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伊澤美里「下野市における人権擁護委員の活動」

 

はじめに

 

 近年、私の故郷である栃木県下野市でも、子供からお年寄り、さらに外国人といった、様々な人が共に暮らしている。このように、年も違えば価値観や文化が異なる人々が、一つのコミュニティーで共存するとなると、目に見えない多くの問題が存在する。そんな問題解決のためにボランティアで働く人々を人権擁護委員と呼ぶ。そんな彼らの仕事に着目して下野市の実情を考察していく。

 

1 人権擁護委員とは

 

 人権擁護委員とは、国民の基本的人権が侵犯されることのないように監視し、もし、これが侵犯された場合には、その救済のため、速やかに適切な処置を採るとともに、常に自由人権思想の普及高揚に努めることをその使命とする(人権擁護委員法2条)。委員は、各市町村長(東京都の特別区においては区長)が推薦した者の中から、当該市町村を包括する都道府県の単位弁護士会および人権擁護委員連合会の意見を聴いて、法務大臣が委託する(法6条)。任期は3年で、無給のボランティアがある(法9条・8条)。委員は、職務に関して、法務大臣の指揮監督を受ける(法14条)

 

 市町村長は、法務大臣に対し、当該市町村の議会の議員の選挙権を有する住民で、人格識見高く、広く社会の実情に通じ、人権擁護について理解のある社会実業家、教育者、報道新聞の業務に携わる者等及び弁護士会その他婦人、労働者、青年等の団体であって直接間接に人権の擁護を目的とし、又はこれを支持する団体の構成員の中から、その市町村の議会の意見を聞いて、人権擁護委員の候補者を推薦しなければならない(法6条3項)。「選挙権を有する住民」と定められていることから、日本国民であることが要件となっている。

 

この制度は、日頃地域に根ざした活動を行っている民間のボランティアの人たちが、地域の中で人権思想を広め、人権侵害が起きないように見守り、人権を擁護していくことが望ましいという考えから設けられたもの。 現在、約14,000名の委員が全国の各市町村(東京都においては区)に配置され、講演会や座談会を開催したり、法務局の人権相談所や自宅などで住民の皆さんからの人権相談や身の上相談を受けるなど、積極的な活動を行っている。私たちにとって一番身近な相談相手と考えられます。 なお、平成6年度から、いじめ、体罰、不登校、親からの虐待などの子どもをめぐる人権問題に適切に対処するため、人権擁護委員の中から子どもの人権問題を専門的に取り扱う「子ども人権専門委員」が設けられ、全国で訳700名の専門委員が活発な活動を行っている。

 

2 人権擁護委員の仕事

 

 人権擁護委員の仕事として、以下のようなことが主にあげられる。

 

・人々の間に正しい人権の考え方を広め、自由人権思想の啓発に努めること。

・地域住民の人権が侵されないように監視すること。

・もし、人権が侵された人がいた場合は、対談相手になり、適切な処置を講ずることによって救済すること。

 

 平成21年度も,6月1日を中心に,全国の人権擁護委員が,各地の市区町村に設置された約2,700か所の特設人権相談所で、女性・子ども・高齢者をめぐる人権の問題や近隣とのトラブルなどの相談に応じた。相談所を訪れた相談者数は3,220人で、相談件数は4,534件。主な相談内容は、住居・生活の安全(相隣間のトラブル等)1,835件。強制・強要(離婚の強要、セクハラ等)274件。暴行・虐待(児童虐待、DV等)136件。プライバシー関係126件。差別待遇63件。学校におけるいじめなど30件。その他2,070件。合計4,534件。

 

人権を侵害されたら

 

 日常生活の中で、これは人権問題ではないだろうかと感じたり、法律上どのようになるのかわからなくて困ったりすることがあるかと思う。そんな時に助けになるのが人権擁護委員という存在である。気軽に市役所や法務局に連絡することで、人権擁護委員に相談することができる。そして、法務省、地方法務局またはその支局に被害の申告をする。

 流れとしては、@援助・・・被害の救済、予防のための法律上の助言や、関係する機関などへの紹介をする。A調整・・・相手方との話し合いを仲介する。B要請・・・被害の救済のために実効的な対応ができる者に対し、必要な措置を執るよう求める。B説示・・・相手方に対し、人権侵犯をやめるよう注意する。C勧告・・・人権侵犯の事実を摘示し、文書で必要な勧告をする。D通告・・・関係行政機関に対し、適切な措置を執るよう求める。E告発・・・刑事訴訟法の規定により告発する。人権擁護委員とは、私たちにとってとても身近な存在である事を覚えておきたい。

 

3 下野市の人権擁護委員の活動

 

 現在、下野市では、石橋地区3名、国分寺地区3名、南河内地区3名の人権擁護委員が活動をしている。任期は3/期である。交代で、それぞれの地区で常設相談が行われ、電話でも対応をしている。また、人権擁護委員の日(6月1日:人権擁護委員法が施行された日)、人権週間において特設相談所を設け相談活動を実施している。

 

 啓発活動として、毎月6月にしないの小学生(3校)に対し「人権の花」運動を実施(花を栽培することで児童の情操をより豊かにし、人権思想に対する理解を体得するため)。年に2回程度、市内の祭り・イベント会場内において人権啓発グッズの配布。人権フォーラムへの参加。栃木県人権擁護委員協議会及び第4部会(下野市・壬生町で構成)研修会等の参加(年23回程度)が行われている。そして、その他にも、ハンセン病への偏見や差別をなくす運動、拉致問題を考える皆の集い、インターネットを悪用した人権侵害に対する運動など、様々な活動が行われている。

 

おわりに

 

 人権擁護委員とはとても身近な存在で、日々の生活の中での小さな問題から、大きな問題までを、秘密厳守でとても親身になって相談・解決してくれる存在だということが分かった。しかし、人権擁護委員という人たちの存在を把握している人は、世間に多くいないのではないだろうか。市役所によく足を運ぶ人や、法務局の情報を頻繁にチェックしている人でないと、彼らの存在に気づくことは簡単ではないと今回私は感じた。私自身、小学生の時に人権週間で花を植えたり、人権に関する作文を書いた記憶はあった。人権問題とは、とても身近な問題で、生きてきた中で誰しもが人権を侵害された経験の一つや二つあると思う。しかし、そんな時に、人権擁護委員に相談することで、冷静に問題と向き合う事ができて、問題の真実と適切な解決方法に繋がるという事実を知らないのは、私たちにとって不利だと考える。そこで、人権侵害をなくして住みよい環境を作るためにも、人権擁護委員による啓発活動をさらに増やし、市民からの相談を待つだけではなく、人権擁護委員からの働きかけによるコミュニケーションを大切にすることが、人権侵害をなくす大きな一歩に繋がるのではないだろうか。問題が小さなうちに解決に取り組む。それが人権擁護委員の仕事であり、それによってよりすばらしい地域社会は形成されると私は信じる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

下野市ホームページ

http://www.city.shimotsuke.lg.jp/hp/page000003300/hpg000003237.htm

法務省人権擁護局

http://www.moj.go.jp/JINKEN/

人権擁護委員会

http://homepage3.nifty.com/miebar/Iinkai/Jinken/jinken.htm

人権擁護法

http://www.houko.com/00/01/S24/139.HTM

人権啓発活動ネットワーク

http://www.moj.go.jp/jinkennet/

栃木県人権啓発活動ネットワーク協議会

http://www.moj.go.jp/jinkennet/tochigi/tochigi_index.html