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赤羽信彦「複式学級を解消するための取組と課題

宇都宮市の小規模特認校を事例に―」

 

 複式学級とは、小中学校の規模が小さい場合に1学年1クラスではなく2学年で1クラスにする編成のことで、国の基準では、小学校の場合は2つの学年の児童の合計が16人以下(1,2年生の場合は8人以下)のとき複式学級を編成することになっている。また、小規模特認校とは、法的に定められた用語ではないが、教育委員会が定めた通学区域にかかわらず市(町・村)内全域から通学可能で、特色ある教育活動を展開している小規模校を言う。最近の急速な少子化の流れの中で、児童・生徒数が減少し国の基準に従って複式学級を編成する自治体が増加しているが、宇都宮市も例外ではなく、城山西小学校と清原北小学校の2校が複式学級を編成している。私は、宇都宮市が複式学級を解消するために平成17年4月からこの2校を小規模特認校とし、様々な特色ある教育活動を展開していることを知り、具体的な取組内容や課題について調査したいと考えた。

 

 まず、宇都宮市が前述した2校を小規模特認校とするまでの経緯であるが、平成14年1月に、通学区域の見直しについて調査審議する宇都宮市教育委員会の附属機関として宇都宮市通学区域審議会が設置された。この審議会は15回開催され、平成15年11月に「市全体の通学区域見直しの基本的考え方と個別具体的な取組について」答申があった。この答申を踏まえて、平成16年2月に、宇都宮市教育委員会において「学校規模の適正化に向けた通学区域見直し実施計画」が策定された。この計画の中で、適正規模とされる小中学校の学級数は12学級から24学級であり、適正規模化の方法は@通学区域変更、A通学区域弾力化、B小規模特認校、C統廃合の4つとされた。その結果、複式学級が編成されており適正規模を下回る城山西小学校と清原北小学校の2校を小規模特認校とし、児童数の増加を図ることとなったのである。

 

 次に、小規模特認校で実施されている特色ある教育活動として、@会話科の設置、A地域特性などを生かした教育活動の充実、B放課後活動の充実が挙げられる。会話科とは、実践的なコミュニケーション能力を育成するための科目であり、アナウンサーや劇団員などを講師に招いた授業を行い、正しい日本語で考えや気持ちを表現できる力を育成する「ことばの時間」や、外国人の英語非常勤講師による授業を行い、英語を使って会話ができる力を育成する「英会話の時間」から成る。これは、学習指導要領の基準によらないことから、平成16年12月に「うつのみや生き生き宮っ子特区」として構造改革特区の認定を受けて実施している。また、会話科の授業以外にも、朝の会話タイムや給食に英語非常勤講師が参加するなど、コミュニケーション能力を高める取組を実施している。

 

 地域特性などを生かした教育活動については、城山西小学校においては、校庭にある樹齢4百年の「考子桜」を中心に実施している「古賀志の考子桜まつり」に参加し、地域の人々への新入生のお披露目や学習成果の発表をしたり、書・彫塑・陶芸・筝・ダンスの分野で活躍している先生による「文化人の先生による授業」や、毎週土曜日の午前中に地域の人々や市内の小学生も参加して文化・体験活動を実施する「サタデースクール」などを実施している。また、清原北小学校においては、児童一人ひとりの学習状況に応じたきめ細やかな算数科の指導や、学校医や栄養士による健康増進・食育・体力向上を統合した健康指導などを実施している。

 

 放課後活動については、地域の人々が中心となって午後2時から7時まで児童を預かり、英会話活動、授業の予習復習、各種スポーツ活動などを実施しており、共働き世帯の負担を軽減している。

 

また、入学するための条件は、市内に居住する新入生及び在校生であること、1年以上かつ卒業まで通学ができること、学校の教育活動やPTA活動に保護者が賛同・協力できること、通学は保護者の負担と責任において行うことなどである。入学できる児童数は、1学年につき在籍する児童数と合わせて25人である。

 

 平成17年度における通学区域外からの入学者数は、城山西小学校は9名、清原北小学校は 名であり、大きな成果を挙げたとは言えないものの、まだ開始1年目であり、取組の効果が市民にわかる平成18年度にどれだけ児童数が増加するかが重要である。

 

ここで私は、宇都宮市の小規模特認校の取組自体は評価でき、今後も児童数が増加すると期待しているが、複式学級にはメリットとデメリットが存在するように思う。例えば、少人数のため教員の目が行き届き、児童一人ひとりの学力に応じたきめ細かい指導ができる反面、過保護にもなりかねない。また、上級生は下級生の面倒を見るなどリーダーシップをとる力が自然に身につき、下級生は上級生の行動を見ながら成長できるが、競争心に欠け、同年代の児童との交流が希薄になり、人間関係が固定化する懸念もある。さらに、自習の時間が半分を占め、自分で考え解決する能力が身につくが、授業効率が悪い。このことから、私は、複式学級を早急に解消し、最低でも1学年1学級は維持できるような更なる新たな取組が必要であると思う。

 

 そこで私は、新たな取組として宇都宮市教育委員会にいくつか提案したい。まず、通学のためのスクールバスの導入である。現在、通学は保護者の負担と責任において行わなければならないため、それができない世帯の児童は入学できない。これでは教育の機会均等の観点からも不公平であり、児童数増加の妨げとなっているように思う。次に、1年以上かつ卒業まで通学ができるという入学の条件を、1年単位で入学を許可し、希望があれば更新するように緩和すれば、より入学しやすくなるのではないか。さらに、現在実施している小規模特認校どうしの交流のみならず、大規模校などとの交流を実施することにより、幅広く同年代の児童との交流ができると共に、新たに小規模特認校に入学を希望する児童が増えるのではないか。そして、法的な問題があり宇都宮市が独自に実施出来ることではないが、近隣の自治体からの通学が可能になれば、更なる児童数増加が図れると思う。また、不登校など集団不適応の児童を積極的に受け入れ、少人数教育により徐々に集団生活に適応できるようになれば、児童数の増加以上の効果も得られるのではないか。

 

最後に、「学校規模の適正化に向けた通学区域見直し実施計画」では、平成21年度までに複式学級が解消されなければ、小規模特認校である城山西小学校と清原北小学校は統廃合されてしまう。そのような結果にならないよう、宇都宮市教育委員会の更なる努力を期待したい。

 

<参考>

・「市全体の通学区域見直しの基本的考え方と個別具体的な取組について」

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kyoiku/kyoikukikaku/kyoikukikaku_13_tuugakuku_tousin03.pdf 

 ・「学校規模の適正化に向けた通学区域見直し実施計画」

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kyoiku/kyoikukikaku/kyoikukikaku_13_tuugakuku_keikaku.pdf

 ・城山西小学校ホームページ

   http://www.ueis.ed.jp/school/siroyama-w/

 ・清原北小学校ホームページ

   http://www.ueis.ed.jp/school/kiyohara-n/