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砂川将弘「オタク文化で町おこし」

 

今回私が地方自治論のレポート作成に当たり、テーマに設定した事例は、あるアニメの効果により一時的に(現在進行形であるが)活性化した鷲宮町とその商工会だ。

あるアニメ雑誌で、人気アニメ「らき☆すた」の舞台が埼玉県にある神社などであることが紹介され、それがインターネットを介して広まっていき、それらの地をめぐることを「聖地巡礼」と呼ぶようになったそうだ。そんな彼らの行動の一番の影響を受けているのが鷲宮町である。関東最古の神社と伝えられる「鷲宮神社」。アニメの登場人物の住まいのモデルとして使われたこの神社を一目見ようと全国から「オタク」たちが集まるようになった。遠くから巡礼に来た人では九州の方から来た人もいたようだ。ご神木を囲うようにして結ばれた絵馬には、キャラクターの描かれたものがそこら中に結ばれている。

「らき☆すた」は20074月から9月の間放映されたアニメーション。作品が有名になった理由の一つに、アニメのオープニングやエンディングでキャラクターたちがよく動くというのが話題となった京都アニメーションが制作を手がけたことで注目されるようになったと思われる。

当初、某ブログ内にて「オタクが神社に来るようになって治安が悪くなった」という書き込みがされ、それを見たマスコミから鷲宮町役場の方に問い合わせがあったそうだ。町役場職員はそのことを把握していなかったため、調査をした結果、オタクであるということがわかったそうだ。日に日に増えてくるオタクの観光客。これに注目した地元商工会だ。同商工会はアニメに関連するイベントを企画、原作を発行している角川書店の許可と協力を得ることができ、その結果、原作者とアニメのキャラクターたちの声優4人が鷲宮神社に公式参拝するというイベントが122日に行われるということになった。イベント当日には多くの参加者が集まり、商工会が店員としていた200名を上回る、参加者総勢3500人という大規模となった。町のイベント関係者はここまでの規模になるとは予想していなかったようで、イベント限定のグッズを作成していたが完売、数が全く足りなかったそうだ。再販や通信販売を求める声が多く寄せられ、再販の予定もすでに出ている。また、幸手市の商工会とも連携して行われた歳末大売出しでは、キャラクターたちの絵が描かれたスクラッチカードを発行。しかもそれには通常の「ハズレ」のほかにキャラクター入りハズレ券が少ない割合で入っているというマニア泣かせな使用となっていた。なお、今回幸手市商工会と連携した理由の一つに、幸手市もアニメの登場人物の住まいのモデルとされているからだ。さらに、今年正月三が日に、鷲宮神社に初詣に来た人の数は前年の13万人を大きく凌ぐ30万人であるということが9日までに県警の調べで分かった。地元関係者も前年のイベントの反省を生かし、初詣客の数を前年度よりも多くなるだろうと予想していたが、それを大きく上回る結果となった。この正月にも鷲宮町商工会はキャラクターグッズを新たに作成、おみくじ入りクッキーなどを用意し、また、例年なら休業している店舗も深夜まで営業していた。予想を上回る参拝客により1600セット用意されたクッキーは二日で完売してしまった。「らき☆すた」による地域への効果は絶大であり、「人気が続くようであればこれからも色々な活動をしていきたい」と地元商工会も考えているそうだ。

 

オタクをターゲットにした今回の各事業。一般的にあまり社会からは受け容れられづらいいわゆる「萌え系」アニメを使った今回の町おこしだが、地元商工会がこれほどまでに必死になって活動する理由として、町の財政難が挙げられるだろう。

実は、鷲宮町には以前2市1町での合併の話があった。合併相手は、今回連携した幸手市と、鷲宮町に隣接する久喜市だ。もともとは久喜市との1市1町で合併する予定でいたが、平成15年の12月末、幸手市が合併協議会に加入し、2市1町による合併協議会となった。しかし、平成169月に行われた合併の是非に関する住民投票において、久喜市との合併に以前から前向きであった鷲宮町や途中加入した幸手市では賛成多数であったが、久喜市において反対多数の結果となり同年1130日、合併協議会は解散した。これ伴い鷲見町では緊急の財政対応策が練られている。同町では平成15年度の決算額の歳入総額が急激に減少しており、さらに協議会が解散した平成16年度は過去5年間の中で最低の歳入額となっていた(平成18年度調べ)。合併が白紙となってしまってから鷲宮町では人件費や補助金の削減、各事業及び住民サービスの縮小などが図られた。実際、人件費についてだが、平成14年度から18年度までの間に12%もの削減がされている。苦しい財政状況下で合併を実現し、合併特例債による財政難からの脱出というような構想が浮かんでいたのではと推測する。住民達が楽ではない生活を送ることとなったのは感覚的にだが想像できる。

しかし、去年の12月に新たな合併の枠組みについての発表があった。合併協議会が解散してから約一年が経過した頃、鷲宮町を含む周辺3市6町の地域選出の県議会議員6人によるはたらきかけにより、合併協議再開の流れが生まれていたのだ。現在同町では合併新法の期限内までの合併を目指している。ただ、今回の「らき☆すた」関連の事業で協力し合ったのは鷲宮町と幸手市の商工会であるが、この以前の合併枠組みでは名を連ねていた両市町だが、12月12日、1市3町の合併に関する意見交換会において鷲宮町で発表されたその新しい枠組みの中には幸手市は入っていなかった(この理由は現在調査中である)。何にせよ、町の枠組みを越え協力し合えたことは評価すべき事であると思うし、これがきっかけで両地域が継続的に協力しあえるのなら良いことではないだろうか。

 

商工会の行ってきた事業で私が惜しいと思ったことは、町の対応は全て受動的なものとなってしまっていることだ。オタク達の間で話題になり出した時期が放映終了後であるので仕方ないのかもしれないが、数回行われたこれらの活動は、アニメの放映が終わってから行われたものである。そして、流行というものはいつ終わるか分からない。流行や廃れというものに敏感になるのは当然のこと、これからも「らき☆すた」をつかった事業の展開を考えているならば、オタクについての研究もしっかりとすべきだ。今回の「らき☆すた特需」は二度起きるとは限らないので、今というチャンスを充分に生かすべきだと私は思う。

今までに3回行われたイベントにおいて限定グッズの販売などが行われたが、どの回でもイベントの終了を待てずに完売してしまった。確かに売り切ることが出来れば赤字は発生しないだろうが、充分な量を確保できていない結果というのではいけない。特にもったいないと思うのは、初詣参拝客を対象にしたグッズ販売である。確かに初めて行われたイベントから元旦までの期間が短かったという理由ならばしかたないのかもしれない。今回私は用意することが可能だったとして話をするが、商工会がこの日のために用意したおみくじ付きクッキーは2200セットであったが、何故、12月初頭に行ったイベントの来場者数の3500よりも少ない数だったのか。商工会側も今回の「らき☆すた」の件を受けて去年に比べて入場者数が3万人は増加するとの予想を立てていたが、その割には準備が足りていないような印象を受ける。単なる知名度アップによる参拝客の増加が起こると考えていたのだろうか。

また、今回の一連の事業は地元商工会が主導で行ってきたが、資金面に問題があったのならば、町は彼らに対して支援をするべきだ。財源確保につながるということならば、充分町の助力があってもいいと思うのは私のわがままなのだろうか。もちろん、町の行政・財政が単純な物ではなく、そう簡単に資金援助など出来ないだろうとは容易に推測できるが、町の活性化をするチャンスを簡単に見過ごせる様な行政組織に、これからの町の将来を任せることができるのだろうか。町の活性化というのは、住民だけで行うものではないし、もちろん公の立場の人々だけで目指すものでもない。今回の様な事例はきわめて稀であるが、良いことにせよ悪いことにせよ、住民のために柔軟に対応できる行政組織になることを願ってやまない。

 

一見すると鷲宮町の選んだ町おこし事業はあまり見栄えの良いものではないかも知れない。しかし、お金を稼ぎ、そこで暮らし、生活していくというのは決して簡単なことではない。親に養われ、何不自由なく生きてきた私には分からない苦労がそこには存在するのだろう。合併、アニメ、何がその土地をもり立てていくものになるかは、簡単には想像できないだろう。ただ、生きていくためには使えるものは何でも使うという姿勢は、住民の生活を守っていく立場である町、ひいては国にも求められるものではないだろうか。私の住む町も現在、財政的に余裕のある状況ではないようだ。私の町にも、何かしら出来ることはあるはずなので、今は一市民の立場からそれを考えていきたい。

 

http://www.lucky-ch.com/index.html(らき☆すた公式ホームページ)

http://www.town.washimiya.saitama.jp/index.htm(鷲宮町役場)

http://www.syokoukai.or.jp/~washimiya/(鷲宮町商工会)

http://ameblo.jp/sattesci/entry-10054864901.html(幸手市商工会公式ブログ)

http://www.asahi.com/culture/update/0109/JJT200801090001.html(朝日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080109-00000005-maiall-ent(毎日新聞)

http://sankei.jp.msn.com/top.htm

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/game/071201/gam0712011452001-n1.htm

(産経ニュース)