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和栗佳代「餃子の街宇都宮から学ぶ地方PR作戦」

 

 大学入学前,初めて宇都宮市を訪れた時,宇都宮駅構内や駅周辺を歩いて回ったが,至る所で「餃子」の看板を目にして驚いたことを覚えている。当時私は宇都宮市が餃子で有名であることを知らなかったが,今では餃子のイメージがすっかり定着している。宇都宮餃子はテレビや雑誌などでたびたび取り上げられ、市内・県内のみならず、全国的にその名を知られるようになった。しかし、有名になったのは最近になってからである。それまでの経緯には、行政や地元の餃子店のさまざまな取り組みや努力があったはずである。それらを調べた上で,次は宇都宮市の街づくりに注目し,宇都宮の魅力や今後の街づくりの方向性について考えてみたいと思う。

                                                                                                            

 まず,なぜ餃子なのかという疑問が生じる。調べてみると,宇都宮市は総務省統計局の家計調査年報で1世帯あたりの餃子購入額が1987年から継続して全国1位であったということがわかった。餃子はもともと宇都宮市民にとって馴染みの深い食べ物なのである。

 餃子PR1990年に宇都宮市職員研修グループが「宇都宮の名を「餃子」を通してPRする」ことを提言したことから始まる。1993年には「宇都宮餃子会」[]が発足し,その後は宇都宮餃子会,観光協会,商工会議所が主体となって取り組んでいる。[]

宇都宮餃子会が1999年から毎年開催している宇都宮餃子まつりも年々来場者数が増加し,200611月に行われた第8回宇都宮餃子まつりには90,000人もの来場者があった。このように,宇都宮餃子は宇都宮市の観光事業に大いに貢献しているといえる。

また,商工会議所は誇りと愛着の持てる街づくりにより地域アイデンティティを確立し,他都市との差別化を目的とし,宇都宮市制百周年の年である1996年から,「宇都宮再発見事業」をスタートさせた。「この事業は,宇都宮市の歴史,文化,伝統などをもう一度見直すことによって,隠れた地域資源を有効に活用し,これ以上拡大の望めない商圏人口に都市観光による交流人口を付加することで地域活性化を図ろうとするものである。」[]この事業と当時発足して間もない宇都宮餃子会の目指すものがリンクしていることから,両者が共同して,1998年,提案公募型地域活性化事業補助金を活用し,中心市街地の空き店舗を利用して,一つの建物内に観光情報とお土産を購入でき,また宇都宮餃子会の13店舗の加盟店の餃子を食べ比べできる“来らっせ”をオープンさせた。以前は市内に小さな餃子店舗が点在しており,観光客にとってはどのお店に行くかは難しい選択で,そのお店を探し出すのも困難であった。“来らっせ”には月平均7000人もの観光客が訪れ,マスコミにも取り上げられた。

 

宇都宮餃子がここまで有名になった背景を考察してみると、なんといっても宇都宮餃子会や商工会議所の地道な宣伝活動などの努力があったからであろう。テレビなどのメディアも有効に活用し,確実に宇都宮餃子の名を全国に広めていった。ここ10年間で宇都宮市街地の風景は様変わりし、どの通りを歩いていても餃子店を見かけ、「本当に餃子の街なんだな」と実感する。また、餃子自体も低価格でラーメンのお供になど、日本人に大変親しまれている料理ということも理由の一つであると考える。それから,もともと宇都宮市民に馴染みの深い餃子であったから,市民の違和感もなく自然に受け入れられていったこともあるだろう。

 

その他サポート的な事業として,「都心循環バス運行事業」,「空き店舗対策事業」等がある。前者はJR宇都宮駅を起点に中心市街地を巡回する「低料金ワンコインバス(一律100円)」を商工会議所が20017月から4ヶ月間実験的に導入した。その後は関東自動車が引き継いで自主運営をしている。[]中心市街地は店舗がひしめき合っているため,駐車場スペースがほとんどなく,自動車で移動するには不便である。一律100円であるから,気軽に乗ることができる。しかし,経営側はこのような低料金で利益を得ているのだろうか。利用者側にとってはありがたいが,赤字覚悟で経営しているのであれば改善の必要があるのではないかと考える。

次に後者の「空き店舗対策事業」は空き店舗を利用し,新しい店舗をオープンさせ,中心市街地を活性化させようという事業である。宇都宮市の中心部にあった大型店は,1996年に福田屋百貨店が郊外に移転,2000年末に上野百貨店が破綻,2002年末には西武百貨店が撤退,2003年にロビンソン百貨店も閉鎖になるなど,中心部の空洞化が顕著になってきている。空き店舗を再活用するのは,魅力ある街づくりを目指すには必要不可欠であろう。

 

終わりに,宇都宮の魅力とはなにかと考えてみると,真っ先に餃子が浮かんでくるが,よく考えてみると,他にもジャズであったりカクテルであったり,宇都宮は餃子だけではないんだということに気づく。この10数年間は,宇都宮餃子をPRすることに尽力を注いできたように見えるが,これからは調和の取れた美しい街づくりを目指してほしいというのが私の希望である。というのは,宇都宮駅を出るとすぐに目に付くのは居酒屋などのカラフルな看板であり,それぞれ自己主張が強く統一性がなく,美しい景観であるとはいえないと思うからである。観光面で発展していきたいのであれば,特に西口付近の景観の改善は必要であると考える。宇都宮に訪れた人が「ここに住みたい」と思ってくれるような街づくりを期待したい。もちろん,宇都宮餃子を食べにもっと多くの人が来てくれることも期待する。つまりは,餃子という宇都宮のアイデンティティはそのままに,今度は宇都宮の景観にも目を向けてもらいたいということである。



[] 市内または市周辺の餃子店や餃子製造所による協同組合であり、餃子を通じて地域を活性化することを目的としている。「宇都宮餃子まつり」の運営や、「餃子マップ」の作成を行っている、宇都宮餃子の中心組織である。発足当初は38店舗であったが、現在は80店舗にも及ぶ。

http://www.gyozakai.com/torikumi.html(宇都宮餃子会HP「会のとりくみ」)

[] http://www.gyozakai.com/enkaku.html(同上HP「宇都宮餃子会と餃子の街宇都宮の経緯」)

[] http://www.jcci.or.jp/utsunomiya99102/news.html(日本商工会議所機関紙「会議所ニュース」19991021日号「宇都宮商工会議所“餃子パワー”で街づくり」より引用)

[] http://www.kamifuku.com/pdf/koho76.pdf(上福岡市商工事務局「商工だより」20043月発行)