kuwashimas011203 「地方自治論」レポート

「岩手県の生涯学習と生涯学習社会の形態」       k000526桑島汐織

 

1.生涯学習/生涯学習社会とは

 まず初めに“生涯学習”と“生涯学習社会”という2つの言葉の定義付けをしたいと思う。生涯学習とは「一人ひとりが、自己の充実や生活の向上、職業上の能力の向上を目指し、自発的な意思に基づき、自己に適した手段・方法によって生涯を通じて行う学習活動」である。一方生涯学習社会とは「一人ひとりが主役となって、生涯のいつでも、どこでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、必要に応じてその成果が適切に評価され、生かされる社会」を意味する。 

 “生涯”という言葉が使われている通り、従来の学校教育で学習を終わらせるのではなく、個人の一生涯を通して学習していくものである。では、どうしてこのような生涯学習が始められ、生涯学習社会を目指す自治体が増加してきたのだろうか。その理由を次の第2章でみていきたい。

 

2.生涯学習の必要性

 私にとって、生涯学習という言葉は聞きなれた言葉である。物心ついた時から、すでに耳にしていた。というのも、私の地元、金ヶ崎町という町は岩手県にある小さな町ではあるが、全国に先駆けて私の生まれる2年前、つまり22年前に生涯教育宣言をしていたからである。この金ヶ崎町をはじめ、岩手県内で“生涯学習都市”を宣言している市町村数は9自治体あり、これは全国第2位となる。金ヶ崎町が全国に先駆けて宣言した理由は、生涯学習が必要とされてきた背景の1つと密接に関わっている。それは社会が高齢化してきたことである。現在では、高齢化社会という言葉を誰もが知っているだろう。しかし、世の中が高齢化社会と叫ばれ始めたときには、金ヶ崎町はすでに超高齢化社会と成りつつあったのだ。つまり、高齢化していくことで自分の使える時間が増える―その増えた自由な時間をいかに無駄にしないか、いかに生きがいをもって充実した生涯を送ることができるか、という高齢化社会に伴う生涯学習の在り方が背景の1つにある。この問題が金ヶ崎町ではどこよりも早く浮上してきたので、どこよりも早く宣言をした、というわけである。

 第2の背景として挙げられるのは、社会の多様な変化である。先に述べた高齢化も、その変化の1つと言えるだろうが、ここで指しているのは、科学技術の急速な発展、あるいは高度情報化の進展などである。これらは今もなお、日々進歩している。これでは過去に学校で学習した知識だけで対応するのは困難となる。そこで、学校を卒業し、就職した後でも専門的な知識や技術を体系的・継続的に学習する必要性が高まってきたのだ。

 第3には、共に生きる地域社会を創りあげていくことである。核家族化や都市化、過疎化の進行などに伴い、地域の連帯感や共同意識の希薄化、地域社会の活力の低下が進んできている。このようなコミュニティが必要としているのは、地域住民が共に助け合い、支え合う、生き生きとした生活なのだ。共に生きる地域社会を創りあげていくということは、その地域社会の人々の交流のみに留まらず、地球温暖化をはじめとする環境問題、少子・高齢化の進行に伴う保健・医療・福祉サービスの提供などの問題を、協力して解決していくことにもつながる。なぜなら、住民一人ひとりが自発的に学習し、理解していくことが生涯教育の目的のひとつであるからだ。

 これら3つの背景に見られるような、社会のあらゆる大きな変化に対応していくために、近年生涯教育は全国的に注目されるようになった。また岩手県のように早い段階から生涯教育に取り組み始めた自治体でも、新たな社会変化に伴い、今までの生涯教育を見つめ直し、より良い学習の場を提供できるように改善していこうとする動きが見られる。

 

3.岩手県における生涯学習

 (1)取組状況

 県民の様々な学習ニーズに応えるためには、行政機関だけではなく高等教育・民間・企業等が連携して、総合的・体系的に学習機会を提供しなければならない。

 まず県の取り組みについてだが、平成元年に「生涯学習推進のための基本的な考え方」を策定し、知事を本部長とする岩手県生涯学習推進本部を設置した。平成4年には、生涯学習を総合的に推進するために「岩手県生涯学習振興方針」を策定している。さらに、平成8年になると、県の生涯学習の拠点となる「岩手県立生涯学習推進センター」を開設し、より総合的で体系的に「情報提供」、「指導者養成」、「調査研究」などを実施してきた。

 また、国の「生涯学習モデル市町村事業」の導入を契機に、総合的な生涯学習推進体制の整備を行った市町村も多くあり、現在44市町村が何らかの推進組織をもち、市町村を挙げた推進に努めている。

 一方、民間・企業等も各方面から生涯学習に取り組んでいる。

@     民間団体(PTA/婦人会/青年団/ボランティア・福祉・自然保護等関係団体など)

各種民間団体ではその設立目的に応じて、構成員を対象とした、個性や特色を生かした学習活動が行われている。

また、各地域においては、自治体や自主的なグループなどが様々な学習活動を行っている。平成10年度に県教育委員会が実施した「生涯学習に関する県民の意識調査」では、希望する学習方法について、「公民館などが行う講座」への参加が63.0%、「地域のグループ・サークル」による学習活動への参加が60.5%となっており、公的機関での学習と同程度に、自主的なグループ等による学習希望者が多いことを示している。

A     民間の学習事業提供者

   従来から、茶道や華道など文化・教養に関わる活動の場を提供してきた民間の学習事業提供者は、近年社会の情報化や国際化に伴って、パソコン学習や外国語学習など、より広範な分野で活動の場を提供するようになってきている。

   国の「社会教育基本調査」によると、平成5年度のカルチャーセンター等の事業所数は7、講座数は245、延受講者数は11,139人であったが、平成11年度には事業所数14、講座数1,112、延受講者数19,146人となっており、民間の学習事業提供者による、積極的な活動展開の状況が見られる。

B     企業等

     企業等においては、従来から人材育成のための企業内教育や、職域の業界団体が行う研修への派遣、大学・専門学校への派遣などの形で教育訓練が行われている。

     また、人材育成の一環として、有給教育訓練休暇の付与や、受講費用への援助を行い、学習活動で取得した資格に対して一定の評価を下す企業も見られるほか、ボランティア休暇を設けるなど、従業員が企業外のボランティア活動に参加することについて理解を示す企業もある。

     平成9年3月には、社団法人経済同友会が「学働遊合のすすめ」を打ち出し、企業内教育の受容性を呼びかけている。

 このように、行政機関のみならず、民間団体や各地域、企業が共に理解しあい、協力していくことによって、より多様で高度な生涯教育の場が提供され、多くの人々が受講できる状況が創りあげられてきた。

 ()生涯学習の基礎づくり〜家庭・学校・地域社会教育〜

 家庭での教育は乳幼児期の親子のきずなの形成に始まり、基本的な生活習慣や善悪の判断、社会生活上の基本的なルールやマナーなどを身につけるなど、人間形成において最も重要な役割を果たす、すべての教育の出発点である。施策方向としては、父母・祖父母を対象として、関係機関・団体等との連携・協力のもとに、子どもの発達段階に応じた家庭教育の在り方等についての学習機会の充実をめざしている。他にも、子育てサークルの育成とネットワーク化を進め、親同士の交流を深める場を拡大するなど、家族内だけではなく、地域全体で家庭教育を向上させていこうという動きが見られる。

 学校教育における課題は、児童生徒の学習意欲を高め、主体的に考える能力を育成すると同時に、人間として必要な基礎的・基本的内容を確実に身につけさせ、一人ひとりの持つ能力を伸長させることである。施策方向は、自ら学び、自ら考える力など「生きる力」を育むために、ゆとりある教育を実現し、子ども一人ひとりのペースを重視していく。また、環境、福祉、ボランティア、消費者生活等、今日的な課題に対応した教育の充実に努め、社会の変化に対応できる資質、能力を育む。さらに、完全学校週5日制に実施によって、「家庭ではぐくみ、学校で学び、地域社会で鍛える」という役割分担を明確にし、保護者・地域の人々の一層の理解を得る必要がある。

 最期に地域社会教育についてだが、県や市町村では青少年を対象として、自然・文化・歴史などに関する体験学習の機会を提供するとともに、青少年団体及びそのリーダーの養成に努めるなどを」課題としている。完全学校週5日制に伴う児童生徒の学校外活動を推進していくことも課題のひとつである。施策方向は、「21世紀の寺子屋」として、各地域の伝統文化や工芸、方言、食等の生活文化を題材に、ふるさと塾・自然学校などを県内各地で展開してきている。また、地域社会の中で子どもたちが思いやりのある心、豊な心を育めるように、家庭・学校・地域社会教育の機能の充実を図るとともに、高齢者・障害者・異年齢児等との多様な交流や、郷土芸能等の地域文化の伝承活動を促進していく。

 

〈参照サイト〉

  http://www.pref.iwate.jp/^hp0902/info/public_comment/7.html

  岩手県教育委員会のページ。生涯教育についての中間答申が載せられているほか、生涯学習のページもある。