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中富千尋 「地方自治における環境政策―スウェーデンを事例に−」

 

 自然に親しみを持ち、都市に住む人でさえ暇さえあればベリーを摘みに森へでかける。さまざまなものが循環する仕組みが作られ、持続可能な社会に向けて着実に進んでいる。人口約900万人、面積45万kuのスウェーデンは今、環境先進国と呼ばれている。人々を魅了するこの国にはいったいどのような仕組みがあるのだろうか。環境政策、そしてそれを支える地方自治について、特徴的な政策に目を向けてみたい。

 

スウェーデンの地方自治においては、まずその基本構造を知る必要がある。日本とは異なり、レーンやランスティング、コミューンという単位で考えられている。ランスティングは都道府県における県庁のような役割を担っており、その地域区分はレーンという単位で、現在24ある。289あるコミューンは日本の市町村のようなものだと言うことができる。スウェーデンにおけるコミューンの合併は社会福祉の構築などを理由に早くから進められ、1951年には約2500あったコミューンは二度の「大コミューン改革」によって1974年には278にまで減った。そののち大コミューンでの協力の難しさ、社会と経済における実務的対立などにより289となった。コミューン合併によって市民への平等なサービス提供が拡大し、相互で同等となった部分もある。国、ランスティング、コミューンはそれぞれ政治的役割がほぼ明確に分けられており、たとえば国は外交や経済、レーンは教育や福祉、コミューンは医療とあげられる。スウェーデンは地方分権の進んだ社会であり、各自治体の責任で行われる仕事が多く、独立性が高く、権限も大きい。このことは、コミューンが独自の取り組みを行いやすくしているのではないだろうか。

 

地方分権の理念としては、行政の決定はできるだけ住民の身近で行われるべきということで、中央政府は小さく、地方自治体が大きい。地方政治家は兼業議員が多く、国会議員は半分がフルタイムで働いている。給料は公的な会議への出席時間によって決まるので、政治家としてだけでは生活することが難しいからだ。しかしそのことは、自らの職場の声を政治に反映しやすいということができる。一般の人々の精神を持って政治へ取り組み、民主主義を成り立たせている。政治家にはさまざまな分野の人がおり、若く、女性も半分くらいを占めるというのがスウェーデンの大きな特徴である。また、国政選挙と地方選挙が同日に行われることで地方の独立を強くするとともに、人々が国政と地方に求めるものを選択しやすくなっている。選挙活動は日本と比較して静かであるが、85〜90%と高い投票率を持っており、テレビでの候補者のディベートは視聴率が80%ということもある。中高生でも授業で政治の勉強や討論をし、強く女性が関心を持ち、若者が意識し、外国人参加も進んでいる。人々の意見を反映しやすく、多くの人が関心を持つことができ、地方分権が重要視された政治は、より人々が望む社会を作り出していくように思われる。このことは現在のスウェーデンに大きく影響しているのではないだろうか。特に、投票率の低い日本の選挙とは違いがはっきりと現れているが、議員の働き方や国と地方の役割の明確さからそれぞれに求めるものがはっきりしているので、選挙でも選択しやすいということが関係しているように感じる。

 

 スウェーデンには自然享受権というものがあることからもわかるように、自然と接する機会を多く持ち、一般的に環境に対する意識が高いといわれる。社会のあらゆる場面で環境への取り組みを目にする。たとえば、スーパーに必ず置いてあるペットボトルや缶のデポジットの機械、商品にたくさんつけられているエコラベルからうかがえる。また1971年には首都ストックホルムで地下鉄建設などをめぐってニレの木が切られそうになったとき、多くの若者が木に登ってそれを食い止めるという事件も起こっている。そういった背景の1つとして、国の政策による環境への取り組みが考えられるのではないだろうか。スウェーデンでは1998年の環境法を作るにあたって、「スウェーデン2021年物語」というかたちで25年後の未来をつづった。これは多数のセクターによって実践的な未来への戦略を述べた先進的な取り組みであり、世界に広がっている。また、1991年からは化石燃料全般に環境税が導入され、ごみに関しては「1990年代の廃棄物政策」の策定で製造者責任制度が徹底され、法によって役割が明確化された。1980年には国民投票で脱原発が決定され、京都会議での二酸化炭素排出量においては、1990年比で2010年までに先進国平均で約5.2%削減することを打ち出した。2005年1月には持続可能開発省が発足している。このように環境政策において他国よりも早く、独自の政策を行うなど、国全体として環境への意識の高さや方向性がうかがえる。

 

明確な役割分担の中で、環境保護を担っているのはコミューンである。法によって各コミューンに1つ以上の環境や衛生保護のための委員会を設置することが義務づけられている。業務としては、1989年以降、環境保護法にもとづいて環境汚染のある活動への監督などが行われている。家庭ごみや公共の場における清掃などはさまざまな法令で規定されているが、ごみは業者による回収も許可されていて、多くのコミューンでは清掃の現業部門、公企業を設立しており、廃棄物の処理・処分のチェックを行う。また、1992年の地球サミットで採択された持続可能な社会に向けた行動計画であるローカル・アジェンダ21は、ほとんどの自治体が取り組んでいる。国の政策と相まって、コミューンが環境への政策を実際に行っていることがわかる。

 

環境のことを考えた先進的なコミューンの取り組みとして、いくつか事例をあげてみたい。まず、ベクショーという都市では化石燃料ゼロ宣言をしており、市民・行政による環境保全活動が行われ、2010年までに1993年比で50%の二酸化炭素削減を掲げている。農業と観光の町であるゴットランドでは、2025年までに再生可能エネルギーで自給することを宣言しており、各部局の環境担当者からなるエコグループを設置している。地域暖房システムネットワークによるバイオマスの利用や、風車パーク、畑地灌漑複合システムなどを作っている。スウェーデン第2の都市ヨーテボリでは「競争力ある持続可能な都市づくり」を目指すなど、各コミューンでバイオリージョンによるコミューンづくりが盛んに行われ、再生可能エネルギーから自給循環できるコミューンを作り出している。スウェーデンではとにかく地方都市の反応が早く、コミューンが率先して環境問題へ取り組んでいるのである。

 

国、ランスティング、コミューンという役割の明確さからは、さまざまな政策に対して取り組みやすさが現れているように感じる。また人々の政治への関心の高さや意見の反映しやすさ、民主主義という特徴からも、政策を進めやすいことと、さらにそれが実際に人々が必要とするものになるであろうということが予想される。そういった社会の仕組みの中で、国として環境への政策も先進的に進めていくことができたのではないだろうか。実践的な役割を担っているコミューンでは、その役目を果たすための取り組みが各自行われており、環境政策にとって重要であることがわかる。本当に必要とされることがすぐに始められ、自らの成果もわかりやすい状況にあれば、政策も進みやすい。そういったことをスウェーデン社会が物語っているのではないだろうか。スウェーデンが環境先進国と呼ばれるようになったのは、環境にだけ取り組もうという姿勢があったからではなく、人々の望みを当然のように反映した結果であるといえる。国、そしてコミューンとともに個人が環境への行動を起こしていく動きもあるようだが、環境への対策が急務とされている今、スウェーデンから、世界をいい方向へ変えていくヒントが得られるのではないだろうか。日本ではある分野において環境政策は誰が行うべきなのか、いったい何を進めていったらよいのか、政治にどのように関わっていくべきかなどはっきりしていないことがあり、スウェーデンで当たり前のようになっている社会の構造から学ぶべきことが多い。スウェーデンでの時代の流れをふまえると、平成の大合併は日本社会においてスウェーデンのようになる第一歩を踏み出したとも考えられる。もちろん日本とは政治の仕組みが異なっており、同じことをそのまま実行することはできない。歴史や文化の違いを配慮した上で、本当に必要な政策ができるだけ実行しやすい社会を形作り、そのサイクルの中で地方自治が行われていくことが環境政策をはじめ、社会全体に重要なのではないだろうか。

 

参考文献

     アグネ・グスタフソン著、穴見明訳「スウェーデンの地方自治」早稲田大学出版部(2000)

     アニタ・リンネル、古田尚也構成・訳「BIO−City/no.18/p.2〜19」ビオシティ (2000) 『環境教育の「場と物語」 スウェーデン2021年物語』

     糸長浩司著「BIO−City/no.21/p.24〜32」ビオシティ(2001) 『スウェーデンのエココミューン エネルギーの自立から考える自給型地域づくり』

参考HP

オーロラと白夜の国から/志賀田孝史

http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/koramu/shigata/shigata_2.html

スエーデンの政治

http://www2.osk.3web.ne.jp/~mine2/sweeden.htm

北欧エコロジー最前線 part

http://www.ecology.or.jp/member/zero/0012.html