aneishim030114「地方自治論」レポート

「ISO認証取得と自治体の取組み」 02M1009 羽 石  学

・ISO認証取得

私の胸章(身分証)の裏にはある一枚のカードが常備されている。宇都宮市がかかげる「環境方針」カードだ。このところ自治体間でブームになっているのが,ISOが制定する国際規格の取得(自治体としてISO14001を認証取得第1号は千葉県白井町(平成10年1月取得):平成11年4月以降急激に増加⇒平成13年6月末現在223件⇒平成14年10月末現在397件:ISO14001審査登録総数10,361件のうち3.8%に値する)である。中でも代表的な規格がISO9000シリーズ(品質管理規格)とISO14000シリーズ(環境管理規格)である。   

我が宇都宮市では平成13年12月21日にISO14001を取得した。栃木県内の行政機関では県保険環境センター,足利市清掃工場についで3番目,市役所本庁舎を対象としては宇都宮市が県内初の認証取得である。

地球温暖化,オゾン層の破壊といった地球レベルの問題から,廃棄物の増加,緑の減少のような身近な問題まで多種多様な環境問題に直面している現代社会。市民・事業者・行政も各々の立場で自らの活動を見直し,環境負荷の低減に向けた自主的な取組みが着目されつつある。その活動のひとつとしてISO認証取得と自治体の取組みについて調べてみたい。

・ISOとは

ISO〔国際標準化機構:International Organization For Standardization:そのままの頭文字ではIOS⇒ギリシア語で平等・標準を意味するISOSという言葉に合わせられた〕とは物質とサービスの流通を促進するため,世界的な基準化とその関連活動の発展開発を図ることを目的に設置された国際的な機関(任意団体:非政府系国際機関:国際連合の諮問機関)である。1947年に設立され,2001年8月現在およそ140の国や地域がこれに加盟している。ISOの活動は1960年代に入ると急速に活発になったが,その理由として@多国籍企業が現れ国際的な商品取引が活発化したA政府当局の関心が高まったB発展途上国の参加が増えたCISOの活動の拡大と利害関係者の参加が増えた,などが考えられる。1980年代の後半になると「品質管理と品質保証」という新しい分野の規格が,1990年代には「環境マネジメント」に関する規格が登場し,現在に至っている。

・「環境マネジメント」ができるまで

1960年代頃までは産業の生み出す製品の便利さ,快適さが強調され,負の側面に対する認識が欠如していた。これは日本だけでなく,アメリカやヨーロッパ諸国でも同じであった。これが1980年代になるとオゾン層の保護をはじめとする地球環境問題がクローズアップされ,資源の有限性が強調され,様々な対策によって大幅な質的改善が図られはじめた。1992年,地球サミット(環境と開発に関する会議)を機に,人間が住みやすい環境と資源が将来まで持続する範囲(持続可能な発展)で暮らす考え方が確認された。事業者が環境に配慮した事業活動を行なうため,自主的に環境対策に取り組むシステムが求められようになり,製品やその製造過程,サービスの提供に伴う環境破壊を食い止め,地球にやさしい生産活動をしていくため,国連に対し標準化の取組みを要請した。ISOはこれをうけ,1993年に専門委員会を設置。「環境マネジメント」に関する国際的な規格の検討をはじめ,1996年にはISO14000シリーズの一部である「環境マネジメント」と「環境監査」に関する規格が発効された。

・ISO9000シリーズとは

1987年にISO9000シリーズとよばれる品質保証規格を制定。その特徴は企業の品質管理システムを重視している点で,製品もしくはサービスの品質のバラツキを防ぎ,標準化するための品質保証システム。事業所内での品質管理規則や管理専門部署の業務などを含むシステムを,一定の審査登録機関が検査をしたうえで認証される。この規格には法的な強制力はないものの,最近では事実上,統一規格となってきている。

本来は製造業を中心に民間企業を導入対象として想定したものだが,企業と違い市民自らがサービスを選択できない自治体にこそ,行政サービスを品質とみなし,「不良品」をなくす品質保証の仕組みが必要であると考え,14001程ではないものの9000シリーズの取得を目指す自治体も増えている。今後の行政サービスの効率化にとって有効なツールとして期待される。

・ISO14001とは

ISO14001とはISOが96年9月に発行した環境マネジメントシステムに関する国際規格。ISOの規格には製品に関する規格などが数多くあるが,ISO14001は,製品そのものについての規格とは違い,事業活動に伴う環境への悪影響を最小にするための仕組み(システム)に関する規格である。環境方針に基づき,計画,実施,運用,点検,見直しを行なうPDCA(Plan Do Check Action)サイクル〔一連の作業の繰り返しを「マネジメントサイクル」と呼ぶ〕により継続的改善を図っていく。具体的には@取組みの方向性や基本的な考え方などを組織のトップが定め,環境方針として公表A組織で行なわれている日常活動,業務の中で有害有益を問わず環境に影響を与えている要素を洗い出し,環境関連の法規制等に該当するものを調べBPlanで作成した環境マネジメントプログラムに基づき環境目的・環境目標の達成に向けて各部局,各所属で環境に配慮した取組みを実施C取組み進歩状況は各部局で定期的な点検を行なって確認するとともに,部局等から選任された内部監査員が行なう内部環境監査によりプログラムが適切に運用され環境マネジメントシステムが機能しているか点検D環境目的・環境目標の達成状況や内部監査結果及び外部審査機関により定期審査の結果が組織の最高経営層に報告され,システム全体の見直し・改善を実施する,というサイクルである。ISO9000シリーズと同じく,ISO14001には法的拘束力は無く,環境活動に関する具体的な数値等を求めている訳でもない。各組織が自ら定めた環境方針を経済的,技術的に可能な範囲で達成することによって,各々独自の方法で環境負荷の低減に自主的に取り組むことを求めている。

     9000シリーズと14000シリーズの違い

9000シリーズはどちらかといえば製品の質の維持を目的としているのに対し,14000シリーズは環境の質の改善を目的としている点が大きく異なる。9000シリーズは素材産業にも適用されるわけで,この場合には品質の向上は必ずしも求められない。それよりも品質が安定していつも同じレベルで供給されることが重要である。これに対して14000シリーズはいかなる組織でも環境改善の努力は必要であり,この目的のために環境管理システムを通した継続的改善を求める。また9000シリーズが対象とする利害関係者は組織の製品を購入する顧客だけに対し,14000は顧客だけではなく多くの利害関係者(消費者・出資者・顧客・地域住民・組織の従業員・環境利害団体,環境法上の監督権を有する者など)が存在し,規格はこれらの利害関係者とのコミュニケーションの手続きを定めることを目的としている。

・自治体がISO14001を取得する意義

民間企業が競ってISO取得に力を入れているメリットとして@企業イメージの向上A効率的な少資源,少エネルギーによるコストの削減B環境問題への迅速な対応C市場におけるライバル企業との競争に対応,シェアの拡大等があげられるが,自治体が取得することによってどんな意義があるのか。@環境政策を全面的に計画,実行するためのシステム構築の基準・契機とするA環境問題を重要事項として積極的に取り組んでいることを内外に示すことで職員の意識改革や市民や企業の環境に対する関心の高揚につながるB行政改革の一環として民間のマネジメントシステムの考え方を自治体に導入する契機とするC環境悪化を防止するだけでなく,環境をよりよくするための活動を重視する等の点があげられる。ISO9000シリーズとともに,今後も認証取得を目指す自治体が増加することが予想される。

     認証取得後の宇都宮市の取組み

宇都宮市では平成7年に「宇都宮市環境管理計画」を策定し,市民・事業者・行政が一体となって環境への取組みを進めてきた。宇都宮市役所においても平成11年からは「庁内環境配慮行動計画」を実施し,日常業務の中での少資源・少エネルギーやゴミの減量・リサイクルなど,環境への負荷の低減に取り組んできた。これらの取組みをさらに深め,環境への負荷を計画的・継続的に低減していくためにはISOによる環境マネジメントシステムの推進が効果的であると考え認証取得を目指すこととなった。平成13年9月に「宇都宮市環境基本条例」を制定(平成13年10月1日施行)し,この条例に基づき各種の環境施策や事業の推進に努め,ISO認証取得後の平成14年度も引き続き環境負荷の低減に取り組んでいく予定である。今後は本庁舎だけではなく11ヶ所の地区市民センターへの認証範囲を拡大を目指し,宇都宮市独自の制度である「学校版環境ISO認定制度」の運用や,家庭向けに「家庭版環境ISO認定制度」を創設するなど,新たな事業も予定している。※注1

この「学校版」「家庭版」認定制度については聞きなれない言葉であったため宇都宮市環境企画課に電話で問い合わせたところ,「学校版」は既に宇都宮市内の3校(西原小学校,峰小学校,鬼怒中学校)がモデル校となり,認証取得に向けて実際に活動されていることがわかった。具体的には節電や節水,紙量削減,校庭の落ち葉拾いとその活用等(取組み内容は各学校の自主性を重視)の取組み状況やその成果を,市が学校に直接出向き確認,審査,認定するというもの。「家庭版」についても,認定取得に取り組む家庭を市が公募(宇都宮市の広報紙などで募集予定)し,何項目からなるハンドブックと照らし合わせ,審査のうえ,市が認定するというものである。今後も宇都宮市が先駆けとなって,環境問題に対する市民の意識高揚にも努めて行きたいとの話であった。

また,「認証取得後の効果,大きく変化した点は何ですか」と市職員への問いに,真っ先に回答があったのは「職員の意識変化」との言葉であった。これは宇都宮市のホームページ「平成13年度の取組結果」には数値として表示できない内容であったが特記しておくべき点であると思う。その他にも,本庁窓口に宇都宮市内の業者が認証取得に向けての相談件数が大幅に増加し,事業者からの活動内容の問い合わせや環境関係法規制等の照会が増加した等のお話もいただいた。

認証取得後の効果は次のとおり。環境目標がほぼ達成されていることから,職員の環境保全意識の定着化が図られていることが読み取れる。

宇都宮市ホームページ「平成13年度の取組結果〔1〕環境目標の達成状況」より一部抜粋

削 減 対 象

目標

(平成11年度対比)

実   績

電気使用料

△0.28%

△1.2%

燃料使用料

増加させない

△15.9%

コピー用紙使用料

△0.4%

△8.1%

水道使用料

増加させない

△8.9%

     調べたことから

今回,ISO取得と自治体の取組みについて書籍やホームページを基に調べたが,そのなかで気づいた点を最後のまとめとして取り上げ,それ

に対する自分の意見を述べてみたい。

@     ISO認証取得に向け多くの自治体が積極的に取り組んでいる⇒自分が想像していた以上に認証取得に奮闘中,または取得した自治体が多かった。今後も認証取得を目指す自治体の増加が期待される。

A     ISO14000シリーズが自治体に大きく着目されている一方で9000シリーズの取得を目指す自治体が少ない⇒14000シリーズ(環境管理規格)も大切であるが自治体の「品質」の維持ももっと重視されるべきではないか。今後は既に14001認証取得した自治体も9000シリーズと合わせた取得に力を入れる必要があると思う。

B     数多く取得した自治体の中で,取得後の調査報告や取組結果・成果などを公表している自治体が少ない⇒PDCAサイクルの本来の趣旨からすると取得後の取組み維持が重視されるはず。

C     自治体がISOに取組む最大の目標は何であろうか⇒単に環境方針という理念を掲げるだけでなく,PDCAサイクルを導入することで,自ら考え,是正する組織となること,組織構成員の責任と権限を明確にし,自治体のより機能的・効率的な組織運営を実現することと考えられる。

以上のような点が感じられたが,今後も引き続きISO認証取得と各自治体の取組みに興味を持って動向を見守っていきたい。

 

《参考図書》

「ISO14000絵とき基本用語」環境マネジメント研修センター編 潟Iーム社P2

「スラスラわかる環境ISOの取り方」岡光宣,石井義之著 樺経出版P40〜41引用

「内部環境監査の実務知識はやわかり」大浜庄司著 潟Iーム社

「ISO14000入門」東京商工会議所環境委員会編 鞄本経済新聞社

「全国住民サービス番付」日本経済新聞社,日経産業消費研究所編 鞄本経済新聞社 P137〜141

「時事問題の基礎知識2001」ダイヤモンド社編 P258

「私もとれたISO14001」若松謙維著 東洋経済新報社 P13〜17

《参考サイト》

宇都宮市ホームページ http://www.city.utunomiya.totigi.jp/

※注1「環境ISOレポート2002の発刊にあたって(平成14年5月)」一部引用

ISO Worldホームページ http://www.ecology.or.jp/isoworld/

神奈川県ホームページ http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/iso/

環境ISOホームページ  http://www.shiga-irc.go..jp/