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飯干 舞 「持続化可能なムラづくりについての考察 ―秋元地区の取り組み―」
1.はじめに
私の故郷である「秋元」は宮崎県高千穂町の山奥にある小さな集落である。少子高齢化・過疎化が進み「限界集落」[i]と呼ばれ、2008年には私の通っていた小学校・中学校が廃校となった。在籍中もクラスメイトは2人と少人数であったが、地域全体が一つの大きな家族のような温かな環境であり、運動会や文化祭といった学校行事も地域ぐるみで行われていたため、寂しいと感じたことはなかった。しかし、母校が廃校になることになった時は、さすがに過疎化の深刻さを痛感させられた。
本レポートでは、そんな「限界集落」と呼ばれる「秋元」の現状と取り組み、今後の課題について考察していく。
2.過疎化・少子高齢化の原因
私は、現段階で少子高齢化・過疎化を止めることは難しいだろうと考える。その理由としては、@働く場所がないため、若者が都会へ出てしまい帰ってこない(雇用の問題) A学校が廃校になったため、子供たちの学校教育の場がない(教育の問題)B交通の便が悪い の3つが考えられる。
実際私は18年間住んでいたが、テレビの電波が悪いことや携帯電話の電波がなかった(現在は改善され使うことができる)こと、バスの本数が少ないなど不便に感じることがいくつかあり、都会の生活に憧れた時があった。しかし、ただ少し不便なだけなのだ。秋元には他では見ることが出来ない素晴らしい自然や伝統文化、住民の温かさがあり、住むには最高の場所である。
秋元では現実と向き合い、住民が主体となって地域の活性化を図った取り組みを行っている。
3.持続可能なムラづくり
このような状況下の中、都市と農村の交流による持続可能な村づくりを実現させるために、2010年6月「高千穂ムラたび活性化協議会」が発足した。「観光と連携してムラに生業を創る」をテーマに「農業」「食と農村民宿(オーベルジュ)」「エコミュージアム」の三部門を一体化した事業展開を始めた。[ii]この事業についていくつか紹介していこうと思う。
・農業 〜村の直営所「いろはや」〜
産物直売所「いろはや」は、住民全員が出品する事のできる直売所である。とれたての新鮮な野菜や工芸品などの雑貨も売られており、値段も破格だ。元々自分たちが食べるためだけに作っていた野菜で食べきらない分は廃棄していたが、この「いろはや」が出来たことにより、丹精こめて作った新鮮な野菜の無駄がなくなり、秋元に来て頂いた方が喜んで買って帰って下さる。更に、野菜や雑貨を作る高齢者の方たちの生きがいともなり、地域と住民の両方の活性化につながっていると考えられる。
「いろはや」は旅行などで来られた方などのおみやげ屋さんとしても今後期待できるだろう。
・食と農村民宿 〜蔵守・まろうど〜
現在、2つのオーベルジュ型(料理を楽しむことを主体にした宿泊施設のある郊外レストラン)農村民宿がオープンした。どちらも新しく宿泊施設を建てたのではなく、自宅の一部を改築して作ったものや、空き部屋を宿泊施設にしている。食事は地元で採れた食材を使った郷土料理や創作料理で、田舎でしか食べることが出来ない料理を味わうことができる。
〜蔵守〜
農家民宿「蔵守」では、農作業体験や郷土料理づくりなどのプランがあり、実際の田舎暮らしを体験することができる。収穫した食材はその日の夕食に使われる。また、客室は母屋にあり、夕食は蔵守のご家族とお話を交えながら楽しむことができ、一緒に団らんの時間を過ごすことができる。家族の温かさが詰まった民宿だ。秋元での生活を自分の肌で感じたい方、体験したい方におすすめ。
〜まろうど〜
築130年の古民家を改築して作られた客室は自然に囲まれた心落ち着くことが出来る優しい空間である。木の香りに包まれた館内には竹で作られた照明などもあり、良い雰囲気を演出してくれる。標高が高いため、ここから見える景色はとても美しい。霧が立ちこむ早朝や夕暮れは絶景だ。「まろうど」の名前には「客人」という意味があるらしく、心が込められた最高のおもてなしが人気だ。こちらも夕食は地元の食材を使った郷土料理や創作料理となっている。
・高千穂秋元エコミュージアム
エコミュージアムとは文化財や建造物だけでなく、住民や生活文化、自然を含む地域全体をミュージアム化する方法である。[iii]集落内の空き家や納屋などを改装し、展示場としている。上記にあげた2つの民宿の中にも夜神楽の写真を展示したギャラリーや、納屋に囲炉裏を設置し、囲炉裏を囲んだ食事や飲み会を行うことが出来るようになっている。
4.「田舎で働き隊!」事業(農村活性化人材育成派遣支援モデル事業)
「田舎で働き隊!」事業とは、農山漁村地域における活性化活動に関心を持つ都市部人材等の活用を目的とする人材育成システムの構築に向け、人材育成や都市と農村をつなぐ能力を持った仲介機関に対して支援を行うシステムである。[iv]
2009年9月に「田舎で働き隊!」の農業研究生として、福岡県から高橋弘泰さん[v]が半年間秋元に滞在し、活動を行って下さった。実際に住民と同じ生活をし、そこから感じたことや想いを伝えた。内輪だけでは気が付かなかったことも客観的に外から見ることで見えてくることがある。今後取り組んでいくうえで貴重な意見となる。
5.今後の課題
以上のように、地域内で積極的な取り組みが行われている。秋元に来てくれる方が増えることで、観光事業から雇用が生まれる。旅行者が増えれば交通面もバスの本数を増やすなど、旅行者が訪れやすい環境づくりも改善されるであろう。教育の面は子供がいないため、なかなか厳しいだろうが、廃校になった学校施設を利用し、海外のサマースクールのように一定の期間だけの山村スクール施設などへは活用できないだろうか。もしくは、老人施設等に活用することで、雇用の機会になるのではと考える。一時的ではなく長期的に見てくことが今後の取り組みにつながっていくであろう。
註
[iii] 日本大百科全書より (2011/01/03現在)
[v] 秋元 −ムラを楽しむ!−
http://www.akimoto-mura.com/murabito-inakadehatarakitai.html (2011/01/12現在)