Satom030114  「地方自治論」レポート

 

学生による宇都宮のまちづくりの現状と課題〜イエローフィッシュを例として〜

 

k010122 佐藤麻衣子

 

<背景>

近年、宇都宮市の中心市街地(オリオン・ユニオン通り、県庁・市役所、二荒山神社、JR宇都宮駅西大通り・東武宇都宮駅周辺)では、ある変化が見られるようになってきた。人の往来やそこに住む人が減少し、ゆえに商店街の売上額が減少、空き店舗が目立つようになるなど、活気がなくなってきているのだ。2年前に筆者が初めて宇都宮市を訪れたときも、シャッターを下ろしている店舗があちこちに見受けられた。空き店舗や昼間でもシャッターを下ろしている商店街の雰囲気は決してよいものではなく、むしろ暗いイメージを人々に与えがちである。中心市街地空洞化の要因としては、地価、人口、駐車場、モータリゼーション、郊外型大型店などが考えられる。まず、郊外と比べて高い固定資産税や地価によって人口が郊外へ流出している。また、モータリゼーション(保有台数など)が急激に進んでいるのにもかかわらず、使い勝手の良い無料ないしは低料金の大型駐車場が、中心市街地では東武デパートを除いて極めて少ない。一般的に男性に比べて運転が上手でないとされる女性にとって、自走式でない駐車場へ駐車するのはたいへんな手間と時間がかかってしまう。さらに、環状線などの道路が整備され、便利で使いやすい駐車場を持つ大型店がオープンしたことにより、人々の足はますます郊外へと向くようになっていった。こうして、中心市街地の空洞化が進んでいったのである。

そこで、中心市街地空洞化の状況に危機感を持った人々が立ち上がった。中でも、中心市街地に賑わいと活気を取り戻すために、宇都宮市では中心市街地活性化法に基づき、平成113月に「宇都宮市中心市街地活性化基本計画」を策定した。また、行政の持つ信頼性、民間の持つ経営力や多くの企業によるネットワークが活用できる、公共と民間が一体となった第3セクターとして「宇都宮まちづくり推進機構」を設立した。要するにこの機構は、公共と民間のコーディネーターとしての役割を担い、市民が主体となったまちづくりの実践の場でもある。

 

<イエローフィッシュの活動>

このように街づくりへの熱が高まる中、平成145月にまちづくり交流センター「イエローフィッシュ」がオープンした。(所在地:宇都宮市江野町10-3)その愛称は、宇都宮の郷土玩具の黄鮒に由来している。イエローフィッシュとは、街づくりを推進する学生中心の組織を指す場合と、施設自体を指す場合とがある。イエローフィッシュは「宇都宮まちづくり推進機構」賑わいづくり部会の事業の一つである。オリオン通り沿いにあるガレージを改装し、宇都宮市内の学生が主体となって運営している。しかし、なぜ学生の力が必要となったのだろうか。それは大学・短大の保有する資源を街づくりに活用するためである。若者、特に学生の持つ豊富な時間と、柔軟で斬新な発想から街づくりを考える。そして街づくりのための調査・研究を行い発表することにより、地域に情報を発信し、市民を啓蒙することが期待されている。

 次に活動内容について述べていきたい。中心となって活動しているのは、宇都宮大学・帝京大学・作新学院大学生である。

@     センターの開放 

センターは事務所であると同時に一般市民にも開放され、自由に出入りすることができる。中にはいすやテーブル、おしゃれなトイレや簡単なキッチン、パソコンやコピー機などが置かれ、利用料はコピー代の実費以外は無料である。最近流行のカフェ的な要素を持っていることが、センターの特徴である。また、昨年5月のオープニングセレモニーの際に発表された研究資料や、イエローフィッシュが載った新聞を閲覧することができる。できるだけ多くの市民に交流の場としてもらうために、メンバーの学生は当番制で基本的に毎日センターを開放・管理している。毎週金曜日には定期的にミーティングを行っている。

A     祭りなどのイベントへの参加

8月に行われた宮まつりの際、休憩所兼カフェとしてセンターを開放した(実際には警備の警察官にほとんど占拠されてしまったが)。また、10月の宮の市では、宇都宮市の名物である餃子を販売した。イエローフィッシュは発足して一年も経過しておらず、まだまだその知名度は低い。このように大きなイベントに参加しての広報活動は、その存在をアピールするには有効であった。

B     広報活動、情報の発信 

定期的にタウン情報誌「MONMIYA」にイエローフィッシュの活動を紹介する記事を載せている。また、活動報告新聞「黄ぶな通信」を発行している。さらに、メインストリートからは少し離れてはいるが、魅力のある店が並ぶ釜川沿いを紹介しようと「釜川マップ」を作成した。このように、地域に根ざした情報を発信することも街づくりの第一歩である。

C     清掃活動

商店街の通路や川の清掃も、一見地味ではあるが大切な活動の一つである。

D     意見交換会

商工会議所の役員や商店街代表者との意見交換会やディスカッションを行った。

 

<問題点・改善すべき点>

 しかし、筆者はここでイエローフィッシュの改善すべき点、問題点についても提起したい。まず、イベントはあくまで一時的なものであって、街の活性化に直結するものではない。市民に自分の住んでいる街について知ってもらい、愛着を持ってもらうための企画が必要である。そのための交流施設としてのセンターではあるが、駐車場どころか、自転車置き場さえ満足にない。広い宇都宮各地からこのような不便なところに、本当に学生や市民は集まるのだろうか。また、本業が学生であるがゆえに、その運営は不定期になりがちで、市民がセンターを利用しようとしても開いていないことがある。発足当初と比べてメンバーが減り、固定化し、イエローフィッシュ自体に活気がなくなってきていることも問題である。これらを解決するためには、やはりメンバーの増員を図らなければならないだろう。新しいメンバーによる新しいアイディアは、よい刺激となりモチベーションも上がっていく。場合によっては「イエローフィッシュ宇都宮大学支部」のようなサークルを各大学に設けてしまってもよい。そうすれば勧誘や広報もしやすくなるだろう。また、頑なに「学生」にこだわる必要はなく、若者の斬新なアイディアを期待するならば、学生だけでなく社会人もメンバーに取り込むべきだ。学生側からの視点プラス社会人側からの視点で、まちづくりを考えてみてはどうだろうか。

 さらに、商店街はイエローフィッシュに期待はしているが、あまり協力的ではない、ということもメンバーへのインタビューから明らかになってきた。例えば、オリオン通りにあるアパレル洋品店から衣服を持ち寄り、ファッションショーを開催しようとしたが、衣服が汚れることを懸念した店主側の反対に遭い、挫折してしまったことがあったようだ。若者の自由で斬新な発想を、理想に過ぎないとして頭ごなしに却下するのではイエローフィッシュ設立の意味がない。しかし周囲の協力なしには活動が円滑に進まない。保守的な商店街側の協力はどうしたら得られるのだろうか。私はその解決策として組織改変を挙げたい。現在、宇都宮市では商工会議所、まちづくり推進機構、各商店街組合などでそれぞれ独自の活性化政策が企画されている。そのため、計画が重複してしまう危険性があり、効率も悪い。そこで分散している組織を一つにまとめたり、歩み寄って連絡調整を行ったりすれば、より効果的な活性化計画が現実に実行されやすくなる。そうすれば若者の声に耳を傾ける余裕も出るのではないだろうか。

 

<まとめ>

イエローフィッシュの1年目は、組織の基盤作りや存在をアピールすることに、ほとんどのエネルギーを費やしていたように思う。来年度、2年目こそが正念場となるだろう。中心市街地が活性化するには、少しでも多くの宇都宮市民が自分の街を省みて、街をよりよく変えていきたいと願うことが大切である。2年目のイエローフィッシュに、その手伝いができる力があることを期待する。

 

*資料

  

 *参照サイト

     http://www,ucatv.ne,jp/  宇都宮まちづくり推進機構のホームページ。