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恩納琢 「沖縄市におけるエイサー事業」

 

 

1、エイサーとは

 エイサーとは、簡単に言えば沖縄の盆踊りのことである。一般的に旧暦の715

あたる旧盆の先祖をお送りする日(沖縄ではウークイ)の夜「青年会」に所属する青年男女が集落内を踊り巡り、各家の無病息災、家内安全、繁盛を祈り、祖先の霊を供養する行事のことを指す。基本的には本土の盆踊りと同様の意味である。

 エイサーは15日の「ウークイ(お送り)」の夜に踊られる。13日の「ウンケー(お迎え)」で、下界に降りてきた先祖の霊が帰りたがらないので、太鼓を叩いて脅かし、再びあの世へと送り出したのが、念仏踊りとしてのエイサーの成り立ちである。[1]

 

2、沖縄全島エイサー祭り

 「沖縄全島エイサー祭り」とは、本島の中部に位置する、沖縄市のコザ運動公園で開催されるお祭りである。この祭りは、旧暦のお盆の翌週の金曜、土曜、日曜の3日間に渡り開かれる。この祭りの来場者数は、約30万人とされており(平成20年資料)[2]年々増加傾向にある。また、会場内では、地元企業であるオリオンビール株式会社主催の成人を対象としたビアフェスタという入場無料のビールイベントも行われている。このビアフェスタには、「BIGIN」、「Kiroro」をはじめとした沖縄県の地元ミュージシャンが数多く出演する。

 

3、エイサーのまち沖縄市

沖縄市は2007年の613日に「エイサーのまち」宣言をして「沖縄全島エイサーまつり」開催にとどまらず、人材育成などまちづくりにエイサーを生かす施策を進めてきた。そのひとつが、観光客などにエイサーの特徴や歴史などを正しくガイドすることのできる「エイサーガイド」を育てる「エイサー体験実習指導員(エイサーガイド)養成講座」だ。市は同講座でガイドを養成して修学旅行生などにエイサーを解説し、体験学習を催すなど組織的な受け入れ態勢の構築を目指している。それにより、2008115日から全5回にわたって行われた講座には、各界から講師を迎え多くの参加者が「エイサーガイド」の資格を取得した[3]。沖縄市観光協会では、エイサーガイドが個人(少人数)からのガイド希望にも対応できるような「(仮)エイサー鑑賞ツアー」なども検討している。

4、文化のアピールとしてのエイサー 

沖縄市内には25の青年会があり、そのうち21地区の青年会が加盟しているのが「沖縄市青年団協会」。この組織はエイサー継承活動はもちろん、その他にも「沖縄全島エイサーまつり」「沖縄国際カーニバル」「成人式」などの公式イベント時の支援や清掃活動など年間を通して多くの地域活動やボランティア活動を支援している。「沖縄国際カーニバル」とは、沖縄市胡屋の米軍基地入り口周辺を会場に開催される秋まつりである。メインイベントは「国際大綱引き」、「民族芸能レード・コザ絵巻」、「サンバカーニバル」などである。米軍基地入り口のコザ・ゲート通りを交通規制し、歩行者天国にして行われる大綱引きは、多数の外国人が基地内外から参加し、沖縄市の住民と外国人との文化の交流の機会となっている[4]

年に1回とは限られている祭りではあるが、日頃からこのような祭りを介して、外国人と市内住民との交流の場を設けることは、双方のコミュニケーションの機会として役立つものである。加えて、基地の存在する沖縄市にとっては、米軍基地に住む外国人がどのような文化や習慣を持つのか、また、沖縄市の住民がどのような文化、慣習を持つのかを相互に知る機会にも繋がる。

近年、米軍兵が近隣の市の女子中学生に婦女暴行を行ったという事件が起きたのをきっかけに住民の米軍に住む外国人への負のイメージがあった。しかし、このような祭りの場で、そのような人ばかりではなく、健全で善良な米軍兵や基地に住む外国人も多く存在するという偏見イメージの矯正にもなった。

このように、沖縄市のエイサーはただの伝統舞踊としての意味づけの他にも、海外と沖縄市の文化の交流ポイントを創出する貴重なツールとなっている。

 

3、経済効果

 ここまで説明してきたことを踏まえ、「エイサー」という沖縄の文化が現代の沖縄社会のなかでどのような経済効果を生み出しているのか考察していく。まず、「青年会」エイサーの衣装や太鼓などの道具は、沖縄独特の存在であり、専門のお店に特注して購入しなければならない。次に、「沖縄全島エイサー祭り」についてである。このお祭りには、前述のとうおり、延べ30万人の来場者数があり、単純に一人当たり1000円をこの祭りで消費したと考えると3億円の経済効果が期待できる。また、ビアフェスタで来場者数の3分の1にあたる、10万人が500円のビール1杯を飲んだとして約5千万もの経済効果に繋がる。

 

4、持続可能な文化としてのエイサー

 そもそも、エイサーというのは発祥の地沖縄だけでなく全国各都道府県でも知られている。沖縄ではない本州の各地の県でもエイサーまつりというのは存在し、小学校や、中学校の運動会や体育際で踊られている。また、東京都の新宿でも、年に1回エイサーまつりが開催され、沖縄を含めた各都道府県からのエイサー団体が参加するほどだ。

ここまで説明してきた沖縄のエイサー文化が、なぜここまで年々拡大し盛況しているのか考察していきたい。

沖縄では、エイサーを文化教育の一環として教えるという習慣がある。例えば、小学校や中学校では体育祭、運動会においてエイサーを必ず学年全体の課題としておこなう。その他には、総合の時間や、社会科見学などでエイサーについて取り扱うなど、義務教育の一環で、エイサーについて触れ合う機会が豊富に存在する。また、体育祭や運動会では振り付けをその地域の青年会から教えてもらうといった繋がりがあり、中学校を卒業後にその地域の青年会に入りやすいといったこともある。そうすることによって、青年会は毎年一定の若い人々を得ることができ、青年会の活動は維持され、次の世代へと継承される。

この青年会と中学生の繋がりの機会を、中学校や小学校で設けるというところに、エイサーが沖縄において、持続可能なものとなっている理由だと考えられる。

 

4、結論

以上のように、非常に短絡的ではあるにしろ、「エイサー」という沖縄の伝統文化が現代の沖縄市の経済において、有益な事業として成立し活用されている。また、それには沖縄の「青年会」と義務教育におけるエイサー教育が沖縄の若い世代をエイサーへと駆り立てる構造になっていることも重要である。このように、沖縄では企業と市民が伝統文化としての「エイサー」を相互に必要とし、盛り上げようとしている。それは、企業にとってはあらたな経済活動の創出をし、市民も沖縄の伝統舞踊として継承を果たすことになっている。

「沖縄市のエイサー事業」は伝統文化、地域経済、地域市民と地元企業の融合の成功例として評価できるものであり、今後の沖縄市にはなくてはならない経済の構造でもある。加えて今後、他の県や地域での町おこしの新しいモデルとして参考となる可能性も秘めている。

全国にも沖縄のエイサーのような、伝統文化としての地域資源が数多く存在するはずである。青森の「ねぶた祭り」や、北海道の「ソーラン節」といったものである。このような、地域資源を企業や行政、教育の場でひとつの経済効果を計るツールとして用いることが、これからの日本の地域では必要とされるであると考える。

《参考文献》

沖縄全島エイサー祭り実行委員会 200806 「沖縄全島エイサー祭り総合情報局」エイサーの歴史

東門 美津子(沖縄市長)2008 OKINAWA CITY All rights Reserved 「第53回沖縄全島エイサー祭り メッセージ」

 



[1] 沖縄全島エイサー祭り実行委員会 200806 「沖縄全島エイサー祭り総合情報局」エイサーの歴史より

[2] 東門 美津子(沖縄市長)2008 OKINAWA CITY All rights Reserved 「第53回沖縄全島エイサー祭り メッセージ」より

[3] http://www.zentoeisa.com/archives/category/carnival

Copyright(c)2008.06 沖縄全島エイサーまつり実行委員会

[4] http://www.koza.ne.jp/index.html

沖縄市文化観光課