国際学部国際社会学科 2年

                              000106U 稲村  脩

[地方自治論レポ−ト]  

[地方交付税交付金の現状と課題]

 

 地方交付税は現代日本の地方財政を支える重要な歳入項目になっている。地方分権が騒がれる中、この制度をめぐる国・地方間、地方団体間の利害対立は激しく、現在、問題点の解決はおろか、解決の方向を示すことさえ困難な情勢にある。地方分権をめぐる諸議論の中でも、地方交付税交付金の制度改革は極めてデリケ−トな課題といえる。この制度の沿革を探ると同時にその問題点について考究

したい。

 

(地方交付税交付金の仕組み)

 地方公共団体は、その徴収する税金を財源として自主的に地方行政を営む建前である。しかし、地方公共団体のおかれる社会的経済的状況は千差万別であり、その税収力には著しい格差があるため、税収のみでは地域的に必要とされる行政水準を維持することができない団体が少なくない。そこで国はこうした地方公共団体間の財政力の不均衡を調整し、各地方団体が必要な行政水準を等しく維持できるようにするために、財源を調整する仕組みを整えることが必要となった。この財政調整のために考案された制度が地方交付税である。(地方交付税法1条)

 地方交付税の財源となるのは国税5税の一定割合である。つまり所得税・法人税・酒税の32%、消費税の29.5%、たばこ税の25%である。(このうち法人税については、1999年度の「恒久的な減税」に伴う地方財源対策として「地方法人関係税の見直しが行われるまでの間」35.8%に引き上げられた。)

 各自治体の地方交付税額は基本的には、財源不足額=基準財政需要額−基準財政収入額によって算定される。

 個々の自治体の基準財政需要額は、教育費(小学校費など)、土木費(道路橋梁費など)、警察費など主要行政項目ごとに、基準財政需要額=単位費用×測定単位×補正係数が計算され合計される。

 

単位費用とは都道府県では人口170万人、市町村では人口10万人のモデル自治体を想定し、標準的な行政を実施するにあたって必要となる単位当たり一般財源額である。測定単位とは各自治体の人口、面積、道路延長距離など各行政項目ごとにその量を測定する単位である。補正係数とは各自治体の自然的・社会的条件の差を基準財政需要額に反映させるために人口規模、人口密度、寒冷地、人口急増・急減、公共施設の整備状況、都市化の程度などに応じて経費を補正する係数である。

 基準財政収入額とは、各自治体の地方税及び地方譲与税の80%(都道府県)乃至75%(市町村)であり、残りは自治体の留保財源となる。

 そして自治体ごとに基準財政需要額−基準財政収入額が計算され、財源不足団体にはそれに対応した地方交付税が交付される。

 この方式によって算定されるのが普通交付税であり、地方交付税総額の94%を占める。残り6%は特別交付税として、通常の基準財政需要額では算定されない行政経費を確保するために自治体に別枠で交付される。

 以上により、「基準財政需要額」はおおまかにいえば標準的な行政に要する財源額であり、「基準財政収入額」は地方税収見込額であるから、この両者を比べることによって、ナショナル・ミニマム相当の行政を行う際に財源が不足するのか、それとも超過するのかを明らかにする。そして財源の不足が大きければ大きいほど多額の交付税を交付し、逆に財源が超過していれば交付を行わないことによって、団体間の財政力と財政需要の格差を同時に二つとも是正しようというのである。

 

(地方交付税交付金の沿革)

 大正デモクラシ−を背景に、当時、国の税であった地租(今の固定資産税)と営業税(事業税)を地方に移すべきだとの運動が起きた。「両税委譲問題」といわれる。その後、米騒動、関東大震災と続き、地方財政は窮迫して東北各県などでは増税を重ねた。この頃、地方税は国の税に地方が附加をする方式であったことから苦し紛れにその附加を強める傾向が出た。地方団体間の差が深刻化し、財政の調整が「緊急かつ重要」な問題となった。1932年(昭和7年)内務省は「地方財政調整交付金制度要綱案」を発表。現在の地方交付税と酷似したこの案は残念ながら日の目を見ず、1936年

(昭和11年)になって臨時応急措置として「臨時町村財政補給金」という制度に結実した。当初、臨時応急措置のはずであったのが、財政状況は好転せず、「臨時地方財政補給金」と名称を変えて市や県まで範囲を広げる状況となった。これが結局、1939年(昭和14年)まで続いて1940年

(昭和15年)の国・地方を含めた税制改革に連なる。所得税などの人的税は国に、地租、家屋税などの物的税は地方にとの大区分がなされた。このとき、地方には新しく「地方分与税制度」として、

「還付税」と「配付税」を発足させることとなった。還付税は国が徴収した地租、家屋税、営業税を府県に全額還付するもの配付税は国税の所得税・法人税の17.38%、入場税・遊興飲食税の

50%を国から府県と市町村に配付する制度。配付という形で国から地方に財源が移転して、地方財政の調整機能を持ち始めた。配付の方法は、課税力の強弱、財政需要に応じて按分し、その他の特別の事情を勘案するもの。この意味で現在の地方交付税制度のハシリといえる

 大正末から昭和初頭にかけて、すでに地方団体間に著しい財政格差が生じていて戦時下にその調整策をとらざるを得ない状況であったことが重要で、それが現在までひきずられているわけである。

 第2次大戦後、シャウプ勧告がなされて1950(昭和25)年度に「地方財政平衡交付金制度」に変わり、1954(昭和29)年度に「地方交付税制度」が制定され、現在に至っている。このように地方財政調整制度は、20世紀に入って資本主義諸国において登場してきた現代的財政システムの一つである。それが登場する基本的な背景としては第一に独占資本主義段階以降になると地域経済の不均衡発展が顕著になり、地方自治体の財政力格差が大きくなったこと、第二に国民諸階層や労働組合・社会主義諸政党の運動も反映してナショナルミニマムとしての一定の行政水準を全国的かつ普遍的に保障する必要性が高まってきたこと、第三に資本主義経済の発展・高度化とともに従来の収益税(地租、営業税など)や関税・間接税に代わって所得税・法人税や消費税が国家の基幹的税収となり、地方政府に比較して中央政府への税収集中化が進行してきたことがある。つまり財政力の相対的に低い地域も含めて全国的に一定の行政水準を確保するために中央政府に集中化する財源を地方自治体に再配分して、地方自治体間の財政力格差を是正し、かつ地方自治体への財源保障を遂行しようとするのが地方財政調整制度の基本的目的である。

 

(地方交付税交付金の現状)

 地方公共団体の歳入には、地方公共団体が自治活動のために自由に使用できる財政収入と、使用目的が特定されている財政収入との別がある。前者を一般財源後者を特定財源という。地方自治行政の創造的でかつ活発な展開を図るには一般財源が豊かでなければならない。主な一般財源には地方税、地方交付税ならびに消費譲与税がある。この他、地方公共団体は特定の使途にあてるためのいわゆるヒモつき財源として国庫から補助金を受けたり、地方債の起債が認められる。こうした使途の決められた財源を特定財源という。

地方交付税は現代日本の地方財政を支える重要な歳入項目になっている。1997年度決算では地方歳入総額99.8兆円のうち地方税36.1兆円に対して地方交付税は17.1兆円であり、国庫支出金14.3兆円、地方債14.0兆円よりも大きい。1990年代を通しても地方交付税は地方歳入総額の17%前後をコンスタントに占め、地方税に次ぐ重要な一般財源である。個別の地方自治体を見れば、特に財政力の比較的弱い団体では地方交付税の方が主要財源であり、地方税は副次的財源になっている。

 

97年度資料によると、道府県の財政力グル−プ別の歳入構成比は、財政力指数(市町村の財政が持つ潜在能力、財政の構造を判断する基礎に使用。数値は市町村の財政の貧富を直接判定するものではないが、強弱を表す。1に近いほど財政力が強いとされ、1を超すと富裕団体とみなされて地方交付税の交付がなくなる。)0.5未満のグル−プでは地方税よりも地方交付税の比重が重く、特に財政力指数0.3未満のグル−プ(高知、島根、沖縄など)では地方税はわずか12.3%であるのに対して地方交付税は30.4%にも達している。また市町村の歳入構成比を見ると、人口10万人以上の中都市以上では地方税が歳入の約5割を占め地方交付税は1割以下であるが、人口10万人未満の小都市では地方交付税は19.6%に上昇し、さらに町村では地方税の21.4%に対して地方交付税は34.2%になり自治体の最大財源になっている

このように財政力の低い地方自治体ほど地方交付税が歳入面で大きな役割を果たしているのは、日本では地方交付税が地方財政調整制度の主要な担い手になっているからである。

このような仕組みを持った地方交付税は、現代日本の地方財政にあっては@自治体の財源保障、  A自治体間の財政力格差是正、B国と地方の財源調整の機能を果たしているとされている。つまり、自治体ごとに基準財政需要額を算定することによって標準的な行政水準の総枠を設定し、基準財政収入額がそれに満たない場合には、地方交付税でその財源不足額が保障されることになる。また、交付額算定において基準財政収入額という自治体の税収力が考慮されることになり、税収力の低い自治体ほど交付額が多くなるだけでなく、地方圏、農山村地域、小規模自治体ほど補正係数が高くなる傾向にあって基準財政需要額が相対的に多く算定されることもあり、地方交付税は結果的に自治体間の財政力格差を事後的に是正する機能を持つことになる。

 

それでは財源保障なり財政力格差是正の機能は現実にはどのように発揮されているのであろうか。

地方自治体の財源には既述のように、国庫支出金や地方債のように使途が特定される特定財源と地方税、地方交付税及び地方譲与税のように使途の特定されない一般財源がある。地方自治体の独立性や自主的財政運営という観点からは当然ながら一般財源がより確保されることが望ましいであろう。

そして先の両図の地方歳入構成比で示されるように、自前の地方税収が十分に確保できない財政力の低い地方自治体ほど地方交付税の比重が高くなっている。結果的に地方税と地方交付税を合計した一般財源のシェアはすべての都道府県で約5割弱、すべての市町村で6割弱が確保されていることになっている。つまり自治体財政での一般財源の均等的保障という意味では、地方交付税の財源保障機能、自治体間の財政力格差是正機能は相当な効果を発揮しているといってよいであろう

                                           

(地方交付税交付金の問題点)

 現行制度が発足して50年近く経過した今日、地方交付税制度はその財源保障と財政力格差是正機能を通じて確かに地方財政運営の基盤的役割を果たしている。とはいえその実態は「地方財政白書」のいうように「地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方公共団体の独立性を強化するものである。」と手放しに評価し得るものでもない。現行の地方交付税制度には以下にみるような様々な構造的な問題点が内包されている。

 

@ 制度の集権的性質と複雑性。 地方交付税は地方自治体の重要財源であるが、地方交付税の総額や自治体への配分方式の決定に関しては、地方自治体側は一切関与できず、事実上政府・総務省の権限の下にある。総務省はこの配分方式への地方自治体の関与は一貫して否定する。地方の固有財源だが、その配分は総務省のみが決定するという立場である。なお、1999年に成立した「地方分権一括法」では地方交付税の算定方法に関して、地方団体は総務大臣に意見を申し立てることができるようになったが、その実効性が担保されているわけではない。

 さらに、単一のモデル自治体を想定した基準財政需要額を、現実には千差万別に存在する地方自治体の一般財源所要額に近似させるため、基準財政需要額算定のための行政項目や補正係数が増えて算定方式はますます複雑化している。その結果、地方交付税の算定は総務省等ごく一部の関係者を除けば、地方議員や一般国民にとっては極めて分かりづらく、事実上のブラックボックスと化している。

A 地方交付税は一般財源とされているが、現実には全くの自由財源ではなく、むしろ近年では「特定財源化」が進んでいる。例えば、国庫支出金を伴う補助事業の場合、補助金以外のウラ負担(補助金は、文字どおり補助であるため、これで事業経費が100%賄われるわけではなく、自治体の事業費負担がある。これを役所用語でウラ負担という。)を地方債乃至自治体の一般財源で負担することになるが、補助事業ごとにウラ負担部分が基準財政需要額に算定されており、地方交付税は自治体に補助事業を確実に遂行させるための財源手段になっている。

B 現行の「国税の一定割合」によって決まる交付総額が、配分適正化・財源保障に要する金額と一致することはまずないといえる。両者は全く別の論理によって決まるのであり、一致しないどころか例えば景気低迷期には当然両者のギャップは急速に拡大する。特に戦後日本の地方財政の膨張過程においては交付税財源の不足が問題化してきた。これは地方交付税法の規定によれば交付税率の引き上げで対処すべきものである。ところが当初国税三税(所得税、法人税、酒税)の20%であった交付税率は、何度か引き上げられて1966年度に32%になって以降は据え置かれている。法的財源では不足するにもかかわらず交付税率引き上げが回避されてきたため、残された解決策として現実的に実施されたのは地方交付税特別会計借入金の拡大であった。交付税の根本的財源対策をとらないまま、地方交付税特別会計借入金という「かくれ借金」で処理してきたのである。ここにはブラックボックスとしての地方交付税制度及び同特別会計が国の財政再建や景気対策に都合よく利用されている実態が示されている

 

C 地方交付税配分において大都市圏自治体は結果的に相対的な不利益を被っている状態にある。

 先の図で地方交付税が自治体間の財政力格差是正機能を発揮していることを見たが、実は一人当たり一般財源レベルで見ると大都市圏自治体よりも地方圏・農村圏自治体の方がはるかに上回る状態にある。また、実際にも人口密度が低いほど一人当たり基準財政需要額が急速に増加する傾向にある。確かに人口密度や自然・社会条件の違いによる行政コストの差は考慮する必要はあろうが、これほどの地方交付税配分の格差は果たして妥当な水準にあるのかどうか、問題を残しているといわざるをえない。

 

D 制度発足以来、ほとんどすべての地方自治体が財政的に地方交付税に依存している問題である。不交付団体は1997年度では、47都道府県のうち1団体(東京都)、3233市町村のうち122市町村にすぎず、実に96.3%の地方自治体が多かれ少なかれ地方交付税に依存している。もちろん景気動向による地方税収の変動によって交付団体数も若干増減するが、ほぼ95%前後の地方自治体が地方交付税に依存する構造は不変である。これは全国の地方自治体が標準的行政を実現しようとすれば、現行の地方税配分では不十分であることを客観的に示しているといってよい。つまり自治体レベルで地方税率を操作する現実的可能性はないうえに、国から交付される地方交付税でほとんどすべての自治体が一般財源を確保している構造にある。

 

 90年代後半に入って戦後第三の危機といわれるほど地方財政は危機的状況に陥っている。地方財政の借入金残高は1990年度の67兆円から1999年度末には175.9兆円へと10年間で3倍近くに増加し、また多くの地方自治体で経常収支比率が悪化して財政硬直化が進み、公債費負担も財政構造を圧迫するほどになってきた。そして今回の地方財政危機には地方交付税システムそのものが重大な係わりを持っているのである。

 

(地方交付税交付金への批判と改革)

 地方交付税はいくつかの構造的問題を抱えながらも、これまで現代日本の地方財政を支える重要な財政システムとして機能してきた。実際、ほとんどすべての地方自治体がその財政運営にあたって地方交付税収入に依存しており、一部の不交付団体を除けばある意味で既存のシステムから財政的恩恵を得ているがために、地方自治体サイドからは、交付税率引き上げ要求が出されることはあっても、地方交付税制度そのものへの批判や根本的改革が求められることはなかった。しかし、1990年代に入って国の財政赤字とともに地方財政赤字が深刻化するに伴い、研究者サイドから地方交付税制度そのものへの批判が強まりつつあるのが近年の大きな特徴である。その批判的潮流には主に次のアプロ−チがある。

(1) 地方交付税制度そのものに財政赤字の拡大要因を見出し、制度の原則的廃止を求める立場。

(理由)地方交付税は自治体や住民にとって自ら負担の痛みや徴税に伴う緊張関係を生じさせないため、財政責任を欠如させて放漫財政に導きやすく財政赤字も生じさせ易い。特に問題なのは好況期に地方交付税財源(国税5税の一定割合)が地方交付税必要額を上回り、余剰財源が生じる場合である。この余剰財源は減税に回されるのではなく、基準財政需要額の意図的な拡大によって処理され、地方交付税ひいては地方財政の肥大化を招いてきた。

(改革案)@ 基準財政需要額算定基準を人口だけにする。A 地方税は比例所得税や固定資産税を中心にし、課税の自主権を付与する。B 交付税財源は国税の再配分ではなく、一定のシステムの下で富裕団体がその地方税収の一部を納付して貧困団体に給付する水平的財政調整とする。

 

(2)基準財政需要額算定の「過大さ」を問題にして、需要額を抑制しての地方交付税改革を論じる意見がある。(理由)1981年から1993年への推移を比較すると実質GDP1.21倍、政府最終消費支出1.33倍に比して、基準財政需要額(都道府県及び市町村)は2.05倍もあり、その結果地方財政支出も1.91倍になっている。明らかに他の経済指標に比べて基準財政需要額の伸びが目立つ。推計式によれば各自治体の基準財政需要額は人口と面積という2つの要因だけでほとんど説明できることを考えれば、この間に意図的乃至政策的な基準財政需要額の拡大がなされているとみなすべきである。さらに問題なのは、この倍率は地域間格差が大きいことである。財源保障の対象となる基準財政需要額は地方圏ほどてあつく算定されてきている。

(改革案)@ 基準財政需要額の算定を見直して、物価上昇、人口・面積要因で説明できる仮想レベルにまで圧縮する。A 地方の財源不足額が縮小すれば国から地方への財源移転の必要性が縮小し、その分だけ国税から地方税への税源移転が可能になる。B 地方税源を充実した上で、地方負担に基づく適正な行政水準を選択することが地方分権の本旨に合致する。

 

(3)21世紀の分権化社会を展望するに当たって地方税源を充実強化すべきという立場から具体的な改革提案がある。@ 地方交付税の不交付団体を増やすこと。自治団体が住民の判断の下に「良い政府」でかつ「安価な政府」であるためには、依存財源ではなく、自主財源であることが望ましい。そのためにはさしあたり例えば財政力指数0.5以上の地方自治体が地方交付税に依存しないですむような税源再配分を考える。A 自治体の課税自主権の強化と地方税源の充実を求める。具体的には所得税と住民税の共通税化、つまり個人所得税を地方税化してそのうちの4割を国に逆交付し、法人所得税を国税化してその7割を地方交付税財源とする。これによって個人・法人所得課税における国税の比重は46%から32%に低下し、歳入全体に占める地方税の比重は現行の3、4割から府県・市町村ともにほぼ5割の水準に引き上げられるという。

 

(結論)以上のような地方交付税制度への批判と改革諸提案をふまえつつ、改革の課題を考察すると、

@ 分権化社会に向けての地方税源充実とそれによる地方交付税不交付団体拡大こそが目指すべき方向である。また所得課税の国から地方への委譲による地方所得税の充実と一定の税率操作権を含む課税自主権の保障が、財政アカウンタビリティの確保及び税収規模からみても望ましい。

A 地方税源を充実して不交付団体が増加したとしても自治体間の財政力格差及び多数の財源不足団体が残存することに変わりはない。地方交付税制度を廃止することは近い将来も含めて現実的政策とはなりえない。しかしながら従来のような複雑で分かりづらくかつ政策誘導的な基準財政需要額算定を廃止し、簡素・合理化した計算方式に改編すること。また、総務省が専制的に制度を運営してきたシステムを改め、かつてシャウプ勧告によって設置された地方財政委員会のように地方自治体代表を含めた合議機関で地方交付税の制度及び運用を公開の場で議論し決定することである。

 最後に抜本的改革にいたる前の当面の地方交付税対策である。これ以上の地方財政赤字拡大を防ぐためにも景気対策を理由とした地方単独事業での誘導的な地方交付税の利用は中止すべきであるし、また赤字先送りの地方財政対策として利用されてきた地方交付税特別会計の累積借入金に対しても責任ある処理計画を作成すべきと考える。

 

(参照資料「現代の地方財政」和田八束編、「地方自治の法と仕組み」原田尚彦著)