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高橋 伸嘉     「宇都宮市における保育行政の現状 〜課題と問題点〜」

 

 北関東最大規模の都市としてより一層の発展を目指す宇都宮市だが、ここでも確実に少子高齢化が進んできている。高齢化については全国平均よりも緩やかなペースで進んでおり、出生率も全国平均を少し上回ってはいるが、増える高齢者と減る若年層という状況は変わっていない。昨年、新市長として選ばれた佐藤栄一氏も就任記者会見で「次の時代を担う,たくましい宮っ子づくり」を5つの大きな政策の柱の一つとして挙げ、また今年の新春記者会見でも、まもなくまとまる「(仮称)宇都宮市次世代育成支援行動計画」の主要事業の早期具体化に向けて努力していくことを発表している。

 

 このような中、三位一体改革に伴って財源の地方移譲が進むことが予想され、保育行政の財源確保も大きな問題となってきている反面、自治体独自の政策を実施していけるチャンスとなっている。しかしながら、昨年の宇都宮市市議会第6回定例会での質疑を見てみると、さまざまな補助金で維持してきたサービスを今後どうするのかという質問に対して前市長の返答は、低価格で高品質なサービスに需要があるというもので、まったく具体的なものではなかった。このようなことでは、少子化に歯止めをかけることは出来ないであろう。

 

 不景気下での専業主婦の減少、共働き家庭の増加、核家族化、離婚の増加などさまざまな、ライフスタイルの変化のなかで託児サービスに対する需要にもさまざまな変化が生まれてきている。そのような中、宇都宮の認可保育園について調べてみるとわずかながら減少していることがわかる。それに対して民間での託児サービス業者の増加が目立っている。このことは、民間が行政の穴を埋めていることを示しており、市民の需要の変化に行政が対応し切れていないことを示していると思われる。料金的には倍以上もする民間託児所に子供を預けなければならないという現状は、安心して子供が産める状況を作り出すためには改善されるべきであろう。

 

 実際に認可保育園と民間の託児所の違いを比べてみると、第一に目に付くのはサービスを受けるための資格の厳しさが挙げられる。認可保育園に子供を預けるためには、保護者が仕事や病気などのために家庭で子供を保育できない状況にあると認定されることが必要とされている。そして認定されるためにはさまざまな申請書類が必要であり手続きなどが煩雑なものとなっている。また、実際に申請しても定員やその他の問題で、居住地のそばの保育園では受け入れられずに、遠いところまで送り迎えしなくてはならない状況が続いたりする。それに比べて民間では、身分証明書や健康保険証の提示だけが条件という簡略なところが多い。

 

第二に提供しているサービスの種類の違いがある。民間の託児所では24時間いつでも選んだ時間帯に預けることが可能で延長も受け付けているが、認可保育園では規定の時間の保育以外に延長保育を受け付けるところは多いがそれもおおむね20時までで、週に3日程度のパートをしている主婦のための一時保育を受け付けている保育園は約半数と非常に少なく、定員も1箇所で1日10人以下と限定されている。

 

つまり、託児サービスへの最も大きな需要は手軽でいつでも可能であるという点にあることが分かる。以前は3世代同居などが普通であり、買い物のときに子供の面倒を見てもらうなど子育てに関する祖父母のかかわりが大きかったが、核家族化が進んだ今日では子供の面倒をすべて母親が見なければいけないという状況になっている。このような状況は宇都宮の市民アンケートでもよく表れている。子育てをしていてストレスを感じている人の割合は87.1%と非常に高くなっており、その中の主な内容は「自由時間が無い 57.0%」「家事仕事が進まない 43.9%」「外出するのが大変 35.5%」などとなっている。以前は家族の中にあった祖父母や地域社会の中のお隣さんといった育児の受け皿がなくなったために、出てきている需要だと言い換えることも出来るであろう。

 

 育児に悩んで無理心中したり、育児ストレスから虐待に走ったりなど、ニュースになる話題には育児のつらい面を取り上げたものが多い。さらに女性の側からみると、子供が出来ると仕事を辞めなくてはならなかったり、自由時間が無くなるというイメージが出来てしまっているために、このままでは子供を産まないという選択が減っていくとは思われない。

 

 また、育児にはお金がかかるということも大きな問題点であろう。特に民間の託児所は認可保育園と比べて2倍以上と非常にコストがかかる。未就学児童へのオムツやミルクなどの現物支給による支援なども大切だが、公的な一時託児所の設置や民間託児所に払う金額の一部負担なども今後考えていくべきであろう。特に現在は、民間の託児所でも保育士の資格をもったスタッフを常駐させており、託児所での児童の状態を毎回親へと報告するなどサービスの質も向上してきている。このような民間の機関を育てて、活用しながら総合的に市民の子育てをサポートしていく政策が求められている。

 

 このように、託児サービスに対するニーズが変化していく中で、実際に行政が行っている政策は人口が増加した地区への認可保育園の移転である。市中心部の3つの保育園を順次廃園にし、郊外の新興住宅地に保育園を2箇所新設するということである。サービスの公平性という観点からみると、重要な政策ではあるがサービスの中身が変化しない限り子育てに対する不安感はぬぐえないであろう。今後、地方への財源移譲に伴い全国画一の政策も変化し、行政サービスの公平性という点は揺らいでいくことになるであろう。そのような中でいかに地域独自の政策を打ち出し、保育行政の概念を見直し、民間の活用などさまざまな形でのサービスの多様化と質的な向上が目指されるか。また、育児相談や地域社会での育児協力ネットワーク作りなど、育児への不安感と負担を減らすような方法も検討されるべきである。新市長の政策に期待されている。

 

参照サイト

宇都宮市ホームページ

http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/

宇都宮市統計データ集

http://www2.city.utsunomiya.tochigi.jp/DataBank/index.htm