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栃木市の景観行政によるまちづくり

 

1.はじめに

地域の特色がより重要になってきた現在、各地方自治体は各々自分たちの地域の特色を生かした取り組みが行われている。その中で以前小京都と呼ばれる栃木市に訪れた時に栃木市の蔵の街を生かした景観が美しいものであったため栃木市の景観からのまちづくりをテーマに設定した。実際に自分の足で栃木市に出向き、栃木市の行ったまちづくりの成果について思ったことや感じたことを交えて考察していきたい。

 

2.日本の景観の現状

日本は戦後工業発展を推し進め高度経済成長を遂げ、世界有数の先進国となったがその反面都市は便利性効率性を求めて大きな高層ビルが所狭し立ち並ぶようになり、また老朽化した昔ながらの建物は取り壊され続々と新しいビルが建設されていった。現在の日本の景観は効率性、機能性を求めていき必要なものがあれば周りの環境を考えずに造り続けている。そのため周りの環境との調和がとれておらずに近代的住居の中に歴史的建造物が存在していたり、色彩豊かなチェーン店の看板が並んでいたりする。歴史的環境を抱える自治体では自治体ごとに条例を出して規制しているが、全国的にみると一部の地域にすぎない。

1970年代後半から高度経済政策の大量の開発による自然破壊や歴史的環境の破壊が全国的に進行したことにより、自治体も「開発と保全」をテーマにするようになった。

栃木市のそうした自治体の一つである。蔵の町である栃木市には歴史的建造物である蔵がいくつも点在するが、蔵の場所がまばらに存在していた。そのため周りに近代的建造物が出来ると歴史的建造物である蔵が近代的建築物の中に混ざっているため不釣り合いな景観になってしまった。またそこには生活環境があるため空には多くの電線が飛び交っていて、道路には歩道橋があったりと実用性が優先し蔵の街に似つかない景観であった。

 

3.栃木市の取り組み

 

江戸時代から栃木市を流れる巴波川の舟運交易の拠点として発展してきた栃木市には数多くの蔵屋敷があり、現在に至るまでもいくつかが残されていた。1978年から展開された「やすらぎの栃木路」キャンペーンで栃木市は「鯉のいる街 蔵の街」として知られるようになり栃木市が観光都市を目指して取り組むようになる。1988年度に栃木県から「誇れるまちづくり事業」の指定を受け、栃木市ではまちづくり委員会を設置した。まちづくり委員会は「巴波川・蔵の街ルネッサンス」をテーマにした計画調査報告書を策定した。

 「まちづくり計画」は蔵などの歴史的建造物や錦鯉が多く生息する巴波川などの自然環境を生かした「個性の魅力的なまちづくり」と蔵なども多く存在する中心市街地の活性化も併せて図られ「商業活動や観光活動の活性化並びに居住環境の向上等」を計画に位置づけ取り組まれた。具体的な活動として以下のものがあげられる。

@大通りシンボルロードの整備(アーケードおよび歩道橋の撤去、電線地中化、下水道整備、歩道のプロナード化=県事業、幅員・約18メートル、延長・95メートル)

A歴史的資源整備(蔵等の集景・保全=修景補助77件、補助・融資制度創設、町並み修景ガイドラインの制定)

B核施設整備(山車会館建設、観光館開設、美術館開設、山本有三ふるさと記念館開設)

Cネットワーク整備(駐車場整備、蔵の広場等の整備、市道・網手道のプロムナード化=歴道、ウオーキングトレイル事業)

(土岐寛 『景観行政とまちづくり』時事通信社 2005)

 また栃木市は「栃木市歴史的町並み景観形成要綱」を作成し、中心市街地の約48haを栃木市歴史的町並み景観地区に指定した。また同時に官庁施設と関連する都市基盤整備や地区の環境整備を一体的に行い魅力と賑わいのある都市拠点やまちづくりであるシビックコア地区整備を行った。

 

これら栃木市の景観行政として市の象徴である歴史的建造物である蔵を活用して歴史的環境のまちづくりが進められてきた。「まちづくり計画」が施工される前の中心市街地の景観に比べて歩きやすく、蔵造りの建物で統一したところが観光都市の風格が漂ってきている。これから自分が実際に足を運んでみてこれらの取り組みについて肌で感じた事を述べたいと思う。

 

 

4.栃木市散策

街全体が蔵のデザインを基調としている栃木市はJRと東武の栃木駅建物が家屋のような形をしている。駅前には高層ビルがなく低層のビルがいくつかある程度で落ち着いた雰囲気であった。歩道には案内板が充実していて簡単に史跡の場所が確認できる。駅前の案内板には音声案内もある。どれも蔵を意識したデザインでできており、徹底して統一されていることに驚いた。中心市街地に入ると交通量も増えてきて多くの主要な商業施設が立ち並んでいた。しかし全国チェーンの店がほとんどなく地元の個人経営の商店が多かった。大通りのシンボルロードはアーケード、歩道橋や電線など景観の障害となる部類のものがなくなることで、見通しが良くなっていて、軒並ぶ蔵風の家屋が並び美しい景観を眺めることができた。また車道の幅と同じくらい充分に歩道の空間があるため、快適な散歩道であり、駅から中心市街地まで続いる。歩道と車道の間の段差もほとんどなく点字ブロックもあり、高齢者や障害者にも住みよい環境となっていた。核施設整備で設けられた山車会館、観光館、美術館、山本有三ふるさと記念館は中心市街地の中央に位置しており、金融機関や宿泊施設、百貨店に囲まれていた。美術館は200年年前に建てられた土蔵を改修して使っている。他にもいくつか蔵を改修して商店となっている建物があったが特に驚いたのが栃木信用金庫の建物と下野新聞社の建物が木造の蔵造りであった。栃木市では大手企業までが景観を考慮して調和していた。

 

 

5.栃木市の地域活性化

 栃木市では秋に「とちぎ秋まつり」が催されている。明治7(1874)年に始まり昭和12(1937)年の市制施行祝賀を境にして、おおよそ5年前で開かれるようになった。9つの町内からそれぞれ山車が23日間にわたり市街地を巡回し、栃木市の代表的な祭りで毎年多くの人が訪れ賑わいみせる。栃木市では外部からの観光客の増加を狙って「とちぎ秋まつり」に力を注いでいる。従来5年に一度に催されていた祭りを平成18(2006)年以降は2年に一度催されるようになった。これも観光客が多く訪れる祭りを5年周期ではなくもっと頻繁に来てもらおうとの意図がある。しかし観光協会事務局長の方の話によると祭りの開催も2年周期から毎年の開催をしたいところであるが実際財政面面などの問題で厳しいようである。

「とちぎ秋まつり」の他にもイベントも盛んに行われており平成20年度に開催される予定のあるイベントは19であり、その中の多くが中心市街地の蔵の街に関連した事である。実際栃木市観光客入込数での蔵の街の観光客の数は1989年の14,000人に比べて2006年は27,550人と上昇してきている。およそ20年前に行った「巴波川・蔵の街ルネッサンス」のまちづくり事業は数値から見る限り着実に成果を上げている。

 

6.栃木市の課題

 景観行政によってのまちづくり事業は行政だけではなく市民の協働が大切であった。行政と市民が一体となった取り組みは両者の関係がより緊密化し、また市民もまちづくりに積極的に関わることにより景観保全に対する意識が高まった。しかし実情はそこまでいいものではないようである。大通りで紙屋を営んでいる人も話によると、観光業で生計を立てていくのは難しく紙屋の店は構えているが、実際は印刷業の方を主にやっている。また和菓子の場合も特別売れ行きが上がっていったようではなかった。大通りの脇道にある商店街も人気が少なく、午後3時にも関わらず3分の1のシャッターが下りていた。中心市街地の活性化に取り組んだとはいえ買物は郊外の大型ショッピングセンターへと出向く。外からの人が来ても内の人が外へ出て行ってしまうのが現状である。

 

7.考察

人々が都市に集中し地方の空洞化が進んでいる現在、地方ではさまざまな地域活性化の取り組みがなされている。栃木市の景観行政もその中の一つであり、栃木市の景観は美しく様変わりし、情緒あふれる街並みとへ変わった。しかし蔵の街とちぎとしての知名度はまだまだ低く観光発展までとはいけていない。栃木市としては美しい歴史的な町並みが残る香取市(千葉県)や川越市(埼玉県)を参考にして伝統的建築物保存地区への登録が目標である。

 確固たる産業がなく需要が少ないため人口もピーク時に比べて3分の1まで減少している現実に直面している。商店街にはシャッターの下りた店が多く人通りも少なく、人々は郊外のショッピングセンターへ行っている。車を使えば宇都宮市や佐野市にある大型ショッピングセンターへも簡単にいける。今回栃木市を散策して感じたことは蔵の街の意識が強いのと対象とする層が偏っていることである。中心市街地の活性化に取り組んだ金融機関、宿泊施設、飲食店、百貨店などで若者や家族連れが来るような遊び場がなく、どちらかというと車を利用しない高齢者向きのようで感じた。まちづくり事業を推進する上で時の流れに応じ現代にあったまちづくりで若者や家族みんなで遊べる場所である映画館やショッピング街などを取り入れる必要がある。外からの観光客を呼び込むのも大切だが地元市民を呼び込むのはもっと大切であり、中心市街地の活性化に繋がっていく。

計画的なまちづくりを目指して魅力ある都市の形成を行政と市民が協働で作り上げていっている形をこれからも続けていってほしい。今回の栃木市のまちづくりは栃木市繁栄の再生に繋がっていくだろう。

 

 

参考文献

土岐寛『景観行政とまちづくり』時事通信社

栃木市 都市計画課 

http://www.city.tochigi.tochigi.jp/hp/menu000001000/hpg000000222.htm

栃木市 商工観光課

http://www.city.tochigi.tochigi.jp/hp/menu000001000/hpg000000219.htm

栃木市