Katagiria040112Z
片桐 梓
柏崎刈羽原子力発電所及び柏崎刈羽地域を事例とした地域住民への保障
現在、日本の総発電量のおよそ3割を担っている原子力発電は、その発電のクリーン性や、経済性から重要な発電源となっている。しかし、原子力発電は核分裂による発電であるため、放射能漏れなど大きなリスクを伴う。従って、原子力発電所が立地する地域住民は、常にそのようなリスクを負いながら生活することを余儀なくされている。私の地元である新潟県には、世界一の原子力発電所である柏崎刈羽原子力発電所がある。近年の、集中豪雨や中越地震の際は、幾度の余震にもかかわらず発電所が停止しなかった等、発電所の安全性が問題となった。そこで、そのようなリスクの中で生活することの、メリットはどのようなことがあるのかということについて、柏崎刈羽原子力発電所を対象として調べようと思う。
まず、柏崎刈羽原子力発電所の概要を紹介する。東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所は、新潟県柏崎市と刈羽郡刈羽村の境に位置しており、1969年の誘致決定から、1978年1号機着工、1997年の7号機の営業運転開始を経て、現在合計7基の原子炉が稼動している。その7基の合計出力は821万2000kWhで、世界最大となっている。その発電した電気のほとんどを関東に送電している。
(柏崎刈羽原子力発電所http://www.tepco.co.jp/kk-np/index-j.html フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』柏崎刈羽電子力発電所で検索)
メリットとして一番に挙げられるものは、豊かな税収である。
発電所の受け入れ地域に対する、税金による保障を定めた法律「電源三法」がある。電源三法とは、「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」を総称したもので、発電所の立地を円滑にするために設けられ、立地地域からの協力を得ようという目的がある。三法のそれぞれ具体的な内容は以下の通りである。
まず電源開発促進税法は、発電施設の設置、石油の代替エネルギーによる発電を促進する目的で、電気事業者の販売電気に1kWhにつき44.5銭を課すものである。また、電源開発促進対策特別会計法は、政府が前記の電源開発促進税法による税収を電源立地勘定と電源多様化勘定に区分する。電源立地勘定とは、発電用施設の設置の円滑化のための財政措置で1kWhにつき19.0銭相当が課されるもので、電源多様化勘定は、石油の代替燃料による発電の促進のための財政措置で、1kWhにつき25.5銭が課されるものである。そのうちの電源立地勘定分を、電源立地促進対策交付金、電源立地対策費とし、発電所の周辺地域の整備や安全対策をはじめ、発電用施設を円滑に設置するための交付金や補助金などを交付する。そして発電用施設周辺地域整備法は、発電所周辺地域への公共施設の整備を目的とし、各都道府県から交付金を交付するというものである。
具体的な交付例として、電源立地促進対策交付金と原子力立地給付金を取り上げてみる。前者の交付期間は、工事開始年度から運転開始の5年後までとなっており、新潟県への交付は昭和53年度に始まった。新潟県と周辺市町村を合わせて平成14年度では約1億5500万円、それまでの総額は約760億円にもなる。後者は原子力発電施設周辺地域の住民及び企業へあてられるもので、原子力発電所立地市町村と隣接市町村へ運転が終了するまで交付される。電灯契約をしている家庭対し、柏崎市(後に合併した地域を除く)と刈羽村には年額18,912円、旧西山町、旧高柳町、旧越路町、旧小国町、旧柿崎町、出雲崎町、旧吉川町、旧大島村、長岡市(後に合併した地域を除く)には年額9,456円が、企業にはそれぞれ半額が交付されている。
(新潟県庁ホームページhttp://www.pref.niigata.jp/ から電源三法で検索http://www.pref.niigata.jp/seikatsukankyo/genshiryoku/atom/niigata/sanpou.htm 電源三法交付金制度の概要http://www.pref.fukushima.jp/chiiki-shin/energy/kentou19/siryou2.pdf )
柏崎刈羽地域ではこれらの税収で、公共のスポーツ施設や公園、学習施設等の充実、インフラ整備も進んでおり、また企業への優遇制度から、企業立地が進んでいる。例えば、柏崎市では新潟工科大学と新潟産業大学の大学2校が建設され、刈羽村でも、交付金45億円を投じて図書館、体育館、公民館等の機能を併せ持つ、生涯学習センター「ラピカ」が建設された。しかし、このような潤った税収は公共事業へのばら撒きであり、また、地域の自立を妨げているという批判の声も上がっている。
電源三法による交付金だけでなく、発電所の固定資産税、核燃料税も莫大な額が柏崎刈羽地域に流れている。固定資産税は、1978年から2000年までに柏崎市と刈羽村を合わせて、1500億円以上、核燃料税は、使用済み核燃料1キロ当たり480円を課税するもので、2003年の段階で1,670トンの貯蔵がある柏崎刈羽原子力発電所では、5年間で26億円の税収が見込まれている。この使用済み核燃料への課税は、柏崎刈羽電子力発電所が日本で始めて試みたものである。増え続ける使用済み核燃料に対し、住民への安全面を確保することを目的としており、法で定められたものではなく条例による課税で、地方分権一括法によって自主課税権が拡大したことによって2003年に踏み切ったものである。また、固定資産税の減少も課税決定の要因だとされる。これに対し、東京電力側の反対はあったものの、東北電力側のトラブル隠し問題があったために反対を推し進められなかった。
(核燃料税について http://www.zengenkyo.org/img/kashiwazaki.pdf 電子力百科事典ATOMICA http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/02020105_1.html )
このように電源三法による交付金、固定資産税、核燃料税により、柏崎刈羽地域の財政面が豊かであること、またそれを施設の提供やインフラ整備という形で地域住民に還元しているということがわかった。これだけを見れば、とても住みやすい環境であり、原子力発電所による恩恵を受けているといえる。しかし、住みやすさとは、安心して暮らせるということが重要である。そのための地域住民と柏崎刈羽原子力発電所の間の関係調整役として、柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会という会がある。地域の会は、原子力発電所の安全状況を確認し、地域住民の視線による監視活動を行い、必要な提言等を行うことを目的としている。活動としては、地域の会、国、地方自治体、東京電力との月1回の会議を設け、その中で住民の意見を伝えるオブザーバー役を務め、必要に応じた情報開示等を求めること、広報誌でその会議についての報告をすることが主である。
(柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会という会ホームページ http://www.tiikinokai.jp/ )
このような組織の活躍もあり、安全性についても検討されていることから、柏崎刈羽地域の人たちは、恵まれた環境で生活しているといえるのではないか。
最後にこのレポート作成にあたって感じたことは、原子力発電所に対して柏崎刈羽地域は税金という形でかなりの恩恵を受けているということ、また、東京電力側がそのような税金を課されることによって電気料金が値上がりしないのかということである。発電量を増やせば、地域住民への安全性とその代償としての税金の問題が起こる。電力会社と地域住民だけではなく、電気消費者も考慮したバランスの良い政策を考えていくことが必要であると思った。