kikuiric030114 「地方自治論」レポート
「原子力発電所が地域に与える影響と現状―新潟県柏崎市の事例―」
k010114 菊入千賀子
1.はじめに
原子力発電は資源に乏しい日本におけるエネルギー政策に不可欠なものである。現在日本には16の原子力発電所が全国21の市町村に立地している。その内の一つが、子どもの時からいつも私の身近にあった。それが柏崎刈羽原子力発電所である。一住民として原発への不信感や事故への不安を感じつつも、あらゆる面で原発の恩恵を受けてきたことも事実である。
今回、私がこのテーマを選んだのは、新潟を離れた今、以前よりも客観的な立場でこの原子力発電所にまつわる様々な事柄を考えられるのではないかと思ったからである。原発が地域に与えるさまざまな影響を取り上げてみたいと思う。
2.新潟県柏崎市と柏崎刈羽原子力発電所の概要
新潟県柏崎市(以下柏崎市と省略)は新潟県の中西部に位置し、海と山に囲まれたまちである。現在の人口は約8万7000人で、古くは宿場町として栄え、縮布(ちぢみ)の集散地としても栄え、さらに明治から昭和にかけては日本の石油産業の一大拠点としても栄えた。しかし三方を山にかこまれた閉鎖的な地形であることや、交通網の不備から発展が阻まれていた。また度重なる水害・雪害にも苦しめられたため、柏崎は長い間「陸の孤島」と呼ばれていた。昭和40年代には過疎化が最も深刻化し、高卒の地元就業率は県内最低の20%にまで落ちこんだ。そのため出稼ぎ者は4000人を超えるほど貧しく、人口も減る一方であった。「陸の孤島」の脱却を目指し、日本のエネルギー政策への貢献と地域振興を基本理念に掲げ、昭和44年に原発を誘致することを決めたのである。
柏崎刈羽原子力発電所(以下柏崎刈羽原発と略)は、柏崎市の北に位置する刈羽郡刈羽村(以下刈羽村と略)にまたがって立地している。設置者は東京電力株式会社で、昭和53年に着工し、昭和60年9月に1号機が営業運転を開始した。それから平成2年に2号機・5号機が、平成5年に3号機、平成6年に4号機、平成8年に6号機、平成9年に7号機が営業運転を開始した。7号機が稼動を始めてから、その総出力は821キロワットで世界最大となっている。柏崎刈羽原発で作られた電力は送電線を通して首都圏へ送られ、新潟県内もしくは近隣県で消費されることはない。柏崎市は昔は石油で、そして今も原子力発電でエネルギーを供給してきた、まさに「エネルギーのまち」である。
3.原発が地域に与える影響
柏崎刈羽原発が柏崎市にもたらした様々な影響としてまず経済効果と財政効果が挙げられる。着工から全7機完成までの約20年間に、柏崎市に投じられた建設費2兆6千億円は様々な波及効果を生み出した。原発もしくはそれに関連する職業の雇用増加に伴い、その他の産業の雇用も増加した。これにより過疎化にも歯止めがかかり、人口も増加した。所得や消費の拡大にもつながり、投資額の20%にあたる5000億円の経済効果を生み出した。加えて、電源立地にともなう交付金などの収入などによる自治体への財政効果も大きく、昭和53年から平成10年までの21年間で交付金は約250億円にのぼる。この原発立地が生み出した経済効果と財政効果を最大限に生かし、柏崎では大規模開発事業などが行われてきた。
柏崎で行われた開発は大きく分けて3期に分けられる。第1期は昭和49年から60年にかけて「陸の孤島」からの脱却のため、道路交通網の整備、そして長年苦しめられてきた水害や雪害対策として河川の整備や消雪設備の整備を行った。第2期は昭和60年から平成7年にかけて行われた。社会・生活環境の整備を目標に掲げ、上下水道の拡張と図書館や博物館などの教育文化施設ならびに医療福祉施設の整備を行った。第3期は平成7年から現在も進行中で平成16年完成の予定である。自立発展を目指し、「新潟産業大学」と「新潟工科大学」の2つの4年制大学と、これを利用しての研究開発産業の育成を図っている。そして学園ゾーンの整備、海浜リゾート、環境共生公園の整備、中心市街地再開発、情報化対策などが計画され、その中のいくつかはすでに完成している。2つの4年制大学はすでに完成し、約3000人の大学生が学んでいる。中心市街地再開発もほぼ完成しており、柏崎市の中心市街地である東本町通り周辺は近代的な町並みに生まれ変わっている。今現在は環境共生公園の整備が行われている。
さらに原発がもたらす豊富な「カネ」は様々な問題を引き起こす。現に不正流用問題が発覚している。刈羽村には電源立地交付金で建てられた生涯学習センター「ラピカ」(http://www.rapika.or.jp/hp/index.asp)という施設がある。ラピカは63億円の事業費のうち57億円を東京電力柏崎刈羽原発に伴う電源立地促進対策交付金として交付され、99年に完成した。この施設には文化・公民館施設、図書館、屋内外体育施設がある大きな施設である。しかし施設にある茶室の畳が設計段階で1枚13万円とされていたのに、実態としては一枚1万円のものが用いられるなど、不正な事実が次々と判明し、少なくとも340箇所判明した。これにより経済産業省は1億4000万円相当の返還を求める予定である。
また原発にまつわる様々な事故、そしてそれを隠そうとする体質が明らかになるにつれて、住民の原発への不安感や不信感は増した。茨城県東海村の原子力関連施設での臨界事故で明らかになったずさんな管理体制、原発内部の故障部位を隠して不正に申告したことが発覚した。そして2001年9月11日のアメリカで起こった当時多発テロ後しばらくは原発への攻撃の恐れがあったため、柏崎刈羽原発でも警備等を強化していた。周辺住民の不安は言うまでもない。
そして原発が環境に与える影響については、温排水が海中の生態系に与える影響が挙げられる。原発は原子炉の熱を冷やすため、大量の海水を取りこみ、そして海に戻している。目に見える影響として過去に取水口に付近にクラゲが大量発生したことがあった。地元の漁師の話では、海水温が高くなっているため原発のある方にクラゲが集まっていくそうだ。一方この温排水を利用しようという動きが高まっている。その一つとして魚介類の養殖がある。養殖に関しては柏崎市はまだ試験段階だが、アコヤ貝、キジハタ、クルマエビなどである。福島県などでは実用化されているようだが、しかし温排水には人工放射性元素のトリチウムが微量ながら含まれているそうで、長時間この水にさらされながらで育てられた魚介類の安全性に疑問を抱く人は多い。
4.電源立地三法
前章でも挙げた電源立地交付金についてここで整理しておきたい。電源立地交付金に関わってくる法律が電源立地三法である。電源立地三法とは1974年に制定された「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」を総称するものである。「電源開発促進税法」はあらゆる発電施設の設置の促進と、石油に替わる燃料を利用した発電の促進が目的の法律である。その費用に当てるために、一般電気事業者が販売する電気に電源開発促進税を課す。つまり電力消費者が電気料金として電力会社にこの税金を納めるようになっている。この税金は政府の電源開発促進対策特別会計に納められる。「電源開発促進対策特別会計法」は電源開発促進税による収入を、発電所の周辺地域の整備や安全対策、そして発電用施設を円滑に設置するための交付金や補助金などの交付を行うための法律である。そして「発電用施設周辺地域整備法」は発電用施設の周辺地域における公共施設の整備を促進し、地域住民の福祉の向上を図り、発電用施設の設置を円滑にすることが目的。当該都道府県整備計画を作成し、それに基づいて交付金が支給される。周辺地域の公共施設の整備のために交付されるのが「電源立地促進対策交付金」であり、また発電用施設の設置の円滑化のための財政上の措置として、「電源立地等初期対策交付金」、「電源立地特別交付金」、「原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金」などが交付される。
柏崎市に特に関わってくるのは「電源開発促進対策特別会計法」と「発電用施設周辺地域整備法」の2つである。この2つにより柏崎市には平成10年までの21年間250億円もの交付金が入ってきたのである。
5.最後に
安全な暮らしをしたいという思いは誰もが思うものである。しかし度重なる東京電力の事故隠しや東海村の臨界事故やその管理体制のずさんさが明るみになり、原発周辺地域に住んでいる人々の不安は高まっている。それを表したのは柏崎市の隣りの刈羽村で行われたプルサーマル計画への賛否を問う住民投票である。結果は計画反対が多数で、この住民投票はプルサーマル計画の凍結に大きな影響を与えた。それまで影響を受ける一方であったのだが、ここで逆に原発に影響を与えたのである。今の原発の安全対策が万全でない限り、そして住民があんぜんであると認めない限り、プルサーマル計画の実行は不可能であり、そして実行してはならないと思う。
たとえプルサーマル計画が実行されようともされなくとも、柏崎市はこれからも原発と共存していかなければならないだろう。なぜなら原発は柏崎市にとって重要な歳入源であり、また首都圏にとっても欠かせない電力源だからである。現在首都圏の電力の4割は新潟・福島の原発で作られ、送電線を通して送られているである。もはや首都圏にとっても地方の原発から送られてくる電力は不可欠なのである。(しかし送電線で電気を送る際に遠距離故にロスが出て、首都圏に届く量は当初の出力量よりもかなり少ないということを指摘しておきたい。これは明らかにエネルギーを無駄にしているのではないだろうか。)
安全面などで原発に反対する人は多いが、事故や故障が多く発見されている今それはして当然のことである。しかしここまで柏崎の発展は少なからず原発のもたらしたものであり、自分達の受けてきた、これからその恩恵を受けるであろうということは、きちんと認識すべきである。そして原発の安全管理がきちんと行われているかどうか、市民としても働きかけていくべきである。行政は原発が首都圏の重要な電力源であることを認識し、原発が地域と共存していくためにも、安全管理がきちんと行われるように厳しく監視し、指導していくべきである。電力会社としても地域と共存していくためにも万全な安全対策の確立・実行をするべきである。
柏崎市にとって原発が貴重な歳入源であることは先程も述べたが、近年その原発関連税収は減少の一途にある。最終的に「自立発展」を目標として開発が進められてきたが、これからが自立発展するための正念場となるだろう。柏崎と周辺地域についてこれからも見ていきたいと思う。
<参照サイト>
電源立地と街づくり 電源立地と街づくりのページ。電源(主に原子力発電所)が立地する地域の地域振興について紹介されており、興味深い。
柏崎市役所 新潟県柏崎市役所のページ。柏崎についての情報が充実しており、柏崎刈羽原子力発電所についても詳しく掲載されており、興味深い。
東京電力株式会社 東京電力株式会社のページ。原子力発電所の運転状況が掲載されていたり、柏崎刈羽原子力発電所へのリンクもあり、興味深い。