Waki010155 「地方自治論」レーポート

                   

   「行政と市民 そして外国籍の人たちと協働でする

      住みやすい【まちづくり】をつくる」     国際社会 和気和子

 

背景・目的

 

日本国内に居住する外国人やその家族は年々確実に増加している。 東京や千葉などの大都市のみならず、全国津々浦々、小さな町、およそこんな所でと思う地域で働いている外国人の姿を目にするようになった。 私たちの周辺にも外国人家族が居住し、日常生活においても身近な存在となり、外国人と接することは珍しくなくなっている。単一民族、島国根性、閉鎖性のイメージの強い日本人と異文化、異教徒の外国人と共存共栄は可能なのだろうか。 国境をこえ、はるばる日本に夢と希望そして仕事を求めてやって来た外国人に対して、人種差別や、偏見で地域から排除していないだろうか。 受け入れ国である日本政府、地方自治体や地域住民は共生のための十分な対応策や条件整備が準備されているのだろうか。

外国籍の人達が日本で安心して平和な生活を営み、地域住民との相互理解と友好なコミュニケーションを持つためにはどうすればよいか。  栃木県宇都宮市周辺の外国人労働者とその家族が抱える問題の背景などを行政と地域住民はどのように取り組んでいるのか調査する。

 

 現状と問題点

 

  1987年以降、日本経済が国際化するとともに急激に外国人労働者が増え続け、

 現在、栃木県内だけでも21,082人の外国籍の人やその家族が滞在している。

  日本は今、高齢化社会、少子化が進む中で、日本経済を支えるためにも、若年の

 外国人労働者の労働力が不可欠である。 受け入れ国である国は、地域レベル, 企業レベル、国レベルで充分な協力体制や対応策が必要である。 言語、文化、生活様式など異なる外国人の人口が増加するにつれて、わが国の伝統的な社会風土やさまざま摩擦が発生することも不可避である。単一民族から多民族国家へと国際化へ脱皮するためにも日本人一人ひとりが意識改革をしなければならない。

  宇都宮市東部地区の清原工業団地の地域住民がかかえる問題点や共存共生のための住みやすい地域社会をつくるための対策や、栃木県国際交流相談センターにおける外国籍の人たちの悩みや相談を行政と外国人と地域住民がどのように対応し、解決して住みやすい地域づくりがされているか動向を探ってみた。

 

 

 

 

 

問題点と改善

 

   平成13年 栃木県国際交流の窓口相談より

 外国籍者からの相談  (1100件)

1.         民事・・家庭内、交通事故、住宅、金銭にかかわるトラブル  36%

2.         日本滞在・・ビザ取得、更新、変更や在留特別許可申請    15%

3.         労働・・就職、職場での事故、派遣会社とのトラブル     14%

4.         医療福祉・・精神相談、医療福祉サービス、健康保険、年金などの情報提供や

診療時のコミュニケーションについて      14%

5.         教育・・日本語講座、学校内でのトラブル、進学、奨学金につぃて 12%

 

日本人からの相談  (550件)

1. トランスレーターバンク・・公的機関への翻通訳者の紹介、協力依頼について 25%

2. 教育・・外国語講座、留学等について              18%

3. 民事・・住宅、コミュニケーションづくり、金銭トラブル、騒音など 12% 

4. 医療福祉・・外国人への医療制度適用、情報提供について     11%

5. 日本滞在・・外国籍の夫や妻のビザ申請、婚姻によって生じるビザの変更、

         在留特別許可などについて             7%

 

相談内容から特に深刻な問題点

 

1.不法(未登録)就労外国人が滞日外国人就労者の全体の半分を占める

不法就労外国人の問題を考える上で、彼らが法律的身分のゆえに基本的人権が保障されていない状態での生活を強いられているという事実である。不法就労外国人の多くは、男性は建設、製造業、サービス業など中小企業を中心とした3Kという労働、女性は風俗関連業職種(ホステス)、サービス業などで、決して良好とはいえない労働環境の下で働いている。彼らのもっとも深刻な問題として、医療と金銭トラブルである。

 不法(未登録)就労外国人は現状では国保への道は閉ざされているし、彼らが就労している場合でも100%、社会保険から排除され問題化している。不時の病気、怪我などで、

診療機関で診療を受けても、高額な治療費の支払いが大きな負担となり、病院側とトラブルが生じている。医療保険に加入推進や市町村での無料健康相談所などの設置など緊急に対応しなければならない。  (栃木県では、平成14年の予算に、不法滞在している

外国人の緊急医療にかかる費用への補助制度を創設。 医療機関が徴収の努力をしても困難なケースに限って、医療費の7割を助成する。)

 

 2.女性就労者の事件や事故

  女性不法就労者の職種は、風俗営業関連業職種(ホステス)に集中する傾向があったが、 ここ数年その職種(工員・雑役・店員)が多様化している。しかし、彼女達は「短期滞在」 の観光か、「興行」の資格で入国する。そのほとんどが仲介ブローカーによって、各地の バーやキャバレー、クラブ、売春など低賃金で就労している。 

彼女たちの収入から仲介ブローカーによるピンハネや、売春強要、逃亡防止のため暴力や監禁など人権の観点からみて、大きな問題である。また、風俗産業で就労している女性の国民健康保険の加入が極端に低いため、病気にかかったときの高額な治療費が払えないなど深刻な状態である。

  日本社会に風俗産業に従事する女性への需要があるという事実に私たちは社会のあり方を深く問わなければならない。日本の事情をよく知らずにやって来る彼女たちの問題もさりながら、日本人のアジアに対する蔑視感情、性をめぐる男性本位の価値観、これを容認する空気、日本社会や日本人のモラルが問われる。(外国籍の女性に対する支援に「駆け込み寺」などボランティア団体が女性人権問題の受け入れを各地で活動している。)

 

女性に関するその他の相談(自分と関わった相談より)

 日本人男性との結婚によるトラブル

 例1・アジア女性(40歳代) 一児の母 日本在住16

  日本人ブローカーの紹介で日本人男性と偽装結婚し,日本人妻として来日,ホステスをしながら,本国の家族や親戚に送金する。偽装結婚とはいえ,30歳以上の年の差の夫(無職)に従順に使えていたが,妊娠8ケ月の時に男性は離婚用紙だけを置いて逃げてしまう。 身ごもの体で働けず,収入もなく,行政や知人にも相談できずに本国での出産を余儀なくされた。彼女の収入に頼っていた家族によって追い立てられるように産後数ヶ月で日本に戻り,昼はカラオケボックス,夜はホステスとして働き,稼ぎの中から60%を送金している。子どもの認知問題や高収入で稼げる日本にどうしても働きたい希望の彼女は夫の帰りを待ちながら,在留期限3年の期限が切れて、日本人の配偶者という資格も失ってしまった。理不尽な扱いを受けた日本になぜ戻って、今後も日本で働きたいのかの問いに経済力のある日本,治安の良い、住みやすい日本はアジアの女性にとって稼げる魅力ある国らしい。

  彼女の支援策は; 在留資格を失った外国籍の人たちが日本に滞在するには在留資格の変更の許可を受けなければならない。「定住者」の資格を取得するには在日籍、自活能力、親権の有無など厳しく入管局によって審査される。知人の少ない彼女にボランティア団体による支援は国際交流など積極的な社会参加、語学指導や郷土料理など地域交流に協力することにより、事業主に信頼と勤勉な働きが認めてもらい保証人になってもらう。入管局での印象もよく、更新手続きもスムーズにもらえるようになった。彼女の日本に長く住みたいという希望と地域に溶け込んだ交流の結果と思う。

 

 例2・アジア女性(30歳代) 2児の母

  ホステス時代に兼業農家(大地主)の長男と知り合い結婚、跡取のため義父母と同居し農業を手伝う。結婚と同時に日本名に改名され、服装や化粧など日本人らしくするように強要される。跡取りの孫を産んだことで、義父母に大変感謝されるが、外国籍の嫁にはいつも辛く当たる。たとえば、買物のレシートのチェック、本国に勝手に送金しているのではないかと、息子の給料を管理している。近所の人前でしゃべるな。(外国人、元ホステスであることがばれるから)。里帰りをさせてくれない。帰るのなら1人で帰れ(離婚をすすめる)。慣れない農作業でダウンし入院する。

  彼女の支援策は;大農家の跡取りの嫁は日本人でさえ、摩擦があるのに、まして、外国人(元ホステス)となればなおさらである。嫁と義父母との確執はどこの家庭でもあることを説明する。しかし、彼女の場合は外国人に対する人権差別が根底にあり、家族の一員と認めようとしない義父母の不平等な扱いが問題である。ボランティア支援団体は、彼女の悩みや状況を聞くことにより、日本の文化、生活習慣そして長男の嫁としての立場を理解してもらい、彼女を日本人妻として強く生きるよう期待する。彼女は義父母の押し付けな言動を全部聞こうとせず半分にして、PTA、趣味の会への参加、パートタイムの仕事することで外に心を向けたことや、友人が増えたことが前向きに日本人妻として生活することができた。

 

 考  察

 

   清原工業団地の住民の約20%が外国籍の人達が住んでいる。行政や地域、学校関係は外国人労働者やその家族の受け入れに対し、既存の政策システムがほとんど無い状態で共生のため、みずから対応策を創らねばならない。日本語がまったく理解できない、文化や宗教の違う外国人が地域に住むとき、さまざまなトラブルや行き違いが生じるのは当然である。まず、ゴミの出し方を説明しょうとしても日本語が分からないでは、お互い不満が募っていく。 清原地区では外国籍の人達と共生するためのコミュニケーションづくりと明るい住みやすい地域にするために清原国際交流を設立する。語学指導グループ(日本語、ポルトガル語、スペイン語など)、支援グループ(生活のための日本文化や料理指導)、広報グループ(5ヶ国語による医療、施設などのガイドブック作成)など外国籍の方々と地域が同じ清原地区の住民として相互理解を深め、楽しく、快適に生活できるように地域活性化のため活動している。

   わが国 自治法の第2章『住民』で、市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村およびこれを包括する都道府県の住民とする【第10条】でのべている。そして、「住民は普通地方公共団体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を分担する義務を負う。」つまり、住所をもちさえすれば日本人であるか,否かは問わず住民たりうるのである。また、アメリカ人であれ、中国人であれ、ブラジル人であれ、当該市町村に住所を持ち、日本人と区別のない住民として行政サービスを受ける権利がある。「外国人も住民である」。現在は「外国籍の市民または県民」と呼ばれている。

  清原地区の外国籍の人たちも、栃木県国際交流に相談に来る外国籍の方たちも、日本の国民と同等な人権を保障されているのであって、外国人労働者およびその家族、子ども達が差別や偏見の対象にならないよう、受け入れ国、地方自治体そして市民は強く意識の改善が急務である。

   日本社会が確実に多文化、多民族社会に移行している。このような実態にどのようにお互いの異文化を尊重し合い、差別なく共に生きる社会を実現するか課題である。

 

  参考文献;あなたの隣人       花見 忠・桑原靖夫  東洋経済新報社

       外国人労働者と日本社会  宮島 喬       明石書店

       外国人労働者と人権    丹波雅雄       開放出版社