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浅田有希 静岡空港は本当に必要なのか

 

今年2月に神戸空港、3月に新北九州空港と、次々に地方空港が開港する。しかし、地方空港は、近年厳しい状況におかれている。というのは、参入・撤退や料金の設定が、航空会社の裁量にゆだねられる「空の自由化」が進み、採算の取れない路線は運休するという事態が起きているのである。私の出身地である静岡県にも、平成21年春開港予定の静岡空港が建設されている。空の自由化が進み、かつ地方の力が試される今後、様々な論議を呼んでいる静岡空港が成功する可能性はあるのか、調べてみることとした。

 

静岡空港は、静岡県中部地区の南側に位置する、島田市・牧之原市に建設が進んでいる。JR静岡駅から車で40分、広大な茶園が広がっていた牧之原台地の一角にある丘陵地に、現在は地肌むき出しの広大な平野が広がっている状況である。管理面積は、滑走路やターミナルが造られる本体部は約190haだが、自然環境保全地域として整備する周辺部を含めた面積は約496haになる。現在、本体部は、未買収用地の強制収用が認定され、ほとんどの用地が買収されている。滑走路の長さは2500mで、これは大型ジェット機の就航が可能な長さである。日本の空港は、国際航空路線に必要な第一種空港、主要な国内航空路線に必要な第二種空港、地方的な航空運送を確保するために必要な第三種空港の3種類に分類されるのだが、このうち静岡空港は第三種空港に分類され、設置管理者は静岡県である。なお、開港後は民間の運営会社が実際の運営を行う。

 

昭和62年12月に建設予定地が決定してから、約20年の歳月が経つ。この間、空港建設にかかる様々な賛否両論の声や反対運動が起こっていることは言うまでもない。そもそも、地方空港の役割はその県民の利便性を向上させることであるが、他にも様々なメリットが挙げられる。ここで、なぜ静岡県に空港が必要なのか、国土交通省や静岡県知事の意見を次の四点に整理する。

 

まず一つ目は、産業の発展に寄与するということである。静岡県は、人口378万人(平成18年1月1日現在)で、全国屈指の「ものづくり県」である。特に、西部の浜松周辺は、工業の東海道ベルト地帯の真ん中であり、大手製造業の企業や工場が多く存在するほか、県全域で漁業や果物の生産が有名である。従来は、生産物を出荷する際、トラックやフェリーあるいは近隣の名古屋空港、中部国際空港から運んでいた。しかし、新鮮さや利便性を追求すると、これでは全国出荷までにコストや時間がかかってしまう。静岡に空港があれば、名古屋まで運ぶ必要もなくなる上、より新鮮な状態で短時間で届けることができるというのである。このように、従来以上に効率的な輸送ができれば、企業の利益が増し、企業立地の増加や雇用創出など、地域全体が活性化する、というのである。

 

二つ目は、地方と地方の、または国際交流に必要ということである。静岡県には、伊豆や富士山など世界的にも有名な観光地が存在する。しかし今までは、羽田や成田空港を経由してくる場合がほとんどだった。2000年に実施された全国幹線旅客純流動調査によれば、静岡県から北海道には51万人、沖縄には11万人が1年間に訪れているのに対して、北海道から28万人、沖縄からは75,000人にとどまっているのである。これは、一概には言えないが、静岡に空港がないことが影響していると考えられる。静岡で直接離発着できれば、移動時間の短縮が期待できるうえ、観光の目玉である富士山を間近に感じながら飛行機を降りられるなど、観光に力を入れる静岡県として魅力をアピールできるのである。また、静岡県を訪れる外国人の約4割は東アジアの人々であるが、静岡空港は各東アジアの国に就航を予定しているので、来訪者を大いに増やすことができると期待できる。

 

三つ目は、防災の拠点になるということである。想定される東海地震をはじめ、災害時の救援物資や援助隊の空からの輸送拠点、ヘリコプターによる重症患者の搬送など、県民の安全・安心を確保する重要な場所になる。空港の建設地は地盤がしっかりしていると言われる丘陵地であり、地震の被害は最小限に食い止め得るとされている。建設地には、防災活動支援のための仮設ヘリポートを設置しており、ここで救援物資の搬送訓練などを行っている。

 

四つ目は、首都圏の空港機能を補完するということである。国土交通省の担当者の言葉で言えば、「静岡空港は、羽田空港あるいは中部国際空港を軸とした、日本の航空ネットワークに必要な空港」である。静岡県を含む中部圏の人口は約1,500万人。ロンドンの大都市圏(約50km以内)の人口が、約1,500万人と同じ規模だが、ロンドン周辺には5つの空港が整備されている。また、ニューヨークとワシントンの距離は300km弱だが、この両都市の周辺にはそれぞれ3つ、合計6つの空港がある。これに対し、名古屋から成田までの約480km以内に、現在空港は5つ。欧米の先進諸国に比べ、首都圏・中部圏の空港事情は劣っていて、これからの国際ビジネスの時代、空港事情を改善することは必要な課題であるという。

 

知事をはじめ、空港賛成派の団体はこれらのメリットを県民、他の都道府県、就航予定地の香港や台湾など東アジアの国々にアピールしている。しかし、空港のメリットとデメリットを比べてみると、空港の必要性に疑問を感じざるを得ない。一番多く疑問視されているのが、「採算はとれるのか?」「県の需要予測ほどの利用者はいないのではないか」という採算性の問題だ。県は、開港初年度の需要予測として、確実に採算の取れる国内4路線(新千歳、福岡、鹿児島、那覇)で106万人、海外9路線で32万人が見込まれるとしている。しかし、静岡県民が飛行機を利用するからといって、必ずしも静岡空港を利用するとはいえないのは確かだ。愛知県との県境に近い西部地区の人々や、神奈川県との県境に近い東部地区の人々は、便数も多くアクセスしやすい中部国際空港や羽田空港に流れてしまう可能性が高い。大規模空港に比べて、地方空港は断然便数が減ってしまう。いくら県内に空港があるからといっても、顧客が必要とする時間のフライトがなければ意味がないのである。そして、最初に述べたとおり、航空会社が次々と採算のとれない路線を切り捨ててしまうケースが出てきた。幸い、JALグループが就航を決定しているが、大経済圏の東京・大阪・名古屋の路線がないため、採算が取れるとは言い切れない。需要を予測どおり、あるいは予測以上のものにするためには、大規模空港に負けない空港づくり、第一に着陸料などの大幅な低コスト化を実現することが必須だろう。

 

また、静岡の誇りである広大な森林や茶園、オオタカの生育環境を破壊したことへの県民の怒りは大きい。県は、動植物が生息できる豊かな里地環境復元に努めると言っているが、それには多くの年月が必要であるし、希少な植物を移植しても育たないこともある。地球環境を考えて事業を行っていることは理解できるのだが、広大な自然を破壊してまで造られた更地を見ると、どうしても矛盾を感じてしまう。

 

私が調べてきて印象に残ったのは、空港に対する県民の温度差である。地元の友人や親に聞いてみたところ、聞いた人全員から「必要ない」という答えが聞かれた。私の出身が東部地区であるので、私の周りの人も空港に対する関心が低いことに影響しているのだろう。しかし、静岡空港は静岡県の財産となるもので、決して一部の人だけのものではない。静岡県のお金が使われて造られていると考えれば、県民全員が関心を持つべき問題である。この温度差をなくすため、個人の旅行が便利になるということよりも、防災の拠点になることや、製品の輸送が効率的になり地元企業が活性化することなど、県はもっと県全体が受ける恩恵をアピールするべきだと思う。私は今回レポートするまで、静岡空港は断固反対の立場だったが、様々なメリットを知り、もしかしたら静岡県の活性化にとても役立つのかもしれないと思うようになった。空港のデメリットを挙げればキリがないほど出てくるが、上記4点のメリットも期待できると思う。特に、地域産業の活性化は魅力的だし、開港によって人々の交流や県をアピールする機会が増えるので、私は活性化が実現できると思う。

 

静岡空港が成功するためには、県と運営会社の創意工夫、そして県民、隣県のサポートが重要である。静岡空港にしかないモノ、サービスを備えなければ生き残れないだろう。料金の安さはもちろん、誰にでも利用しやすく、温暖な静岡を感じられるような温かみのある建物や雰囲気づくりが必要ではないだろうか。現在、静岡空港の愛称を検討しているが、世界に誇る「富士山(フジヤマ)」を取り入れる見通しである。空港の名前から、静岡を世界にアピールしようという目的である。ここまで計画が進んでいるのだから、もはや後戻りはできない。静岡空港を、どう静岡の、隣県の、広く日本の活性化に役立てるかを考えることが必要ではなだろうか。静岡全域の県民や近隣県民、民間企業がもっとタウンミーティングなどの意見を交換できる場に参加し、改めて静岡空港の意義を考えるべきだと思う。

 

 

<参考サイト>

・ 静岡県ホームページ 「ようこそ知事室へ 談話室」
http://www.pref.shizuoka.jp/governor/talk/fukoku07/index.htm

     静岡空港公式サイト
http://www.pref.shizuoka.jp/kuukou/contents/qa/qa_1_4.htm

     静岡新聞  特集 静岡空港
http://www.shizushin.com/feature/airport/kiji2/20050325153947.htm

     牧之原市ホームページ
http://www.city.makinohara.shizuoka.jp/asp/mc0040.asp?eno=M347599278

     日本の空港 フリー百科事典『ウィキペディア』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%A9%BA%E6%B8%AF

     統計センターしずおか(静岡県の人口を参考)
http://toukei.pref.shizuoka.jp/tokei/index.asp