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木下歩美「宇都宮市にLRTを導入すべきか」
宇都宮市には、2010年にLRT(次世代路面型電車システム、Light Rail Transit)が導入される予定である。果たして宇都宮にLRTは導入すべきなのか、すべきではないのか。いくつか事例も挙げながら考えていきたい。
まず、宇都宮市にLRTが導入される理由は以下の通りである。宇都宮市は、車の交通量が多く、交通渋滞の発生や都市環境悪化等の一因となっている。これらの問題を解決するため、また、住みよいまちづくりを進めるため、公共交通ネットワークを整備していく必要がある。道路の整備や拡幅などによる対応は年々厳しくなっていて、車に代わる公共交通機関の整備が必要なのである。そのためには基幹公共交通となる新交通システム(LRT)の導入が必要と考えられている。
車だけでなく、宇都宮はバスの通行量も多い。駅を1日に約2000台が通過しているが、果たしてそこに乗客は何人乗っているだろうか。通行量が多いため渋滞をも引き起こすのである。LRTを導入すればこれらの問題点を改善することができる。
また、宇都宮駅は、駅を出てまず目に入る風景があまりきれいとは言えない。ある調査によると県庁所在地の中ではワースト3の風景である。よってまちの改善化が必要だ。
大型ショッピングセンターが郊外に進出するなど、都市機能の分散化により、中心市街地の空洞化も進行している。中心市街地の活力をとりもどすため、郊外から中心部に移動しやすい交通ネットワークの整備が必要と考える。また、交通が便利になることにより、周辺商店街への買い物客も増えることを望む。
ほかにも、地球温暖化が問題となっており、世界的にCO2などの温室効果ガスの削減が求められている。そのためクリーンでエネルギー効率の高い公共交通機関の導入が必要である。
しかしLRT導入に関して、反対意見もある。LRTはバスなどとは違い、初めての試みである。日本では事例がほとんどないから、導入したことによって問題点がすべて解決するのかわからない。利用者がバスなどと同じように気軽に利用するかどうかもわからない。
また、導入の事例が少ないため、経費がどれくらいかかるかも実際はわからないし、赤字になる可能性もある。約350億という莫大なお金を出してまで導入するべきなのかどうか。
LRTを導入すれば、その分バスの交通量は減る。渋滞はなくなったとしても、バス会社の視点に立つと、減らされた分の営業はなくなる。よって導入に反対しているバス会社もある。同じように、LRTが通れば車の交通量も減る。LRTが主流となり、車を使う人、もつ人が減ってくれば、当然車の会社、レンタカーの会社、車の整備会社などたくさんの企業に打撃が出てしまう。車がない人にとっては、LRTに変わると、バスの本数が減り、移動に困るという意見もある。
LRTは清原工業団地から、作新学院高校のあたりまで通過させる予定である。そのため宇都宮駅も通過する。宇都宮駅をまたぐには、地上でも地下でも問題があるだろう。駅の建設、駅周辺の建設と費用も時間もかかる。建設中はほかの電車や新幹線の利用者や通行にも影響が出てくるだろう。
ここで、海外の事例を見てみる。フランス、ドイツ、アメリカなどさまざまな先進国で導入されている。欧米の一部の都市では、公共交通利用促進、自動車混雑の解消、環境負荷削減、市街地活性化などを図るために、LRT導入が行われている。LRTの鉄道路線への乗り入れ、軌道の部分立体化、停留場・車両のデザイン化など、様々な取り組みが行われている。
LRTと自動車との接触も心配されているが、ベルギーではトラムと自動車が共存する工夫もされている。トラム(LRT)が電停の近くまで来ると、電停の前にある自動車用信号が赤となり、トラムと電停(歩道)間を安全に歩くことができるように工夫されている。しかし、車の利用者は心配で、走行速度を遅くすることも多い。
ウィーン市内では,地下鉄,LRT,バスが縦横無尽に走っている。特に,LRTのネットワークは総延長237kmで世界一を誇っている。近年中心市街地の外縁部にある広場にも小さなモールがつくられ,商店街をLRTの路線が通過する一部を自動車の乗り入れを禁止している。この商店街は,当初モールに反対したが,市民の声に押されて実施に踏み切った結果,郊外の商店街よりも人が集まるようになり,店舗の業種も日用品から高級品を扱う店舗が増えた。そして、ウィーンでは,1970年代までは夜間はほとんど人出がなかったが,モールで人が賑わうようになってからは,夜間でも人出が絶えない。
次に、ドイツのカールスルーエ市は,LRTのDB(ドイツ鉄道)への直通乗り入れ運転をしていることで有名な都市である。通りには,多数のデパート,専門店,銀行,レストラン,映画館,役所やその他の行政機関が集中しており,LRT総乗客の60%程度がこの通りに集中する。通りに乗り入れているLRTは,ドイツ鉄道への乗り入れ系統も含め,6系統144本/時にも上っており,時間帯によっては歩行者の通行が困難になるほどのLRTが走行しているため,近年は楽しい歩行者空間を創出する本来のトランジットモールとしての機能が失われつつある。
環境首都として名高いフライブルク市は現在,LRT路線の延伸とともに,自動車の通行を規制し駅前までの区間を更にトランジットモール化する計画が進められている。今でこそにぎわっているフライブルクのトランジットモールも,25年前までは自動車が中心市街地に乗り入れができる状態であった。トランジットモールの導入に対して,当初商店主たちは強く反対したが,導入後は中心市街地ににぎわいが戻ったため,誰も反対しなくなった。ほとんどの商店主は市内に住んでいるが,中心市街地に住んでいる割合は少なく,LRTに乗ってやってくる。一方,トランジットモール内での交通事故に関しては,LRTが速度を落として運行していること,市民がLRTに慣れていることから,現状ではほとんどないとのことである。フライブルク市にも,郊外型の大規模ショッピングセンターはあるが,市では厳しい立地の制限をかけており,数多くの郊外型SCは立地させない方針になっている。また,郊外型SCでは,食料品などの日用品は売っていいことになってはいるが,商品の数を制限しているうえに,日用品以外の商品は中心部の商店街でしか買えないような仕組みになっている。
以上のように、導入には賛成意見も反対意見もある。海外事例を見ると成功例のほうが多い。しかし私はどちらかというと反対である。より住みやすい町にするためには必要な取り組みだが、今の生活で困っていないから、今すぐやらなければならない取り組みではないと思う。私は宇都宮で車を利用することは少ない。また、鬼怒川付近での朝の交通渋滞に巻き込まれたことがないからこのようなことが言えるのかもしれない。しかし、私のように、車よりバスを利用することのほうが多い人にとっては、たくさん走っているバスが役に立つ。現に、宇都宮駅からバスを利用する際は、何時に行ってもバスがあるので時刻表で調べることなどは必要ない。また、バスはたくさんあり、目的地もさまざまである。目的地が明確であるから、自分の行きたいところへどこへでも連れてってくれる。LRTは路線も限られてくるので、実際に導入されても自分は利用するかどうかはわからない。そもそも日本でLRT導入の事例が少ないから、市民はイメージしにくいのだと思う。説明をされても自分の生活にどのように役立つのかがいまいち具体化できないのである。そのような状態で導入しても、役立つかはわからない。導入してからあまり役立たないようだからといって、元の状態に戻すことなどできない。だからもう少し時間をかけて検討していくべきだと思う。よって私は宇都宮市にLRTを導入すべきではないと考えた。
参考文献
・宇都宮市HP 防災・安全安心・交通「新交通システム」
http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kotsu/shinkotsu/torikumi/index.html
・神奈川県HP 県の運営情報 「都市計画」
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kendosomu/kankyou-kyousei/izumino/jirei.html
・LRT&路面電車「LRTによるトランジットモールの賑わい」
http://homepage1.nifty.com/wanpaku/lrt/Transit%20Mall/lrt_mall.htm