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高橋瑞希「三岐鉄道北勢線 〜廃止表明から存続、再生まで〜」

 

 私の実家の近くにはたくさんのローカル線が走っている。このレポートを作るにあたって、テーマを何に決めるか考えていた時に、実家近くに走っているローカル線の北勢線という鉄道が軽便鉄道という日本でも三つしか残っていないものであることがわかり、これが近年近畿日本鉄道から近隣で鉄道を運営していた三岐鉄道に経営を譲渡し、生まれ変わったことを知った。これに興味を持った私は今回この北勢線の再生についてをテーマに設定しようと思う。

 

 まずは軽便鉄道について簡単に説明したい。

 

 軽便鉄道とは、軌道幅が1062ミリメートル未満の特殊狭軌(ナローゲージ)の鉄道で、日本の場合は762ミリメートルのものが多い。特殊狭軌の鉄道として現在日本で運行されているのは、三重県桑名市からいなべ市を走る三岐鉄道北勢線と、同じく三重県四日市市内を走る近鉄内部・八王子線、期間限定である観光路線としての富山県にある黒部峡谷鉄道(通称:トロッコ電車)だけであり、日本の鉄道史上、貴重な文化的資産でもある。

 

 そして次に、北勢線がどのようにして三岐鉄道になったのか、今までの歴史について振り返りたい。

 

 明治43年「軽便鉄道法」が公布され、同45年株式会社北勢軽便鉄道が設立された。大正3年4月には西桑名・楚原間が開通し、昭和6年7月には桑名と阿下喜の全線が開通すると同時に電化され、その名称も株式会社北勢鉄道に改称される。その後、株式会社三重交通、株式会社三重電気鉄道、株式会社近畿日本鉄道に引き継がれ、約90年の歴史を刻んできた。そしてさまざまな環境の変化から一時は廃線の危機に直面した北勢線は、株式会社近畿日本鉄道、国、県及び沿線市町の協力体制のもと、平成15年4月からは株式会社三岐鉄道に事業譲渡された。今後、沿線の桑名市、北勢町、員弁町、東員町は向こう10年間にわたって運営資金等を負担していくこととしている。

 

 ここからは廃止表明からの流れを詳しく追っていきたい。

 

   平成12年7月、株式会社近畿日本鉄道は北勢線を含む近鉄グループ経営改善計画を発表し、その中で、「利用者が年々減少し、年間赤字が7億2千万円となり、車両数24両のうち14両の更新時期が迫り、更新時には1両につき1億円が必要となるが再投資は困難である。さらに道路整備が進み、北勢線の使命は終わったと考え、2〜3年先に廃止したい。」との事実上の『北勢線廃止表明』があった。

 

 これを受けて、8月、桑名・員弁広域連合の構成自治体である桑名市、多度町、長島町、

木曽岬町、北勢町、員弁町、大安町、東員町、藤原町(多度町・長島町・木曽岬町は現在桑名市、北勢町・員弁町・大安町・藤原町は現在いなべ市である。)は、三重県北勢県民局を事務局とする「北勢線問題勉強会」に参画し、鉄道(第三セクターでの経営も含め)として存続させるか代替バスにする等の検討が始まりまった。

 

 同時に、株式会社近畿日本鉄道に対し北勢線存続のための行政、自治会、PTAなどが一体となった署名・要望書活動を実施した。また、平成13年2月には「近鉄北勢線利用促進協議会」を設置して、近鉄北勢線利用促進総決起大会や北勢線フォーラムを北勢町や東員町で開催し、存続のための運動を展開した。

 

  平成14年2月、桑名・員弁広域連合は、鉄道として存続させる方向で検討していくことを確認し、鉄道を存続させる主な理由は「地域の公共交通として重要度が高いこと」であり、その具体的な内容は次のようなものが挙げられた。

 ○ 乗降客の80%以上が定期客であることから、地域住民の足として必要不可欠であ   ること

 ○ 沿線に県立高等学校が4校あり、乗降客の半数以上が高校生であること

 ○ 高齢者福祉の観点からも必要であること

 しかし、同年3月、株式会社近畿日本鉄道が「鉄道事業廃止届」を国土交通省に提出したことによって、平成15年3月末には北勢線が廃止されることになり、第三セクター設立には時間的に間に合わず、鉄道の知識も皆無に等しいため、今後の北勢線をどのようにしていけばよいか関係機関での協議が急務となる。

 

 平成14年3月18日、桑名・員弁広域連合長(桑名市長)が株式会社三岐鉄道日比社長と面談して、鉄道存続のための協力要請をし、これを受けて株式会社三岐鉄道から北勢線存続のため、鉄道施設整備へのリニューアル投資と赤字補填に10年間で55億円の資金が必要であるとの一試案が示された。

 

  その後、同年6月、桑名・員弁広域連合は、三重県知事に対し、存続に対する支援の要望を行った。その内容の主旨は以下である。

 ○ 北勢線存続のため10年間の総費用を68億円と想定して、株式会社三岐鉄道へ運  行委託を希望。

 ○ 68億円の内訳は、近代化設備と運営経費に55億円、株式会社近畿日本鉄道から  鉄道資産の譲渡に5億円、株式会社三岐鉄道へ引き継ぐまでの近畿日本鉄道株式会社  への運行助成金8億円。

 ○ 68億円のうち、沿線自治体等で55億円は負担可能。残り13億円の財政支援を  県に要望。

 ○ 株式会社近畿日本鉄道、株式会社三岐鉄道、沿線自治体等との交渉に対して、全面  的な支援協力の要請。

 

 その結果、平成14年8月、三重県から次の主旨の回答が得られた。

 ○ 鉄道存続に向けて支援する。

 ○ 沿線自治体等には鉄道を活かしたまちづくりを求める。

 ○ 株式会社近畿日本鉄道からの資産譲渡費用の一部を負担する。

 ○ 平成15年4月1日の事業引継ぎに協力する。よって、引継ぎにかかる運行助成金  8億円は不要となる。

 このような交渉と度重なる調査や協議の結果、バスでの代替輸送では交通渋滞が激しくなり環境負荷も高まることなども予想され、「鉄道で存続する」との最終判断にいたった。

 

 最終的に、桑名市、北勢町、員弁町、東員町の沿線1市3町が資金負担をすることで合意し、平成14年9月4日、株式会社三岐鉄道はこれまでの経緯を踏まえて『沿線自治体の鉄道存続に対する熱意に応えるため、北勢線を延命存続ではなく、リニューアルして運行を引き継ぐ』という決断をした。

 

 リニューアルについては車両の冷房化を進めること、電路柱の整備、利便性、収益性の向上を重点施策とし、ダイヤの改をはかることや、全駅をバリアフリー化すること、屋根付き駐輪場の整備、公共下水道事業の進み具合にあわせたトイレの設置、駅務を簡素化し、自動化(自動券売機・自動改札機・自動精算機・監視カメラ)や委託化で経費削減を図ることや駅の統廃合などが挙げられ、今も整備が続いている。

 

 現在はほとんどの駅舎がリニューアルされ、自動改札による確実な運賃の徴収ができているし、実際に見てみて外観もきれいになり、入りやすくなっていると思うし、屋根付きの広い駐輪場は駅から自転車で通学する高校生にとってはとてもありがたいことだと思った。あとはダイヤの改正や始発から終点までの所要時間がもう少し短縮できれば、バスよりも圧倒的に有利であるし、もっと利用客が増えるのではないかと思う。まだ発展途上ではあるが、北勢線は近鉄の廃止表明から立派に再生した誇るべきローカル線だと思う。

 

出典:北勢線活性化基本計画

   http://www5.ocn.ne.jp/~tetsudou/hkk/kihonkeikaku.htm