Kumamotos011203
「地方自治論」レポート
「動物行政の現状と問題点」 k990121 熊本真一
1.動物行政とは?
人間はその誕生から現在に至るまで多くの動物と生活を共にしてきた。古くは獲物として、また、家畜や猟犬などは、人間とともに生活し人間の生活の重要な位置を占めてきた。そして現在はペットという名目で生活を送り、まさに人生のパートナーとして動物を選択する者も多い。
しかしながら、その絶対数の増加により、行政は人間のみならず、動物についても関わらざるを得なくなった。私はその現状と問題点について考え、動物と人間に関係する行政のありかたについて考えてみたい。
2.動物行政の発生
ペットを始めとする一般社会の中で生きる動物たちに行政はどのように関わってきたのか。その起こりとなったのは「動物の保護および管理に関する法律(動管法)」(昭和48年10月1日公布)の制定である。これは『動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の保護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする』とあるように、動物愛護の観点から我々の精神的な豊かさを導き出す目的と、動物による我々への損害の防止の目的によって制定された。しかし、流行のペットを飼うことが一種のブームになり、その流行が終わると捨てられるペットの「使い捨て」や、一部の飼い主や一般の人間による動物虐待や飼養放棄など、ペットについての問題はここ数年で深刻なものとなってきた。
これらの問題がテレビ報道などで顕在化すると、動管法は平成11年12月に改正、改称され、新たに以下のような点が改正された。@名称の変更(「動物保護および管理に関する法律」から「動物愛護および管理に関する法律(愛護法)」に変更。「保護」は世話だけだが、「愛護」は対象物を愛すること)、A動物の定義(「動物が命あるものであることにかんがみ、みだりに殺し傷つけまたは苦しめないようにその動物との共生に配慮しなければならない」 動物が「もの」から「命ある存在」へ変更)、B飼い主の責任(「動物の所有者または占有者は、命あるものである動物の所有者、または占有者としての責任を充分に自覚して、その動物を適正に飼育し、または管理することにより、動物の健康および安全を保持するように努めること」と飼主の責任を規定)、C動物取扱業が届出制に。販売する際の購入者への適切な説明の義務の発生。D動物取扱業者の実態調査や立入り検査を行う「動物愛護担当職員」の設置、E罰則の強化(動管法では、動物を虐待したり殺したりしても3万円以下の罰金または科料であったが、愛護法ではみだりな愛護動物の殺傷には、100万円以下の罰金、または懲役一年以下の刑。愛護動物に対し、みだりに水や食事を止めることにより衰弱させる等の虐待を行ったものは30万円以下の罰金。愛護動物を遺棄したものは30万円以下の罰金となる。)これは、動物の定義をより人間と近いものに規定するとともに動物に関わる人間のありかたをも規制する画期的な法改正だともいえる。
しかし、動物に関わる問題はその以前からも存在し、法改正のタイミングとしては決して早い段階のものではなかった。法改正に至るまで、市民団体の活動や動物愛護に積極的な議員、そしてテレビ報道などの後押しがあったからこそできた改正だったともいえるだろう。タイミングについて遅すぎたというレベルの問題ではではないかもしれないが、もっと早ければ不幸な動物は少なくなっていたかもしれない。
3.動物行政の現状
動物に関して行政は何をしているか。東京都衛生局生活環境部獣医衛生課のHPを見てみると、意外と様々な活動をしているのだということがわかった。その活動は大きく二つに分けられ、動物取扱業者向けと動物の飼い主向けのサービスが主のようだ。動物取扱業者についてはその育成と届出に必要な講習会の実施や調査、飼い主については迷い犬や迷い猫の捜索や、狂犬病を始めとする動物由来感染症の予防、しつけの強化、パンフレットの作成などを行っている。また、動物に関する法令集やデータなどの情報も多い。
しかし、それは一般的に売買され、住宅で飼われている動物などに関してのみであり、ある意味どこの行政でも行っているものだ。新たな点としては家を持たない猫についても言及されている点である。「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」として地域住民と協力し、不妊手術をした上で猫のえさやり、糞の掃除などを行い、自然に個体数を減らそうというものである。大変効果的な方法だとは思うが、それには地域住民などの協力も必要である。成功のためには飼い主だけでなく住民全体の意識を高めることが必要なのではないだろうか。
4.一番の問題
動物行政において一番の問題点となっているのは動物の「処理」についてである。最近の動物に関する問題にはすべてこの「処理」の問題がつきまとうが、行政はそこで大変困難な立場にある。
第一に、捨てられる動物の数の急増であるが、日本で一年間に保健所が回収、もしくは持ち込まれる数は数十万頭に及ぶ。これらの動物は飼い主が持ち込んだ場合、即日処分され、飼い主不明でも最低二日の公示期間を終えると処分される。以前流行したシベリアンハスキーや、現在流行のゴールデンリトリバーなどはかなりの大きさに成長し、飼えないからといって持ち込みや捨てられているのが後を絶たないそうだ。加えて、手術費が高いため不妊手術をしないで生まれた子供を持ち込むケースもあるという。これらの動物の数を抑制しなければ処理される動物はどんどん増え、その命をどんどん殺していかなければならない。
第二に、動物愛護団体の圧力である。行政側としては好きで動物を殺しているわけではなく、必要だから仕方なく殺しているだけである。しかしながら動物の命そのものを奪うことに動物愛護団体は反対しているわけなのだから、それが間違っているわけではない。行政は問題に直面すると同時に糾弾されているわけである。
その立場の中で行政が苦しまぎれに出した対策が「不要犬ポスト」であったのだろうか。これはいらなくなった動物をポスト状の入れ物に入れることで誰とも面会せずに動物を捨てられるというものであり、言うまでもなく動物愛護団体に激しく抗議された。動物の処理をシステム化することで処分の速度を速めて捨てられる動物に歯止めをかけようとしたのだろうが、それよりも動物をもの扱いすることにモラルの欠如が大きかった。
5.動物行政のこれから
現状として、行政は捨てられる動物の抑制と、動物愛護法に基づく配慮を行わなければならない。しかし、「不要犬ポスト」のように合理性をとればそれはモラルを欠いたものになるし、持ち込まれた動物をすべて育てるわけにもいかないだろう。動物と人がペットと飼い主として関わりあうことが一般化した今、それが問われているのは我々地域住民なのかもしれない。そうして住民の意識を高めたり、指導を徹底することが行政の役割なのではないだろうか。
<参照サイト>
・ 東京都衛生局生活環境部獣医衛生課(http://www.eisei.metro.tokyo.jp/vet/)
・ 動物愛護法(http://www5a.biglobe.ne.jp/~hiroko-n/hou.html)
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