Shiozakik060123

 

外食産業における地方分権

〜その必要性と地域における可能性〜

 国際文化学科2年 塩崎佳那

 

日本の行政は今まで中央集権型の社会であったが、今日、地方にも力を広げていく、地方分権の考えが広がってきた。中央集権は全国画一の基準やルールを土台とした画一的なシステムであり、戦後の日本の復興においては全国平等の成長という観点から見て必要不可欠なシステムであったが、経済成長を遂げ、価値観の多様化が進み、地域の個性や独自性が尊重される今日においてはこの画一的な中央集権は地方の特色を生かすには足かせのような存在になってきた。地方分権は、権力や決定権など今まで中央にあった力を地方にも譲与していき、地域の視点から行政システムや地域問題の解決、よりよい地域づくりに取り組んでいこうとする動きである。‘平成の大合併’に称されるよう、日本は今、全国規模で地方分権に取り組んでいる。また近年、この地方分権の考えは、外食産業にも広がっているようだ。そこで私は外食産業に見る地方分権から、地方分権の必要性、また、地方分権が今後の日本の地域にどのような影響と可能性を与えるのか調べてみようと思う。

 

まず日本では1997年以降、世帯一人当たりの消費支出の減少に伴い、1人当たりの外食支出額、また法人交際費も年々減少している。それを受け外食市場も1997年の29,1兆円をピークに年々減少している。この外食市場の減少傾向はこのまま継続すると推測されている。外食市場が右肩上がりであった頃は、消費者のニーズも、早い、安い、均一なサービスなど、単一的であったため、比較的競争も少なかった。しかし、今日増え続けているチェーン店型ファミリーレストランの増加により、どこでも似たようなサービスを受けられるようになってきた。ドリンクバーや、やランチメニュー、おかわり無料などのサービスは今では当たり前のサービスとなってきた。また、欧米並みの経済水準を手に入れ、発達した社会を迎えた今日では、量的拡大よりも質的充実に人々の価値観が移ってきてといえるだろう。そして、世帯数の減少、少子高齢化など、人口構成の変化も著しく、また国際化する社会の中で、消費者の嗜好の変化、多様化が進み、今までのマニュアル化されたサービスの提供だけでは消費者のニーズに対応しきれなくなってきた。このように急激な社会変化に伴い多様化してきた消費者のニーズに応えるためには、今までのような中央集権的、つまり本社からの指示待ちのままの状態ではとても対応しきれない。そこでこれからは、消費者の要望に迅速に、また柔軟に応えていくため、会社の分社化を行う必要だという考えが出てきた。

 

全国に広がるチェーン店型ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルグループでは、このような外食市場の落ち込みを改善するため、外食事業を2006年の10月から関東、北海道、東北、中部、関西、中国、九州の7地域に分ける「道州制」に移行する方針であると発表した。これにより全国に存在するロイヤルホストを大きな地域ごとに分社化し、いままで本社にあった権限の一部を分社化された地域の社長や店長に譲り渡し、その人たちがその権限を行使できるという地方分権型にしていくという。

 

 この分社化以前にすでに「ロイヤル関西」としてロイヤルグループからいち早く分社していた関西地区、また、昨年7月に道州制に先駆けて発足した「ロイヤル九州」に区分される九州地域の店舗ではすでに様々なサービスが展開されている。ロイヤル九州では分社化により以前は本社によって決められていたメニューが2、3割程度まで地域によって独自開発ができるようになったという。そこで九州地方ではテーブルにコンロを埋め込み焼肉メニューを開始したり、パンを店内で焼き上げ販売するなどのサービスを開始した。焼肉メニューの導入店では売上が30%のプラスに転じた店舗も出現するなど、分社後の九州地方全体の売上は約10%のプラスになった。九州店舗を除くロイヤルホストの売上率は35%のプラスであるのと比較するとすばらしい成績である。また、ロイヤルホストの中でいち早く分社化していたロイヤル関西では、全国チェーンのファミリーレストランとは思えないほど、斬新なサービスを展開している。ロイヤル関西の社長に就任した大野辰一氏により、全国チェーン店でありながら、店舗の店長に大幅に権限を委譲するという個点主義を導入し、これによって、関西地区のロイヤルホストでは店舗によって様々なサービスや催しが展開されるようになった。桜川点では有名シェフ・山口勝巳を前面に押し出し、彼の作る和牛ステーキを提供した。森ノ宮店では店内でマグロの解体ショーを行い、はっぴ姿の店員が刺身や寿司を販売した。また、難波御堂筋店では女性のアルバイト店員が結成したグループのコンサートを店内で開催するなどもしていて、地域の関心を集めている。このチェーン店でありながら個店主義を取り入れたことで、今までは本社からの指示で動いていた店舗が自分たちでサービスやメニューを考え、実行していくようになった。赤字が出ていて、それを改善しようとしても本社と話し合ったり、許可を待ったり多くの時間が必要とされていたため、なかなか改善されなかったようであったが、店舗に権限を与えたことで、各店舗で社員の意識の向上がみられるようになったという。また、大野氏は担当地域の料理の試食をしないことでも有名である。彼は社長の舌に合うものより、マーケットで売れる料理の開発を望んでいるからである。そのため各店舗の料理長は自らの力で本当においしく、売れるものを作らなければならなくなった。本社からのレシピではなく、その地域で本当に売れるものを考えることは、その地域の消費者の嗜好、好まれる食材などを吟味しながら行われるため、かなり地域に密着したメニュー作りになるのである。

 

ロイヤルグループの分社に伴い、将来的にはロイヤルホストのメニューの価格が地域によって変更できるようになるようだ。また、大量の食品を一箇所で大量に製造し、各地へ運送するセントラルキッチン制を見直し、地域独自の生産ルートを持つことに対してもロイヤルグループは前向きな姿勢である。これによって地域の特産品や名産品、旬の食材を安く仕入れ、地元の消費者に低価格で提供することもできるようになり、地域との密接な繋がりができるのではないだろうか。近年、鳥インフルエンザの流行や、BSE感染牛肉問題、遺伝子組み替え食品の開発に伴い、消費者の食への安全性が高まってきているため、産地が明確であったり、地元産の食品の確保は消費者への安全性の認識の高まりにつながるであろう。このように大手レストランが地域に密着していくことで、流通や食材のコスト削減につながるだけでなく、地元地域の農産業の活性化にも繋がっていくのではないかと考える。最近増えてきた契約農家システムは、食材の生産者と店が提携して野菜などの仕入れを行うシステムであり、消費者から見ると生産者や生産地がわかるのは安全確認ができているようで安心する。また、農家から見れば店と提携することで、農作物の安定した出荷先を手に入れることが出来るため農業の活性化につながるのでないだろうか。

 

 外食産業における地方分権では、今までマニュアル通りの画一的なサービスの提供から、地域社会に応じた消費者のニーズにすばやく対応できるような形態への変化、また地域の特性を生かし、共同で発展していけるような形態への変化が見られた。外食産業のみならずこれからの社会は、消費者の価値観やニーズが流動的に、また急速に変化していくことが予想される。そのため、常に消費者の要望に主体的かつ迅速に取り組んでいくためにはますます地方分権が必要になってくるであろう。しかし、分権により権力を与えられても、それを行使していくだけの力がなければ分権化は成功しない。これからはマニュアルに沿った行動や、上からの指示を待っているだけという考えは通用しなくなるだろう。このような社会では自ら考え実行していく力をつけることが求められ、またこれは今後の日本の社会においても同じことが言えるであろう。また、これからチェーン店の地域への密着化が進んでいけば、その地域の産業的、また農業的な活性化にもつながっていくことが期待できる。近年はチェーン店の地域への進出は味の均一化を招いたり、地域の独自性の障害になるなど批判的な意見もあったが、このようなチェーン店の地方分権化によって、地域を活性化させる起爆剤になるかもしれない。

 

参考

http://www.royal.co.jp/royalhost/index.html ロイヤルホストホームページ

http://www.nikkei.co.jp/ nikkei net 2006/01/09 版

http://www.bushidoman.com/575royal.htm 日経MJに見るマーケティングの戦略・戦術 575

 

・ロイヤルグループ中期経営計画 (20062008年)20051118 発行

ロイヤルホールディングス株式会社

・社団法人 日本フードサービス協会