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谷島吉彦「八丈島における地熱発電」
1. 八丈島の電力供給
八丈島の電力供給は内燃力発電所(ディーゼル発電機、総出力11,100kW)と地熱発電所(3.300kW)、風力発電所(500kW)から供給[1]しており、島で供給できる電気の約4分の1も地熱発電で供給されていることになる。日本における地熱発電の電力供給の割合は全体の約0.2%であるから、供給できる総電気量の約4分の1も地熱発電でまかなっている八丈島は、まさに地熱発電が成功した地域の1つと言える。また、八丈島は日本で唯一自然エネルギーをベース電源としている地域でもある。しかし、現在では2本あった蒸気井という地下から蒸気を取り出す井戸のうち、1本が詰まって埋められていまい、地熱発電による電力供給は2,200kWに留まっている。
2. 地熱発電に適した環境
地熱発電を建設するときは、まずその場所に発電に必要な地熱蒸気があるかどうかを調査しなければならない。一般に地熱蒸気を得るためには、「地下の温度が高いこと(250℃程度)」、「地下に多くの水があること」、「その水を蓄える断層が多くあること」という条件が必要[2]であると言われている。八丈島の地熱発電所がある地下には、地下4〜5kmにマグマがあり、その熱で岩石や地下水が熱せられる。これは発電をするのに必要な条件にあてはまり、建設前の目標としていた3,300kWの電力供給が可能と調査で分かったので、地熱発電所が建設された。まさに地熱発電をするのに適した環境であったから、八丈島の電力供給の主要な発電になった。日本は火山国であるので、このように適所となっている地域は他にもあるが、自然環境のことも考慮しなければならないのが、地熱発電の難しいところである。
現在ではバイナリー発電というものが登場し、地下の温度が150℃〜200℃でも発電が可能となった。バイナリー発電とは、温度の低い蒸気でも発電ができるように、蒸気の持っている熱を水よりももっと蒸発しやすい媒体に熱交換させて蒸気を作り、タービンを回して発電できるように工夫したものである。八丈島の地熱発電所では高温の蒸気が得られるのでバイナリー発電は用いられてはいないが、九州地方にはこの発電が用いられている発電所がある。日本には温度の低い蒸気や熱水が得られる井戸が多いので、バイナリー発電は注目されている。しかし、このような新しい技術が生まれたからといって、地熱発電が今後日本の各地に建設されるかと言えばそうとは言えない。メリットだけに目を奪われてはならない。地熱発電にも問題点がたくさんあるのだ。
3. 地熱発電の問題点
地熱発電の問題点には主に次のようなことがあると言われている。「硫化硫黄の放出による大気汚染」、「建設中のボーリング作業による騒音・振動、噴気の騒音」、「地盤沈下」、「土砂の流出による河川水の汚染や土壌汚染」、「熱水、蒸気の放出による植物の損傷」、「泥水の温泉への混入」、「温泉の減衰」[3]。この他にも「建設コストが高い」などといった問題点があるが、地熱発電の問題点の中には、意外にも環境を汚染することについての項目が多かった。二酸化炭素の排出が非常に少なく、クリーンで地球に優しいエネルギーとして注目を集めているが、決して地球に無害ではない。むしろ対策をしなければ大きな環境問題を引き起こしたり、近隣の人々を危険な目に遭わせてしまったりするかもしれない。八丈島の地熱発電所でもわずかだが硫黄などの大気を汚染するガスが発生してしまうので、除去設備により大気汚染を防いでいる。
また発電所を建設した後で、その地域の自然を破壊してしまうこともあり得るので、八丈島では、植樹をすることによって、環境への細心の注意を払っている。発電所を建設して大量の電力を供給するのも必要なことだが、建設した後の自然環境も守らなければいけないので、地熱発電所を日本各地に建設するには、まだまだ課題がたくさんある。
4. 地熱エネルギーの発電以外の利用
地下から熱水を取り出すと熱水が沸騰して蒸気となる。この蒸気は発電の役割を終えると約40℃の温水になると言われている。八丈島の地熱発電所ではこの温水で農業用水を温め、園芸用温室の暖房に役立てている。「以前は灯油で暖房していたが、3.3平方メートル当たり5,000円のエネルギーがかかっていた。今は10分の1のエネルギー代で、しかもクリーン」、「東京市場へ観葉植物を出荷するのに外国の花と競争できるコストに下がってきている。」と農業者も地熱の恩恵を受けており[4]、地球の資源の節約にもつながっている。ただ発電するだけでなく、発電の際に生じる熱エネルギーも使っているので、まさに無駄のない発電と言えるだろう。化石燃料などの資源が乏しい日本で、「エネルギーの地産地消」を目指している八丈島は、今後の日本のエネルギー政策の目指すモデルの一つとして注目されている。
5. 今後の地熱発電
八丈島の地熱発電を調べることによって、日本の地熱発電事情が見えてきた。昨年の3月11日に起きた東日本大震災により、脱原発の風潮が高まっている。その中でクリーンな自然エネルギーに注目が集まっているが、新しい地熱発電所は、建設されていないのが現状である。実際に図書館で自然エネルギーに関する書籍を調べてみると、地熱発電よりも太陽光発電、風力発電、バイオマス発電について深く述べているものが多く、地熱発電は、他の自然エネルギーよりも注目されていないような印象も受けた。太陽光発電などは、自分の家や身近なところで発電できる。だから、あまり身近に感じることがない地熱発電が普及するのは、難しいことかもしれない。また、日本には地熱発電に使われる熱水資源が豊富にあると言われているが、国立公園や温泉地に多く開発が進んでいない。しかし、斜めに掘り地下の熱水を取り出す技術開発が進み、発電所の設備の大部分が国立公園や温泉地の区域外に設置することが可能になってきており、明るい兆しが見えているのも事実である。このような新しい技術を開発していけば、地熱発電がもっと注目され、建設を後押しする動きが出てくるかもしれない。原子力発電が見直されている今だからこそ、新しい可能性について考えることは必要なことである。八丈島のように、地熱発電がうまく機能している地域があるので、これをモデルとしていけば、地熱発電がもっと主要な発電源になる日が来てもおかしくないのではないだろうか。改善する必要のある問題点はまだ多くあるが、今後日本で地熱発電所の建設が積極的に進められても不思議ではないと感じた。