政治と新エネルギー

 

120123sugawarad 菅原大輔     

 

  1. 身近に及んだ震災の被害と問題提起

 日本中に大きな惨禍を残すに留まらず、世界に放射能汚染の脅威を拡散した311日の大地震の直後、私の地元秋田は大規模な停電に見舞われた。電灯が点かないので、蝋燭に火を灯して夜を過ごした。テレビは当然映らず、ラジオに電池を入れ震災の情報を得ることができた。飲水、水洗、すべての生活用水を電力による井戸水の汲み上げに頼っていたので、電気が通らない事でこれらを使用出来ない事態に陥った。後で調べて判ったことによると、東北地方の440万世帯が停電していたようだ。

 これだけ大きな停電だったが翌日の夜には一帯の電力も回復した。この対応を早いと感じるか否かは人に依るが、電力が途絶えた事自体が問題であるとも言えなくはない。震災事故へのリスクマネジメントが不十分だったのではないか。とにかく、大規模な発電施設に依存するのは自然災害、人為的災害、立地の面でもリスクが高い。

 

  1. なぜ市民が新エネルギーについて知るべきなのか 

 脱原子力発電が世論の70%を占める今、従来の原子力発電に代替する再生可能エネルギーや新エネルギーへの期待が当然高まっている。地方自治体もこれを潤いのチャンスとして捉える動向がある。そうなると、参政権を持つ市井の民として我々も決断を迫られる時が来るかもしれない。市民の意見が政治に反映されないのでは民主主義国家とは言えない。しかし、ある程度の知識を持たなければ適切な政治的・投票判断をできないのも事実である。そういった知識を持たない、いわゆる情報格差・デジタルデバイドにより生じた情報弱者の問題も近年根強い。このような市民も望めば政治に参加でき、幸福を享受できるというのが今望むべき成熟した社会なのだろうが、今回のテーマから些か逸脱気味なので割愛する。

 

  1. 電力会社の問題

 現在の体制では、メーカーと流通が一体となって、そこで値段を決めていて、消費者は基本的にはそれ以外選べないということが問題点として挙げられる。これが天下りなどの東京電力の腐敗[1]などを増長しているとも言われている。経済産業省の2011年の調査によると、「経済産業省から東電など電力会社への天下りが過去50年間で68人あった」とのこと。「このうちの13人は現在も顧問や役員の肩書きで勤務しているために、監督官庁である経産省とのこのような緊密な関係は原子力発電所の安全基準チェックを甘くさせるなどの弊害があるとも指摘されている」。実際に露呈した弊害の例として次のようなものが挙げられる。

 福島第一原子力発電所を襲った津波は想定を超えていたと何度も報道されていたが、この津波の想定は、津波の専門家が調査したわけでもなく、地震の専門家でもなく、電力会社とその関係者が想定したものだという[2]。この想定の不正が直接事故の被害拡大に繋がったかは判断できないが、原子力というきわめてリスキーな対象を扱うものの倫理としてこの緊張感の無さはどうなのだろうか。電力会社の腐敗の弊害はまだある。

 日本の以前の原子力行政は、原子力委員会が推進、原子力安全委員会が抑制ということになっていて、お互いが牽制しあう形になっていた。しかし、政府が2001年に原子力安全・保安院[3]という機関を作った。この組織は電力会社や原子力委員会などに強い影響を持つ故に強い権限を有する。原子力安全委員会の権限はこれより弱い。ここで問題なのは、保安院は原発を推進する経産省の一機関であるということだ。これによって、政府は抑制機関なしの原子力行政を行うことができた。果たしてこの体制で国民の安全というものが熟慮されていたのか。報道記者会見で傲慢な態度をとっていた保安院の関係者を見る限りでは、安全に責任感を持っていたとは言えない。

 こうした倫理の問題は、十把一絡げに解決出来るものではない。利権が発生するのは原発だけではないからには、脱原発を推進した所で新たな天下り先が作られるだろうことは容易に想像できる。政治主導に任せるにも、あまり期待できる見通しは無い。ここで、あまり大きなテーマになると、一個人の素人考えではどうにも手が出し難くなる。我々が日常的に且つ積極的に政治・政策に参加し得ることはなんだろうか。まず第一歩は知ろうとすることだろうと思う。そこで、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法、通称RPS法と呼ばれる例について見てみたい。

 

  1. RPS法の弊害 

 RPSとは、Renewables Portfolio Standardの頭文字で、再生可能エネルギーの利用割合の基準を意味する。この法律は、「内外の経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保に資するため、電気事業者による新エネルギー等の利用に関する必要な措置を講ずることとし、もって環境の保全に寄与し、及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」[4]というもので、2003年から施行されている。この法律は風力、太陽光、地熱、水力[5]、バイオマス[6]を熱源とする熱を対象としており、新エネルギーの一層の普及促進を図ることに主眼をおく、とある。しかし、実際には新エネルギーの広がりが阻害されることに繋がっているしているとの意見がある[7]

 まず、この法律では新エネルギーで発電した電気を電力会社が一定量で買うことになるのだが、この上限が低いことが問題になる。これによって、新エネルギーの開発が意味をなさなくなる。さらに、買取の期間が短い為に先の収入が見込めず、銀行から融資を受けにくいことで開発が遅れるという点もある。

 日本はオイルショックを経験した1970年代から太陽光発電[8]の開発と普及に力を入れており、生産量や導入量で長らく世界一を冠していた。2004年頃迄は世界の約半分の太陽電池を生産していた。しかし、近年は中国、ドイツなど他国に追いぬかれ、2010年の生産世界シェアは9%まで落ちた。これを、自民党の衆議院議員である河野太郎氏[9]は、上に挙げたRPS法による抑圧の弊害だと解説した。

 RPS法はネット上では悪法とまで言われる場合もあったが、情報には必ず立ち位置が含まれるし、時代や情勢による変遷もあり得る。しかし、現行ベースで見れば、RPS法が新エネルギーの発展を阻害しているのは否めないようだ。

  1. 新エネルギーを必要としている社会

 ここまでは、現行の政治やRPS法の問題点ばかり挙げてきたが、真に考えられなければならないのは次世代のエネルギー事情、環境問題である。

 現在、商用発電用原発は17原発54基ある内3原発3基しか稼動しておらず、4月一杯で全基が停止する予定であるという。[10]今現在国内では電力供給に大きな問題は浮かんでこないが、このまま火力発電に頼るわけにもいかない。夏や冬の電力需要の高まりも心配されている。経済産業省が、将来の再生可能エネルギーの柱の一つとして期待される地熱発電の開発を促すために、開発に取り組もうとする企業に対し巨額の初期投資の一部を支援する新たな制度を設けるなど、政府も新エネルギーの普及にはようやく乗り気のようである。環境の面から見ても新エネルギーへの期待はいや増すばかりであろう。

 

 

  1. レポート作成の反省とまとめ 

 このレポートの調査では、インタラクティブな活動、すなわち関係者や現場の人との対面や、直接足を運ぶなどの活動を行うことは出来なかったのが心残りである。しかし、ネット上で多くの意見と出逢うのも価値のあることだろう。その中でも、特に私の琴線に触れた意見としては河野議員の「エネルギーの分散化によって地域経済も活性化する」という話があった。

 他所で作られた電気ではなく地元で生産された電気を買うことで、エネルギーの地産地消、地元にお金を払うことになり地域活性化に繋がるというわけだ。リスクも分散され、災害にも国全体として強くなる筈である。

 

 



[1]              Wiki 日本の電力会社   

   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E4%BC%9A%E7%A4%BE#cite_re

[2]        ニュースの深層 2011.4.14 『脱原発エネルギー供給の可能性』

        http://www.youtube.com/watch?v=bEmGXxOsCTA

[3]       原子力安全・保安院

            http://www.nisa.meti.go.jp/

                               Wiki

                              http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AE    %89%E5%85%A8%E3%83%BB%E4%BF%9D%E5%AE%89%E9%99%A2

[4]    RPS法第1

       http://www5b.biglobe.ne.jp/~pv-tokyo/sub100.html

       http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/conf_ver/02/ref01.pdf

[5]    政令で定めるものに限る。

[6]    動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く。)をいう。

[7]    浅川太陽光発電所 http://www.mt8.ne.jp/sun/rps3.html

[8]  Wiki 太陽光発電 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD          %E5%85%89%E7%99%BA%E9%9B%BB

                 省エネドットコム  http://www.shouene.com/

 

[9]      ニュースの深層 2011.4.14 『脱原発エネルギー供給の可能性』

         http://www.youtube.com/watch?v=bEmGXxOsCTA

[10]  原発・核関連地図 http://genpatumap.seesaa.net/article/198173618.html