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菅原海織 「盛岡市のブランド開発」

 

1.

 現在日本は地域間競争の時代に突入している。少子高齢化によって人口が減少している一方で、中央集権から地方分権への移行によって地域間格差が生じているため、自分たちの地域に人々を呼び込もうと地方は必死になっているのだ。今回取り上げる岩手県盛岡市も例外ではなく、地域間競争を勝ち抜くために市独自のブランド開発を行っている。今回は地域のブランド開発について考えていく。

 

2.

 地域ブランドとは、「地域発の商品・サービスを地域イメージと結び付け、好循環を生み出し、地域外の資金や人材を呼び込むという持続的な地域経済の活性化を図ること(経済産業省)」[i]と定義されている。つまり、地域活性化のための手掛かりとなる有形無形の地域資産を地域ブランドという。この時に重要なのが、受け手が価値を感じるものを「ブランド」と呼ぶのであり、送り手(盛岡市)による一方的なものにならないようにしなければならない。また、強いブランド開発においてはオリジナリティ、ブランド・アイディア、内と外の巻き込みによるインターナルの信頼、継続性が必要不可欠である。

 

地域ブランドの開発によって見込める効果として、他地域との差別化、地域魅力による他地域からの人材、企業等の流入増加、地域の活性化等があげられる。盛岡市は地域の魅力をブランドとして地域内外にアピールすることで、地域間競争を勝ち抜こうとしているのだ。

 

3.

 盛岡ブランドは「もりおか暮らし物語」をブランド・アイディアとし、盛岡らしさをブランドの価値としている。盛岡ブランドは現在、市民協働を原則としながら観光・地場産業・文化くらしの3分野におけるプロジェクトを展開している。同市の歴史文化的建築物のために補助金提供や景観保存を行う「まちなみ景観づくり」プロジェクト、同市を流れる川に着目したゴムボート川下り大会の開催、豊かな河川に関する小冊子の刊行、名水百選に選定された水のアピール等豊かな水文化をブランド化する「もりおか水の恵み」プロジェクト、同市の工芸品、農作物、名物料理のブランド化を進めるために独自のブランド認証制度を定めた「盛岡特産品ブランド認証」プロジェクト、石川啄木を顕彰し若い世代の短歌作成を振興するために全国高校生短歌大会(短歌甲子園)を開催する等、先人たちを市の重要なブランド価値として県外等へアピールし、市民啓発に努める「先人と文化振興」プロジェクトの4つである。この他にも盛岡ブランドを総合的にアピールする活動として、東京や京都で「盛岡デー」を開催して地元ブランドの広報宣伝活動、市民啓発のための番組製作やチラシ配布等も行っている。

 

4.

 今回はこの中から「盛岡特産品ブランド認証」プロジェクトと、広報活動の一つである「盛岡デー」ついて分析を行う。「盛岡特産品ブランド認証」プロジェクトは購買者の信頼向上と、地場産業の活性化を目的としている。盛岡特産品ブランドとは、同市内で生産された安心安全な品物を認証基準とした、盛岡市と連携している盛岡特産品ブランド認証委員会という第三者機関から認証を受けることによってつけられる名称である。認証制度は先述の委員会が中心となって、市が業務委託している盛岡地域地場産業振興センターという事務局や、プロモーション委員会等と指示・連携をしながら運営されている。

 

ブランド認証件数は食品109件、工芸品等45件、その他1件と圧倒的に食品ブランドが多いのが盛岡ブランドの特徴だとも言えるだろう。それほどアピールできる品物が多いのだ。その中でも次期ブランドリーダーとして考えられている盛岡りんごの認証件数が15件にも上ることから市の力の入れようや生産者数の多さをうかがわせる。これによって多くの盛岡産りんごに一定の価値が与えられ、購入者に対する信頼が向上し、りんご生産に関わる産業、地産地消が活性化するというのがこのプロジェクトの利点である。しかし、このプロジェクトには問題点がある。それは、ブランドリーダーとしてりんごを取り上げるのも困難ではないかということである。なぜなら、日本ではりんごといえば隣県の青森県が生産量日本一(平成18年度現在)[ii]を誇るほど、りんごと青森県というイメージが密接だからである。りんごという分野においては青森県のほうが認知度が高いのに対して、あえてそこに乗り込んでいくというのは大変不利な状況であると言えよう。確かに青森県産りんごよりも盛岡産りんごの価値が認められたならば、盛岡の大きなアピールにつながると思われるが、それには多くの苦労が伴うのではないかと予想される。

 

 新たなブランド開発も大切であるが、既存のものにも目を向ける必要がある。盛岡市はわんこそばや冷麺など「めん都、盛岡」を宣言するほど麺文化が根付いている。麺類もりんごと同様にブランドリーダーとされているが、りんごと比較するとわんこそばや冷麺のほうが高い認知度を有していると思われる。冷麺に関しては「ニッポンめんサミット」という大会でその価値をすでに認められているので、盛岡ブランドとして全国に名前を打ち出すのはさほど難しいものではないはずだ。また、盛岡市は生麺の消費量が日本一ということで麺類を盛岡ブランドとして押し出すのにも申し分ない。このように持っている長所を伸ばすような形でブランドの開発を進めていくのが理想的ではないかと思う。現在盛岡市はこの長所を活かすべく、「第3回ニッポンめんサミット」の開催に向けて調整を図っているところである。

 

 次に「盛岡デー」について見ていく。これは盛岡ブランドをアピールする各種催し物を同時多発的に実施し、メディア広報宣伝を展開することで盛岡と同ブランドの知名度向上、観光客やコンベンションの誘致拡大を目的としておこなわれているブランドの広報宣伝活動である。盛岡デーは今まで東京、京都、関西(伊丹)の駅やショッピングセンターで開催されている。内容は啄木学級と地元の踊り派遣をレギュラー企画としたものに加え、特産品フェアや観光キャンペーンを行っている。盛岡デーを開催する際にはチラシやポスターによる集中的な広報宣伝の実施や、地元でのテレビ番組制作等による市民啓発を図っている。盛岡デーはレギュラー企画以外、毎度内容が異なっているという特徴がある。このことによって盛岡に関して首都圏の人々に幅広い分野で知ってもらえるという利点がある。また、駅やショッピングセンターで開催することで不特定多数の人の目に留まることになり、結果的に多くの人に盛岡ブランドをアピールすることができる。しかし、先述で述べた「めん都、盛岡」も常設的に企画していくべきだと思う。これにより、盛岡の麺類がさらに全国規模で人々に知ってもらえることとなり、ブランド力が一層高まると考えられる。地元文化の発展、宣伝も大切ではあるが、日常生活とかかわりの深い盛岡の特産品をアピールしたほうが盛岡をよく知らない消費者にも、盛岡ブランドに触れてもらえるいい機会になるのではないかと思う。このように、盛岡デーをブランド開発プロジェクトとさらにリンクさせることで、ブランド開発の手助けにもなりえるのだ。

 

5.

 地域間競争を勝ち抜くためのブランド開発だが、それには少々時間と苦労が伴うものなのだと感じた。しかし、ブランドは地域のイメージを背負っているものであるので、長期的な目で見て開発を進めていく必要がある。盛岡市は食品をはじめ、工芸品や自然資源のブランド化を行っているが、なかなか全国規模に押し上げられていないのが現状である。魅力あるブランドを数多く開発するのも大切なことであるが、あまりブランドを開発しすぎてもその価値が薄れてしまうのではないかと思った。まずは何か一つでも全国的な地位を勝ち得てから次のブランドへと移行しても良いのではないだろうか。また、盛岡ブランドは生産者と同市だけで成り立っているようにも感じるので、地元のスーパーや市を活用してもっと消費者なども巻き込んだものにしていけたらよいと思う。このブランド開発によって盛岡市が他地域から少しでも良い印象を持ってもらい、発展していくことができればよいと思った。

 



[i] 資料:盛岡市ブランド推進事業の概要 P8

[ii]青森県庁ホームページ:データで見るリンゴ 青森県の生産量

http://www.pref.aomori.lg.jp/sangyo/agri/ringo-data021.html

参考文献

盛岡ブランド推進計画

http://www.city.morioka.iwate.jp/07sangyo/brand/branding/pdf/newplan.pdf

『地ブランド』 株式会社博報堂 地ブランドプロジェクト編著 弘文堂刊行 平成18831