120123satoh

佐藤隼人「緑の雇用から見る地方の抱える問題とその解決策」

 

1.地方の抱える問題

 

 現在地方は様々な問題を抱えている。例えば歳入減による財政の悪化、農業や漁業、林業における後継者不足、高齢者の増加。そのほかにも多数あるだろうがその最大の問題は「若者の減少」ではないだろうか。実際多くの問題が若者の数が増えれば解決できるようなものだ。財政悪化の原因は歳入が減っているのにもかかわらず福祉などの社会保障関係費が増加していること。そしてそれは当面減少することはなく、むしろ年々増加していくのは明らかである。そのため歳出を減らすのも困難である。かといって歳入を増やそうとしても景気が良くない上に老人が増えている以上明らかに一人あたりの税収は減っていく。その中で歳入を増やすには若い人を増やすしかないだろう。後継者不足についてもその産業に魅力を感じるかという問題があるにしても若者が増えれば自然とある程度解決するだろう。

 

 しかし、現実にそれをしようとするのは簡単なことではない。そもそもなぜ若者が地方から都市部に流出するのか。それは、一言でいえば都市部の方が地方より魅力的だからだろう。進学の際にも地方よりも東京のような都市部の方がレベルの高い、あるいはネームバリューのある大学が多いというのは紛れもない事実だ。そのため都市部の大学を選びそのまま地元に帰らない、ということも多いだろう。また就職に関しても、上京して就職したいと考える地方の若者もかなりの数いると思われる。理由としては都市部の方が企業が多いために選択の幅が広いというのが大きそうだ。地方にいては仕事の選択の余地が少ない。そのため上京して仕事を探したい人がいるのも自然だ。また、都会の生活に憧れているために地方からもっと都会に行こうという人も多いはずだ。進学や就職を際に一緒にこのことを考える人も多い。必ずしもそうではないが多くの人にとって都会は地方の田舎よりも魅力的な場所だ。

 

2.「緑の雇用」という雇用対策

 

そのような状況の解決策の一例として「緑の雇用」というものがある。「緑の雇用」とは雇用対策の一種で、外国産の安い木材が入ってくるようになってから衰退していった林業を立て直すために行われた政策。若者が都会に出たために山仕事の担い手が高齢化し、山の所有者があまり手当をしなくなったために山が荒れてきていた。しかし、都市部では不況のために雇用不安に置かれる人が多かった。そのため、その人たちに山の仕事をしてもらい、森林を再生しようというのがその内容だ。背景として環境問題への関心の高まりがあった。地球温暖化が問題にあげられるようになったために二酸化炭素を吸収する森林に対する関心が高まった。また、当時首相であった小泉元総理が強い関心を示したため国の政策としても取り上げられた。成果としては仕事に慣れるのに時間がかかるために即効性はないものの、徐々にではあるが、確かに労働人口の若返りが進んでいる。またその地域の住人として生活して行事にも参加するなど、地域社会にも溶け込んでおり、平均年齢が低いためにその活性化に貢献している。

 

 林業では採算が取れないために税金を投入しなければならない。環境を守る。高齢化、過疎に悩む地域社会の活性化という大義名分があるために税金を投入するのはいいが、地方自治体は資金難のためにあまり多額の資金は用意できない。そのため収入が入ってくる仕組みを別途用意しようということでできたのが「企業の森」制度である。「企業の森」とは企業や労働組合、NPO団体などに植林や森林保全活動に参加してもらうというものだ。具体的には、新たに植林する資金がないために仕方なく放置しているが手入れをしてもらえるのであればただで貸したい、という山林が多い。それらの山林を企業や労働組合などに無料で貸し出し、休日には社員や組合員に森林作業を体験してもらう。普段の山林の世話は、企業が費用を負担して森林組合に委託する。森林組合は緑の雇用の人たちを雇う、という仕組みのこと。企業にとってもメリットがあり、福利厚生になったり社会的責任を果たすことができる。また、上場企業が参入する場合にはそのような活動を有価証券報告書に記載することができる。[i]

 

3.地方はこれからどうすべきか

 

 「緑の雇用」では都市部から人を集め定着させることができたため成功といっていいだろう。ではなぜ「緑の雇用」が成功したかをみていきたい。まずは世の中の環境保全の流れに乗れたことがある。税金を投入するにはある程度住人が納得していなければならない。納得してなければたとえ正しく効果がある政策を実施しようにも反対される可能性が高い。そのため世論に乗れるというのは大事である。また、全国的な動きにできたということも大きい。地方だけでやっていても資金もあまりないし小さな動きしかできないため知名度も低い。このように都市部から人を呼んで地方に住んでもらおうとした場合、その政策があるということをできるだけ多くの人が知っている方がいい。そのため小泉元総理が興味を示したという幸運もあったのだろうが、地方だけで終わらず全国的な動きにできたというのも成功の一因だろう。そして企業を引き込むことができたということもある。地方自治体は資金不足のためどうしても動かせるお金に限りがある。そのため「企業の森」という形で起業にもメリットがあるようにしながら企業に協力してもらうことに成功したのは良かっただろう。

 

 最後にこれから地方はどうすればいいかを見ていきたい。「緑の雇用」が成功した理由をまとめると

・世論の流れに乗れた

・全国的な動きにできた

・企業を引き込むことができた

の三つになるだろう。つまりこの三つのことができればいいのだが、そう簡単ではないだろう。だが全く不可能でもないはずだ。この三つは全く独立してるわけでなく、世論に乗れたから全国的な動きにできた、全国的な動きになったから企業を引き込むことができたというようにつながっている。よって世論の流れに乗れさえすれば、連動して二つ目三つ目もなる可能性もある。そして現在環境保全だけでなく食糧自給の問題も大きく取り上げられている。これは地方にとって大きな追い風になるはずだ。多くの地方は農業をやっているだろうが、現在農業に注目が集まっている。そのため都市部から農業をやりたい人を集め、実際にやらせてみるなどすれば若い農業従事者も増えるのではないか。そうすれば地方の再生もある程度できるはずだ。つまり「緑の雇用」でやったようなことを農業でもやればいいのではないだろうか。農業なら林業、漁業と違って多くの場所でできるし、すでに全国的に注目されており農業を重要だと思う企業も多いため何かきっかけがあればやろうという人も多いだろう。そのような人を引き込めれば地方再生の手段になるはずだ。



[i] www.lec-jp.com/h-bunka/item/v265/01_05.pdf