Kanazawae011203  「地方自治論」レポート

「東京都杉並区の“すぎなみ環境目的税”について」             000114  金澤絵梨

 

今日、国内外を問わずあらゆる所で環境問題が深刻化している。日本においても、欧米諸国に遅れながらも国民がこの問題に眼を向けるようになり、市民レベルで話し合い、積極的に環境の改善に取り組むようになった。環境問題の中でも、「ごみ問題」は市民にとって

生活する上で最も関わりのある問題だと言える。ごみの多様化と大量化でその処理に行政は頭を悩ませているのが現状だ。近年、企業は環境への影響を配慮した商品・サービスに早くから注目し、消費者にアピールしてきた。その中で、某大手スーパーが環境にやさしいショッピング・ライフとごみ減量を目指した「レジ袋削減運動」を開始した。これは、買い物をして会計をした際に客が買い物袋を持参した場合、専用のカードにスタンプを一つ押してもらい、そのカードにスタンプが一定の数貯まったら、現金100円と交換できるという制度である。だが、このサービスは客の自主性に任せているため、一部の客しか協力していないのが現状である。レジ袋の削減において効果的であるとは決して言えない。つまり、企業には消費者への強制力はないのである。その一方で、市民に対してある程度の強制力を持つ行政側はこれまでごみ減量には積極的な姿勢を示さなかった。ごみの分別を徹底させることはしても、ごみそのものを減量する具体策はほとんど講じてこなかったように思える。だが今年になって、東京都杉並区がごみの減量化を目的とする条例案を打ち出した。それは「すぎなみ環境目的税」という法定外目的税である。区内の店で買い物をした際にもらうレジ袋1枚につき5円を課税するというものである。この画期的な条例はまだ議会で可決されておらず審議中の段階ではあるが、もし実際に導入されれば、レジ袋の削減だけでなく他の地方公共団体のごみ対策にもさまざまな形で影響を与える可能性もあり得る。導入以前の現在でも、世間の注目を集めマスメディアにも取り上げられている。そこで環境問題が騒がれている今、“レジ袋税”と市民生活に与える影響、そして考えられる課題と今後の対処についてここで考えていきたいと思う。

 

まず、“すぎなみ環境目的税”(“レジ袋税”)の条例案が立案されるまでの経緯について挙げておこう。もともと杉並区には杉並中継所という不燃ごみを大型コンテナ車に積み直すための圧縮所があったのだが、圧縮する際に発生する化学ガスが近隣住民の身体に害を及ぼす疑いが発覚し、いわゆる「杉並病」という公害が以前から問題になっていた。さらには全国的な環境ホルモンに対する不安も加わり、杉並区役所はごみ処理に常々神経を尖らせていた。また、杉並中継所では杉並区だけではなく、練馬区と中野区の不燃ごみも圧縮されているため、財政面でも人材面でもかなり大きな負担を抱えていることも悩みの種であった。ごみの大幅な削減が必要だと考えた杉並区役所は、区民の生活にあまり影響を与えずにごみ減量に十分な効果をもたらす方策として“レジ袋税”を打ち出したのである。杉並区はレジ袋を課税の対象にした理由を次にように挙げている。「環境負荷をもたらす行為等の対し税を課し、環境に対する意識の高揚、ごみ減量などの施策の誘導策として生かせないかを検討した。特にごみの半分を占める容器包装物について、使用・流通を抑制するために税が活用できないか、重点をおいて検討した。レジ袋はトレイ・ペットボトルと違い代用が利く上に、区民にとっても買い物袋を持参すれば税負担を回避できるという点において、区民に受け入れられ易いと考えた。」(杉並区における当面の税財源確保策について<検討結果報告書>:区税等研究会平成12年度9月)

確かにトレイやペットボトルにまで課税の対象を広げると、区民だけでなく商品を扱っている企業からも強い反対が予想される。消費者がレジ袋をもらうのを断ることはできても、トレイやペットボトルから中身だけを外すのはあまりにも身勝手な行為である。また、レジ袋は石油資源を原料に作られていることから、レジ袋の削減は石油資源の消費抑制にもつながる。よって上記の見解からも今回のレジ袋対象の課税は納得できる点が多いと言える。

 

では次に、“すぎなみ環境目的税”条例案の具体的内容(実施の目的及び期間、対象地域等)について見ていこうと思う。以下は「すぎなみ環境目的税条例案」からの抜粋である。

      目的:環境に負荷を与えるレジ袋の使用抑制

   納税義務者:区内の事業所等で商品の引渡しに伴い譲渡されるレジ袋に対し、当該譲渡を受ける者に課する。

      税率:レジ袋1枚につき5円とする。

    課税期間:個人事業者は1月1日から12月31日までの期間

    徴収方法:当該課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内(個人事業者は3ヶ月以内)に、当該課税期間内において徴収すべきすぎなみ環境目的税について、次に掲げる事項を記載した納入申告書を区長に提出し、及びその納入金を納入書によって納入しなければならない。

1、課税標準であるレジ袋の合計枚数

2、課税標準に対するすぎなみ環境目的税額 

3、その他規則で定める事項

    申告納入:事業を廃止し、又は区外に事業所等を移転した事業者は、廃止又は

移転の日から2ヶ月以内に、当該廃止又は移転の日までに徴収したすぎなみ環境目的税について納入申告書を区長に提出し、その納入金を納入書によって納入しなければならない。                              

帳簿の記載:徴収義務者は毎日のレジ袋の譲渡枚数、すぎなみ環境目的税額その他規則で定める事項を帳簿に記載しなければならない。また、帳簿はその記載の日から5年間これを保存しなければならない。

税の用途:区に納入されたすぎなみ環境目的税額からすぎなみ環境目的税の徴収に要する費用額を控除して得た額を、廃棄物の減量、リサイクルの推進その他環境の保全に係る施策に要する費用に充てなければならない。

     すぎなみ環境目的税の実施は5年間限定となっている。

 

以上が条例案の概要である。ここでいくつかの疑問点が考えられる。1つはレジ袋一枚につき5円の課税で本当に廃棄物の処理や環境保全に十分なのだろうかという疑問である。廃棄物の処理や環境の保護には我々が考えているよりはるかに多くの資金がかかる。そのうえ、徴収した税額からこの課税に要する費用を控除して残った額がそれらに充てられるのだから、環境保全や廃棄物処理に有効であるとは決して言えない。たとえ、レジ袋税による「増税」は2次的なもので、あくまでレジ袋削減による「ごみの減量化」を第一に掲げているとしても、もっと税額を上げたほうが区民もレジ袋の使用を控えるし本来の目的であるごみの減量化にもより効果的ではないかと思う。杉並区役所はこれについて特に言及していないが、もしかすると先で述べたように「区民の生活にあまり影響を与えない」ように考慮したということも考えられる。いずれの場合であっても、5円という税額は環境問題が深刻化している現代においてはあまりに低いのではないかと疑問を抱く。これでは、環境問題に対する区民の意識も杉並区の積極性も低いままである。

二つめは徴収義務者の脱税の問題である。上記の条例案を見たところ、徴収義務者は毎日のレジ袋の譲渡枚数を帳簿に記録してその枚数分の税額を納金することになっている。だが、その帳簿記載も納税もいわゆる自己申告制であるため、脱税が容易にできてしまうように思われる。まして大型スーパー等ではレジ袋一枚一枚を数えて、その日の合計譲渡枚数を把握するのも容易なことではない。行政側はその徴収管理及び脱税防止策を打ち出すことが必要不可欠だろう。

三つめはレジ袋税の適用地域及びその期間が狭いのではないかという疑問である。確かにまだ試作段階の条例案であるし、他の近隣区までレジ袋税の導入を強制することは過剰干渉に値する恐れもある。だが先に述べたように、杉並区にある杉並中継所には練馬区と中野区から出たごみも運ばれて圧縮されている。その上、その中継所が設置されてから杉並区民の健康に悪影響が出るようになったのも事実である(だが杉並区は中継所と杉並病との関連を認めていない)。だとすれば、レジ袋税が正式に導入され一定の効果が出た時点で、ゴミ回収範囲内の練馬区と中野区にも導入を促すべきである。たとえ杉並区から発生するごみの量がある程度減量したとしても近隣区のごみの量が増量してしまったら、効果的なごみ減量化は期待できないからだ。ごみの減量化を目指すのであれば、他の区域との協力・連携を図ることが重要なのではないかと私は考える。また、導入期間も5年に限定せずに無期限に続けなければ、効果的な条例とは決して言えないだろう。

 

このように、“すぎなみ環境目的税”は今だ審議中の条例案ではあるが、制度自体や脱税対策等に不十分な点が見受けられ、導入するにはまだ時期が早いと言える。確かに全国初の試みであり、どれほどの効果があるのかは杉並区内外の注目を集めるところではある。しかし、それならば試験的に半年ぐらい実施しその結果を分析してから、正式な導入を検討したほうがいいのではないかと思う。ごみ減量化という問題は市民の理解が得られなければ実現することは困難であるため、レジ袋税に対する区民の理解と受け入れが必然的に重要な位置を占める。だが、今回の“すぎなみ環境目的税”導入に関しては区民の意思がほとんど反映されていないように思える。だとすればなおさら、試験的導入を行って区民の反応を調査することで条例をさらに改善する必要性がある。区民の立場としても、いきなり正式に導入されるよりは、レジ袋税とごみ減量化の関わりを理解する準備期間として試験的な導入期間があった方がいいと私は考える。この“すぎなみ環境目的税”(レジ袋税)という画期的な条例案を無駄にすることなく、全国的に広げるためにも杉並区は現段階においては導入を急がずに調査と審議を、もしくはあくまで試験的な仮導入を行う必要があると私は考える。