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上田紗織「グリーン・ツーリズムによる地域活性化−立科町を事例に−」

 

 近年、「グリーン・ツーリズム」という言葉が広まりつつある。グリーン・ツーリズムとは、都市住民が農村や漁村に長期間滞在し、農林漁業の体験や、その地域の自然や文化に触れ、地元の人々との交流をする休暇や旅を指す、いわゆる都市農村交流のことである。これは、長期休暇を楽しむことの多いヨーロッパ諸国で普及した旅のスタイルで、日本でも新しい休暇のカタチとして関心を集めている。このグリーン・ツーリズムの促進は、都市住民と農村住民双方に良い影響を及ぼすと考えられる。都市住民にとって農村に滞在し農業体験や地元住民との交流をすることは、心身のストレスから解放され、のんびりとゆとりのある生活の実現をもたらす。さらに、農村住民の立場から見れば、グリーン・ツーリズムの一環として特産物等の製造販売や、交流施設の設置といった新たなビジネスチャンスを創出し、経済的発展を図ることができるだけでなく、交流を通して自らの地域の特色や魅力に対する興味や理解を深めてもらうことで、新たな担い手の確保や地域内外の子供たちの環境教育の場の創出など、多方面に渡って地域の発展をもたらすこととなる。

 

このように大きな可能性を持つグリーン・ツーリズムのかたちとして、市民農園というものがある。市民農園とは都市住民が休暇などにレクリエーションとして、高齢者の生きがい作りとして、児童の体験学習としてなど、多様な目的で農作物等をつくる小規模な農園のことを指す。これらはドイツ語で“小さな庭”を指す「クライン・ガルテン」とも呼ばれており、ヨーロッパでは古くからこのような農園が存在していた。平成15年度末の時点で全国に2,904もの市民農園が存在している。そしてこの市民農園には2つのタイプがあり、1つは「日帰り型市民農園」といって、週末などの休日を利用して野菜や果樹の収穫や田植えなど、農林漁業を体験するものである。もう1つは「滞在型市民農園」というもので、長期的に滞在して農作物を栽培したりするための農園である。こちらのほうは年間を通して種まき、栽培、収穫まで一連の作業を体験することができる。

 

 これらの市民農園の経営については、地方公共団体か農業協同組合についてのみ認められていたのだが、グリーン・ツーリズムの促進にともない、遊休農地等が相当程度存在すると認められ、内閣総理大臣によって構造改革特区に認定された地域では、それ以外の農業者、企業やNPO法人など誰でも市民農園を開設することができるようになった。但し、従来地方公共団体や農業協同組合が市民農園を開設する際と同様に、市町村の市民農園の開設の認定を受けることが必要とされる。さらに平成17年9月には、特定農地貸付法が改正され、構造改革特区に任手されていない地域でも、誰もが市民農園を開設することができるようになった。このように市民農園はますます開かれたものとなり、今後さらにし普及していくと考えられる。

 

 私の故郷である長野県の立科町も、この市民農園を持つ町のひとつである。立科町は稲・りんご、牛・豚の畜産などを中心とする農業の町であるが、南部には白樺湖、女神湖、蓼科牧場などの観光スポットを有する白樺高原があり、年間200万人以上の観光客が訪れる観光地でもある。

 しかし、近年兼業化や高齢化が進行しており、そのため労力不足から耕作放棄地が多発している。また、現在立科町における農業従事者のうち約63パーセントが65歳以上の高齢者であり、これは継続的農業生産を展開していく上で非常に深刻な問題となっている。更に、社会経済の低迷が続く中で、観光施設の減少に伴い、観光地である白樺高原も著しく活力を失っている。他市町村との合併をせずに自立の道を選んだ立科町は、活性化が切実に求められている。

 

こうした現状の中、農業の担い手を確保し、農地利用の促進を通じて地域農業の活性化や農村地域の個性ある発展を図るためには、この地域の特性を活かした魅力ある生産環境を創り出していくことが必要とされている。そこで、町民の生産と生活の基盤である農村を交流基盤として捉え、農地などの地域資源を活かした都市農村交流を促進することで、新規参入者を含む新たな農業の担い手の確保や、地域の活性化を図るという考えが打ち出された。その実現の一環として、平成13年、国道沿いの遊休荒廃地帯にグリーン・ツーリズムを主体とした都市農村交流拠点「蓼科農ん喜村(たてしなのんきむら)」を設立し、敷地内には交流センターや農産物直売所がある。更にここに先ほど述べたクライン・ガルテンが整備されているのである。

 

 このクライン・ガルテンは、100平方メートルずつ15区画の農地からなり、それぞれの農地に隣接してトイレやキッチンが完備された長期滞在の可能な休憩小屋が整備されている。この農園の利用契約は1年単位で、年間利用料金は30万円である。利用者は主に関東地方、つまり首都圏の人々が大半を占めており、平均年齢は57歳と、比較的高齢な利用者が多い。年間利用者は述べ2,000人ほどであり、平均月に3〜4回当施設に訪れ、中には1年のほとんどを当施設で過ごす利用者もいる。現在の利用状況については、15区画満員であり、加えて25組が予約者登録を行っているため、予約受付を停止しているほどである。

 

 このような取り組みを始めてまだ日が浅いため、利益等についても現時点では大きな発展は見られないが、滞在型市民農園の運営拡大や交流センターで行われるおやき作りやりんご狩り等をはじめとする体験事業、更には施設利用者との交流を通して情報の受発信が活発になることから、ニーズにあったサービス提供の促進による経済安定が見込まれている。加えて、現在は町が運営している滞在型市民農園であるが、平成20年には3法人が農村滞在型余暇活動関連事業への進出が見込めるということである。このことからも、更に利用者のニーズにあったサービスを提供することができるであろうと考えられる。

 

更に、「蓼科農ん喜村」をはじめとしたグリーン・ツーリズムの促進により、都市住民には体験を通して地域や農業に対する理解の増進を図り、地域住民には魅力ある農村環境の形成から自らの地域への誇り、自身を取り戻し、環境保全や地域活性に対する意識の高揚を図ることも重要な目標である。自分の住む地域や産業に誇りを持つことで、農業の担い手の減少に歯止めをかける他、ますます地域が活性化し、魅力ある町になり、訪れる都市住民も増加し、都市農村交流が活発になることでますます町が活性化するという相乗効果が生まれると考えられるからである。

 

グリーン・ツーリズムをはじめとする都市農村は今後益々発展してゆき、今以上に多くの地域がこのような取り組みに参加していくであろう。そしてそういった環境の中で求められるのは、各地域のより強く魅力的な個性と、いかに利用者のニーズに応えるかということである。主な利用者である都市住民がグリーン・ツーリズムに求めていること、それは、日常的な都市生活では体験できないような「静けさ」、「安らぎ」、「自然」等を味わうこと、そしてその土地ならではの郷土料理や文化などを満喫することである。よって、農村地域の人々は自分たちの地域の特色、魅力を正確に把握し、利用者により魅力的に感じてもらえるような工夫をしていくべきである。しかし、利用者を呼ぶことばかりを考えてはいけない。自分たちの地域の農林漁業の振興、自然環境や文化の保全を第一に考えるべきであると私は考える。グリーン・ツーリズムを経済活動としてあまり、本来の地域のあり方を、人々の暮らしを変えてしまうようなことがないよう気をつけなければならない。あくまでも、地域ごとの既存の特色を発掘し、最大限に活かして、魅力あるまちづくりを

していくことが大切で、意味のあることなのである。