、車でしか行けないというアクセスの悪さや、就航の少なさからきていると考えられる。

 

政府の態度

 政府もこの事態について冷やかである。200310月の閣議決定では、「今後、空港事業整備に取り組むにあたっては、大都市圏拠点空港を中心に整備するとともに、地方空港の整備に関しては、新規空港の建設を抑制し、これまでの量的拡大から、ハード・ソフトの組み合わせや、既存空港の十分な活用を中心とする質的充実にシフトする」[viii]とある。2003年にはもう静岡空港建設は始まってはいないものの、決定しており、できる前から政府は静岡に空港を丸投げ状態であったことが分かる。

 また、「質的充実」に関しても、前述したとおり就航する便の数は少ないのに加えて、残念ながら、特に静岡ならではの特徴が出せているようには思えない。

 もちろん、このような状況は静岡空港のみの問題ではない。去年の3月に開港した茨城空港も、搭乗率はなかなか上がらず、就航しているのも、国内は神戸・札幌・名古屋の三カ所のみである。また国際線にいたってはソウルのみ[ix]と、静岡空港よりも少ない。その他の地方空港も全体的に搭乗率が減っていく傾向にあり、地方にある空港が今どれだけ厳しい状況にあるかを物語っている。

 

まとめ

 こういったことから、今の段階で静岡空港は私たち県民にとって特に必要性を感じないと言ってよい。しかし、個人的には、必要性を感じないながらも、地元に空港があり、インフラが整備されていくことは喜ばしいことである。県民としては応援していきたいと考えている。

 空港を作るということ自体は決して悪いことではない。一次的な、直接的な変化は少ないのは確かだが、二次的な効果が出てくるのはまだこれからだと見て良いし、私たち消費者の交通の選択肢が増えていることはまず間違いない。問題はどうやって静岡空港を選んでもらうかである。

 そのためには、何より空港へのアクセスを良くすることが重要だろう。具体的には、バスの本数を増やしたり、少人数のための小型バスを静岡全土に走らせたりすることが考えられる。また、空港の近くまで高速道路を延長し、車やバスで来るためにかかった分、チケット代を安くするキャンペーンを行うなど、車で来ることのメリットを増やす必要がある。

 また、空港のある島田市には静岡独特の茶園が多くあり、近くには有名な焼津市があることから、さらにアピールしていくことで伊豆方面や浜松方面に行くための通り道ではなく、その町に来てもらうための戦略を立てていくことが求められている。空港が出来たことでの希望よりも、危機感が先行しているからこそ、地方活性化のために与えられた使命だと奮起し、努力していくチャンスだととらえるべきだ。これからも「富士山静岡空港」の動向に注目していきたい。

 

 



[i] 塩見栄治・小熊仁「地方空港整備の展開と制度改革の課題」産研論集 35, 3-17, 2008-03-26  関西学院大学 .3より

[ii] 加藤一誠「アトランタ空港の経済効果」p.99

[iii] 国土交通省 中部運輸局 「富士山静岡空港フォローアップ調査 報告書」p.12

https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/tsukuro/kassei/k3p/items_h21/fsz21/report.pdf

[iv] 能登空港ホームページ お知らせ 「一年目の利用状況より」

http://www.noto-airport.jp/notosypher/www/info/index.jsp

[v] 富士山静岡空港ホームページ「交通アクセス」より

http://www.mtfuji-shizuokaairport.jp/access/index.html

[vi] 国土交通省 中部運輸局 p.1315より

[vii] 同上 p.35より

[viii] @と同じ

[ix] 茨城空港ホームページ「フライト情報」より

http://www.ibaraki-airport.net/flight/index.html