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「東京−地方間の関係とそれに対する取り組み」

 

日本では、今までの日本政府の政策により、政治的・経済的・文化的機能が東京に一極集中しており、地方からは人材が流出し、過疎化、高齢化、経済の低迷が深刻な問題となっている。ここでは、中央と周辺との従属関係が問題とされている。例えば、各地域には東京や、札幌・大阪・名古屋といった地方都市に本社を置く企業の支店や営業所が多く存在し、利益が地域内で循環されない。各地域で人口が減り産業が廃れる中で生き残るためには、中央との従属関係を打破することである。

 

よって、地域の市民自らによって行われ、従来の体制に服従するのではなく、各地域がそれぞれに合った持続的な発展を可能とする町のあり方を考える内発的発展を選択する地域が現れた。今回は北海道上川郡下川町の事例を内発的発展の具体例とする。

 

 下川町は名寄市・士別市・雄武町・西興部町・滝上町に隣接し、面積の約9割が山林である小さな町である。下川町の人口は、1960年の1万5555人を頭打ちに、旧国鉄の廃止と鉱山の閉山によって2005年には4164人まで減少している。しかし、北海道開発局が1990年代前半に打ち出した人口推移の将来予測は2000年で3789人であるにも関わらず、それを大きく上回っている。それを可能にしたのが、さまざまな政策や取り組みであり、その成果として、町に残る者や、Uターン者・Iターン者が増えたのである。

 

まずは約9割という山林面積を利用した林業経営を基盤としたことである。下川町の町有林は、「樹木の齢級構成をバランスさせて、伐採と植林を永久に繰り返すことが出来る経営システムを確立した森林」(保母武彦、1996/167)である法正林がほとんどである。林業を基盤とするために長い年月が費やされてきたことがわかる。これは、リゾート開発や企業誘致といった外来型開発でなく、地域の特長を活かした開発の選択である。下川町には、スズキのテストコースとサンルダム建設が誘致されたが、あくまで誘致企業には一時的な効果しか期待せず、基盤は林業であるという姿勢であった。さらにこの林業が雇用を生み出すだけでなく、付加価値を付けるために木炭関連工場と集成材工場がある。健康にいい備長炭や木酢液・着火性の良いカラマツ木炭等に加工している。これらは企業誘致ではなく、既存の森林組合、農業協同組合の活発化をはかったものである。これら林業の従事者を中心として、Uターン・Iターン者が増加し、人口減少を予測以下に抑えている。

 

また、生活文化を見直すことにも力を入れた。これは観光が第一目的ではなく、市民が誇りを持ち、町を明るくすることで人口流出を防ぐ効果を持つ。町づくりグループが生み出した「アイスキャンドル」もそのひとつである。アイスキャンドルは今や北海道では有名となったが、下川町のものは毎年2月になると何千個ものアイスキャンドルが町を飾る大規模なものである。

 

他にも「手づくり観光」と呼ばれる、外来企業に頼まない工夫された観光として、自分たちで石を積み、名前を刻むことが出来るという「万里の長城」や、現在は製麺所が13戸となった伝統的な「手延べ麺」の産業化など、町役場や市民による様々な活動が町を活性化させているのである。

 

下川町の事例で特筆すべきことは、40年以上かかる山林整備と言った地味なことであっても、市民の理解を得ながら続けてきたことである。40年以上前には企業誘致で雇用を創出することが主流でなかなか理解してもらえなかったはずなのにもかかわらず、町役場では持続的な発展を見据え、町民と対話や勉強を重ねてきた結果、現在の状況をつくりだしているのである。

 

下川町の事例から見えてきた地方が生き残る方法とは、自分たちの地域の特徴を分析し、既存の社会体系にとらわれず、市民にとって生きやすい町にするために持続可能なまちづくりを考え行うことである。それは例えば下川町というような、小さな範囲での運動だからこそ可能なのである。内発的発展のもとでは、中央から地方への構造ではなく、それぞれの地域からの社会運動が中央への依存からの脱却につながるからである。また、小さな単位のほうが市民の主体性が上がる。下川町以外でも、各地域が様々な新しい政策や運動に挑戦しようとしている。多くの地域では、今まではほとんど全てであった第一次産品そのままの輸出を見直し、域内で加工し付加価値をつけ、同時に雇用も確保するという目標をとらえている。北海道では酪農産業においてその傾向が顕著である。しかし現状は、莫大な資金を必要とする機械の購入、人口流出・高齢化による人材、リーダー不足、販売ル−トに乗り軌道に乗るまでの難しさがその実践をより困難にしている。

 

以上を踏まえて地方の内発的発展に大切であるいくつかのポイントを挙げたい。まずは人材。つまり、リーダーになり得る人材である。新しいことを始めるときには、信念と展望を持って町のことを考え、市民の理解を得るために運動し続ける人たちが必要である。また、ここで、町以外の生活を体験し、町にはない知識や経験を持っている、かつ前向きにアイディアを持って町にやってくるUターン者・Iターン者の存在も必要である。そういった人たちに触れることで町にいた人たちの意識が変わるからである。同時に、人口流出を防ぐこと、また地域の活動を活発に行うことが人材育成に繋がる。彼らはどうしたら生きやすいかを考え、政策や運動を起こしていく中心となり得る。そして主体はそれぞれ市民である。

 

次に、資源。町の資源を活かした産業を持続的に行えるよう、また付加価値を付け雇用につなげるよう整備することだ。ここでは「一村一品運動」のような特産品の単品開発に終わらず、産業を発達させ域内での経済循環を可能とするものを目標とする。産業を発展させるための、生産物の商品開発の研究を担う企業誘致も有効であるが、その地元産業への利用という目的を忘れないよう、利益を追求する企業との関係を規定し連携をしっかり結ぶべきだ。今までに多数を占めた中央や地方都市に本社を置く企業の支店・営業所は、利益が中央に流れるため経済循環とは言えないのである。

 

次に、市民が誇りを持てる明るい町づくりだ。公民館など地域の中心となる場所や、生活文化の創造に大人たちが積極的に参加することで、子どもたちが町に残る影響にもなり、ここで暮らしたいと思える環境を小さなことから作ることが大切なのである。

 

 

参考文献

宮本憲一・横田茂・中村剛治郎(1990)「地域経済学」有斐閣ブックス

保母武彦(1996)「内発的発展論と日本の農山村」岩波書店

西川潤(2000)「人間のための経済学」岩波書店

参考URL

http://www.kamikawa.pref.hokkaido.lg.jp/ts/tss/move/tokei/toukei/kokuchou/H17sokuhou 国勢調査 200912

http://www.town.shimokawa.hokkaido.jp/Cgi-bin/odb-get.exe?WIT_template=AM04000 下川町役場HP 200915