itakurat011203
「地方自治論」レポート
「家電リサイクル法施行による変化と地方自治体」 k000104
板倉世典
1.今家電リサイクル法を考える意義
私は環境問題について大きな関心を寄せているが、最近は中でも地方行政と環境問題の関わり方に特に関心がある。なぜならば、多くの環境問題の解決政策で先頭に立たざるを得ないのが地方自治体であるからである。国際レベル、国家レベルで環境保全のための取り決めがなされても、最終的にはそれを地方自治体がいかに運用するかで効果はかなり変わってくる。環境問題の解決を考える上で、この点は見過ごせないと思うのである。
今回取り上げた家電リサイクル法はなかなか面白い側面を持っていると感じる。それはこの法律は家電製品を扱う企業と家電製品を消費する一般市民、そしてリサイクルを行う業者に対して特に影響を与える性質を持つものであるが、実際は地方自治体がその運用に積極的に関わらねばならない点である。次に賛否両論がいまだに国家の中枢(政党)から住民レベルまで存在する点である。よって切り口が多数存在するので興味深いのではないかと思うのである。また、施行から約半年経過して新たな問題点や各自治体の動きも見えてきたという、時期的にも面白い時である。これらのことから今回家電リサイクル法と地方自治体との関わりに焦点を当てることにした。
2.家電リサイクル法の内容
(1)家電リサイクル法の内容
この法律の持つ性格を捉えるために簡単にここでその内容を書く。本レポートは家電リサイクル法そのものを詳しく解説するものではないので、詳しくは解説しているホームページなどにあたって頂きたい。なお、この部分は経済産業省ホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/kaden_recycle/ekade00j.html)を参考にした。
・正式名称:特定家庭用機器再商品化法
・対象機器:エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機
・再商品化等(リサイクル)の定義:対象機器の廃棄物から部品及び材料を分離し、これを@製品の原材料又は部品として利用すること。A燃料として利用すること。
・関係者の役割
製造業者及び輸入業者(製造業者等)
引取り義務:指定した引取り場所(全国で380ヵ所)で自らが製造又は輸入した廃家電を引き取らなければならない。
リサイクル義務:エアコン60%以上、テレビ55%以上、冷蔵庫50%以上、洗濯機50%以上でリサイクル処理を行わなければならない。
小売業者(リサイクルショップも含む)
引取り義務:過去に販売した家電の引取り、または家電を販売する際に同種の廃家電の引取りを求められた場合、応じなければならない。
引渡し義務:消費者から引き取った廃家電を製造業者等(それが不明の場合は指定法人)に引渡さなければならない。
消費者
廃家電を引渡し、収集・リサイクルに関する料金の支払いに応じなければならない。
自治体
収集した廃家電を製造業者等に引渡すことができる。ただし、自ら再商品化を行うことも可能。
・その他
管理表(マニュフェスト)制度:廃家電の確実な運搬を確保するためのもの。廃家電の指定場所に貼付け義務。
罰則等:製造業者及び小売業者への行政による監督、必要に応じ罰則等を行う。
リサイクルにかかる費用は主要メーカー一律で、エアコン3500円、テレビ2700円、冷蔵庫4600円、洗濯機2400円。自分で指定引取り場所に持ち込みしない場合はさらに別途収集運搬料金がかかり、これは業者ごとで異なるが約2、3000円である。
(2)家電リサイクル法の背景と意義
(和歌山リサイクル企業組合ホームページ http://www.zero.ad.jp/~zbd60498/sub3.1.htm、ニッセイ基礎研究所ホームページhttp://www.nli-research.co.jp/report/REVIEW/9901-1.html、NPO法人 環境21ホームページ http://neting.or.jp/eco/kabun/kaze/0103.htmlから抄出)
この法律が作られた背景には次の理由がある。日本で1年間に排出される廃家電の量は1800万台で、8割が販売店、2割が自治体で回収される。その処理の大部分が破砕されるかそのままで焼却または埋め立てられた。処分場の埋め立て許容量は全国であと11.2年(平成9年時)で年々逼迫化していて、処理費も高騰している。焼却処理にはダイオキシン問題があることが分かってきた。しかし、家電製品は金属、ガラスなどリサイクル可能な資源でできているので、減量が可能である。同時に近年の循環形社会構築の要請も反映している。
また、家電製品のように構造が複雑で頻繁にモデルチェンジされる製品は、自治体が処理やリサイクルするより製品を熟知しているメーカーがやったほうが合理的である。メーカーに自分が作った製品を再資源化するという重荷を課すことで、処理、リサイクルしやすい製品の開発を促す。使用者に対して製品の便益を享受した後の始末する費用を、目に見えにくい税金という形でなく、直接負担することでコストを目に見える形で公平に負担し、その負担を通して製品の長期間使用などを促す、といった理由や意義が考え出されたのも、立法化の背景にある。
慶応大学の細田衛士教授(環境経済学)は「ものを捨てる費用は、税金を投入していたためにこれまで隠れていたが、リサイクル法はすべて表に出して、作る者、売る者、使う者が負担するシステム。消費者に意識転換を迫るものだ。」と話している。
来年度からは対象機器家庭用パソコンが加わる予定である。また、続く候補として携帯電話や自動車がある。
3.家電リサイクル法施行状況と波紋
(1)現在の家電リサイクル法施行状況
平成13年11月9日付けで発表された経済産業省による全国の指定引取り場所における4品目合計の引取り台数は、延べ517万4000台である。初めの2ヶ月は少なかったが、徐々にその数は増しており、まずまずの成果である。しかし、年間推定廃棄量は1800万台であるといわれており、廃棄をためらっている、あるいは不法投棄量がかなりの量に上るという予測もできる数字である。
(2)家電リサイクル法の波紋
・消費者の反応
首都圏総合ライフスタイル調査CORE2001(http://www.rad.co.jp/kaden/kaden.htm)によるアンケート結果では、費用負担額は高すぎるが54%、やむをえないが45%で意見はほぼ二分されている。安いと感じている人はわずかだった。電通によるweb調査(http://www.dentsu.co.jp/trendbox/topics/2001/010323.html)によれば、複数回答で今ある家電製品を長持ちさせようと思うが63.1%、これから家電製品を購入する時には耐久度合いを考えて買おうと思うが46.9%と多く、あえて特別なことを使用とは考えていないは11.9%にとどまった。どこか捨てられそうな場所を探そうと思うも1.3%あった。ここから、不評の度合いがやや強く、リサイクルするよりも買い換えなくてすむようにしようという意識が強いことがうかがえる。
・国外の目
EUの国会にあたる欧州議会は2001年5月15日、すべての家電・電子製品メーカーに廃品回収を義務づけたリサイクル関連法案を可決した。回収費用は原則メーカーの負担で、リサイクル率は60〜85%と厳しい。2005年末から施行。消費者が回収以外の方法で破棄することも禁止した。これを受けて駐日ドイツ大使館の環境担当書記官は「この家電リサイクル法が日本でどのような形で実施され、どのように日本社会にインパクトを与えるのかドイツを始め、ヨーロッパ諸国の専門家が注目している。」と話している。この家電リサイクル法は環境先進国とも呼ばれる欧州諸国に先駆けて行われており、注目されていることがうかがえる。
4.家電リサイクル法の問題点
この家電リサイクル法には施行される前から数多くの問題点が指摘されている。その最たるものが排出時負担制度による不法投棄の増加である。この不法投棄された廃家電の運搬やリサイクル費用はこの法律では自治体負担である。そのため、東京都などは前払い制度改正と不法投棄分のメーカー負担による処理を求めているが国もメーカーも拒否している。この件に関しての自治体の対応は後述する。この法律でなぜデポジット制(前払い制)が取り入れられず後払い制になったのかは次の理由による。
@製品購入時には廃棄時点での実際にかかる費用を予測することは困難であり、廃棄時点において引取り・リサイクルにかかる費用が、上乗せされた額より高い(または低い)ことがあること。
A製品購入から廃棄までの間に製造業者等が倒産した場合、排出者は製品購入時に引取り・リサイクルにかかる費用を支払っているにもかかわらず、再度支払わなければならなくなること。
Bこの法律では法の制定時より前に製造・販売され、すでに家庭等で使用されている機械器具も対象とするが、このような機械器具には引取り・リサイクルにかかる費用が上乗せされていないこと。
その他の問題点として考えられている主なものを列記する。
・フロンについてはメーカーに対し回収が定められているだけでどの程度回収するか、結果を公表するかなどが一切ないため、本当に回収、破壊されているか分からない。
・プラスチックは熱回収となっているが、再商品化にすべきである。熱回収によるリサイクル(サーマルリサイクル)自体もリサイクルの対象から外すべきである。
・処理技術が確立されているにもかかわらず、リサイクル率が50〜60%と低い。
上記3項、JNEP(公害・地球懇)ホームページ(http://member.nifty.ne.jp/jnep/jp53.htm)から
・法そのものの問題ではないが、景気低迷による需要減とスクラップ素材価格の下落が、鉄スクラップ業者など資源再生事業者の経営を脅かしている。このため、せっかく費用をかけてリサイクル処理を行っても再生資源の出口でシステムが詰まってしまう可能性もある。
上記1項、ニッセイ基礎研究所ホームページ(http://www.nli-research.co.jp/report/REVIEW/9901-1.html)から
5.家電リサイクル法の運用と地方自治体
(1)法施行後の自治体による廃家電の処理
この法律によって、家電4品目の主な処理は自治体から業者に移ることになった。しかし、法律の趣旨には沿わないが、家電リサイクル法施行後も自治体は廃家電の処理を行うこともできる。これに関してニッセイ基礎研究所ホームページ(http://www.nli-research.co.jp/report/REVIEW/9901-1.html)では面白い分析を行っている。以下はそこからの要約である。
これまで通り自治体で廃家電を処理すれば基本的にこれまで通りなので住民負担は軽い。適用法は廃棄物処理法となる。しかし、自治体ルートでの処理が増えると「メーカーがリサイクル処理義務を負う」という法の理念が形骸化する恐れがある。また、自治体で家電リサイクル法と同程度の処理能力を持つ所は少なく、設備投資も財政難で難しい。ではまったく業務を行わなくてよいかというと、そうでもない。自治体のコストは確かに減るが、収集運搬に一切関与しないと新たな収集網をまた一から構築せねばならず、住民負担が増え、不法投棄が増える可能性があり、自治体の負担は逆に大きくなる。以上のことから、最も自治体にとって良い選択は「収集運搬だけ行い、リサイクル処理はしない」である。すると既存の収集網も使える上、処理基準を満たすための設備投資の不必要で、法趣旨も生きる。しかし、この場合でもメーカー別の仕分け、リサイクル費の徴収してメーカーに引渡す業務などある程度の負担は残る。(この分析は施行前に行われたが、実際は自治体の関与は最小限にとどめた自治体がほとんどだったようである。)
なお、メーカーに収集場を提供したり、メーカーがリサイクル処理施設を建設する場合の許認可を速やかに行ったりするなど、家電リサイクル法を成功させる上で自治体の協力は不可欠である。
(2)不法投棄への自治体の対応
不法投棄への対応は多くの自治体が躍起になって取り組んでいる。不法投棄された廃家電のリサイクル費用は自治体の負担になるからである。産経新聞平成13年4月30日付の記事による自治体の試みには次のものがある。名古屋市ではタクシー運転手に不法投棄をした車のナンバーや人相を連絡してもらう。愛知県新城市では新聞販売店に通報の協力を求める。埼玉県草加市と八潮市では郵便局に協力を依頼する。千葉県市原市では監視カメラを設置した。また、群馬県桐生市では不法投棄の発見者に報奨金を出す。東大阪市では市の職員が夜のパトロールに出る、など実に多様な対策がとられている。3月の環境省による全国調査では、95%の市区町村が不法投棄増加を懸念し、54%が不法投棄処理予算を計上した。毎日新聞平成13年7月5日付の記事によれば、経済産業省と環境庁の調査の結果、不法投棄が増えた自治体は52.9%、変化なしが29.0%、減ったのが18.1%だった。
(3)宇都宮市の対応
この法律に関して宇都宮市はどのような対応をしているのかを知るべく、私は電子メールにて宇都宮市役所環境部清掃課に電子メールにて質問し、回答を依頼した。その回答では次のようであった。
@パンフレットを作成し、自治会を通して各世帯に配布する。
A自治会に向けての説明会を開催する。
B不法投棄については関係機関と連絡を取り合ってパトロール等の強化等に努める。
この回答と同時にパンフレットも郵送された。それはA3版カラーの紙であった。
宇都宮市の家電リサイクル法への取り組みはかなり小さいようである。なぜならばこの回答は予想していたものよりかなり簡単なものであるし、パンフレットは宇都宮市民である私の手元には回ってこなかった。また、宇都宮の月間広報誌の記述もかなり小さいスペースしか取っていなかったし、市役所のホームページにも家電リサイクル法について記載されている部分は見当たらなかった。市は家電4品目を一切取り扱わないという姿勢であり、自治体が負うべき収集は収集運搬許可業者に任せているようである。
6.家電リサイクル法と地方自治の関わり方に関する考察
これまで家電リサイクル法について様々な面から見てきた。ここに集まった多くの人々の分析や意見などを踏まえて、家電リサイクル法と地方自治という観点でどのようなことが言えるだろうか。
この法律については施行前に多くの不安要素が指摘されてきたことは既に述べた。しかしながらふたを開けてみれば、まだ半年とはいえ意外に否定的意見は少ないように思われる。時間とともに回収は順調に進んでいるし、大きな混乱も生じていない。大きな問題なのは不法投棄くらいなものである。したがって、不法投棄は今後減らすことができるかが焦点となると思われる。
私は家電リサイクル法と地方自治を考える上での重大な要素がここにあると見る。述べたように自治体は不法投棄の根絶を目指して法趣旨の説明やパトロールに邁進している。「負担が増えて申し訳ないが協力して欲しい。不法投棄は犯罪です。」これが行政側の声だろう。しかし、ここに重大な欠落がある。というのはこの法律をマイナスの面からしか捉えられていないからである。とにかくきちんと法律を遵守させることしか考えていない。本来ならばこの法律は、環境を保全し、将来に向けてよりよい社会を構築することが大きな目的のはずである。行政側はこの法律から生じるメリットをもっと説明し、「これだけの成果が上がった」と宣伝するべきであろう。一部の人だけが探し出すようにしてしか、このリサイクルの成果は知られることはない。具体的な報告をしつつ、市民の協力のおかげでこれだけのことができたとアピールしていけば、おのずと不法投棄は減っていくのではないか。こういった、とにかくやってもらうという行政による法律運用の一方通行は、進歩的である当法律に対してあまりに古臭い。これではこれまでのように市民と行政との間に隔たりがあるままであるとは言えないだろうか。すでに各方面から多くの意見、問題点が指摘され、すでに出尽くした感がある中で、これを私の意見として今回提起する。
<参照ホームページ>
経済産業省ホームページ
家電リサイクルの基本的内容、法律・政令・省令、最新の施行状況など中央省庁ならではの詳しい内容が掲載されている。
http://www.meti.go.jp/policy/kaden_recycle/ekade00j.html
ニッセイ基礎研究所ホームページ
シンクタンクが家電リサイクル法について分析したレポートが掲載されている。他ではなかなかない鋭い分析がなされている。
http://www.nli-research.co.jp/report/REVIEW/9901-1.html
和歌山リサイクル企業組合ホームページ
Q&Aで様々な面からこの法律について解説している。こういったホームページは数多くあるが、中でも説明が詳しい。