kimuraf030114 「地方自治論」レポート
「東京都環状七号線内側におけるロードプライシング制度導入の現状と課題」k010119 木村文佳
1. ロードプライシング制度とは
現在、東京における自動車交通渋滞は慢性化し、東京の都市活動に約5兆円とも試算される大きな経済損失を与えるだけでなく、自動車排出ガスは人体だけでなく、地球環境にも影響を及ぼす。
ロードプライシングは、このような自動車交通がもたらす問題を改善することができ、特定の道路や地域、時間帯における自動車利用者に対して課金をおこなう制度である。この課金により自動車交通量の抑制と環境の改善を図ることが期待される。
2. 現在の実施案
(1)対象区域
基本的に、ロードプライシングは渋滞緩和と大気環境の改善を目的としているので、対象区域は自動車交通の集中密度が高い地域又は自動車からの窒素酸化物排出密度が高い地域とすることが適当である。このような基本的な考え方から、
@
A@にさらに
BAにさらに
CBにさらに
(2)対象車種
除外対象車を除く全ての自動車
除外対象車 @道路交通法で定める緊急要務に使用する自動車。消防車、救急車、警察用自動車など。
A公共交通機関である路線バス。
B下肢機能に障害を持つ者が運転する自動車。なお、この場合以外の障害を持つ者の移動に必要な自動車については課金額の割引を検討中。
C自動二輪車。他の自動車に比べ渋滞、大気汚染への影響が少ないため。
D対象区域を通過する首都高速道路走行自動車。
(3)課金額
小型車400円〜600円 大型車800円〜1200円
この金額は、具体的目標を設定して、その達成に必要な初期課金額を設定し、この初期課金額について、社会的、経済的な妥当性や受容性に考慮した修正を行い、なお検討中である。
(4)課金時期
年間を通して平日(月曜〜金曜)の午前7時〜午後7時
自動車交通の調査の結果、午前7時頃〜午後7時頃までの間に交通量が多く、また、月別交通量は年間を通してほぼ一定しているから。
(5)課金方式
課金方式には一定の区域内に進入する自動車に課金するコードン方式や、一定の区域内を走行するエリア方式などがある。エリア方式は対象区域が広いほど効果が期待され、コードン方式は区域境界線上に課金するためのチェックポイントを設ければよいので、実現性やコストの面で優れているので、今回はコードン方式を採用することになった。
(6)課金システム
導入可能な課金システムとして、入域証方式、カメラ方式、DSRC(電波、光)方式、電子ナンバープレート方式、GPS方式、PHS方式が考えられる。これらの各方式のうち、早期導入が可能で、法制度の設備が不要な課金システムを検討した結果、入域証方式か、カメラ方式が妥当であると考えられ、最初の段階ではこの何れかの方式が採用される。
(7)課金徴収
課金の徴収は、@入域する前に課金を納入する事前納入方式、A入域する前に支払手段(銀行口座引き落とし等)を登録する事前登録方式、B個々の自動車の通行認識から被課金者を特定し、事後徴収する事後徴収方式が挙げられるが、Bは入域する者には事前の手続きが生じないため、支払いの動機付けが不十分となる。よって、@,Aの何れかが採用されることとなる。
東京のロードプライシング制度は、2003年の早期導入が検討されている。
3. 海外の事例
シンガポール
導入時期:1975年
課金システム:ロードプライシングを導入して最初の25年ほどは、各車両の運転手が入域証を事前に購入して、各制限区域にいる監視員がチェックする入域許可証制度であったが、これでは入域証の監視に人手とコストがかかりすぎる。そこで、1989年より道路料金自動徴収制度の検討を開始し、1998年に導入された。これは、自動車に車載器の搭載を義務付けたことにより実現した。またシンガポールでは、自動二輪車の課金の対象とっており、日本の実施案と異なっている。
ロンドン
導入時期:2003年早期導入予定
課金対象車:ブラックキャブと呼ばれる認可タクシーや、郵便用の車両などは対象から外される。また、障害のある者が運転、また利用する車両も対象
から外される。
ノルウェー・オスロ市
導入時期:1990年2月
導入目的:ノルウェーでは、フィヨルドが複雑に入り組んだ地形のため、道路整備のコストが高く、1930年代から有料道路制度が存在していた。さらに、
地方重視の予算配分が大都市圏の道路や交通施設の設備の遅れを招いたため、大都市圏を対象とした独自の財源を確保する必要があったため、ロードプ
ライシング制度が導入された。
4. 一般の人からの意見
メールなどにより、400件を超すロードプライシングに対しての意見が寄せられた。その中で実施の条件や要望についての意見が多く、また、賛成・反対を明確に示した意見は、ほぼ同数であった。主な意見を以下に取り上げる。
(1)課金の免除や優遇措置を求めるもの
・ 対象区域内の住民については、課金の免除や優遇措置をとるべき〔ロンドンでは対象区内の住民に関しては9割引〕
・ 入域ごとに課金される方法は、負担が大きく容認できない
・ 障害者が利用する自動車は課金対象から除外すべき〔ロンドン、オスロでは障害者が使用する車両及び障害者を運ぶための車両は免除〕
・ 都民の生活と産業活動を支える事業用トラックは、課金対象から除外すべき
・ タクシーの公共性を認識し、課金対象から除外すべき〔ロンドンでは認可タクシー(ブラックキャブ)は免除〕
(2)大気環境の改善を期待する意見がある一方、実施による悪影響を懸念するもの
・ 地球温暖化防止、大気汚染改善のために推進すべき
・ 迂回路の交通量が増大し、周辺環境が悪化する恐れがある
・ 早朝、深夜の交通量が増加し、騒音や振動などの新たな問題を引き起こす
(3)ロードプライシング以外の施策を求めるもの
・ 「環状道路整備」、「排出ガス対策・低(無)公害車普及促進」、「路上駐車対策」などを進めるべき
(4)実施にあたって、慎重な取り組みを求める
・ 諸外国の実施例は規模が異なり、参考にならないことから、慎重に進めるべき〔シンガポールでは23区(環状7号線、荒川区域)と同じ規模〕
・ 実施にあたっては実験が必要であり、その結果を踏まえて制度のあり方や評価・再検討をすべき
5. おわりに
日本では高速道路、有料道路など、様々な道路の課金制度がある。しかし、今回のロードプライシング制度のような、交通渋滞と地球環境改善野対策としての課金は、今回始めての試みであるので、もっと慎重に検討すべきだと思う。上記に、メールなどで400件を超す意見が寄せられた、とある。一見、たくさんの人達がこのロードプライシング制度導入に関心があるように思えるが、現実には、この実施案は広くは知られてはいないであろう。実際、私の周りの人達にこの話をしても、知っているという者はごくわずかであった。そのため、2003年早期導入とあるが、その前にもっと世間に広くこの実施案を知らせ、広く意見を募るべきではないのか。
また、たとえば、上記の寄せられた意見の中で、障害者が利用する車両は課金対象車から除外すべきという意見があるが、ロンドンの事例と比較すると、ロンドンでは、障害者が使用、利用する車両は課金対象車から除外している。このように、海外の事例と比較して検討を進めていくべきだと考える。
最後に、今回検討されている実施案は、渋滞緩和と環境改善を目的としている。シンガポールとロンドンでは、渋滞の緩和を目的としているし、ノルウェーでは地方重視の予算配分が、大都市圏の道路や交通施設の整備の遅れを招いたため、大都市圏を対象とした独自の財源を確保するという目的があった。今回の東京都におけるロードプライシング制度は、この点で大変画期的で、興味深い。利用者にとってはけむたい制度ではあると思うが、これを機に、環境問題とその対策がより考えられていくことが望まれる。
参考ホームページ
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/jidousya/roadpricing/