<2006年度前期 行政学試験対策ポイント―その2―>(2006年6月29日作成)
Q11.日本における分権改革の経過と到達点について述べなさい。
地方分権一括法の制定公布(1999年。475本の関係法律の一部改正。2000年4
月から施行)=第一次分権改革
1993年6月:衆参両院で地方分権推進決議
10月:第三次行革審の最終答申(翌年中に内閣は地方分権推進の大綱方針を決定し、地方
分権推進基本法の制定をめざすべきという内容)
1994年12月:地方分権推進の大綱方針を閣議決定
1995年
1995年
:地方分権推進法の制定公布。同年7月に地方分権推進委員会の設置
1996年
1996年
:地方分権推進委員会、98年にかけて中間報告と第1次〜第4次勧告の提出。
1998年 :政府が地方分権推進計画を作成→地方分権一括法案の国会提出へ
団体自治の拡充方策(事務事業の移譲、関与の縮小廃止)を住民自治の拡充方策よりも優先、さら
に関与の縮小廃止に重点→@通達通知による関与の縮小廃止→機関委任事務制度の全面廃止!→法定受
託事務か自治事務かに=「自治体には国の下請け機関として執行する
『国の事務』は皆無に」+自治体の法令解釈権の大幅拡大+政府間関係の
公正・透明に向けた関与の標準類型や関与の手続ルール、訴訟も可
A機関・職員・資格などにかかわる必置規制の緩和廃止
B補助事業の整理縮小と補助要綱・補助要領による補助条件の緩和
「国と自治体の間の関係を従前の上下・主従の関係から新しい対等・協力の関係に転換していくための方策」
Q12.日本の省庁制の特徴について述べなさい。
1.「行政組織・定員の管理制度」=各省庁の組織・定員の総括管理機関(概算要求の財務省主計局による査
定と並行して、総務省行政管理局による審査制度。
2.
省庁の組織・定員の決定制度と管理制度における「鉄格子」効果。「行政機関の膨張抑制に寄与
している反面、政策課題の変化に対応した迅速かつ弾力的な組織変更をむずかしくしている」
3. 自治省新設(1960)以来、府・省の統廃合や新増設が2001年1月の新省庁体制に移行するまでなし
→内閣の構成も安定。「内閣の構成が行政機関の編制を決めてきたのではなく、むしろ省庁の編制
が内閣の構成を決めてきた」
4.各省各局レベルの官房系統組織の整備・定型化=局の総括管理機能は筆頭課(=総務課)が所管しこ
れが局長を補佐。各省の大臣官房に財務・人事・文書等の総括管理機能担当の「官房3課」あり、官
房長を長としたヒエラルヒー構造のライン系統組織を形成。
「これら各局レベルの官房系統組織は各省庁レベルの官房系統組織と密接なネットワークで結ばれ、
さらに各省庁の官房系統組織は内閣官房をその頂点とする行政府全体の各種の官房系統組織と密接な
ネットワークを形成」+与党の党機関、国会の関係常任委員会との間にも密接なネットワークを形成=
官房系統組織は「政務」と「事務」の結節点
Q13.現代公務員制における開放型任用制、閉鎖型任用制について説明しなさい。
開放型任用制(open career system):「初めに職務ありき」→職階制(組織の所管業務を遂行する
のに必要なすべての職務・職責についての分類体系。職務>職種>職級=職級明細書を作成し官
職を職級に格付け。「官民間・政府間・各省間に類似の業務が存在することを前提にし、また
それらの業務相互間の労働力の移動を容易にしようとする人事制度」。資格任用制が基本原理
職階法(1950)にもとづく職階制の策定は休眠状態。ただし、
給与法(1950):俸給表の種類は行政職・専門行政職・税務職・公安職・海事職・教育職・研究職
・医療職・指定職。俸給表ごとに職務の級と号俸。「○○職○級○○号俸」
「職階制は定型化された業務には適合するが、非定型的な業務には適用しにくいもの」
閉鎖型任用制:「中学・高校・大学等を卒業した時点でおこなう入口採用」。「初めに職員ありき」。
研修の重視。「組織単位ごとの終身雇用制と年功序列制を基本にしており、組織の壁を越えた労
働力移動、ことに官民間の移動をあまり想定していない」
資格任用制が基本原理
Q14.「日本の行政機関の単位組織は上級機関の直接の指揮監督に服しているというよりも、官房系統組織の濃密な統制に服している」といわれるが、これを具体的に説明しなさい。また、この文脈でのラインとスタッフの定義について述べなさい。
★横割りの組織:「本来ならばそれぞれの縦割りの組織のなかにその中心業務に付随して分散し
ているはずの共通事務を、作業方法の同質性にもとづく分業の原理にしたがって寄せ集め、こ
れをひとつの単位組織に編成したもの」=総括管理機能(財務・文書・人事など)
「縦割りの組織が多元的に分立すればするほど、単位組織の情報伝達経路はそれだけ多元化し、
命令系統一元化の原理をますます有名無実の虚構に変えてしまう」
「日本の行政機関の単位組織は上級機関の直接の指揮監督に服しているというよりも、官房系統組
織の濃密な統制に服している」。課は局の総務課に、局は大臣官房各課に、省は内閣官房・
内閣府諸機関・総務省行政管理局・財務省主計局等(いずれも行政府レベルの官房系統組織)
の統制に服している。こうなると官房系統組織はスタッフか?→
ラインとスタッフ:「現実の官僚制組織では、助言・勧告権しかもたないスタッフ組織は十分な機
能を発揮することができなかったからこそ、これに代わって、統制権をもつ総括管理機関が発達
し、長の管理機能を代行するようになった」
☆再定義「組織にとって第一義的な業務の遂行を任務とするものをライン、このライン系統組織
に助言し,これを補助し、あるいは統制することを任務とするものをスタッフ」
Q15.日本の行政官僚制組織における専決権限の割付構造について、特にルールの制定(法令)と指揮監督(命令)の2段階構造とは何か、説明しなさい。
「法令に従う義務と上司の職務上の命令にしたがう」二重の義務
法令「国会の制定する法律と国会以外の国の諸機関の定める命令(内閣の政令、内閣府令、
各省大臣の省令、などの命令。最高裁判所・会計検査院・人事院・各行政委員会などの規則)=法規
上司の職務上の命令:行政規則(行政機関の上級機関が下級機関の職員の執務を規律するために定めたもの=
訓令・通達・通知・要綱・要領は法規ではない。法令の解釈基準・運用基準としての行政規則)と
上司の支持・命令(「裁量の余地を絶無にすることは不可能であるからこそ、上司には指揮監督権が
賦与され、部下の執務状態を監視し審査し続けることが義務づけられている」)
Q16.「ストリートレベルの行政職員」とは何か。また、この行政職員が抱える課題について説明しなさい。
「ストリート・レベルの行政職員」:指揮監督関係が希薄なケース=上下を結ぶ情報伝達経路のパ
イプが細い場合。「広い裁量の余地をもって、対象者と直に接触しながら日々の職務を遂行して
いる行政職員」。マイケル・リプスキーによる命名。外勤警察官やケースワーカーなど=現場担
当職員の裁量の余地の広さと対象者に対する権力の大きさ。一方で弊害抑制のための上級機関に
よる通達や研修・教育訓練
「ストリート・レベルの行政職員」の広い裁量:
★第1段階「エネルギー振り分けの裁量=ディレンマ」:限られた勤務時間とエネルギーの範囲内
で多様な業務の遂行を期待→(例)外勤警察官のサービス活動・秩序維持活動・規制執行活動
(駐在所・派出所に待機)や巡回連絡・犯人逮捕・職務質問(地域内を巡回)
「限られた勤務時間とエネルギーの範囲内では、このうちのどの業務であれ、これを満足のい
くまで十分に実行することは不可能」
業務記録による勤務評定には副作用あり。「いかなる種類の処理件数が評価対象に採用され、
どの件数が相対的に高く評価されるかが、下級機関・部下の行動に決定的な影響を及ぼす」
第2段階「法適用の裁量」:「執行活動を担当しているありとあらゆる第一線職員の業務に、程
度の差はあれつねに付随」
Q17.規制行政サービスに対する違反者の類型と第一線職員の執行戦略について説明しなさい。
違反者の類型:@善意の違反者 A悪意の違反者 B異議申し立て者 C反抗者(「当局」の存在
と権威そのものに反感)
第一線職員の執行戦略:@周知戦略 A制止戦略(物理的な装置を設置して違反行為の発生を制止
し、人々の行動をごく自然に遵法行動に向けて誘導していく戦略)
B制裁戦略 C適応戦略
(行政機関側が規制法令を機械的に執行するのは適当でないと判断したときに採られる戦略)
「人を見て法を説く」必要性
取締活動の本来の姿:悪意の違反者に対して制裁戦略をもって臨むこと。しかし、時間とエネルギ
ーに限界→「一罰百戒」へ。
「法令上は過剰とも思われる規制措置を用意しておきながら、実際には過少な制裁しかおこなわれ
ない」という現象→悪意の違反者による偽証・偽装→「第一線職員は悪意の違反者と善意の違反
者を的確に見分けようとして、猜疑心に満ちた尋問をおこなうことになりがちである。そして、
このことが善意の人々の心を深く傷つけ怒らせることになってしまう」
第一線職員の裁量行為:最も重要で困難なのは適応戦略による対処。
「規制法令にしろ、その解釈・運用のマニュアルとして作成された行政規則にしろ、千差万別の対
象に対応する手引きとして決して万全なものではありえない」→「異議申し立て者に直面するこ
とは、行政機関がみずからの活動について再考する絶好の機会」、しかし、「あくまで標準的な
執務マニュアルにすぎないはずの通達等に固執して、機械的に制裁戦略をもって対応してしまう
ことの方が多い」
☆「現代国家の行政活動の合法性・妥当性は、そしてその有効性も、究極のところ第一線職員の賢
明なる判断に大きく依存」。
Q18.政策立案分析において、政策目標の達成水準に対する評価基準、政策対応のレベル(政策立案コスト政策転換コスト)と、政策案の現実性について説明しなさい。
政策案の発議と立案の契機:政策目標の達成水準に対する評価基準が変動した場合を考察→@限界
値基準(最低限度の目標値) A充足値基準(政策目標の達成水準の向上を促す基準) B期待
値基準(理想の目標値)
政策対応のレベル:政策立案コスト(縦軸)・政策転換コスト(横軸)→現行業務の微修正(小
小)・転用=業務の構成要素すべてを少しずつ修正(大小)と新規政策の模倣(小大)・研究開
発(大大)図表参照!
政策案の現実性:@政治上の実現可能性 A行政資源(権限・組織・定員・財源)の調達可能性
権限・組織・定員・財源の調達見込)「内閣法制局による法令審査、総務省行政管理局による機構・
定員審査、財務省主計局による予算査定」 B業務上の執行可能性
Q19.行政需要について説明しなさい。
「対応の基本方針を表明した抽象度の高い政策(policy)を行政サービスの生産・供給の仕組みを設
計した施策(program)に分解し、この施策をさらに個別の行政サービスの内容を確定した事業計画
(project)にまで具体化する際には、対応すべき課題量(対象集団・対象物の数量およびこれに対
して供給すべきサービス量)を推定する作業が必須である」
行政需要:「市場のメカニズムの需要・供給の概念を政治のメカニズムに類推適用」
市場状態把握のための市場力(飽和性。当該の財・サービスを消費しうる市場の規模)、購買力(普及性。
新規需要・買換需要・買増需要の購買力)、販売力(占拠性。競争関係にある供給主体間の市場占有率)。
しかし、「市場における需要は商品の質量と価格を前提にして顕在化するものであるのに対して、政府の
行政サービスに対する需要は無定型」!(市場のような商品と価格を前提にした顕在化なし)→
☆行政需要:人々が政府にその充足を期待する効用。多種多様、相矛盾対立、非定式化。
顕在行政需要と潜在行政需要(政府による行政ニーズとしての認識は別)
☆行政ニーズ:政府の側が行政サービスによって対応すべき課題と認定したもの。
論点は新規政策の立案・決定をめぐり、「行政需要を行政ニーズとして認定することの可否」!
Q20.中央省庁の法令等をめぐる実質的意思決定過程とその特徴について説明しなさい。
実質的意思決定過程
主管課は、局の総務課長・審議官・局長、さらには官房の関係課長・官房長・事務次官
等の意向を確認した上で、第1次原案を立案→主管課が局の総務課および官房の文書課と
の協議により関係課を選定→関係課の人々を召集して会議を開催し、主管課による第1次
原案の趣旨説明→関係課の質問と意見表示→主管課による第2次案の立案 (この繰り返し、
あるいは局の総務課、官房文書課、省庁間の官房文書課同士の調整工作ですべての関係
課の疑義が解消されれば)、あとは形式的意思決定過程へ。
その特徴として:
1)会議による集団的意思決定:地位の上下にかかわらず発言の許容と意見採択=職場内研修(on
the job trainning=OJT)の場。反面、課・局・省庁単位の意見集約がセクショナリズムを助
長。「部内の強い結束が他部門に対する排他意識を強めて」いる。省庁間の合議(あいぎ)
2)意思決定への官房系統組織の関与:総務課は主管課が局長にアクセスする際の経由機関。
官房文書課は主管課が大臣にアクセスする際の関門+官房系統組織は部内調整と部外折衝の役割。
「総務課は局長権限の、官房は大臣権限の補佐・代行機関」
Q21.予算のミクロ編成における意思決定過程の全般的な流れについて説明しなさい。
予算のミクロ編成:@各省庁各課の予算要求原案の作成と各局総務課への提出(5月末〜6月初め
まで)→A各局総務課による予算要求原案の査定後、局としての予算要求書の
作成と各省庁の官房予算担当課(会計課)への提出(6月末〜7月初めまで)
→B官房予算担当課による予算要求書の査定後、省庁としての概算要求書を
財務省主計局に提出(8月末〜9月初めまで)→C財務省主計局による概算要
求書の査定後、財務省原案(12月20日過ぎ)→復活折衝→予算閣議へ報告(年末)
→この閣議で政府予算が決定→国会に提出(翌年1月下旬)。
Q22.予算のミクロ編成における意思決定過程における流れの中身について説明しなさい。
上記@とAの中身!:政策的予算をめぐる総務課ヒヤリング(中心は総務課長・総括補佐・
予算担当補佐)→査定結果を要求課に内示(一次内示)→各課の復活要求(要求
の修正)→再度の総務課ヒヤリング→二次内示(最重要事項については局長ヒ
ヤリング)→局の予算要求書を官房予算担当課へ提出
B:省庁の官房予算担当課が査定部局、各局の総務課が要求側
C:財務省主計局が査定部局、各省庁の官房予算担当課が要求側
財務省主計局における次長(3人)・主計官(総括主計官2人。各省庁担当の主計官9人)・
主査(各主計官の下に複数。省庁または局の予算を分掌)。局議では主計官・主査が要求側として
各省庁を弁護。局長・次長・総括主計官は査定側。