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野本拓也「参政のススメ〜栃木県知事選から考察〜」
1、はじめに
2008年11月16日、この日、栃木県知事選、そして宇都宮市長選が行われた。
この選挙は『栃木県知事選挙は、投票率が32・28%と前回平成16年の47・65%を15・37ポイントも下回り、過去2番目の低さを記録した。』
『市長選と同日選挙となった宇都宮市だけをみても、40・40%と同9・86ポイント下がった[1]。』という不名誉な記録を残すことになった。
また日本全体を見ても、投票率は国政、地方選を通じて下がり続けている[2]。
今回の栃木県知事選、宇都宮市長選挙を通して、その原因を考えるとともに、そこから政治の質をあげる方法を探っていきたい。
2、選挙とは国民の意思を示す場
まず、選挙がなぜ大切なのか。その必要性について考えてみたい。
選挙とはそもそも何か。辞書を引くと『組織・団体において、役員や代表者を選出すること。特に、選挙権を有する者が投票によって議員や一定の公職に就く者を選び出すこと[3]。』とある。
では、なぜ「選挙権を有する者が投票によって議員や一定の公職に就く者を選び出す」のか。
それは、私たちこそが政治における主役だからである。
民主主義国家においては、私たちが選挙により「国民の代表」を選び、その「代表」を通じて政治に参加し、意思を反映させることになっている。
また、選挙は国政を動かす国会議員だけでなく、地方の長である知事や市長を決める際にも実施される。
これは、地方の首長を、ひいてはその地方が何を目指し、どこに進むべきかを、その地域の住民に選ばせるためだ。
言い換えれば、投票を怠れば「代表」の選出過程において、私たち国民の意思が十分に反映されなくなるということだ。
そうなれば当然、政治の場においてさまざまな問題が発生することになるだろう。
そしてそれは、私たちの日々の生活にも少なくない影響を及ぼすことになる。
今日の政治情勢を見ると国会は非常に紛糾し、混迷の様相を呈している。
それに対し、特定の人物や政党に原因や責任があるとする論調が多い。
しかし、その「代表」を選んだのは、投票して自ら選んだにせよ、投票を放棄して全てを人任せにした結果にせよ、紛れもなく私たち国民一人一人なのだ。
それを、決して忘れてはならない。
だからこそ、一人一人が投票をすることで、自らの意思を示すことは重要な意味を持つのである。
3、「参政への意欲」の低下が投票率を下げている
次に、どうして国民が自分の意思を示す投票を放棄するようになったのかについて考えたい。
今回の栃木県知事選を例にしてみると、今回の選挙は現職である福田知事の信任投票の色合いが濃かったことが、投票率が低かった原因とみられている[4]。
つまり、初めから勝負が決まっているため投票してもしなくても結果は一緒、という認識が選挙への関心の低さを招き、結果として投票率の低下を生み出したということになる。
しかし、それだけにしては投票率32・28%という数値は異常といえるのではないか。
そこには、もっと根本的な問題があるように感じられる。
それは一体何なのか。一般に投票率低下に関しては、よく「政治不信」が投票率を下げている原因だといわれがちだ。だが、はたしてそうなのだろうか。
単に「政治不信」に陥っているだけならば、選挙で白票が大量に投じられたり、あるいはその他の政治運動、例えば今の政治に不満があることをアピールするデモや、国民の間で新しい政党や候補を擁立しようとしたりする動きが盛り上がってもおかしくはないはずだ。
しかし、今の日本にそのような動きはほとんどないといってもいいだろう。
ここから見えてくることは、投票率低下の原因は、投票そのものへの意欲が低下したことや政治が信用できなくなったというより、そもそも政治に自らが参加しようという意識、いわば「参政への意欲」の低下にあるということではないだろうか。
私たちがよりよい生活を求めるのであれば、この「参政への意欲」を市民がしっかりと持ち、行政に自ら主体的に働きかけ、連携していかなくてはならない。
また、「参政への意欲」がなければ、たとえ投票率が高くとも、しっかりとした政治は実現されないだろう。
何も考えずに、誰かの名前を書いて投票するなら、それは自らの意思で選ぶことを放棄したも同然だからである。
4、難しい「政治無関心層」へのアプローチ
では、この「参政への意欲」を高めるために何ができるだろうか。
考えられるのは、政治について人々にもっとよく知ってもらうことだろう。
選挙のことだけではなく、議会の仕組みや仕事、それらがどのように私たちの生活に影響を与えているのか。
そして、私たち一人一人がしっかりとした意識を持って政治に参加することで、どのようなことが可能になるのか。
それらについて学び、自分たちの持つ力を自覚すれば、政治への参加は増加するはずだ。
実際にそう考え、各種啓発活動を企画、実行している自治体や民間の組織も多い。
栃木県においても、栃木県選挙管理委員会が「明るい選挙推進運動」というのを進めている[5]。
しかし、それでも今回の栃木県知事選のように効果はいまひとつなのが現実である。
なぜなら、そういったイベントに参加する人は「政治に少なからず関心を持っている人」であって、本命とするべき「政治に全く関心のない人」はそもそもこうしたイベントにも関心を持たないからである。
5、大学、大学生こそが「政治無関心層」への特効薬となるか
そこで私は大学、およびそこで学ぶ大学生たちの力に期待したいと思う。
大学という場所には、さまざまなものについて深く学ぶ機会があふれている。
そして大学生は、さまざまなものを学ぼうとする意欲にあふれている。
それは政治という分野においても例外ではない。
つまり、大学は社会で「政治について学ぶことに積極的、意欲的な人」が最も多く集まっている場所だといえる。
私が期待しているのは、政治について知りたいというその意欲を、政治に参加し、社会をよりよくしたいというその意識を、もっと外に向けて発信して欲しいということだ。
その、懸命に政治に参加し、社会を良くしようと努力する姿を「政治に全く関心のない人」に見せ続ければ、あるいは彼らの中の「何か」を刺激できるかもしれない。
行政でも市民との協働が叫ばれている今こそ、大学は市民一人一人が政治に参加することの大切さを学生に説き、大学生たちは率先して政治に参加し、社会をよりよくしたいと願う市民の先導者になるべきではないだろうか。
6、「CHANGE」が必要なのは誰か
社会は今、大きく変わろうとしている。
国民の生活は多様化し、それに伴ってそれぞれが求めるものも変わってきている。
もはや、行政にそれら全てに対応することを任せっきりにしていい時代ではなくなっているのだ。
これからは、市民が活発に動き、積極的に政治に関わっていかなければ、よりよい社会はつくれないだろう。
今年1月20日、アメリカでオバマ氏が大統領となる。
聞けば、彼の選挙資金源は、ほとんどが個人からの献金[6]、しかもそれは76%がネット献金であり、一人当たりの献金額は平均80ドル程度であったそうだ。
にもかかわらず、彼は総額推計6.5億ドルもの選挙資金を手に入れたのである[7]。
彼は「CHANGE」という理念を掲げ、「ワシントンのロビイストや企業献金でなく、一般市民であるあなたの献金が必要なのだ」と人々に訴え、そして巨額の資金を集め、大統領となった。
彼はまさに「市民の参政への意欲」が生み出した大統領なのだ。
私たちにも同じことができるはずだ。
懸命に、そして真剣に人々に訴えかければ、どんなに大きな流れであっても変えられる。
それをオバマ氏は証明してくれた。
アメリカでは、一人の政治家が「CHANGE」を訴え、世論を変え、社会を変えた。
ならば私たちは、大勢の学生で「CHANGE」を訴え、世論を変え、社会を変えてやろうではないか。
それが、決して夢物語などではないことを、私は信じている。
[1] 12月14日時点Yahooニュース『栃木県知事選 投票率過去2番目の低さ』
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/tochigi_gubernatorial_election/
[2] 1月17日時点 社団法人 中央調査社 「中央調査報(No.547)」より
『深刻化する低投票率、政党の組織力低下も鮮明に−第15回統一地方選を振り返る−』
http://www.crs.or.jp/54711.htm
[3] 1月17日時点 goo辞書 「選挙」
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C1%AA%B5%F3&kind=jn&mode=0&base=1&row=0
[4] 1月17日時点 MSN産経ニュース 「栃木県知事選 投票率過去2番目の低さ」
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tochigi/081118/tcg0811180231002-n1.htm
[6] 1月17日時点 マイコミジャーナル コラム「メディアの革命」
『"オバマ現象"を生み出した「インターネット献金」の衝撃』
http://journal.mycom.co.jp/column/media/009/index.html
[7] 1月17日時点 JBPRESS 「ネット行政の現場から」
『動画に始まり、決め手は「クチコミ」 オバマ米新政権のネット戦略』
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/276