041115jichi 講義メモ

 

 

栃木県内の市町村合併状況(2004107日付朝日新聞朝刊より)

 

04106日現在の法定合併協議会>

@    佐野市、田沼町、葛生町

A    黒磯市、西那須野町、塩原町

B    氏家町、喜連川町

C    矢板市、塩谷町

D    日光地区(今市市、日光市、足尾町、藤原町、栗山村)

E    大田原市、湯津上村、黒羽町

F    南河内町、石橋町、国分寺町

G    宇都宮地域(宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町)

H    宇都宮市、高根沢町

I    鹿沼市、粟野町

 

<今年破綻した合併協議会>

@    大平町、岩舟町、藤岡町

A    芳賀町、高根沢町

B    芳賀地区(真岡市、益子町、二宮町、市貝町、茂木町)

C    栃木市、西方町

D    南那須地区(南那須町、烏山町、馬頭町、小川町)

 

知事への合併申請が済んだのは「佐野市」「那須塩原市」「さくら市」

新庁舎の位置、議員定数が難題

真岡市・二宮町の動きあり

南那須町・烏山町の動きあり

 

 

*以下は宇都宮大学国際学部編、国際学叢書「混迷する国際社会共生へのビジョン」(2004年9月)pp.235-251.の初稿論文→

 

市町村合併におけるローカルガバナンスの欠陥と修正

―栃木県における合併状況を素材にして―

 

中村祐司

 

目次

 

はじめに―「平成の大合併」の背景と位置づけ―

T.宇都宮地域と県北地域における市町村合併の進捗をめぐる混乱

1.宇都宮地域―二つの合併協議会が突き付ける課題―

2.黒磯市における市長リコール運動を契機とした那須7市町村合併への模索

U.市町村合併におけるローカルガバナンスの「欠陥」

V.市町村合併におけるローカルガバナンスの「修正」

W.宇都宮地域合併協議会の議員任期をめぐる私案―「中村私案」の提示―

おわりに―「中村私案」をめぐる補論―

 

 

はじめに―「平成の大合併」の背景と位置づけ―

 

本稿の目的は、「平成の大合併」がいわば、現段階(20046月現在)においても国策として押し進められる中で、栃木県[1]における宇都宮地域と県北地域の合併に注目し、各々の見取り図を整理・把握した上で、とくに合併後の議会制度をめぐる議論状況の打開ないしは是正の提案を行おうとするものである。

19936月の衆参両院における地方分権推進決議を契機に、日本では分権型社会への歯車が具体的に回り始めた。市町村合併に注目すれば、それまでは市町村と都道府県という二層制の地方自治システムを堅持する立場にあった地方分権推進委員会に対して、都道府県の権能拡大を牽制する自民党行政改革推進本部が影響力を行使し、19977月の第2次勧告以降、市町村合併推進に向け舵が切られたという事実がある。これにより分権委は、地方制度調査会答申を受けた合併特例法の改正に伴う一連の合併推進策の流れと歩調を合わせることとなった。19985月の地方分権推進計画の策定を経て、19997月に成立した地方分権一括法の成立において、合併特例法の改正もなされ、合併特例債等の財源措置等が創設され、現在に至っている[2]

この間、国の経済財政諮問会議においても市町村合併推進策が論じられ、200211月には第27次地方制度調査会(首相の諮問機関)において「西尾私案」が明らかとなった。この中で、20053月までに合併しない人口1万人未満の小規模地方自治体は窓口サービスに限定された事務のみを担うか、他の基礎的自治体へ編入され内部団体化せざるを得ないという提案がなされた。

20045月に成立した「新特例法」(正式名称は市町村の合併の特例等に関する法律。以下同)、「合併特例法改正」(市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律)、「地方自治法改正」(地方自治法の一部を改正する法律。以上の3法を総称して「合併新法」と呼称)では、さらに合併の推進政策が盛り込まれ今日に至っている[3]

こうした国家による合併推進政策の奔流の中で、以下に見るように、栃木県においても各地域で合併の取組みがなされている。本稿では、栃木県内の合併状況について宇都宮地域(宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町。これに説明の便宜上、高根沢町を加えることもある)と県北地域(大田原市、黒磯市、黒羽町、塩原町、那須町、西那須野町、湯津上村)を取り上げる。宇都宮地域の場合、二つの合併協議会が並立存在しているという特異性があり、県北地域では、社会運動とも言える住民や団体の動きが広がりつつあるからである(20046月現在)。両地域の合併状況を描写[4]した上で、いずれの地域においても共通の現象として見られる「市町村合併をめぐるローカルガバナンス」[5]の欠陥現象について指摘したい。そして、その欠陥の是正案を、宇都宮地域における合併後の議会制度のあり方をめぐる「私案」として提示したい。

 

 

T.宇都宮地域と県北地域における市町村合併の進捗をめぐる混乱

 

1.宇都宮地域―二つの合併協議会が突き付ける課題―

 

宇都宮市は従来から、南河内、石橋、壬生、芳賀の4町を加えた周辺8町との合併を目指し、研究を重ねてきた。しかし南河内、石橋は隣の国分寺町との三町合併を決め、高根沢町も任意合併協議会には加わったものの、議会の反対により14町という形での法定合併協議会には加わっていない。

 04527日には、事務レベルの協議において、編入する3町に合併後、「地域担当助役」を置く方針を固めた。旧3町に地域自治の拠点となる「地域行政機関」と、住民から選出された代表で組織する「地域自治協議会」の二つの組織を設置し、地域担当助役は、この二つの組織、さらには新市の本庁との調整に当たることを打ち出した[6]

議会制度においては、議員任期の取り扱いをめぐり、定数特例とするか、あるいは在任特例とするのか、さらには合併直後の自主解散を主張する委員もいて結論には至っていない[7]。市町建設計画についても、事務局からは合併特例債をめぐる基本的枠組みや13町の積立金・地方債残高を基準にした財政指標による補正案など準備はされているものの、総論の段階から先には進んでいない。

一方、宇都宮市と高根沢町は、同年4月、高根沢町で実施された住民投票において、宇都宮市との合併協議会を設置する賛成投票数が過半数を超えたことを受け、同年5月、法定合併協議会を設置した[8]。もともと高根沢町は036月に設置された宇都宮地域任意合併協議会に加わり、14町での合併に向けて話し合いに臨んでいたが、0312月に高根沢町議会が宇都宮市を含む13町との法定協参加を否決した。043月に町は議会の意向を受け、芳賀町との法定協を設置した。その後、同市との法定協設置の住民発議に対して町議会は否決したものの、宇都宮市議会は、これまでに同町との法定協議設置議案を可決した。高根沢町の町長は合併特例法の規定に基づき、住民投票実施を請求できる状況が発生していた点に注目し、首長請求による住民投票の実施を決めたというのが経緯の概略である。

芳賀町・高根沢町合併協議会は、044月に第2回合併協議会を開催し、合併方式を新設(対等)合併とし、特例法経過措置期限の06331日までに合併を目指すことを決定したものの、高根沢町が合併相手について結論を出すまでは協議会を開催しないこととし、その期限を046月末までに設定した。

なお、高根沢町では住民レベルにおける「宇都宮市との合併を進める住民の会」や「高根沢町と芳賀町との合併を進める会」が運動を展開した[9]

 

2.黒磯市における市長リコール運動を契機とした那須7市町村合併への模索

 

黒磯市では「市民のための市町村合併を考える会」が昨年、同市の有権者の40%を超える約19,800人の署名を添えて、黒磯市・西那須野町・塩原町の三市町合併の是非を問う住民投票条例の制定を直接請求したが、0310月に、栗川仁市長は反対意見を添えて市議会に付議し、否決された[10]。同会は黒磯市長の解職請求を目指したが、04329日に「(法定)の署名数に届かなかった」として、黒磯市に提出していた解職請求の届けを取り下げる事態となった。同市の有権者数の3分の1は約15,600人であり、独自に重複などを調べた結果、法定有効数には789人届かず署名提出を見送った。

 黒磯市・西那須野町・塩原町合併協議会は、031月に法定合併協議会を設置し、以後、合併方式は新設合併、新市名称は「那須塩原市」と決定した。同年11月の合併協議会において、新議会の定数を32人、在任特例期間を4ヵ月とする事務局案が可決された。04430日には第15回合併協議会を開催し、24の協定項目すべてについてほぼ協議を終了した。624日に合併協定書に調印する予定で、合併は051月となる。

 一方、大田原市への編入合併方式を採用する大田原市・湯津上村・黒羽町合併協議会は053月に合併申請を行うことを固め、同年101日の新市誕生へ向けて進んでいる。031030日に、各議会が法定協議会設置を議決し、同年111日付で法定合併協議会を設置した。04329日に、合併後の議員は「定数特例」扱いとし、定数は29人(大田原21人、湯津上2人、黒羽6人)とすることなどを決めた。合併は0510月となる。

 このように、県北地域では那須町を除き、二つの新市が誕生する構図で進んでいる。しかし、「考える会」に触発される形で別の構図を目指す住民レベルの動きが盛んになっていることも事実である。

 黒磯市を拠点に「那須新風会」が、042月に結成され、大田原市、黒羽町、湯津上村、那須町を合併対象とした合併協議会の設置を黒磯市市長に請求する運動を起こした。西那須野町、塩原町は議会に付議されないとして外し、7市町村が理想としている他の4市町村を対象とした。043月に、北那須5市町村(黒磯、大田原、那須、黒羽、湯津上)による合併協議会設置請求を行ったが、同年421日の大田原市市長が記者会見で、「対象4市町村長の事前の会議で、住民運動として公平で信頼に足るのは、黒磯市長のリコール運動をした市町村合併を考える会ぐらい。それが失敗したら、7市町村合併はないと判断するしかないという共通認識があった。5市町村で合併協を設置したら市民が混乱する。ありえない」と述べた。そして、同年422日の段階で、黒磯市市長が他市町村に意見を照会していた件で、大田原市、黒羽町、湯津上村の各首長がこの日までに「議会に付議しない」と回答する方針を固めた。

 西那須野町では、「『考えましょう町の将来』の会」が、同年422日に、西那須野町、黒磯市、塩原町の三市町合併の是非を問う住民投票条例設置の直接請求(町の有権者34459人のうち2010人の署名)を行った。これを受け、同年430日に西那須野町議会が議会運営委員会を開催し、条例設置を採決する臨時町議会を512日に開くことを決定した。しかし、西那須野町町長は、「3市町以外の選択肢はなく、住民投票を行う考えはない」という考えを示した。512日、西那須野町議会が住民投票条例案を否決した。同会は、530日の集会で、合併後の新市の市長選、市議選を見据えて活動を継続する一方、町内全戸を対象に合併について意見を聞くアンケートの実施を決めた。

 那須町では、住民組織である「七市町村合併那須町民の会」が、56日に合併特例法に基づき、22,326人の有権者(0432日現在)のうち5320人の署名を添え、7市町村の合併協議会設置を那須町町長に直接請求した。那須町町長は同日、対象6市町村の首長に、議会に付議するか否かの意見を照会した。90日以内に回答され、一つでも付議しない回答があった場合、請求は無効となる。那須町町長は「合併協議が進んでいる周辺市町村の動きの中では、現実的には考えられない状況」と発言した。

さらに那須地区では、414日に「七市町村住民による合併推進の会」が「那須新風会」や「七市町村合併那須町民の会」のメンバーが中心となり、各住民代表の連名で組織化された。各市町村で有権者数の50分の1の署名を集め、各首長に対し合併協議会の設置を求めることとなった。複数市町村で同一内容の請求(いわゆる「同一請求」)が行われた場合には、請求を受けたすべての首長は、議会に意見を添えて付議しなければならない(合併特例法第4条の2)という規定を利用するものである。可決されない市町村があれば、長による請求または、その自治体で有権者数の6分の1の署名を集めれば、協議会設置の是非を問う住民投票ができ、投票総数の過半数をクリアすれば自動的に設置される。

518日には、有権者の50分の1以上の署名簿を関係市町村の選管に提出した。署名は17日までに17128人となった。すべての市町村で目標を上回り、必要数計3429人の約5倍を集めた。この日は5市町村で提出し、黒磯市、塩原市は整理の都合で19日の提出となった。同会は、県と県議会議長に対して「(同一請求の)一連の結果が出るまで、3市町の合併審議を待ってくれるよう」要望書を提出するとした。

 

 

U.市町村合併におけるローカルガバナンスの「欠陥」

 

 以上のように、栃木県の宇都宮地域と県北地域における市町村合併の動態を概観したが、そこにはローカルガバナンスの展開にとって、不可欠な存在である「中核アクター」ないしは「コアエグゼクティブ」が見えない(宇都宮地域)、あるいは機能障害(黒磯市・西那須野町・塩原町)を起こしているといえるのではないだろうか。中核アクターとは、ローカルガバナンスにおいて中心となる主導アクター兼調整アクターを指す。各地域によってその性格は様々であろう。首長が主導するところもあれば、議会の総意として世論を見方に付けつつ進めていくところもある。あるいは住民勢力やメディアが実質的に主導することもあり得る。

とくに合併をめぐっては、この中核アクターに要求されるリソース(資源)として、調整力と同時に主導性という一見相反する難しい能力が要求されるのではないだろうか。県北地域の事例に見られたように、リソースの一方の対である主導性がゆがんだ形で先行してしまうと、住民の強い反発を受ける結果となる。そして、合併問題が困難なのは、合併を進捗させる中核アクターの存在が切実に求められるにもかかわらず、国も含めてその影響力行使やこれと取り巻く制度的・感情的環境が、主導性と調整力の共存を許さない状況を導きやすいからではないか。

合併政策領域においても、諸アクターのネットワーク化現象は当然のごとく生じるのであるが、調整ないしは主導アクターの当事者利害関係が強烈であるがゆえに、そのことが中核アクターの形成を難しくしている側面もあろう。そして、合併関連政策は、中核アクターによる先導を認めるネットワークにおける合意形成が大変困難な領域である。

こうした合併政策領域が直面する特有の難しさが地域自治制度の設計にあらわれている。合併によって住民と行政との「距離」があくので、これをカバーするために旧町を単位に地域自治組織を設置する、すなわち、「大きくすると同時に小さくする」という一見相反する政策目標を追及することとなる。具体的には宇都宮地域における「統轄機関」(本庁)と「地方行政機関」が相当し、まさに、ネットワーク化現象に内在する中核化現象が同時に顕在化してくることになる。

長期にわたって合併に向けて取り組んできた安佐地区においてでさえ、議員の任期をめぐり、当初は在任特例を打ち出した。それが直ちに住民による反発を生んだことは、合併をめぐり住民と議会との相互コミュニケーションの結節点が十分に形成されていなかった事実を示している。いわんや他の市町村においては、住民、議員、首長の感情が前面に出てしまい、さらには「昭和の大合併」において特定地区の地域住民が受けた地域間格差の感情を引きずることもある。こうなると、合併が、当該地域において積み重ねられてきたところの文化性や伝統の破壊に加担する恐れすら生じてくる。

 また、内的には合併協議会内における調整の学識経験者、住民(組織)代表、議員の間での相互コミュニケーションのギャップが目立つ。その意味では、首長も議員も制約され、小規模自治体では住民代表者の発言も遠慮がちとなる傾向にある。一方で、「在任特例」と聞いただけで拒絶反応を示すメディアや住民感情が存在することも確かである。 

 

 

V.市町村合併におけるローカルガバナンスの「修正」

 

それでは、合併におけるローカルガバナンスの欠陥を是正し、合意形成を調達していくにはどのようにすればいいのであろうか。ここでは宇都宮地域における13町(宇都宮市、上三川町、上河内、河内町)の議会制度に焦点を絞って考えていきたい。

合併を新しい地域社会構築の「目的」ではなく「手段」と捉えれば、国策としての合併誘導策を当該の地方自治体が、地域の生き残りに向けてある意味でしたたかに利用していかなければならない。避けなければいけないのは、例えば、3町の議員が、宇都宮市議会議員が任期満了までは安泰であることに対する感情的反発が表面化することである。要するに「平成の大合併」に向き合う基本的スタンスをどう築いていくかについてのマニュアルは存在しのであり、当該地域が自ら知恵を絞らなければならないのである。そこで、議会制度に関するその具体的な提案を考えてみたい。

宇都宮地域合併協議会は、2004(平成16)24日に開催された第1回協議会において、「合併の方式は、河内郡上三川町、同郡上河内町及び同郡河内町を廃止し、その区域を宇都宮市に編入する編入合併とする」(議案第7号)ことを決定した。同年216日開催の第1回議会制度小委員会では、第1回協議会の結果を踏まえ、合併後の議員の取り扱いについて議論した。その結果、在任特例か定数特例かは今後の当委員会での審議にまかせるものの、議員任期については合併特例法における特例措置を適用することを決定した。そして、同年416日開催の第3回協議会において、当委員会において「本報告に対する住民の意見、宇都宮地域合併協議会委員の意見等を勘案し、更に十分に審議を重ね、報告することとする」(協議第3号)とされた。

すなわち、合併協議会の決定には至っていないものの(新聞では特例措置を講ずると報道)、少なくとも第1回議会制度小委員会において、何らかの特例措置を用いることの合意形成は既になされたものと見なされる。したがって、第2回議会制度小委員会以降の当委員会における審議の論点はあくまでも、在任特例か定数特例かをめぐる議論となるべきであり、当委員会が既に「決定」したという意味での「正当性」や「手続き」の側面から言っても、「合併時に新市の議会を解散し、新たな議員定数による選挙を行う」という選択肢はあり得ないと考えるのが妥当である。

先日成立した合併新法案(合併推進法案、合併特例法改正案、地方自治法改正案)において、例えば特例法改正案では、2006年(平成18年)3月までに合併する市町村について、合併特例債の発行など現行法を適用する経過措置がとられることとなっている。こうした市町村合併を取り巻く国の推進措置をめぐる状況の変化を捉え、この際、定数特例も在任特例も採用せずに、合併直後に新市の議会が定数を定めた上で自ら解散すべきだという考えがある。しかし、合併新法案の内容については、既に今年1月には判明しており、新聞報道等でも公(おおやけ)にされている。唐突に改正の内容が明らかになったという類のものではない。第1回当小委員会の決定を覆すに足る要因にはならないと考えるべきである。

さらに、合併直後にいきなり議会を解散する「大義」を見出すことができない。有権者に対する議会責任の重さを考慮するならば、「宇都宮市議会議員も合併をめぐっては痛みを分かち合い、もっと汗をかくべきである」ということと、「編入合併」という合併枠組みにおいて、宇都宮市の有権者の投票によって選出された代表者から構成される市議会を2年間の任期を残して合併時に解散することとの間に、整合性があるようにはとても思われない。住民の直接請求制度において、議会解散請求には有権者の3分の1以上の署名を必要としていることの重みを考えればなおさらである。

それでは、何らかの特例措置を用いるとして、議会議員の定数と任期をどのように取り扱えばよいのか。既に当委員会の今までの議論において明らかのように、3町の議員からは、在任特例を採用し、とくに代表制の「数」を維持する観点から従来の議員数を維持しつつ、新市における建設計画の進捗や、新たに生じるであろう政策課題への対応に取り組むべきであるという主張がなされている。合併後の2年間は「移行期間」と理解し、現在の3町が新市においては市内の一地域となるがゆえに、当該地域が新市における政策の推進において不利益とならないよう見守り、監視し、議決権を有した形で政策の決定や実施に参画することが、当該地域の住民のためにも不可欠であるというのである。

一方、定数特例を採用すべきという意見では、現在の宇都宮市の議員数45人はおよそ人口1万人当たり1人の代表となっており、定数特例を採用すれば、3町においてもそれぞれ人口1万人当たりの代表(上三川町3人、上河内町1人、河内町3人)となり、制度的に公平感があるということと、在任特例を採用した結果、総数101人の新市の議会が誕生すれば、地方自治体が置かれている厳しい行財政環境や行政コスト削減の必要性が言われる中、合併の目的と相反し住民の理解を得られない、というものである。

両者の意見の隔たりおよび乖離は現時点では非常に大きい。「地域行政機関」や「地域自治協議会」(いずれも仮称)といった新たな地域自治制度において、中心的な役割を果たしてもらおうという提案も、新市全体の議決権を保有できないという一点で3町の議員には受け入れられる状況にはなっていない。

 

 

W.宇都宮地域合併協議会の議員任期をめぐる私案―「中村私案」の提示―

 

そこで、以下の私案を提案することとする。

 

宇都宮地域合併協議会の議員任期をめぐる私案

中村祐司(宇都宮地域合併協議会議会制度小委員会共通委員。2004620日現在)

 

「『平成17年3月31日までに市町村が議会の議決を経て都道府県知事に合併の申請を行い、平成18年3月31日までに合併したものについて、現行の合併特例法の規定を適用する』という改正合併特例法を受けて、知事への合併申請を平成17年(2005年)3月とし、新市の合併時期はその1年後の平成18年(2006年)3月とする。

県知事への合併申請から合併までの1年間、宇都宮市議会、上三川町議会、上河内町議会、河内町議会の各議会は、合併後の地域自治制度の運用や建設計画、議会運営、住民参加の活用等について、例えば、各議会の委員会構成議員間での協議機関を設けるなど、議会間調整に取り組むと同時に、合併後の住民と議会、執行部と議会、執行部と住民といった相互の協働関係構築のための具体的方策について真摯に検討し、その過程と成果を公表する。また、合併後の新市のあり方について、住民や住民団体組織、コミュニティ組織、NPO等との協議の場を定期的に設けることとする。

平成184月の合併時に1年間(編入先の残任期間)の在任特例を適用する(定数101人)。平成18年4月から平成193月までの新議会における議員年額報酬の総額については、平成174月から平成183月までの1年間における宇都宮市議会、上三川町議会、上河内町議会、河内町議会の議員年額報酬総額の3割減とし、議員一人当たりの年額報酬(議長や副議長も含む)についても一律に3割減となるよう設定する。政務調査費等についても同様の取り扱いとする。合併後の最初の一般選挙(平成194月)に定数特例を適用するか否か、また、定数特例を適用しない場合の定数については、平成184月以降の新議会における審議を通じて決定する。

1年間の新議会運営においては、既存の議会棟や本庁舎施設の活用に徹し、議場の新設等は一切行わないこととする。」

 

 

おわりに―「中村私案」をめぐる補論―

 

 合併期日の延長については、先述したように平成10年(1998年)3月に合併協議会を立ち上げ、以後合併に向けた協議を積み上げてきた安佐地区(佐野市、田沼町、葛生町)において、住民の反発によって在任特例の適用が中止せざるを得なかった事例や、大平町、藤岡町、岩舟町の合併協議会が解消した事例にあるように、合併をめぐっては感情的な対立を避けつつ、関係市町村間の調整事項を慎重に一つ一つ解決していくと同時に、住民に対して十分な説明を行い、合意を形成していかなければならない。合併をめぐる関係者間の合意に加えて、住民への説明責任が貫徹されなければならない。

この点で、現在に至るまで関係市町の取組みを見る限り、合併協議会を支える議会制度、市町建設計画、地域自治制度の3つの小委員会における議論において、合併を見据えた委員間の意思疎通が十分に行われている状況にはない。また、「合併協議会だより」や各種パンフレット、ホームページへの議事録等の公開など、事務局による住民への情報公開の工夫はなされてはいるものの、これが住民の間に浸透し、関心を喚起しているようには思われない。

加えて、今年(平成16年)4月に高根沢町で実施された住民投票により、宇都宮市との合併協議会設置の賛成投票が過半数を超えたことを受け、同年5月、高根沢町との間に宇都宮市長を会長とする合併協議会が設置された。一つの市が同時に二つの合併協議会を立ち上げたという事例は全国的にもほとんどなく、例えば、宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町、高根沢町の1市4町による小委員会の合同開催をめぐって、委員間での見解が異なり、現段階(平成166月)では合意形成に至っていない。

こうした状況を考慮するならば、合併特例法の改正によって合併期日が平成183月に延長されたことを、「先延ばし」としてではなく、住民の理解と合併後の新市のあり方をめぐって「議論を深める期間」として捉える必要がある。

平成184月の合併時に在任特例を適用し、1年間とはいうものの、定数101人の議会が誕生することについて、合併が行財政基盤の強化と行政効率化を第一義的な目的として掲げていることからも、合併の趣旨そのものに反するのではないかという批判は確かにあろう。そのような受け止め方は、全国的傾向として、住民感情のみならず新聞報道等においても現れているところである。しかし、1市3町が平成162月に合併方式を「編入」合併と決定して以来、その後の3町の対応を見ると、宇都宮市と比較して相対的に小規模な3町が、宇都宮市に「飲み込まれてしまう」のではないかという懸念が、どうしても前面に出てこざるを得ない状況となっている。

 議会制度をめぐるこの点の不安の解消は、編入される3町の議員定数を一定期間維持することで解消される。したがって、この際、合併期日の延長を利用する形で、在任特例の期間を平成174月から平成193月までの2年間ではなく、平成184月から平成193月までの1年間に限って適用することとした次第である。同時に、合併関係市町の議員職そのものに影響が及ぶという事実と、上記の合併趣旨とを合わせて考えるならば、宇都宮市の議会議員についても合併に伴う「痛み」を具体的に13町の議員が分かち合う必要性が生じている。

 そこで、住民から見て分かりやすい形での合併本来の趣旨につながる「痛みの分かち合い」として、「平成18年4月から平成193月までの新議会における議員年額報酬の総額については、平成174月から平成183月までの1年間における宇都宮市議会、上三川町議会、上河内町議会、河内町議会の議員年額報酬総額の3割減とし、議員一人当たりの年額報酬(議長や副議長なども含む)についても一律に3割減となるよう設定する」という提案を行った次第である。

 平成15年(2003年)6月に当時は高根沢町を含む14町で任意合併協議会が設立された。合併への取組みが開始されたこの時期を起点として、以後、13町が1年毎に各々、議員報酬の1割削減を達成してきたと想定すれば、こうした「痛みの分かち合い」の結果として、平成183月の合併時までのおよそ3年間で「3割減」を達成したという説明には整合性があるように思われる。

 また、在任特例を適用した場合、新議会の定数101人の内訳は、旧宇都宮市45人、旧上三川町20人、上河内町16人、河内町20人となり、各地域の人口当たりの代表者選出という点で著しくバランスを欠くこととなる。しかし、まさに1年間の特例としてこの期間は議員の報酬格差が、現行では月額で宇都宮市67万円、上三川町255000円、上河内町20万円、河内町275000円であるのが、3割減によって、宇都宮市469000円(百円単位四捨五入。以下同)、上三川町179000円、上河内町14万円、河内町193000円となるのである。1年間を限度として、議会構成において上三川町、上河内町、河内町に手厚い地域別代表者のアンバランスと、宇都宮市に手厚い議員報酬のアンバランスとが相殺されると理解してよいのではないだろうか。

 

 



[1] 栃木県内における0411日現在での合併進捗状況は、安佐地区におる佐野市・田沼町・葛生町、南那須野地区における烏山町、馬頭町、南那須町、小川町、芳賀地区における真岡市、二宮町、益子町、茂木町、市貝町、そして、黒磯市・西那須野町・塩原町の12町、大田原市・湯津上村・黒羽町の111村、日光広域における今市市、日光市、足尾町、栗山村、藤原町の22町、南河内町・石橋町・国分寺町の3町、宇都宮地区における宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町の13町、大平町・岩舟町・藤岡町の3町、氏家町・喜連川町の2町、矢板市・塩谷町の11町、芳賀町・高根沢町の2町による取組みが行われていた。その後、粟野町と鹿沼市の間で西方町を加えた合併に向けた動きが見られるものの、西方町(町長)は栃木市との間で任意合併協議会を設置し、その後都賀町を加えたいという意向があるという報道もなされており不透明な状況である。また、本庁者の位置をめぐる調整がつかす、04430日には大平、岩舟。藤岡三町の法定合併協議会が廃止された。

なお、本稿では言及しないものの、今後の研究課題として当該地域の住民レベルから生じた運動体の動きにも注目していきたい。宇都宮地域と県北地域以外の地域レベルの住民、商工団体や青年会議所の関係者あるいは議員による運動の会ないしはグループを羅列すれば以下のようになる。

すなわち、矢板市における「合併を考える議員の勉強会」(対等合併とは一線を画す立場で、合併協議会委員も含め市議8人で04421日にスタート。編入派、再度塩谷広域合併を目指す、合併自体に慎重あるいは反対という意見を持った議員の集まり)、芳賀町の「芳賀郡市との合併を進める住民の会」(芳賀地区の1市4町との合併を支持する町民らが結成し、0456日現在、1市5町の法定合併協議会の設置請求に向けた住民発議の手続きを行い、1カ月間の署名活動に入る予定)、粟野町永野地区「永野の未来を考える会」(0467日に栃木市との合併を求める陳情書を粟野町町長に、要望書を栃木市市長に署名を添えて提出した。0462日現在で、署名人数は同地区有権者1308人中、81.9%に当たる1071人)、「石橋町の将来を考える会」(宇都宮市との合併を求める石橋町の住民で組織。0462日までに、合併特例法に基づく同市との合併協議会設置の請求書を同町役場に提出。参院選終了後に署名活動を展開する予定。会員は50人)、岩舟町における「岩舟町・藤岡町の合併を要望する会」(岩舟町商工会青年部のメンバーら構成。04518日に、両町に合併協議の開始を働き掛けるための署名活動を開始。同年64日に、執行部と議会に合併実現を求める要望書を約7000人分の署名を添えて提出)といった運動体の誕生がそれである。

[2] 地方分権推進委員会による第5次勧告までの経緯については、拙稿「地方分権と行政」(『現代法学と憲法』北樹出版、1999年4月)309317頁を参照。

[3] 「新特例法」は054月から5年間の時限立法で、都道府県による市町村合併に関する構想の策定や、知事による合併協議会設置の勧告を認めている。また、合併に際し、法人格を持つ「合併特例区」を最大5年間設置できる。その他にも合併による新市設置の要件を人口3万人(地方自治法では5万人)とする特例の継続がなされている。「地方自治法改正」では、住民自治の強化を目的に、市町村内に「地域自治区」の設置が可能となった。「特例法改正」では、063月までに合併する市町村について、合併特例債の発行など現行法を適用する経過措置がとられた。なお、全国の市町村数は0441日現在で、3,100となっており、内訳は市695、町1,872、村533である。

[4] 合併状況の把握に当たっては、本稿が対象とした期間における下野新聞および朝日新聞朝刊(栃木版)の記事をもととした。また、筆者は20046月現在、宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町から構成される宇都宮地域合併協議会における共通委員を務めており、当合併協議会の下部組織である議会制度小委員会および市町建設計画小委員会の共通委員である。また、宇都宮市・高根沢町合併協議会においても同様な役割を担っている。さらに、とくに県北地域においては、複数回にわたって講演者あるいは研究会の講師として当地で合併問題について論じる機会があった。さらに地方議員との勉強会等にも参加する機会もあり、本稿作成にはそうした実際の活動から得られた知見にももとづいていることを指摘しておきたい。

[5] ここでは、市町村合併をめぐる「ローカルガバナンス」を、「市町村合併をめぐり、議会や首長(行政執行部)、合併協議会、住民組織・住民団体、住民運動団体、各種メディアなどの関係諸アクターや、各アクターが掲げる目的を達成しようとする際の調整や、特定の方向への合意形成に向けてなされる制御ないしはその手法」と設定しておく。

[6] 宇都宮市が考える住民代表組織(=地域自治協議会。具体的には「上三川地域自治協議会」「上河内地域自治協議会」「河内地域自治協議会」)は、地域住民の中から所定の方法によって選出された「代表」による合議制の組織を想定し、これを「住民代表組織」と呼称している。住民代表組織の役割は、@当該地域の施策・事務事業等の立案への参画、A当該地域に関する計画の策定への参画、B市町建設計画の執行状況に対し意見を述べるなど、合併特例法における「地域審議会」の役割、を果たす。また、「地域行政機関」は住民組織(コミュニティ組織)やNPO等の各組織間における、「よこの連携」を調整すると位置づけられている。その他にも、地域を担当する特別職の配置するとしている。(200464日開催の「宇都宮市・高根沢町合併協議会第1回議会制度小委員会資料」より)。

[7] 議員任期の取り扱いについては、以下の6つのパターンが議論のたたき台となっている。すなわち、@地方自治法による原則のうち合併時に増員選挙を実施しない場合、A地方自治法による原則のうち合併時に増員選挙を実施する場合、B合併時のみに定数特例を適用する場合、C合併時に定数特例+合併後の最初の一般選挙に定数特例を適用する場合、D合併時のみに在任特例を適用する場合、E合併時に在任特例+合併後の最初の一般選挙に定数特例を適用する場合、F合併後に新市の議会を解散し、新たな議員定数による選挙を行う(合併後、新定数を定めた後、自主解散する)である。(200464日開催の「宇都宮市・高根沢町合併協議会第1回議会制度小委員会資料」より)。

[8] 宇都宮地域合併協議会と同様、宇都宮市・高根沢町合併協議会においても、これに連なる形で小委員会(特命事項について調査・審議する機関)、幹事会(付議事案の協議・調整や専門部会活動を進行管理する機関)、専門部会(それぞれの部門で、専門的に協議・調整を行う機関)、分科会(各種事務事業の現況調査や調整方針案を作成する機関)が数を増やしながらツリー状に構成されている。

[9] その他に河内町において、「合併を真剣に考える会」が044月に結成された。編入合併に反対の2町議が呼びかけ、有志30人で構成され、宇都宮市への編入合併か上河内町との対等2町合併かを問う住民投票の実施を目指している。

[10] 当時、筆者はこうした事態に関する取材を毎日新聞記者柴田光二氏から受け、インタビュ内容は031020日付毎日新聞朝刊栃木版に掲載された。この記事内容については、柴田氏の質問に答えて筆者が文章化したものがもととなっている(以下の「Q」が柴田氏による質問内容、「A」がそれに対する回答)。住民投票条例の制定請求に対する黒磯市市長の「制定すべきではない」という意見とその後の黒磯市議会の否決には、首長および議会の対応の正当性という点で問題があるように思われる。上記記事内容は以下の通りである。

「Q:住民の住民投票条例制定を定めた直接請求はどのように受け止めるべきなのか。

 A:自分たちの住む地域の問題を自分たちで決めていくという意思表明。特にこじれた場合、住民の意思表明を行う機会を持つことは不可欠だ。住民の意思を尊重する道具としての住民投票が大切な選択肢となるべきだ。

 Q:1マン9000人を超える署名数は。

 A:極めて重い。首長、議会は住民投票によって示された民意を重要な判断材料とすればよいのであって、これを門前払いすることはあってはならない。

 Q:過去の合併で学ぶべきものは。

 A:昭和の大合併で得た最大の教訓は、民意を尊重しない強制に近い合併は後々まで住民にしこりを残すというものだった。

 Q:今回の合併の進め方で望むことは。

 A:平成の市町村合併は、明治、昭和の大合併に匹敵する歴史的な大改革。国のかたちを変えるという枢要な課題の担い手は、結局は該当地域に生活する住民。法的にも住民を巻き込んだ形での議論が大前提だ。住民生活基盤となる『器』のあり方を住民の目線に立たない形で首長や議員が考えることがあってはならないし、そのような姿勢は論外といわざるを得ない。

 Q:合併特例法の適用期限の053月まで時間がないと言われるが。

 A:法定合併協議会は、実はその解散や他の市町村の参加なども含め、柔軟に運用できるもので、少なくとも『もう決まった』だとか『今更変えられない』という理屈は成り立たない。本格的な議論をする絶好の機会だ。

 A:首長、議員、職員に一言。

 Q:市長と議員に問いたい。本当にあなたたちは住民を代表しているのかと。現状のような透明性もなければ、理論的な説明もないまま、合併を進めていっていいのだろうか。それこそが時代の趨勢に逆行するのではないか。職員に聞きたい。合併問題をめぐる現状の住民に対する説明行為は果たして『バランスが取れたものとなっているのか』と。

 Q:条例制定を議会が否決した場合、住民は今後どうすべきか。

 A:このまま、住民の意思を回避した形で合併への取り組みを進めれば、必ず歴史的な取り戻しの出来ない禍根を残す。住民側は、首長解職請求あるいは議会解散請求に踏み出してもいいのではないか。」