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高橋大騎「TPP参加による遺伝子組み換え作物の影響について」

 

1.非関税障壁とは[]

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)においては「関税の撤廃」ばかりが話題になることが多いが、実はもう一つ重大なことがある。それは「非関税障壁の撤廃」である。日本では輸入する品目ごとに関税を設けており、米の場合には約788%の関税率となっている。このように関税を設けることで、国内で流通する値段の安い外国米が安くなりすぎるのを防ぐ足かせとしている。「非関税障壁」とは、関税以外の方法で、輸入製品にかける足かせ、ということである。主な「非関税障壁」には「国内販売製品の一定割合以上の部品に国内生産品(ローカルコンテンツ)の使用を義務付ける」、「テレビや映画放送に占める輸入コンテンツの割合の制限」(韓国などで実施。日本では1945年に廃止)などがある。

 

2.非関税障壁の撤廃[]

この非関税障壁の中には、「遺伝子工学(バイオテクノロジー)を用いた農産物や畜産物の排除」という項目がある。アメリカではほとんどの食品が遺伝子組み換えされた農産物/畜産物であり、遺伝子組み換えされた食品であるかどうかを表示する義務はない。日本では遺伝子組み換え表示制度があり、遺伝子組み換え作物を売りたいアメリカの企業にとっては、この日本の表示制度は紛れもなく「非関税障壁」である。日本をTPPに参加させることで「非関税障壁の撤廃」の名のもとに、日本における遺伝子組み換え関係商品の輸入自由化(遺伝子組み換えか否かの表示も規制)を実施しようとしている。すると遺伝子組み換え商品が次々とスーパーに並び、日本も負けじと遺伝子組み換えの作物が栽培されることもありえるだろうしかし、現在日本は遺伝子組み換え作物は日本にはとうもろこし、大豆、なたね、綿実の4種類が輸入されていて、この4種類は全て食用油の原料になる。当然ながら、遺伝子組み換え作物として表示しなくてはならないのだが、「組換えられたDNAや、それによって生成するタンパク質が製品に含まれない場合は、表示しなくてもよい」という決まりがある。油には組換えDNAが残らない。よって、原料のとうもろこしや大豆、なたね、あるいは綿実が遺伝子組換えのものであっても、油の原材料欄にそのことを表示しなくても問題がない。普段食べているサラダ油、コーン油、キャノーラ油、などは、ほとんどが遺伝子組換え原料のものであると考えた方がいい。

 

 

 

 

3.遺伝子組み換え作物による体への影響[]

現次点において遺伝子組み換え作物が人体にどれほどの影響を与えるのか、はっきりとはわかっていない。しかし、遺伝子組み換え作物に導入されている異種の遺伝子やその生産物が人体に影響を及ぼさないとは言い切れない。遺伝子組み換え作物を食べることによって、これまで働いていなかった遺伝子が働き始め、毒となったりアレルギーを引き起こしたりする可能性が考えられる。実際、モンサント社が作ったラウンドアップ・レディ大豆と呼ばれる世界でも1億トン以上生産されている遺伝子組み換え大豆をマウスによる3世代に渡る生殖影響試験を行ったが、有害影響はなしという結果も報告されている。しかしラットにも同じ遺伝子組み換え大豆を接種させた結果、その子供たちに重大な影響が出たとの研究報告もある。子供たちは成長も著しく悪く、死亡、成長不良が多く出たということだった。さらに安全性審査については遺伝子組み換え作物を生産する業者等が審査の結果を第三者に提出するのみであり、第三者による審査は行われていない。また毒性の審査では急性のもののみを調べており、長期的、慢性的な審査も行われていない、という現状であり審査としては不十分に思われる。

 

4.モンサント社について[] []

モンサント社とは、2008年の売上高は110億ドル、遺伝子組み換え作物の世界シェアは90%というアメリカに本社を持つ多国籍バイオ科学メーカーである。このモンサント社は、1970年に強力な除草剤「ラウンドアップ」を開発した。これは接触した植物の全体を枯らし、ほとんどの植物にダメージを与える「非選択型」と呼ばれる除草剤である。モンサント社は除草剤メーカーであると同時に種子メーカーでもある。モンサント社から買った種子をまき、雑草が生えてきたら「ラウンドアップ」を散布する。すると、モンサントの種子からの農産物だけは「ラウンドアップ」で枯れることはなく、散布の手間は軽く、簡単になる。雑草だけがきれいに枯れるから農産物の生産性が高まり、最終的な生産量が増える。「ラウンドアップ」は自然界で分解される(生分解性)を持ち環境に優しい安全な農薬、という触れこみで売り出させたが「生分解性」「環境に優しい」などの表現は不当表示であるとして、1996年にアメリカ、2007年にフランスで有罪判決を受けてこれらの表現は行うことができなくなったことがある。これほど危険な除草剤を浴びてもなぜモンサントの種子から発芽した植物は枯れないのだろうか。それはモンサント社が「ラウンドアップ」に強い除草剤耐性を持つ植物を遺伝子操作によって作り出しているからである。それによって「ラウンドアップ」と「遺伝子操作した種子」をセットで販売しており、このような種子には大豆やトウモロコシなどがある。

 

 

さらにモンサント社はラウンドアップに耐えるよう遺伝子操作した種子について「知的財産権」を強力に主張している。具体的には、育ったその植物から「種子」を採取して、それを畑にまく事を厳密に禁じているのだ。違反した場合、モンサント社に知的財産権の侵害として訴訟を起こされ、賠償金を請求される。ならば次からは別の種子を買えばいいのではないか、となるのだが、実は上記のように「ラウンドアッ    プ」には実は生分解性がないことがわかった。つまり一旦ラウンドアップを使ってしまった土壌では普通の作物は悪影響を受けてしまうということだ。よって農家はモンサントから種子を買い続けなければならなくなってしまう。また、モンサント社には「自殺する種子」と呼ばれる技術を持っている。種子が自殺する、とは作物に実った二世代目の種子の中に毒ができ、発芽しないようにしてしまうということだ。この技術は「ターミネーター技術」と呼ばれており、これを種子に施して売れば、農家の自家採種は無意味となり、さらに毎年種子を買うしかなくなってしまう。これによってインドやメキシコの農家が打撃を受けている。実際、インドでは小規模農民が自殺に追い込まれているという問題が起きている。原因は種子の高騰によるものであり、収穫量は増えるが収入は減ってしまう。遺伝子組み換え作物によってこのような問題が起こっている国もあるのだ。このような作物ははたして安全と言えるのだろうか。

 

5.日本における遺伝子組み換え食品

TPPに参加し遺伝子組み換え作物が日本に輸入されることでどんな影響があるのだろうか。現在、国内では遺伝子組み換え作物の商業栽培はまだされていないが、栽培を禁じる法律があるわけではない。それは栽培しても売れる見込みがないからだ。大豆を例にすると、国産の大豆は輸入大豆よりも値段が高くなってしまう。だからといって遺伝子組み換え大豆でつくられた豆腐や納豆などは市場に出回るとき、遺伝子組み換えであることが表示されるので日本では誰も買わない。誰も買わないものを作ってもしかたがないので誰も遺伝子組み換え作物を作らないのだ。つまり遺伝子組み換え作物の栽培を食い止めているものも、やはり「表示」であるといてもよい。表示義務がなくなれば、国民は知らずに遺伝子組み換え作物を食べるようになる。すると遺伝子組み換え作物は売れるようになる。価格競争の激化もあり、効率の面でアメリカの遺伝子組み換え作物や除草剤の使用が余儀なくされる可能性もある。ある農場の1か所で遺伝子組み換え作物を栽培したとすると花粉が飛散し、他の農場の作物が受粉すれば望んでいない形での遺伝子組み換え作物が次々と広まる可能性もあるのだ。

 

 

 

 

 

6. TPP参加による遺伝子組み換え作物の影響について

政府がTPPを推進する背景には、現在の不景気や他国との競争条件の格差があり、それを解決しなければないという事情がある。しかしその背景には打撃をうけるものもあるのが事実だ。そこで今回扱ったのが農業なのだが、農業が受ける影響は他と比べても大きいものだろう。もともと日本はアメリカなどの農産物輸出国に比べて、国土が狭く農地面積が狭いために国際競争力はないのは仕方ないとされてきた。そんな中関税による国産農作物の保護がなくなれば輸入品に太刀打ちすることは厳しい。さらに安全とはいいきれない遺伝子組み換え作物が輸入されてくる。しかしTPPが締結されたとき、日本の農業はどうすればよいのか。

 

逆に、日本も遺伝子組み換え作物の開発に参加するというのも一つの手ではないかと思う。外国のように安全性審査については遺伝子組み換え作物を生産する業者等が審査の結果を第三者に提出するような方式ではなく、国で遺伝子組み換え作物の安全基準をつくる。さらに時間もかけて急性的な毒性のみでなく長期的、慢性的な毒性についても審査を行う。そうすればメイドインジャパンという銘で輸出し、値段ではなく安全性で売り出し、新しい国内産業とすることもできるのではないであろうか。また輸入した外国産よりも国産のもののほうが消費者に安心を与えられるだろう。国内で売り出す始めは、消費者は遺伝子組み換え作物による抵抗があり、一時的に国内農業が衰退する可能性もある。しかし短期的に考えるのではなく、長期的に何十年先のことを見越して日本の農業を考えていく必要があるだろう。

 

 

 



[] Wikipedia[非関税障壁](1月16日現在)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E9%96%A2%E7%A8%8E%E9%9A%9C%E5%A3%81

[] サルでもわかるTPP 第7章

http://luna-organic.org/tpp/tpp-7-1.html

[] Wikipedia[遺伝子組み換え作物] (1月16日現在)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%8F%9B%E3%81%88%E4%BD%9C%E7%89%A9

[] Wikipedia[モンサント(企業)] (1月16日現在)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)

[]BS世界のドキュメンタリー アグリビジネスの巨人“モンサント”の世界戦略 前編

http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/080614a.html