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山岸博幸「指定管理者制度導入の課題について」

 

平成15年6月の地方自治法の改正により,「指定管理者制度」が創設され,公の施設の管理運営は,従来の「管理委託制度」から「指定管理者制度」へと変更になります。

「指定管理者制度」は,公の施設の運営に関して,民間事業者の能力を活用することにより,「サービスの向上」と「経費の削減」を図ることを目的としています。公の施設の管理運営に関しては,これまで,地方自治体の出資法人や公共的団体に管理運営の委託先が限られていたものを,株式会社などの民間事業者でも,管理運営ができるようになりました。また,使用許可などの一定の権限を委ねることが可能となりました。「指定管理者制度」導入に向けての課題について考えていきたいと思います。

 

「指定管理者制度」が導入された背景としては,長引く不況による財政悪化からの脱却を図るため,三位一体の改革を始めとする一連の構造改革が進められています。平成13年の経済財政諮問会議による「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」いわゆる「骨太の方針」の中で,「民間にできることは,できるだけ民間に委ねる」という基本方針のもと,地方自治における,官民の役割分担の中で,建設,維持,管理,運営,それぞれについて可能なものは民間に任せることを基本として,「指定管理者制度」創設が進められました。

 

「指定管理者制度」導入の猶予期間は,平成18年6月と経過措置が設けられているため,現在どこの地方自治体でも,制度の導入に向け,模索している状態と思われます。

地元の宇都宮市では,平成18年4月からの「指定管理者制度」による施設の管理運営の開始を目指し,「住民の平等利用の確保」,「安定した能力の保持」,「施設効用の最大限の発揮」,「経費の縮減」などの選考基準を設けて,指定管理者の選定を行いました。

「指定管理者制度」は,民間事業者の有するノウハウを活用し,サービスの向上とコストの削減を見込める利点がありますが,指定管理の指名を受けた民間事業者により,今までどおり施設の適正な管理運営が確保できるかが,課題になっています。

 

公募施設の「ろまんちっく村」では,管理運営に関する提案競技で,最優秀提案者の外食チェーンの「宮」を指定管理者の候補者として,指定管理者仮協定を結び,12月議会に「宮」を指定管理者に10年間指定する議案を上程する予定でしたが,11月30日に「宮」の粉飾決算が明らかになり,「宮」は「ろまんちっく村」の指定管理者を辞退することを決め,12月2日付けで宇都宮市に対し辞退届を提出しました。この緊急事態のため,宇都宮市では,現在「ろまんちっく村」を管理運営している第3セクターの「株式会社ろまんちっく村」を非公募で指定管理者に指定する案などで,急遽調整をしています。このことからも,指定管理者の選定過程においては,慎重に事業者の資質について見極めていく必要があると言えます。

 

「指定管理者制度」導入については,情報の少ない中,限られた時間で,選定及び指定の作業を行っていることが多いと思われます。しかも,個々の施設の内容に応じて,選定基準や協定書及び仕様書の内容を規定しなくてはならず,選定過程,仕様書及び協議事項,指定管理制度導入後の課題について,施設に応じた内容で十分な想定を行い,規定しておかないと,もしものときに,運用主体である地方自治体と,委託先である民間事業者との間で,深刻な問題になるという懸念もあります。

 

また,栃木県の施設におけるにおいては,公募した25施設のうち,複数の団体から応募があったのは,9施設のみであった上,新たな団体が選ばれた施設は2施設のみでした。「指定管理者制度」を導入にあたっては,対象施設の管理運営が可能な民間事業者が存在するのかについても,調査検討が必要と思われます。

 

さらに,現在の管理委託制度では,管理運営委託を外郭団体などと随意契約していることが多いと思われますが,「指定管理者制度」を導入することにより,外郭団体の存続やその職員の処遇についても問題になってきます。

従来の外郭団体などによる管理委託では,当初は,組織の柔軟性や専門性の確保などの点で利点もありましたが,近年は,マンネリ化したサービスや,管理はするが経営はなし,といった具合に問題点も見られました。そのため,今後は「指定管理者制度」導入による民間事業者への管理運営先の移行もあり得ると思われます。

それは,民間事業者へは雇用の場を創出するとともに,現在の外郭団体などへは,外郭団体の存続問題及び職員の雇用問題が生じてきます。民間事業者が,現在管理運営を行っている外郭団体の職員を再雇用することも考えられますが,職員全員が再雇用されるとは限りませんし,まして以前の待遇及び給与が保障されるとも限りません。地方自治体は,「指定管理者制度」導入に際して,外郭団体が民間事業者と対等にやっていけるように,体質改善を助長するなどの外郭団体への支援についても,考慮していく必要があると思われます。

 

これまで,「指定管理者制度」の導入における課題について,述べてきましたが,「指定管理者制度」導入による望ましい形態として,地域との協働が考えられます。単に公の施設を使って民間事業者が管理を行うだけならば,地方自治体が設置する意味がないと思われます。公の施設として,公共性を如何に確保していくかが課題なってきます。そのためにも,運用主体である地方自治体と,委託先である民間事業者が,役割と責任を有する協働関係を構築して,さらに,利用者である市民が加わることにより,市民,事業者及び地方自治体による三者協働の関係を構築するための拠点施設となっていくことが望まれます。そうすることにより,「指定管理者制度」の導入は,ただ単に管理運営先の変更だけでなく,地域活性化の拠点整備の意味合いも有してくると言えます。

 

これらのことから,指定管理者制度は,運用主体である地方自治体と,委託先である民間事業者が,この制度の本質を捉え活用し,公民協働よる管理運営制度を確立することができれば,住民サービスが向上し,行政のコストが縮減でき,地域の振興及び活性化の効果が期待できます。今後も「指定管理者制度」導入への取組みの動向を見守っていきたいと思います。

 

<参考>

     宇都宮市ホームページ『指定管理者』

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/somu/gyouseikeiei/gyouseikeiei_00_honnbunn.htm

     栃木県ホームページ『公の施設の指定管理者制度』

http://www.pref.tochigi.jp/gyokaku/shitei/shiteitop.html

     地域協働型マネジメント研究会『指定管理者制度ハンドブック』

     株式会社三菱総合研究所『指定管理者制度導入実践ガイド』