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荻津夏実「さとやま暮らしでまちおこし〜大子町を事例として〜」

 

 平成の大合併により全国の市町村数は大幅に減少し、従来の小規模自治体は姿を消してしまった。これからは地方による自治の時代といわれているが、実際には地方による自治にも依然として地域間や地域内での格差という問題が残っており、合併という大きな括りによって「過疎地域の問題」も見え難くなっているのではないだろうか。現在、日本全国には過疎地域を含む過疎市町村が全国市町村数の約1800に対して約740あるとされている。(平成194月現在)過疎問題は日本の高度経済成長以来、都市での過密問題と同時に進行してきており、その問題を抱える地域は全て日本の数少ない資源を持つ農山漁村地域である。こうした過疎問題は、今日の自治体にとって早急な解決が必要とされる課題と言えるだろう。

 

私がここで取り上げる茨城県大子町という町は、現在茨城県内において過疎市町村に指定されている町である。この町には祖父母が住んでいるため幼い頃から訪れる機会が多く、その都度この町の独特の雰囲気にも親しみを持つと同時に、町の抱える過疎化・少子化などによる問題も見えてくるようになった。政府はこれまでに過疎対策として四つの法律を制定し、一般的に「豊かな地域」とされる自治体の水準に「貧困地域」の自治体が向上することを目的として、その水準まで押し上げようという趣旨の取り組みがなされてきた。その結果、一部の面では水準を引き上げることに成功したが、それは既存の自治体を模した一時的な地域発展であり、一自治体としての独自のまちおこしではなかったという事実があった。しかし近年のまちおこしに着目してみると、地域の独自性を活かしたまちおこしというものに力を入れている自治体が多く、ここで取り上げる過疎化や少子化問題を抱えている大子町も、まちおこしの一環としてユニークな地域振興を行っていることが調べていく上で分かり興味を持った。よってこのレポートを書くにあたり、自分に縁のあるこの町の抱える問題とその解決手段として取り組まれているまちおこしについて、大子町という一つの自治体を通して自分なりに考察し、これからの地域振興というものについて考えてみたいと思う。

 

 大子町は福島県、栃木県の二県と接し、茨城県の過疎地域が集中する県北地域に位置している。総面積は県の約20分の1を占めており、町の約8割が山岳地帯で構成されており、「温泉と滝の町」というタイトルを掲げている通り数多くの観光名所を持った自然豊かな町である。町の人口は合併をきっかけとして昭和30年の43,124人をピークに年々減少し、現在では21,779人(平成201月現在)にまで減少しており高齢化率は約35%、同時に少子化も進行している。町はこれまで農林業と県内有数の観光名所を活かした観光業を主に基幹産業として行ってきた。具体的には町の特産物であるりんご、茶、こんにゃくなどを活かして観光りんご園、奥久慈茶の里公園、などを建設して観光PRを行ったり、そのほかにも畜産業の面で大子ふれあい牧場を建設し、町の活性化に努めてきたという背景がある。

 

しかし、依然として町から都市へと向かう若者の流出に歯止めはかからずに、こうした施設を建設しても後継者不足であるという問題や人口減少による自治体の自主的な財源の確保の困難などが今日まで課題として残ったままとなり、厳しい状況での自治体運営を強いられてきたという現状がある。また都市のような大型ショッピングセンターや交通機関などの充実という面ではやはり都市部に比べて魅力は希薄であり、新たな町の住人を誘引することは困難であるという問題もあったということもあるだろう。そうしたことからも、こうした人口減少による過疎問題は、町の活性や運営そのものにも影響を及ぼすということが町では懸念され問題解決が求められてきたのである。

 

そうした基幹産業の行き詰まりと過疎化問題の解決策として、町では近年新たなまちおこしが取り組まれることとなった。その一つとして挙げられるのが、平成9年から始まった東京都世田谷区との交流事業である。大子町は、都市にはない町特有の豊かな自然を通して田舎暮らしを気軽に味わってもらい、都市と農村との交流を図る目的で、世田谷区ふるさとまつりというイベントを通して今日まで進められてきた。具体的な事業としては、廃校になった木造校舎の学校をそのままの形で利用した「大子おやき学校」というものをつくり、そこで地元の農産物を利用しておやき作りを体験してもらうというものや、世田谷区と指定契約を結んでいる宿泊施設と利用してもらうなどして、多くの町外の人に町へ訪れてもらおうという趣旨のものが行われている。大子町は都市からも比較的近く、この事業には年間約31千人もの利用者が訪れており、地元の農産物を使用することで活性化にもつながったとの成果が挙げられているそうだ。少子化のために廃校になった木造校舎は現在では珍しいものとされ、それを利用した体験事業はおやき学校の他にも多く実施されている。実際に大子町の観光客数を見てみると、平成17年度は約1,400人でその数は年々増加傾向にあり、その中でも特に日帰り客が同年度には約1,200人となっており入込数の約8割を占めていることが分かる。[1]また大子町は「滝と温泉のまち」というタイトルを掲げているように、町の著名な観光地を売りにして年末には滝のライトアップなどのイベントを開催するなどして観光産業も基幹産業としてきたことから、従来の観光だけでなくそうした体験事業という参加型観光とを上手く組み合わせたまちおこしの取り組みとして行われていると言えるだろう。観光に関する事業PRは従来から行われてきたものであが、その他にもさらにこうした体験事業をより多くの人に知ってもらおうと、近年町では大子町ふるさと交流体験協議会というものを立ち上げて体験マップを作成し、ネット媒体を使って交流体験の情報発信も行っており、誰でも気軽に体験内容や町へのアクセスを知ることができるようになっている。

 

そして、もう一つ私が今回のレポートを書くにあたり新たに知ったユニークなまちおこしがある。それが「山田ふるさと農園」である。この事業は大子町ふるさと農園の一つとして自然に恵まれた町の一部の地域を、町が定めた条件に該当する人に対して農園付きの住宅1区画300坪程を16区画用意し、それを20年間無償で貸し付けるというものである。[2]その詳細は、条件として@概ね65歳以下であり、A二地域居住で年間90日程度の居住などがあり、その他にも優遇対策として木造住宅の助成金などの措置がとられるということだ。大子町のような地域で暮らしながら農業を営むことを望む都市の人々や町外の人々に対して、この町をそのような人々に定住してもらおうという目的、または第二の居住地として町内の空き家や町営住居、また農地付きの家を提供してUIターンの促進を目的とした試みである。この「山田ふるさと農園」に関しては、見学会という形で説明会を平成1911月下旬に開き、見学会には600人近くの首都圏などで暮らす人々が訪れ町の特産品や魅力に触れたそうだ。また応募には179件もの申し込みがなされ、最終的な住居者は面接を行った上で今年3月中旬に決定するとのことである。また町では希望者には農地の譲渡も検討しているとのことであり、よってこのまちおこしはまだ走り出したばかりであると言える。

 

 以上の二つの町おこしについて、ここからは私なりに考察してみたいと思う。まず、世田谷区と町との交流の事業については、日帰り客が多いという町の現状からも気軽に町の魅力を味わい親しんでもらうということが出来る好事業であり、また町の農産物を使うということで農業の面でも活性化が期待できるものだろうと思う。さらにネット媒体を通してこうした体験事業などの情報を発信することで、より多くの町外の人々にこの町に興味を持ってもらい、町へのリピーターを増やすということが期待できるのではないだろうか。それによって今度は日帰り客としての観光客のみでなく、町に宿泊する短期滞在型の観光客の増加という効果も望めるだろう。町の住民にとっても、高齢者の多い過疎地域で町の郷土料理をそうした人々が伝えることによって、高齢者の人々にとっても新たな生きがいとなって元気付けられるのではないかと考える。次に「山田ふるさと農園」については、町からの人口流出を食い止めるという面からではなく、新しい形での人口増加を目指したユニークな試みであると感じた。第二の居住区として町の居住者が増加することにより、地元での購買活動も活気付けられ、それは結果的には町の財政へも効果をもたらすことが期待されている。また、そのような外部から来た人にしか分からない町の魅力を地元の人が改めて知ったり、町の人々と農業を通して交流を行うことにより町の活性化を促進することも期待できると思う。また希望者は町に住民票を移すこともできるということもあり、20年後や今後の進展が楽しみである。

 

これらの主に二つの大子町のまちおこしを見て、ここで挙げた二種類のまちおこしは、大子町にしかない自然や田舎暮らしという面での「地域格差」というものを利用した、逆境の中での一種のグリーンツーリズムといえるものだと思う。そしてそれは、今日の団塊の世代と呼ばれる人々や都市の人々などが求めている、スローライフという需要と上手く一致した事業と言えるのではないだろうか。従来までの地域振興は、機能面や財政面での豊かな地域づくりとして行われてきたものが多かったが、そうした上からの依存的な地域振興では自立した自治体運営は難しく、持続的な地域発展としても自治体の将来は目に見えているのではないかと考える。よって、これからは自治体の機能面や財政面でも自立的した運営が行えるようこうした町の地域性を活かした持続的な地域発展が必要であり、そのようなまちおこしによって町の地域住民自身が元気付けられ地元の人々自身がまちおこしに参加していくということが何よりも重要なのではないかと考える。そのように過疎問題を解決していくことで、結果的には住民による地域づくりに繋がっていくのではないだろうかと今回のレポートを通して考えた。

 

参考文献、URL

事例地方自治・第4巻 地域振興 監修 辻清明 ほるぷ出版 

http://www.town.daigo.ibaraki.jp/kurashi/index.html 大子町HP

http://www.kaso-net. or.jp/ 全国過疎地域自立促進連盟 過疎物語

http://kouryu-kyoju.net/083640/ 交流居住ネット 「茨城県大子町」

http://www.daigo-taiken.com/index.html 大子町ふるさと交流体験協議会

 

 



[1] http://www.town.daigo.ibaraki.jp/kurashi/profile/toukei03.html 大子町HP「統計情報」

[2] http://www.town.daigo.ibaraki.jp/event/furusatonouen/yamada.html 大子町HP「山田ふるさと農園概要」