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大迫千恵子「震災以後の栃木のエネルギー政策を通じて日本のエネルギーについて考える」
1. 震災以後の国のエネルギー政策
地球温暖化対策として東日本大震災以前は原子力発電を推進していた政府も、震災以後、原発事故などを受けて、エネルギー政策の見直しをしている。原発への依存度を下げることを検討しており、新しいエネルギー政策を、今年の夏をめどに打ち出す方針である[1]。また、再生可能エネルギーを推進していく方針であり、2020年代の早い段階において、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を20パーセントに引き上げる目標を掲げた[2]。経済産業省の平成24年度の再生可能エネルギー関連の予算案から[3]も震災以後のエネルギー政策の変化の影響が見られる。「原子力災害からの復興・原子力安全の強化等」の予算は23年度当初の51億円から146億円に増加、3次補正で1134億円追加、「当面の電力需要対策の抜本的強化」の予算は3次補正で2324億円、「再生可能エネルギー・省エネルギー等の導入支援・最先端の技術開発」の予算は23年度当初の2627億円から3022億円に増加、3次補正で2419億円追加、他にも「災害等にも強い資源・エネルギー安定供給の体制整備」、「環境エネルギー分野における優れた技術等の海外展開の推進」などにおいて、予算を大幅に増やしている。
2. 震災以後の栃木のエネルギー政策
そのような国のエネルギー政策の見直しに伴い、各自治体で新エネルギー導入の動きが高まっている。栃木でも、那須烏山市での8月実施の市民意向調査では、再生可能エネルギーの利用の要望が多くあったが、那須烏山市市議会で、大谷範雄市長は「再生可能エネルギー導入・推進計画の策定、を進めており、現在最終調整の段階。来年度、この計画にも続き積極的に対応したい」と答えた[4]。また、平成23年4月27日には、知事を本部長とする「栃木県震災復興推進本部」が設置され災害に強い新たな地域づくりとして再生可能エネルギーの利活用促進に取り組むことを示している。[5]
3. 具体的な県の方針
県庁の方によると、栃木も将来的には原子力発電に頼らないことを考えているが、いきなり原子力発電をやめると原子力に関わっていた産業への影響などで経済に大きな影響が出てしまうので、徐々に原子力発電の比率を減らしていき他のエネルギーに変えていくことに加えて、節電して電力の必要量を減らしていくことが必要なのだそうだ。しかし、今まで行っていた火力に頼ると、二酸化炭素を多く排出するなどの問題が多いため、再生可能エネルギーの比率を高くしていくことが必要だが、安定供給できるほどの場所や技術が確保できていないし、設備の設置に費用がかかる割には電力が得られないので、補助金を出して企業を後押しし、徐々に変えていく方針である。具体的な政策としては固定価格買い取り制度が検討されている。その費用は現在、太陽光推進付加金が電力料金として上乗せされているのと同様に国民が負担するようになるであろうということだ。
4. 栃木のエネルギーの現状
栃木県内で生産されているおもなエネルギーは水力発電によって発電される電力である。電力事業用の水力発電所は32か所、最大の出力は294.4万kW、また、県内における発電量は1998(平成10)年度で29.5億kWhとなっており、県内の18.4%を占めている。残りの約8割の不足分については、福島県で原子力発電、火力発電、水力発電によって発電された電力によって賄われている。
5. 再生可能エネルギーへ移行する栃木とその可能性
栃木県は、再生可能エネルギーを、国の「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」で定義されている10種類の新エネルギーに加え、栃木において多く賦存していると考えられている地域エネルギーとして、導入可能な中小水力発電や地熱エネルギー、バイオマスエネルギーも対象としている[6]。また、「重点的に導入を図るエネルギー」と「効果的に導入を図るエネルギー」の二つを設定して再生可能エネルギーの導入促進をしている。前者には太陽光発電、太陽熱利用、クリーンエネルギー自動車、後者には廃棄物エネルギー、風力発電、中小水力発電、バイオマスエネルギー、工場排熱、天然ガスコジェネレーション、燃料電池がある[7]。主なエネルギーについての取り組み、導入可能性について、以下に述べる。
太陽光発電について、個人の家の屋根の上にパネルを設置するだけでは大量の電力を作れないため、現在大規模な面積にソーラーパネルを設置する、メガソーラー事業が行われている。平成23年8月3日から候補地の募集を開始、10月5日に候補地の公表、発電事業者の募集を開始、12月15日発電事業者の参加希望状況を公表、12月28日企画提案諸様式及び評価の視点を公表、と今は未だ参加する企業を募集している段階にある。
太陽光発電はコストのかかる自然エネルギーの代名詞のようにいわれるが、パソコンや携帯電話のようにパネルを作れば作るほど性能がよくなるため毎年10%ほど安くなっている[8]。栃木県は日照時間が長く、特に冬季は全国第三位(1971〜2000年平均)で、快晴日数も多い[9]。県庁の方によると、太陽光発電はどのような場所でもできるし、安定的に供給できるため、有望な発電法なのだそうだ。
バイオマス発電、特に木質バイオマスについて、栃木は、森林面積が大きいため、森林バイオマスの利用可能量は多いが、県庁の方によると、必要な燃料の確保が難しく、採算に合わない。現在では建築材を収集して燃料にする企業などがあるが、これ以上の企業が参入すると資源自体が無くなってしまいかねないため、電力の安定供給には向かない。
地熱発電について、県では、「とちぎ温泉熱エネルギーモデル事業」の対象団体を募集している[10]。既存の温泉熱を発電に利用するには温度が足りないという問題点があったが、低い温度でも利用可能な触媒をパイプに巻きつけて発電するというバイナリ―発電の技術が生まれ、県北部に、那須湯本、中塩原、奥板室、川治、鬼怒川という湧出量2000ml/min以上の大規模な温泉地域が5か所ある栃木で有望視されているそうだ[11]。
風力発電について、全般的に風力のエネルギー密度が低い。県西部から北部にかけての山岳地帯においては、高い密度を示しているが、その大部分が日光国立公園に位置しているため、県全体としての導入可能性は低い。
6. 栃木の農村地域における再生可能エネルギーの活用の取り組みについて
他の県に見られないような栃木固有の取り組みとして農村地域における再生可能エネルギーの活用がある。栃木は水田面積10万ha灌漑用水路1面6千q標高差2500mと水量と落差があることから小水力発電には適した地域である。現在、那須野ヶ原地域では、百村第一・第二発電所(30kw×4基)、那須野ヶ原発電所(340kw)菱沼第一(360kw)・第二発電所(180kw)、那須野ヶ原ウォーターパークの4か所の小水力発電施設があるが、これらの発電施設は水路の落差工を利用したものであり、従来のような土木工事がほとんど不要で、費用もそれほどかからない。
農村振興課でも、スマートビレッジモデル研究事業と栃木発再生可能エネルギービジネスモデル創造特区という取り組みが行われている[12]。スマートビレッジ[13]は栃木の地域性を生かした小水力発電の普及に向けた取り組みで、2012年から本格化する。発電した電力を販売して地域に還元する構想と、電気自動車(EV)などエコカーの電源として利活用する構想の二本柱からなる。
「栃木発再生可能エネルギービジネスモデル創造特区」は、小水力は昼夜を問わず発電できるため、太陽光よりも発電効率が優れているが、水利用権取得など手続きの煩雑さが普及の壁だったため、国の総合特区制度に基づき、手続きの規制緩和などを盛り込んだものである。12月22日に宇都宮、那須塩原、塩谷の3市町が指定を受けた。新年度は実証試験に着手し13年度末の運転開始を目指す。総合特区制度とは、新成長戦略を実現するための政策課題解決の突破口として、国際競争力の強化、地域の活性化のための包括的かつ先駆的なチャレンジに対し、規制の特例措置、税制・財政・金融上の支援措置を総合的に支援するものであるが、この事業は、地域資源を活用した、小水力発電事業の推進と中小企業技術の有効活用という政策課題を解決するためのものである。
企業局電気課でも水力発電に取り組んでいる[14]。主な事業は中水力発電の調査検討とEV・PHVタウン推進事業などへの支援である。
水力発電のメリットは、水量に時間変動が少なく安定していること、エネルギー密度が高いこと、エネルギーのみの利用で水量は減らないことである。エネルギー別の発電コスト[15]で見ても、発電単価8.2〜13.3円/ kwh、設備利用率45%と、次に有望視される太陽光の46円/kwh、12%と比べてもコストが低いことがわかる。
7. 日本のエネルギー問題の解決に向けて
東日本大震災および原発事故により、政府は原発の安全面での問題に直面し、原子力発電を推進するという立場から原子力発電をやめて再生可能エネルギーを切り替えるという立場に変わった。このことは日本のエネルギー問題を考え直す転機となった。エネルギーを多く使うことが豊かだという発想は間違っているということに気付いた人も多いはずである。
そんな中で「原子力発電は安全性が確保されないが、コストがかからない」「再生可能エネルギーは安全だがコストがかかりすぎる」という前提から議論をする人が多くみられるようになったが、調べてみると実際には、原子力は設備設置と事故後の補償にコストがかかることが分かったし、原発事故によりにより石油や石炭も世界の投機マネーが向いてコストが高くなってきているのに対して、再生可能エネルギーは技術が発展し、どんどん安くなってきている。それに加えて、再生可能エネルギーは雇用を生み出し、固定価格買い取り制度が導入されれば個人や地域に利益をもたらし、中小企業の技術を生かすものとなる可能性をはらんでいると思う。
また、持続可能な社会を形成するには将来的に必ず石油や原子力に代わる再生可能なエネルギーに切り替えなければならないはずだ。コスト面でも「自然エネルギー」「省エネ・節電」しか日本には逃げ道がない。こうした局面でエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えていくことは有意義なものであると私は考えた。栃木での取り組みにみられるように、「地域」でエネルギーを考えていくことに日本のエネルギー問題のヒントがあるのではないかと思う。
[1] http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120109/t10015135071000.html(NHK NEWS WEB )
[2] http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110528/plc11052800380002-n1.htm (msn産経ニュース2011年5月28日 自然エネルギー2020年20%「決して不可能な目標だとは思っていない」)
[3] 環境経済産業局エネルギー対策課 栃木再生可能エネルギーセミナー資料
[4] 下野新聞2011年12月2日22面
[5] http://www.pref.tochigi.lg.jp/a01/hukkou00.html(栃木県ホームページ 栃木県震災復興推進本部の設置)
[6]栃木再生可能エネルギーセミナー資料
[7] http://www.pref.tochigi.lg.jp/kankyoseisaku/home/keikaku/archive/shinenergy/(栃木県新エネルギービジョン)
[8]TBSラジオ 2011年5月7日 「震災以後のエネルギー政策」(飯田哲也) Part3
[9]栃木県環境森林部地球温暖化対策課 栃木再生可能エネルギーセミナー資料
[10]下野新聞2011年12月1日5面
[11]
http://www.pref.tochigi.lg.jp/kankyoseisaku/home/keikaku/archive/shinenergy/(栃木県新エネルギービジョン)
[12]栃木県農政部農村振興課環境対策担当 栃木再生可能エネルギーセミナー資料
[13] 下野新聞2012年1月1日1面
[14]栃木再生可能エネルギーセミナー資料
[15] エネルギー白書2008年版(経済産業省)