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酒井理恵「大江町の定住促進について〜子育ての観点から〜」
大江町は山形県のほぼ中央に位置し、人口9,945人(推計人口、2009年10月1日)の小さな町である。西方は高山群に囲まれた山岳地帯で、東に向かうに従って集落が散在し、東端は日本三大急流の一つである最上川と接して市街地が開けている。四季折々の変化に富み、美しく自然豊かな町である。私の生まれ故郷でもあるこの大江町では、近年、自然増加率と社会増加率の低下による少子化・過疎化が進行している。そこで、人口減少に歯止めをかけ、地域を活性化させる有力な手段として、宅地や住まいの提供による定住促進策を重視した「きらりタウン美郷」という「子育てタウン」が誕生した。この「子育てタウン」について、誕生の背景・目的・効果・これからの課題は何か、見ていきたいと思う。
まず「子育てタウン」誕生の背景として、近年の長寿化に伴う晩婚化や非婚、出生率の低下によって少子高齢化が進行していること、また、高度経済成長以来、都市部への人口流出によって過疎化が問題となっていることが挙げられる。実際に大江町の人口を見てみると[1]、平成に入ってから元年の10,806人をピークになだらかに減少している。現在では、先にも述べたように、人口9,945人(推計人口、2009年10月1日)である。こうした人口減少を受けて、平成16年に大江町定住団地整備促進会議によって出されたのが「子育てタウン開発構想 〜光と緑がいっぱいの宅地と住まい〜」である。そして平成18年、分譲宅地60区画と町営住宅20世帯分が整備されていて、入居者には5つの特典[2]が付いているという「子育てタウン」が誕生した。分譲条件は分譲地の所有権移転完了から10年以内に住宅を建設し居住できる者であることで、5つの特典とは、
@ 子育て支援交付金最高100万円
A 町内建築業者により在来工法住宅を建てれば50万円の建築補助金
B 温泉入浴3年間無料パスポート贈呈
C 町民農園が3年間無料
D シンボルツリーのもみじを贈呈
である。子育てを支援するだけでなく、町に3つある温泉や、農園を有効活用していることから、町の独自性を活かした特典が含まれていることにも注目したい。
「子育てタウン」の目的として、この町の豊かな自然の中で、若い世代が安心して子どもを産み育てられる、ゆとりある居住基盤を整備することや、次世代を担う子どもたちが健全に成長し、人間性豊かな心を育んでいけるような周辺環境を整えることが挙げられる。実際に「子育てタウン」の基本方針[3]を見てみると、ゆとりある宅地面積(1区画 100坪〜170坪)が確保され、低廉な分譲価格(1坪 45,000円〜50,000円程度)での供給がなされている。また、地図を見てみると[3]、園児バスで5分以内でのところに幼稚園・保育園、徒歩5分以内のところに小中学校があり、スーパーや温泉まで車で10分以内のところにある好立地であることがわかる。その他にも上に挙げた町の独自性を活かした特典を提供することで、子育てのしやすい環境と住みよい環境が一体化した、より魅力のあるタウンになっている。
具体的に「子育てタウン」による効果を役場に伺ったところ、分譲住宅地60区画中50区画が埋まっているそうだ。また、子育て支援交付金は現時点で21世帯29名が該当し、14,500千円を交付しているという。入居者は町内外から半々の割合で、山形市や隣町である朝日町から移住してきた人が多く、その他、東京都や埼玉、茨城などの都心部からの移住者もいるという。年齢については20代〜30代の若い人たちの割合が一番多く、数はそこまで多くはないものの、70代の高齢者なども見られるということもわかった。高齢者にとっては子育てのためにここに住むというよりは、菜園付住宅で、温泉を楽しみながら、生きがいのある生活を送りたいという目的があるのだろう。
最後に、「子育てタウン」についてこれまで調べてきた事柄を通して浮かび上がってきたこれからの課題と、自分なりの考察を述べていきたいと思う。「子育てタウン」は、先にも述べたように、人口減少に歯止めをかけ、地域を活性化させる有力な手段として、宅地や住まいの提供による定住促進策を重視したものであるが、実際のところ人口減少に歯止めがかかっているとは言い難い。というのも、「子育てタウン」によって世帯数は増加したものの、人口に増加は見られないのである。その原因として、依然として老年人口の死亡率が出生率を上回っている点や、転出が転入を上回っている点、核家族化・夫婦共働きの家庭が増加している点の他、都市部にあるような大型ショッピングセンターなどの娯楽施設がなく、魅力や便利さに欠ける点などがあるだろう。これらを踏まえてこれからの課題について考えると、いかに自然増加率・社会増加率を高めていくか、さらには、便利さには欠けているが、大江町を取り巻く美しい環境の存在があることをいかにアピールしていくかが重要になってくると思われる。また、「子育てタウン」についての自分なりの考察をしていくにあたって、昭和47年〜61年に行われたの集落再生事業を取り上げる。これは、高度経済成長期を迎え山間集落から挙家離村があいつぐ中、町外への挙家離村や人口流出を防ぐため団地を整備した、いわば守りの策としての定住促進策であった。これに対し今回の「子育てタウン」は、大江町の優れた居住環境を活かし、良質な宅地を供給し、町内や周辺地域はもちろん、都市部からの住み替え希望者も受け入れることにより、定住人口の増加と合わせ出生率の上昇を図るための、いわば攻めの策としての定住促進策である。このように、積極的に人口を増やして町を活性化していこうとする取り組みは、これからも必要な試みであると思う。子育ての観点から定住促進を行おうとした、この「子育てタウン」にはまだ課題が残るけれども、少子高齢化や過疎化などの厳しい時代環境の変化に対応していくためには、守るだけの策だけではなく、地域の独自性を活かした積極的な策を考えていかなければならないと感じた。
[2] http://www.town.oe.yamagata.jp/kosodate/index.htm#kukaku 大江町HP きらりタウン美郷
[3] 上に同じ
[3] 上に同じ
参考文献
http://www.town.oe.yamagata.jp/mati/gaiyo/data_jinko.html 大江町HP「人口推移」 22年17日現在
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