『地方自治体における評価システムの現状と課題』  01M1009 高桑昭祥

 

 宇都宮市では昨年度から行政評価システムの一手法として事務事業評価の試行に取り組んでいるが,全国でも平成13年7月末現在で43都道府県とすべての政令指定都市が行政評価制度を導入または試行していると総務省が発表している。(平成13年11月6日付け下野新聞記事)行政評価とは,政策「行政課題に対応するため立案された基本的な方針」,施策「政策を実現するための具体的な方策」,事務事業「施策を実現するために行う個々の事務・事業」について,一定の基準,指標をもって妥当性,達成度や成果などを様々な視点から評価,判定し,その後の行政サービスの改善につなげていくためのものである。

その中で事務事業の評価とは,行政の事務・事業の目的やその目指すべき成果を明らかにした上で,当初の目的がいかに達成されたのか,成果があったのかを評価するものであり,施策さらには政策を評価していく上での第1段階の評価手法である。

 それではなぜ,今そのようなシステムが必要になっているのであろうか。その大きなきっかけの一つとしては,地方自治法の改正(平成9年改正)により導入された外部監査制度により,その監査人から行政が投資したものに対しての効果やそれを評価する方法,また当初の目的,目標に対してどの程度達成されたのか,その達成度が求められているためである。いいかえれば,市民が行政サービスの価値を評価できるような方法を求めるようになってきたのである。これは当然のことで,市民は税を支払う換わりに行政からその税に見合うだけのサービス提供を受ける権利を有しており,同時にその税が有効活用されているのか,また活用した後の効果はあったのかなどに対しても知る権利を有しているのである。

 

  行政評価の取組状況(平成13年7月末現在)

 

都道府県

指定都市

市区町村

団体数

構成比

団体数

構成比

団体数

構成比

既に導入済み

37

79%

7

58%

150

5%

試行中

6

13%

5

42%

140

4%

検討中

3

6%

1,519

47%

考えていない

1

2%

1,426

44%

合  計

47

100%

12

100%

3,235

100%

  ※ 総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」引用

 

 現在,行政評価の導入にあたり,大部分の自治体(宇都宮市含む)では第1段階の手法である「事務事業」を対象に取り組んでいるが,その上位の「施策」になるとその割合は約半数であり,さらに上位になる行政の基本的な方針「政策」になると,都道府県,指定都市,市区町村にばらつきはあるものの,その割合は「事務事業」の約半数以下である。これは行政サービスの根底となる「事務事業」の評価制度が確立されていないことにより,「事務事業」の評価を積み上げて「施策」を評価し,「施策」の評価を積み上げて「政策」を評価するという最終的な評価にまでは,大部分の自治体がまだまだ時間を要する段階にあるといえる。

 

  行政評価の対象(平成13年7月末現在)

 

都道府県

指定都市

市区町村

団体数

構成比

団体数

構成比

団体数

構成比

政策

14

33%

5

42%

50

17%

施策

27

57%

7

58%

106

37%

事務事業

41

95%

12

100%

280

97%

  ※ 構成比は,行政評価を導入,試行している団体に占める割合である(複数回答)。

※ 総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」引用

 

 では,行政評価を実施するにあたっての具体的な手法は,どのようなものなのか。ここで,板橋区の行政評価ホームページを事例として取り上げてみる。「P−D−Sサイクル」これは,計画(PLAN),実施(DO),評価(SEE)の頭文字をとって付けられている呼び名であるが,行政の活動を行うにあたり,まず計画を立て,実施し,終了後にこれについて評価し,また,この評価結果を次の参考にするという繰り返しによって,よりよいものに変えていく手法であると書かれている。当然,評価(SEE)の中にはそれに対する課題,対応策がつきものであり,次の計画(PLAN)を実施するまでにそれらを明確にし,次の評価(SEE)ではそれを繰り返さないということを前提にサイクル化されている。そしてこのサイクルを繰り返すことで,行政職員は更なる評価や効果,コストの削減などにも意識をもつことになり,市民にとってもサービスの向上や行政の効率化が図れるなどの効果をもたらすものである。

 行政評価の対象としては,施策と事務事業を実施しているが,これらの評価は内部だけで行うのではなく行政評価を客観的に,また区民の立場に立ったものとするため第三者による評価も行っている。

 

 次に,市民満足度の観点から評価している自治体があるので,着目してみたい。逗子市では,CS(顧客満足度)調査という民間企業でのマーケティングなどに用いられる手法により,顧客(市民等)の顕在的・潜在的ニーズを測り,限られた経営資源をどこに投入していくかという判断につなげていくために行う調査を実施している。調査の内容の一つを挙げると,逗子海岸海水浴場の海水浴客を対象に,客の実態と意識を探り,逗子市の観光施策の方向を位置付ける基礎資料とすると書かれている。具体的にはアンケートによるデータ(数値)を把握し,そのデータを分析することで海水浴客(顧客)が行政サービスをどのように評価しているか見極めるためのものである。アンケートによる基礎資料の収集事態はどこでも用いられている手法であるが,このCS調査では,一つの設問に対して顧客はどの程度重要と考えているのか,またどの程度満足されているのかを問い,重要度と満足度を対として考えクロス分析をしており,大変興味深い手法である。

 下の図表を例に分析してみると,Aのマスに3つのサンプルがあるが,これは顧客(市民等)にとって重要度は低いが,内容は満足しているという結果であり,行政側にしてみれば,これらに対して過剰な投資や過大なサービス提供を行っていたということになる。次にBのマスのサンプルであるが,こちらはその逆で,顧客(市民等)にとっては大変重要であると考えているにもかかわらず,内容には不満を持っているという結果である。行政側は投資不足,サービス不足であると考えられ,今後はこれらの事業を重要視し更なるサービス向上に努めていかなければならないという結果が導き出されるのである。

 

<図表>

      高い

 

テキスト ボックス: 『満足度』 A  ●

   ●  ●

 

   ●

 ●

      ●

   ● ●

  ●

●   ●

  ●

     B

      低い                高い

              『重要度』  ●=サンプル

 

 最後に行政評価の課題について触れてみる。まず,行政評価の取組状況を見ても分かるように,まだまだ市区町村単位では行政評価制度の導入にあたり,試行錯誤の状態であると言えよう。しかし,導入することで職員自身にも,より効率的な行政サービスを提供するという自覚や,コスト削減などの意識を持つことができるため,行政評価制度導入の目的を明確にして自治体内部で統一した意識を持つことが重要であると考える。また,行政評価の対象では,第1段階の手法である事務事業の導入しかしていない自治体が大部分であるが,「事務事業・施策・政策」を連動して導入し評価していかなければ効率的な評価をすることが難しいのではないかと感じた。

 

<参照サイト>

総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」http://www.soumu.go.jp/click/jyokyo.html

板橋区「行政評価システムのページ」http://www.city.itabashi.tokyo.jp/kikaku/bgroup/g-hyouka-what.html

逗子市 「逗子海岸海水浴場におけるCS(顧客満足度)調査報告書」 http://www.city.zushi.kanagawa.jp/syokan/hyoka/cs/kaigan_cs.html